利用者さんの就職につなげるため、実際の業務を想定した研修を実施
現在、私はatGP(アットジーピー)ジョブトレ大手町の施設長を務めています。atGPジョブトレ大手町は、発達障害コースと聴覚障害コースを併設した就労移行支援事業所です。研修はコースごとに行っていますが、利用者さんが主体となって事業所運営に携わっていただく班活動や、手話教室など月に2~3回は合同で研修を行っています。
メインの研修となるのは、実際の業務を想定した職業トレーニングです。月ごとにテーマを設定し、先日はバスツアーの企画を作ってプレゼン資料にまとめて発表する課題に取り組みました。実際に企業の人事の方にお越しいただき、成果物・気づきの発表を行いました。毎月、事業所見学会を開催しており、企業担当者と利用者さんのコミュニケーションの場となり、これをきっかけに就職が決まる方もいます。
その他にも、就活研修、コミュニケーション研修、セルフマネジメント研修、ビジネスマナー研修などがあります。利用者さんの理解度はさまざまですので、職員のフォローアップや、毎月の振り返り面談を通じて、個別の目標設定や支援につなげています。
利用者さんは、学校を卒業してすぐの方もいれば、これまで数社で働いた経験がある方までさまざま。利用者さんの困りごとが多岐にわたるために、個別性を重視することが重要です。通所の理由はさまざまで、生活リズムの安定、職場での適切なコミュニケーションの練習、自分の特性や配慮事項の言語化などがあります。利用者さんそれぞれの特性を理解するところに難しさがあります。
聴覚障害コースの場合は、音声認識ソフト・手話・筆談でコミュニケーションをとります。利用者さんの聴こえやコミュニケーション方法はさまざまで、手話が第一言語の方もいれば、そうでない方もいます。一人ひとりに合わせたコミュニケーション方法が重要です。
現在、職員は8名おり20~60代の幅広い年代が活躍しています。経歴も学卒や福祉の専門家、セカンドキャリアの方などさまざまです。バックグラウンドが異なるからこそ、多角的な見方が可能であり、それが支援にも生かされていると感じています。
就労をめざす場所ですので、利用者さんがワクワクする場であってほしいと考えています。そのためには、支援を行う職員がワクワクしていることが不可欠です。コミュニケーションが活発で、心理的安全性を感じられる場にするためにどうしたらいいか、日々試行錯誤しています。
将来的な転職を視野に入れながら、一般企業に就職してビジネススキルを磨く
私が手話を始めたのは小学校低学年のころ。近所で開催していた子ども点字手話教室に母が申し込み、通い出したのがきっかけです。そのときは点字と手話を両方学びましたが、視覚的に理解しやすい手話に魅了され、高校3年生で部活を引退した後には、近所の手話サークルに参加して本格的に手話を学び始めました。
私が通っていた大学には手話サークルがなかったので、他大学の手話サークルに参加して、そこから聴覚障害のある方と知り合うことができました。知人の紹介で聴覚障害の夫婦が経営している串揚げ居酒屋ふさおでアルバイトをすることになり、日本のみならず海外から来るお客様も多かったため、たいへん貴重な経験になりました。
就職に際して悩んだのは、仕事に手話を活かすかどうかです。まずは一般企業のことを知ってから福祉の世界に進んだ方がいいと判断し、福利厚生代行サービスを行う企業に入社しました。そこで、法人営業や顧客情報管理を担当していました。
株式会社ゼネラルパートナーズ(以下、GP)に転職したのは、最初から3年という区切りを考えていたのと、結婚や出産などのライフプランを考慮すると、ちょうど次に踏み出すタイミングだと考えたからです。GPは聴覚障害者に特化した活動をしているため、自分の手話のスキルが一番活かせるのではないかと思い、入社を決めました。
また、前職は非常に忙しく残業も多い職場だったため、ワークライフバランスも重視したいと思っていました。GPはフレックス制度があるなど働きやすい環境が整っていたことも、入社の大きな決め手です。
しかし、福祉業界は未経験だったので、入社後は学ぶことが山積みでした。とくに共通の専門用語を理解するのが難しく、初めて「サビ管」が「サービス管理責任者」の略称であることを知ったときは驚きましたね。社内の研修や書籍で学ぶほか、今も勉強中ですが精神保健福祉士の通信教育を受講するなど、チームメンバーに追いつこうと必死でした。
育休中でも社会とのつながりを模索し、さまざまな活動にチャレンジ
利用者さんの就職が決まって卒業されるのは嬉しい瞬間ですが、とくに支援が難しかった方が卒業されるのは感無量ですね。ある50代の利用者の方は、重複障害があり、数十年にわたる仕事のブランクがありました。コミュニケーションに課題があり、年齢も考慮に入れると、当初は一般企業への就職は難しいという見立てで、福祉的な就労も視野に入れていました。
しかし、どうにか一般企業につなげられるように、職員全員で考えていたところ、聴覚障害の方を積極的に採用している企業との接点が生まれ、そこに就職が決まったのです。嬉しいだけでなく、チームの成長を実感した経験でした。
2022年に出産し、1年間の育休を取得しています。実は施設長への昇進を打診されたのが、妊娠が安定期に入って育休を申請するタイミングと重なり、とても心苦しかったですね。仕事を離れるということには、自分としても葛藤がありました。他の職員との差が開いてしまうのではないか、学んだことを忘れてしまうのではないかという不安もあったのです。
育休中は、どうやったら今の状態を維持できるか考え、母校で外部講師として講義を受け持ったり、手話通訳者向けに聴覚障害の就労支援についてお話をしたり、精神保健福祉士の通信教育のレポートを書いたりしていました。また、手話通訳の仕事や夫婦でボルダリングジムの運営に携わり、今でも副業として継続しています。社会とのつながりを模索しながら過ごした1年でした。
ですから、復職できたときは本当に嬉しかったです。ただし、今も子どもが風邪をひいて保育園から呼び出しがあるなど、たびたび在宅勤務にさせてもらっているので、こんな状態で仕事を継続していいのかと、正直なところネガティブな気持ちになることもあります。
そんな中で、できる限りGPに貢献したいという気持ちから、社内同好会のシステムを活用して手話部を立ち上げました。現在部員は9名。月に2回ほど全社員を対象に勉強会を開催しています。お昼休みにバーチャルオフィスに集まり、前半は聴覚障害や手話の歴史や手話言語条例などの豆知識、後半は実際の手話を練習しています。
自分の働く姿を見せることで、誰かの背中を押すきっかけになりたい
今、めざしているのが、atGPジョブトレ大手町の存在を知っていただくことです。障害・症状別の就労支援は潜在的なニーズは非常にあるサービスだと考えていますが、一方で就労移行施設について知らない方もまだまだ多いのが現状です。そうした方々に知っていただくだけでなく、多くの就労移行の中から選ばれる事業所に育てていくことをめざしています。そこで、広報部の活動に加えて、自らも各SNSで情報の発信や、他の教育機関や支援機関と連携を図っています。
今後も、atGPジョブトレ大手町が利用者さんにとっても職員にとっても、ワクワクする場所であることを、さらに追及していきたいですね。素晴らしい8名の職員が集まっているこの事業所で、運営に関する方針を決定する際には、皆さんの意見を取り入れつつ協力して推進していきたいです。また、利用者さんが主体となる事業所として、利用者さんの意見を経営に活かし続けることも重要視しています。
現在は、子育てGP・ボルダリングジムの経営・手話通訳という3つの仕事を同時に行っているので、バランスを保ちながら自分の働き方を模索していきたいですね。
女性が働く場合、妊娠や出産などのライフステージにおける課題に直面することも多々あると思います。しかし、特別なスキルを持っているわけではない私でも、子育てや副業を両立しながらマネージャーとして働いている姿が、誰かの励みになることを願っています。子育てだけでなく、介護や個人の状況など、人生には人それぞれさまざまな問題が起こります。相互理解を土台に「お互いさまだから大丈夫」と言える働きやすい職場を築いてきたいですね。
※ 記載内容は2023年8月時点のものです