「障がいで働けない人は、社会に参加できないの?」中学時代に覚えた違和感

私は現在、ゼネラルパートナーズ(以下、GP)が運営する障がい者向けの就労支援サービス「atGPジョブトレIT・Web秋葉原」で、施設長として障がい者の支援を行なっています。

ジョブトレに異動したのは半年ほど前で、それまでは約6年間「定着支援」の現場にいました。「定着支援」とは、障がい者が就職先で長く働けるよう支援すること。どちらの現場でも、障がいのあるサービス利用者が社会で安定して働くためのサポートをするのが私の仕事です。

就労支援の仕事にたどり着いた背景には、学生時代のある原体験があります。

私の母はある障がいがあり、就労できる状態ではありませんでした。母は、私が中学生のときに亡くなったのですが、なにもできない自分を責めていたことを後になって知りました。

そんな母の姿を見て、疑問に思ったのです。「障がいが理由で働けない人が、社会に参加できないのはおかしいのではないか」と。気づけば将来の目標として「障がいのある人の就職を心理の面からサポートしたい」と思うようになっていました。

心理学を学んで臨床心理士の資格を取ることを決意しましたが、大学を出て資格のために大学院に進もうとしたとき、父からこんなアドバイスをされました。

「一度は、企業で働け」

父は、就労に関するカウンセリングをするのなら、社会人経験は必須だろうといったのです。私もそれに納得し、大学を出てから3年間、広告系の企業で営業の仕事をしました。その後退職して大学院に通い、目標通りに臨床心理士の資格を取得。精神科クリニックでカウンセリングの仕事を始めました。

カウンセリングの仕事では、印象的な出来事がありました。発達障がいのある高校生の男の子を担当したときのことです。

彼は勉強ができたので、某国立大学を目指すよう周囲から期待されていました。しかし本人は学校に行くのが嫌で、不安症状や身体症状があり引きこもりという状況。どうして嫌なのか彼に話を聞いてみると、彼は「本当はアートやプロダクトデザインに興味がある」と話してくれたのです。

その想いをきちんと周囲に伝えられるように私が手伝い、ついにアート方面の受験勉強に取り組めることになると、なんと彼は、毎日学校に通えるようになりました。そして、自然に症状も無くなっていきました。

彼の本音にたどり着くまで、私は、認知行動療法という心理療法で通学を促しては失敗してを繰り返していましたが、本音を元にカウンセリングを行うことで行動が変わっていったのです。

薬や心理療法はもちろん大事だけれど、その人自身のありたい方向性がその人の治療薬になることがあると思いました。そのために、口数少ない人でも、本当にやりたいことは何なのか、自分自身が自分を認めてあげられることは何なのか、アンテナを立てたり想像することが専門性なのだと思いました。

それから私は、臨床心理士の資格を活かしつつも、医療機関で働くだけではなくその人ともっと近い場所で丁寧に関わって、気持ちに寄り添った支援したいと思うようになったのです。

そしてその思いを実現するため、転職活動を始めました。

もっと気持ちに寄り添う支援がしたい。そんな想いで始めた転職活動

就労支援に関われる会社をハローワークで検索し、見つけたのがGPでした。

当時の私は、就労支援の仕事はまったくの未経験。不安もありましたが、面接をしてくれた社員の皆さんが「入ってから学べばいいのだから大丈夫」と、背中を押してくれたのです。その言葉を聞いて、GPに入れば、前向きに成長でき、役に立てるかなと思えました。

入社を決意しましたが、医療と就労支援の両方がわかる人になりたいと考え、当時勤めていた精神科クリニックは辞めず、ダブルワークという形でのスタートに。2年間両立をした後、就労支援の道一本に絞りました。

就労支援の中でも、主に携わってきたのが「定着支援」です。就職したものの職場でつまずいてしまい続けられなくなるケースをたくさん目の当たりにしました。

なぜつまずいてしまうのか……。理由を噛み砕いて考えてみると、ほとんどの場合、根本には職場での自己肯定感の低さがありました。「自分は迷惑をかけているのではないか」という不安、思うように仕事ができないストレスなどから、自分の存在意義について悩んでしまうケースが多いのです。

しかし、悩みの多くは、職場と本人の認識や役割期待のズレ、価値観のズレから生じたものなんですよね。たとえば、上司は帰ってもらっていいと思っているのに、本人が気をつかって残業をしてしまう、とか。

このようなズレを発生させないために、両者の間に立って互いの本音を聞き、調整していくことが、「定着支援」担当として私の抱えるミッションでした。

一方、私が施設長を務める「ジョブトレIT・Web秋葉原」には、2021年10月現在、約25名の障がいのある利用者様が在籍しています。施設の大きな軸はWeb制作のスキルをつけることですが、体調コントロールや、勤怠を安定させることなど、利用者様にとってみれば、スキルの前に越えなくてはならない項目が多々あります。

以前の「定着支援」でつまづいてしまうようなことがないように、もっと貢献して自分を認めてあげられるように訓練できるのが今の事業所だと考えています。具体的には、優秀な職員たちがああでもない、こうでもないと頭をひねりながら、関わって、自分に関する気づきのお手伝いをしていきます。

職員以外にも、現役デザイナーの講師の先生にもご協力いただきますし、卒業生の方のお力もお借りします。

私個人としては、利用者様自身の健康な部分が何より頼もしい助っ人です。そうしてIT・Web秋葉原の利用者様は就労した後に使える強みを磨き、生じ得る障壁への対処を身に着けていきます。

粘り強く向き合い、利用者の知られざる一面を発見する。その瞬間が嬉しい

GPのサービスを利用してくださる方々と関わる日々の中で、特に印象に残っている出来事があります。それは、発達障がいのあるAさんの定着支援をしたときのこと。

とても地頭の良い方で、就職先では総務として社内に散らばったデータの整理や業務フローの改善を任されていました。しかし、入社から数カ月後、「上手くいかなくなってきた」と話すようになり、体調も悪化。私は、なにか困っていることがあるのではないかと思い、たずねました。

すると「ゴールが明確じゃないから困る」というのです。そこでAさんの職場の上長に話を聞きに行き、障害特性として曖昧なものを理解するのが苦手であるため、「もっとゴールを明確にしてあげてほしい」とお願いしました。

しかし、Aさんの上長は「障害特性とかじゃないんだよ」とおっしゃり、2時間以上も平行線の話し合いが続いたのです。

この上長は障害特性を理解しようとしてくれない方なんだ、と諦めかけたその時、上長からAさんに「ゴールは最初からあるわけではないし、相手が答えを持っているとも限らない。あなたに質問されることで、答えが少しずつ作られていくんだよ」と伝えたことで、状況はがらりと変わりました。

自分の仕事が「明確なゴールに向けてフローを作る」だと思っていたAさんは、この言葉を聞いて瞬時に理解しました。まずは答えを一緒に作っていけばいいのだと、腑に落ちたのです。私は「交わった……!」と感動しました。

利用者様と職場を橋渡しするのではなく、それぞれが根気強くコミュニケーションをとり続けられるような機会を提供することが重要なのだと思ったきっかけでした。

粘り強く話をし続けると、支援してきた利用者さんの知らない一面を発見でき、彼ら彼女らの財産に、職場も支援者も、その人自身も気付くことができます。この発見の瞬間は、とてもやりがいを感じますし、私のモチベーションの源泉ですね。

コミュニケーションを重要視する私にとって、GPは絶好の環境です。医療の現場では、どうしても患者本人からの話しか聞くことができません。

一方、GPでは、利用者本人の話はもちろんのこと、利用者の周囲の人たちからも話を聞けるケースがよくあります。医療機関より広い視野でサポートができるという意味では、転職して本当に良かったなと感じています。

ジョブトレは、居場所。ここで「自分らしさ」や「自信」を見つけてほしい

私が仕事をするうえで最も大事にしていることは、「自分らしさの追求」です。

「自分らしさが大事」というのは簡単ですが、自分らしさが何なのか本人でもわからない場合もあるし、わかっていてもその通りに生きていけないことも多々ありますよね。社会に所属しながら自分らしさを守るのは、難しいことです。だからこそ私は、その人らしさを大事にできるような支援をしたいと思っています。

就職をすれば、つまずくこともあります。でも、同じような経験をした人から共感してもらえて、「自分だけじゃないんだ」とか「こんな解決策があるんだ」と思えたなら、疎外感を覚えずにやっていくことができると思うんです。

ジョブトレを利用してくださる皆さんが、ここを居場所として感じて、自分らしく自信を持って生きてくための体験を一つでも多くしてくれたらいいなと思っています。そして、いつかみんなが、『世の中って捨てたもんじゃない』と思えるようになったらいいなというのが私の願いですね。

就労移行支援事業所を利用できる期間は原則2年で、ジョブトレでも就職が決まったら定着支援はありますが、決められた期間が過ぎたらそこで卒業になります。

ただ、私個人としては、就職し、体験を振り返って、次のキャリアにつなげていくことも重要だと思うので、将来的には、生涯にわたって長く就労支援ができるような仕組みを作りたいと考えています。

そのためにも、まずは施設長として、ジョブトレの運営に全力投球していきます。