利用者の考えが前向きに変化していく瞬間に、何度も立ち会える
中根:長久保さん、本日はよろしくお願いします。2023年入社予定の中根です。早速ですが、まず2023年1月現在のお仕事について教えていただけますか?
長久保:私は2016年にGPに入社しました。現在は、2022年6月に開所したatGPジョブトレIT・Web心斎橋の施設長を務めています。
atGPジョブトレIT・Web心斎橋は、発達障がいや精神障がいのある方を対象とした、通所型の就労支援施設です。ITやWeb系への就労を目指して、利用者には、WebデザインやITエンジニアとして活躍するためのカリキュラムを学ぶことができます。専門的なスキルを学びつつ、自己理解・症状理解もサポートしていくことで、社会で安定して働ける未来を目指しています。
中根:ありがとうございます。長久保さんは現在、施設長を務めていらっしゃいますが、具体的にどんなお仕事をしているのですか?
長久保:基本的には、利用者と関わるというよりは、外に向いた仕事が多いですね。企業や利用者の見学対応、あとは就労に関する情報収集もやっています。それから、運営予算などの数字面の管理、職員のサポートなども私の仕事です。運営に関わる全般的な業務を担当しているかたちですね。
現在私のほかに5人のスタッフがいるので、みんなが問題なく働けるように、それから利用者にも楽しく通っていただけるように、心地いい施設づくりを意識しています。
中根:幅広いお仕事をされていると思うのですが、現在の仕事で、とくにやりがいを感じるのはどんなときですか。
長久保:利用者の変化や成長を感じられたときですね。atGPジョブトレの利用者には、自己理解をテーマに研修を行っています。自分の症状を理解して「自分も改善しなくてはならないことがある」と気づいてもらうことが、就労の第一歩だからです。それで実際に利用者が気づいて、変わっていって、就労に向かっていったときは「よし、いいぞ」という感じで嬉しくなりますね。
中根:なるほど。反対に、苦労していることはありますか?
長久保:利用者からのご意見・ご要望が日々出てくるのは、苦労することもありますね。直近であった例だと、ある利用者が「スタッフと考えのすれ違いがあった」との理由で、2カ月ほど前から長期で休まれていました。残念だなと思いつつ、それで終わりたくないので、ご実家の近くのカフェに行って、お会いしてきました。
実際に利用者と話してみたら、そのときは結構怒ってしまったけれど、今では冷静になっていらっしゃるようで、自分にも非がある、とおっしゃっていましたね。しばらくしたらまた通所を再開しようかというところまでお話ができました。
こんなふうに、ご意見をもらったときに、粘り強く対応していくことが大事だと考えています。大変ですが、ご本人の人生のために、諦めないでじっくり話すようにしています。
コミュニケーションと認識合わせは、大変だけれど絶対に必要
丸浦:ここからはバトンタッチして、丸浦から質問をさせていただきます。長久保さんが「atGPジョブトレIT・Web心斎橋」の施設長になるまでの、経歴を教えていただけますか?
長久保:もともと前職では、メーカーの営業をしていました。そこで営業力をしっかり磨き、GPに転職してからはまず法人のコンサルティング営業を務めました。その後、就労移行支援事業所の支援員とatGPジョブトレ梅田の施設長を経て、現在に至ります。
丸浦:ありがとうございます。GPに転職して最初の配属は、営業だったのですね。転職前と「営業」という業種は一緒ですが、業界は大きく変わったと思います。転職してみて、何か驚いたことはありましたか?
長久保:そうですね。GP入社当時は、さまざまな企業に障がい者雇用についてお願いする仕事をしていたのですが、その中で、世の中の人たちの障がい者に対する考え方にびっくりしたのを覚えています。なんというか、障がいを文字通り「ハードル」だと思っている人が多いんですよ。最初から「障がい者雇用は無理ですよ」と断られたり、あしらわれたり。かなり衝撃を受けました。
私は、昔から障がい者に対する偏見がまったくなかったので、だからこそギャップに驚いたんです。でも逆に言えば、自分の偏見のなさは、ひとつ価値になるのかなって感じましたね。
努力していくうちに、最初は障がい者に偏見を持っていた企業が、だんだんと変わってくれることもありました。最初は「精神障がいはNG」と言っていた企業が採用してくれて、最終的に「意外と良かった」と言ってくれたり。あのときは、めちゃくちゃ嬉しかったな。
丸浦:企業サイドの変化を作れたというのは、大きなやりがいですよね。一方で、やっぱり、企業と関わる中で苦労したことも多かったですか?
長久保:そうですね。人材紹介では、就業直後のトラブルが多いのですが、それはしんどかったです。今でもよく覚えているのは、当時ある利用者が、就労して3日経ったときにこんなメールを送ってきたこと。「まったく仕事を渡されなくて、座っているだけです。こんなことのために就職したわけじゃないので、もうやめます」。私はびっくりして、就労先の上司に連絡をしました。そうしたら、たまたまその3日間が会議続きで、仕事を渡せていなかった、とのことでした。
これって、もしお互いに一言でもコミュニケーションがとれていたら、トラブルにはならなかったはずなんですよ。つまり、コミュニケーションと認識合わせは、大変だけれど絶対に必要。もっと言えば、求人紹介した私が、利用者や企業ともっと個人的に話をしていれば、互いの性格を見抜けたなと思いました。
丸浦:コミュニケーションは、大事ですね。私もしっかり意識しながら働こうと思います。営業を経て、長久保さんはatGPジョブトレに関わるようになったとのことですが、営業と就労移行支援事業所では、仕事のやりがいも変わってくるものでしたか?
長久保:かなり違いましたね。営業時代はたくさんの企業とやりとりを重ねていて、社会的な意義をすごく感じられる環境にいました。しかし、利用者との関わりは浅く、就労が決まったたくさんの利用者と入社前後に少しだけ関わるというかたちでした。
一方、atGPジョブトレに来てからは、少ない人数の利用者とじっくり深く関われるようになりました。営業時代には出会わなかったような、まだ働けるような段階ではない方とも出会うようになって、長いスパンで一緒に頑張っています。営業の仕事とはまた違った魅力や意義を感じます。
GPの社員は真面目で優しい。居心地が良くストレスのない職場
中根:ここからまた中根から質問をさせてください。今この記事を読まれている人の中には、障がい者との関わり方について、あまりイメージを持てていなかったり、恐れていたりする人もいるかなと思います。そこで、障がい者と関わるときに意識するべきことがあれば教えてください。
長久保:私は学生の頃に障害者スポーツ協会というところに出入りしていたので……。最初から、そこまで難しいとは感じませんでした。とはいえ、精神障がいの方と接するのは初めてだったので、確かに、最初はわからないことが多くて戸惑いましたね。
でも、戸惑って会話を減らすと、利用者さんは「怯えられてるのかな」と不安になります。だから、わからないことをどんどん聞くのが大事。「なんでそうなの?」「どういうことなの?」と、臆さずコミュニケーションをとるといいと思います。
中根:ありがとうございます。お互いにわからない者同士ですもんね。入社したら、私も意識したいと思います。続いて、GPの社員の人柄についてお聞きしたいです。これまでGPで働いてきて、どんな人が多いと感じましたか?
長久保:全員、真面目で優しいですね。理念や意志はそれぞれ違うと思いますが、総じてみんな本当に真面目で優しいんですよ。だから居心地がいいし、働いていてストレスもない。いい職場だなといつも感じています。
ただ、あえて言うなら、その優しさがネックになっている部分はあるかなと思います。優しすぎるからこそ、仕事上攻めるべきところで攻められなかったり。だから推進力を持って仕事を回せる人がもっといたら、いいかもしれませんね。
みんな表立って主張しないけれど、やりたいことは明確に持っているんですよ。なので、もっと自分の主張を押し出すと、行動が加速していくのかなと思います。私は今施設長という立場なので、スタッフに「何をしたいか」を頻繁に聞いて、背中を押すように意識しています。
中根:ありがとうございます。これからいろいろな社員の方と関われるのが楽しみです。私から最後に、社長について聞かせてください。長久保さんから見た進藤社長って、どんな人ですか?
長久保:進藤社長と関わる機会は多くはないのですが、いつもフラットに接してくれる人ですね。コロナ前は、会社の全事業所が東京に集まるタイミングが定期的にあったのですが、そのときも社長は「僕はこう思うけど、どう思う?」みたいに、いろいろな意見を引き出してくれるし、社長自身も対等に意見を出してくれました。いい意味で、社長感がない人という感じです。
中根:わかる気がします。私も最終面接で社長にお会いしたのですが、その面接が楽しくて。社長の人柄の良さを見て入社を決めた側面があります。
長久保:ええ、わかりますよ。私も、自分の面接のときのことをすごく覚えています。これは社長本人には言ったことがないのですが、個人的に、その面接で社長がくれた言葉があったから、今の仕事を続けられているなと思うんですよ。
それは「君はマイノリティが好きなんだね。マジョリティーじゃなくて、マイノリティにつくのが好きなんだ」という言葉。面接の回答の中で、社長がそう判断してくれて。それまでは自分でマイノリティにつくのが好きだとは意識していなかったのですが、その思考をもつと、自分の行動原理がすごくわかりやすくなって。今でも仕事をする上で、その言葉をよく思い出すんです。それに気づかせてくれた社長に、ひそかに感謝しています。
atGPジョブトレが、地域の企業と利用者をつなぐハブになればうれしい
丸浦:最後に、丸浦から、今後についての質問をさせてください。長久保さんが今後やりたいと思っていることは、どんなことですか?
長久保:そうですね、atGPジョブトレIT・Web心斎橋の施設長として取り組みたいのは“企業側の視点を変える”ことです。ITやWeb系の会社って今すごく増えているのですが、障がい者雇用があまり進んでいません。とくに大阪は、課題が山積みになっている地域のひとつ。それで立ち上げたのがatGPジョブトレIT・Web心斎橋なんです。
具体的に言うと、精神障がいに対する企業側の認識が重いのが課題です。ITやWeb系企業の採用担当者から、「もう社内にそういう人がいるから新規では採用できない」と言われるケースが多いんですよね。そういう認識のまま、障がい者雇用を進めようとするのは、夢のまた夢です。
だからまずは企業側の精神障がいへの認識を変えたい。企業の方にatGPジョブトレを見てもらって、なんとか就労を実現していきたいです。それでいい認知が広がれば「ITやWeb系の会社でも、精神障がいがある方の対応ができるんだ」とみんなが思ってくれる。そういう流れを、ここ大阪で起こしたいですね。そのためのハブとして、atGPジョブトレが機能してくれたらと思っています。
丸浦:想いが広まっていったらいいなと思います。施設長としてのビジョンのほかに、長久保さんの個人的なビジョンもありますか?
長久保:はい。いま個人的にやってみたいのは、ひきこもりの方へのアプローチです。ひきこもりの方に向けた福祉サービスは、最近充実してきてはいるのですが、その人数もどんどん増えているように感じていて。本人にとっても、社会的なコスト面においても、どうにかしていきたいなと思うんです。
考えているのは、たとえば、ひきこもりのまま稼げる方法ってないのかな?ということ。ひきこもりを必ずしも改善する必要はなくて、その人が社会に出ずに自分でマネタイズできる方法が見つかったらいいですよね。そういう新しいことに手を広げていきたいですし、そのための余裕を持っていたいといつも思っています。
丸浦:ありがとうございます。ひきこもり支援は、私も個人的にすごく興味を持っているので、すごく共感しました。長久保さんのこれからのご活躍も、楽しみにしています。今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。