近隣施設と得意不得意を補完し合って、Win-Winな関係を築いていく
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福祉サービスからの変革。「アスタネ」のかつてない取り組み~前編~
森田:現在のアスタネの取り組みはとくに「連携事業」に力を入れていると聞いたのですが、具体的にどのようなことを実施しているのでしょうか?
齋藤:連携先はいろいろあります。身近なところで言うと、近隣のさいたま市や川口市などの地域のイベントに出店させていただいたり、隣接する保育園の園児にしいたけを買ってもらったり。それから、使い終わったしいたけの菌床を、地域の農家に引き取ってもらい、畑の肥料にしてもらうこともあります。ほかにも、近隣の別の就労継続A型支援施設との連携もしています。
根本:その就労継続A型支援施設は、コロナ禍の影響で既存事業の経営が難しくなって困ってらしたんですね。
齋藤:その話を聞いたとき、ちょうどアスタネでは、設備的に生産量が上限に近づいている状況だったので、「一緒に生産をしてもらえませんか?」と提案しました。同じ分野ということもあり、いろいろ相談にのりながら、ハウスの建設や生産技術の共有を進めてきました。今では、その就労継続A型支援施設で作ったしいたけをアスタネで買い取って、うちの販路で販売しています。
森田:地域のいろいろな施設で、連携の輪が広がっているんですね。
根本:ほかの施設と、得意不得意を補完し合ってWin-Winな関係を築いていくことが大事。障がいのある方が活躍される環境づくりのためにも、閉鎖的な施設にならないように意識していますよね。
森田:なるほど。連携事業の中で、とくに印象的だったエピソードはありますか?
齋藤:保育園との連携の中で、園児のみなさんがしいたけを好きになってくれたのは嬉しかったかな。園長先生いわく、しいたけが苦手な子も興味を示してくれて、みんなが食べるようになったり、「きのこ体操」をお遊戯でやるようになったりしたそうです。純粋にしいたけを介して輪が広がっているんだと感じられます。
根本:たしかに、あくまでしいたけの商品の良さが先にくるというのは、大事ですよね。収益性の観点からすると、リピーターの獲得は欠かせない部分になるので、シンプルに、味や品質を見て「美味しいからまた買おう」って思ってもらうことが重要です。その意味で、アスタネは、福祉関係のイベントよりも、農業生産者として参加できるイベントに積極的に参加しています。
スーパーマーケットなど、通常の小売販売のルートで販売することを意識しているんですよ。まず商品から入って、気に入ってもらった上で、「こういう社会活動もしていますよ」とゼネラルパートナーズ(以下、GP)のことを知ってもらうのが、いいのかなと思っています。
森田:障がい者施設で生産されていることを、追って付加価値として伝えるということですね。
根本:まさにそうです。実際に以前、取引のあるスーパーマーケットに、農家を知るための研修というかたちで、アスタネに来てもらったことがありました。「実はうちはこういった障がい者支援施設で、こんな想いで働いています」と、そのタイミングでみなさんに知ってもらったんです。パートの方たちは理解を示して、ファンになってくれましたね。
齋藤:私も先日、ある大手スーパーマーケットの店舗と新たに取引を始める際に「これからしいたけを納品させてもらうアスタネです」と挨拶にいったところ、パートの方からいつも購入しているよと言われたことがありました。
私たちはあくまでしいたけで勝負できている。その上で、取り組みを知ってもらうことでファンになってもらえている。根本さんが作ってこられたこのバランスは、すごくいいなと実感しています。
どんな化学反応が起こるのか楽しみ──西武グループとの企業連携が進行中
森田:最近では、西武グループとのコラボレーションも実施していると聞きました。どんな経緯で、どんな取り組みをされているんですか?
齋藤:西武グループの持株会社である西武ホールディングスの新規事業創出を担うセクション「西武ラボ」の方がソーシャルビジネスで先駆的な取り組みをしているGPとぜひ情報交換をしたいということで広報にコンタクトをとりました。そこからGP、特にアスタネの取り組みに関心を寄せていただき、見学に結びつきました。そのときに、スタッフの仕事への姿勢を見て、衝撃を受けたそうです。アスタネのスタッフがしっかり事業を担っている姿に感動されたんですよ。それがきっかけで、何か一緒に新しい事業をやりましょうという話になりました。
森田:そうだったんですね。「新しい事業」ということは、しいたけとは違う活動ということですか。
齋藤: 今取り組んでいるのは、“ロスフラワーキャンドルづくり”。結婚式などで使ったお花って、基本的に終われば破棄されてしまうんですね、それをキャンドルに変えようという活動です。プリンスホテルと連携して進める予定になっていて、そのキャンドルの製造を、障がい者雇用で実現したいと。今、どのくらいの事業規模でできるのかなどの実証実験をしているところです。
ほかにも、西武造園さんともコラボレーションしていますよ。公園の維持管理などを行政から委託されている企業で、その活動の中で、障がいのある人に活躍していただけないかと相談をもらって、一緒に考えているところです。
森田:今まさに検証段階というところですね。検証の現場には、齋藤さんだけでなく、アスタネのスタッフも行かれるのですか。
齋藤:はい。スタッフは検討中の段階から参加し、キャンドルづくりでは「どうやったら品質のいいモノができるだろう」「お花がきれいに見えるには、どう作ればいいんだろう」など、実験を繰り返し、改善していきました。公園の維持管理の業務も、実際にやってもらって検証をしました。
ありがたいことに、西武グループさんからの評判はすごく良いですね。また、アスタネのスタッフに対して障がい者としてではなく、プロジェクトメンバーとして先方が関わってくれることが嬉しいです。スタッフからしても自信につながるだろうし、就職や進路を考えるきっかけにもなるかなと思います。
森田:スタッフさんの中で新しい選択肢が増えて、活躍イメージが広がるのでしょうね。連携事業のこれからの発展も楽しみですね。
齋藤:企業や施設と組むことで、新しいノウハウやアセットが得られるので、積極的に手を広げたいですね。GP・アスタネが掛け合わさったらどんな化学反応が起こるのか、私もワクワクしながらやっています。
アスタネの取り組みが広がっていくことで、障がい者雇用を促進していきたい
森田:ここからは、課題の部分を伺いたいと思います。障がい者雇用の輪が広がりつつあるものの、多くの企業ではまだ雇用が進んでいないと思います。進んでいる企業でも、単純作業しか任されていないというケースが少なくないと聞きました。そのあたりの現状についてどのように考えていますか。
齋藤:新規事業が軌道に乗ることで、障がいのある人が自分たちで考えて業務改善をしていく姿を示せる、良い機会だと思っています。そこから、企業サイドの認知が少しずつ変わるのではないかな、と。
根本:今回の件をきっかけに、他の企業も意識に変化が起こるだろうし、実際に行動する企業も出てくるのではないかと思います。そうするとGPが関われる世界がまた広がりますよね。ただ、別の視点で言うと、GPの内部も、変化の必要があるのかなと思っています。たとえば、紹介事業を行うGPが、企業とのつながりを活かして「この企業には、アスタネのスタッフを紹介できそう」といった判断や社内連携をより強化していくことなど、課題はまだあります。
内部でもっと意識を高めて、積極的に情報をやりとりしていきたいですよね。そこが徹底されれば、もっと社会を動かせるのではと思っています。
森田:外側に目を向けつつ、内側も変化しつつ、というのが大事なんですね。
根本:そうですね。とくに農業って、第1次産業として今すごく必要とされている領域なんです。アスタネは、障がい者を直接雇用しながら、いろんな苦労をして、成功もしてきた。それを会社全体に認識してもらうことで、アスタネから障がい者雇用が少しでも進んでいけばいいですよね。そうしたら、会社としても、私たちとしても、もっと社会に貢献していけると考えています。
齋藤:同感です。アスタネは、障がいのある方を直接雇用し、障がい者雇用ってなんだろう、生産性ってなんだろうという部分を、ずっと考えてきました。このアスタネの活動を通じて、GPのプレゼンスが高まっていけば嬉しいなと思いますね。
本当に社会が変わるかもしれない──そのきっかけを作るのがアスタネの役割
森田:最後に、アスタネ、そしてGPの未来図についてお聞かせください。今後、どのような未来を見据えて、どんな活動を検討していますか。
齋藤:今力を入れている連携事業の先には、障がい者雇用の考え方が変わったり、進化したりする未来があるのかなと思っています。だから、連携していくパートナーを今後も探していきたいですね。アスタネって、いろいろ新しいことができる部署。これからも「やってみよう、楽しもう」のクレドに従って、たくさんのチャレンジをしていきます。
根本:おもしろくなりそうですね。最近は、障がい者雇用も変化してきていて、多くの企業が「どうやったら障がいのある方にもっと活躍してもらえるのか」という部分を考えはじめている。だから、連携事業にはものすごく可能性を感じます。今はアスタネを離れていますが、またスッと戻りたくなるな(笑)。
齋藤:ぜひ。私がとっかかりを作るから戻ってきてって、いつも言っていますからね(笑)。アスタネを大きい組織にすることが目的ではないのですけど、でもやっぱり、障がいのあるスタッフも含めた、たくさんの仲間と、障がいのある方の活躍にこだわってやっていきたいですね。そのような動きが、より多くの障がいのある方の活躍につながる。それを信じて、これからも頑張っていきます。
森田:アスタネの取り組みが、これから社会にインパクトを与えていきそうですね。
根本:そうですね。精神障がいのある方がどうやったら活躍できるのかは、私も常に考えてきましたが、ようやく今、盛んにアウトプットされるフェーズに来たのかなって思うんです。これからいろいろな企業と連携をしていけば、その企業の力で、本当に社会が変わるかもしれない。そのきっかけを作るのがアスタネの役割なのかなと、期待しています。
齋藤:社会にインパクトを与えられたら、おもしろいし、嬉しいですよね。
これまでは企業にとって、障がい者雇用というと「雇わないといけない」という感覚だったと思うんです。でも、大切なのは障がいのあるなしに関わらず、多様な人たちがいきいき活躍できる社会になっていくことだと思うんです。従来の障がい者雇用のイメージから、どんどんはみ出していくのが目標です。
森田:新しいイメージがもっと広まれば、社会の認識が180°変わるかもしれませんね。なんだか私もワクワクしてきました。本日は、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。