高校での経験が社会福祉に携わるきっかけに。前職では、就労の意義を実感
社会福祉に携わるようになったのは、高校生のときにある問題意識を持ったことがきっかけでした。私が通っていたのは、英語や韓国語、インドネシア語コースもある国際色豊かな外国語科の学校。授業で人種やジェンダーについて学ぶ機会があり、「偏見や差別はどこからくるのか?もっと社会のことを学びたい」という想いが芽生えました。
高校を卒業後、大学の社会福祉学科に進学。入学してまず、知的障がいや発達障がいのある方や子どもたちと過ごすキャンプのボランティアに参加しました。福祉の世界は大きく高齢者、児童、障がい者の三つの分野に分かれます。いろいろ学んでみたいという想いから、その中で自分にとって最もなじみがない障がい者のことを知りたいと思ったことが理由です。
現地に着いた途端、すごい勢いで駆け出していく方がいるかと思えば、池の水に波紋が広がる様子を1時間以上見つめている方もいて。人によって考え方や価値観はさまざまですが、障がいのある方にとっては、それがいっそう際立っているように感じられました。
また、障がいのある方とお出かけするアルバイトもしていました。一緒に街を歩いていると、突然不安定になって大きな声を出したり、その場から動けなくなったりすることがあります。そんなとき、温かく声をかけてくださる方も多いのですが、怪訝そうな顔をされる方も少なくありません。今見えている姿は、この方のたった一側面に過ぎないのに……。と、そのたびにすごく悲しい気持ちになっていました。
障がいのある方と多くの時間を共有していると、いろんな考え方・ものの見え方があることに驚かされ、「世界はどんなふうに見えているのだろう」と想像してワクワクします。同時に、そうやって人と違うことが当たり前に世の中に受け入れられて、誰もがその人らしくいられる世界になってほしいと強く感じるようになっていきました。
大学卒業後は、社会福祉法人に就職。就労継続支援A型・B型、移行支援などさまざまな事業を手がけていて、いろんな経験ができそうな場所だと思えたことが理由です。その法人が地域社会とのつながりを重視していたことにも共感できました。
新卒で配属されたのは、就労継続支援B型の事業所。B型は、障がい者の方が企業と雇用契約を結ばない形での就労支援です。そのため、障がい者の方への報酬は比較的少額なのですが、毎月のお給料を楽しみに働いていらっしゃることが印象的でした。
また、仕事を請け負う会社の方が「こんなに早くやってくれたの?ありがとう」と声をかけてくださったときの、皆さんのとてもうれしそうな表情も心に残っています。
仕事がすべてではないとは思う一方で、人生において仕事があること、それが誰かの役に立ち、感謝されることが、生きていく上で大きな力になることを実感した3年間でした。
障がいのある方への認知を広げたい。採用面接でかけられた言葉が入社の決め手に
就労継続支援事業所は、一般就労が難しい方にとって大切な居場所ですが、「一般企業で働いて、もっと生活を豊かにしたい」と考えている方もいます。実際、能力はあっても、選択肢がなかったり、ご家族が心配ゆえに反対したりするために、それが叶わないケースが多いと感じていたんです。
そういった方が、希望する道を選択できるようにしたい。そのためには、障がいのある方についての認知を広げ、ともに生きていける世の中にしていかなければならないと考えるようになりました。
そんな社会を1日も早く実現するために、障がいのある方が一般企業に入るお手伝いをする就労移行支援に関わりたい——そう思ったことが、転職を考えたひとつ目の理由です。
それとは別に、事業会社で働くことで、もっと社会のことを知りたいというモチベーションもありました。
私は就職活動をほとんどしないまま福祉の現場に入ったこともあり、社会の仕組みや世情に疎いという自覚があったんです。また、福祉の仕事はとても楽しく、あまり仕事で苦労した経験がないことも気になっていました。事業会社に身を置けば、会社を存続させていく苦労や難しさについて学ぶことができると考えていました。
そんな折、たまたま出会ったのが、ゼネラルパートナーズ(以下、GP)でした。採用面接で掛けられた営業部門の部長からの言葉がとても印象に残っています。
「当事者と社会をつなぐ仕事をしていきたいのなら、まずは営業として社会のことを知ることが、板垣さんにとって良いことなんじゃないかな?」
いち採用候補者でしかない私のキャリアについて真剣に考えてくれたことに、とても感激したのを覚えています。「この方がそういうなら、ぜひやってみよう」。そんな気持ちで、法人営業として入社することを決めました。
入社して1年目は、人材紹介の営業として、新規の企業への訪問から、契約、候補者の紹介までを一貫して担当。2年目以降は部署の編成が変わり、営業担当が取ってきた契約に対して、候補者を紹介し、入社までサポートする仕事をしてきました。
積み重なる数字は、幸せになった人の数。当事者と企業の両方に頼られる存在でありたい
初めての営業の仕事に不安はありましたが、先輩社員からビジネスマナーを丁寧に教えてもらえて、想像していたよりも早く業務に慣れることができました。いろいろな企業への入職をサポートできているので、自分の仕事が障がいのある方についての認知を広げることにつながっていると実感できています。
中でも印象に残っているのが、入社して1年足らずのころに出会った方です。
アルバイトや派遣社員などを転々としていた精神障がいのある40代の方でした。希望の職種は、クリエイティブ関連。未経験ではありましたが、独学で熱心に勉強をされていました。
40代で未経験の仕事に挑戦するのは、通常の中途採用でも簡単なことではありません。でも、すごく前向きな姿勢をお持ちだったので、担当企業に紹介することにしたんです。すると、企業が「実際に会うととても良い方で、前向きなところが社風にもフィットしている。ぜひ採用したい」といってくださって。
年齢や経験、障がいなどにとらわれずに、本人が希望する職業に就くお手伝いができたことが何よりうれしかったです。入社後、「職場の方から評価のお言葉をいただいた」と聞きました。企業にとっても、良い結果になったのではないかと思っています。
そうやって候補者の方の採用が決まっていく中で、「紹介いただいた方を採用して本当に良かった」といっていただくこともありました。それまで受け入れたことがない障がいのある方を採用したケースでは、「今後も同じ障がいがある方を積極的に受け入れていきたい」という声をいただけることも。そんなときは、「この仕事をしていて良かった」と強く感じますね。
営業である以上、数字上の目標を達成することも大切です。初めのころは、「数字のためだけに働くのは嫌だな」という気持ちもありましたが、「積み重なった数字は、幸せになった人の数」だと思えるようになったことで、前向きに取り組めるようになりました。
法人営業を経験し、障がいのある方を受け入れる企業の立場に立って考えられるようになったことは、私にとって大きな収穫でした。以前の私は、「障がい当事者の力になりたい」という想いが強いあまり、受け入れる企業の苦労や努力にまで考えが及んでいなかったんです。
この3年間で、当事者の方と受け入れる企業、両方の視点を持てるようになりました。そして、この4月に就労移行支援施設「atGPジョブトレ」に異動し、就労支援・定着支援などを行っています。今後は、どちら側からも相談しやすく、また味方として頼られる存在でありたいと思っています。
仕事の内容も働き方も問わない。理想とする社会を実現するためなら
障がい者の法定雇用率やダイバーシティ推進などを背景に、障がい者を雇用したいという気持ちがある企業が増えてきています。しかし、知らないことや初めてのことを受け入れるのは、とても不安なこと。その点をよくわかった上で、寄り添っていくことが大切だと感じています。
たとえば、企業の方とお話していると、障がいがある方への理解が追いつかず、先方の不安がどんどん膨らんでしまうケースが少なくありません。そんなときは、相手の目線に立ち、理解する姿勢を示すように心がけています。そうやって少しずつ不安を解きほぐしながら、最善と思える策をともに考えていきたいですね。
一方、障がいがある方のキャリアパスについては、道筋があらかじめ決められていて、トレーニングも形式化しているところがあるように感じています。そんな状況を解消するためにも、たくさんの事例を作り、選択肢の幅を増やすことが必要だと考えていています。
障がい者採用は事務職の求人が圧倒的に多いですが、例えば営業の仕事をしたいと考えている方、技術系のお仕事をしたいと考えている方もいらっしゃいます。そんな方々の就職を支援することで、「障がい者雇用の求人は、事務職や軽作業のお仕事だけではないんだ」という認知が当事者にも企業にも広がっていくと考えています。
いろいろな選択肢があることがわかれば、障がいがある方が、より自分に合った働き方・生き方が選べるようになると思っています。どんな障がいがあったとしても、自由に仕事が選べて、自分が生きたい人生を決められるような世の中であってほしい。そんな社会の実現に向けて、これからもGPの一員として、職種や働き方を問わず、積極的に取り組んでいきたいと思っています。