ブラインドマラソンの伴走をきっかけに広がった世界

▲ガイド用のビブス

私がGPを知ったのは、ブラインドマラソンの伴走者というボランティア経験がきっかけでした。ブラインドマラソンとは、視覚障がいのある方が行うマラソン競技です。

もともと走ることが好きで、とある公園でランニングをしていた際に、集団でブラインドマラソンをしている方たちをよく見かけていました。気になって様子を伺っていたところ、「伴走者が足りないからやってもらえないか」と声をかけられ、ボランティアをやることになったのです。

ボランティアの役割として、ブラインドマラソンの大会や練習で移動するときには、ランチのお店を探すこともあります。たとえば、私ひとりで視覚障がいある方3人と一緒にいる場合、2階にあるお店だと入店するのが難しいので、障がいのある方も行きやすいお店はないかなと、事前に探します。そのときに活用していたのが、GPが運営している「Media116」という、障がい者向けのライフスタイルメディアだったんです。

障害者手帳で入場料が割引になる遊園地などが載っていて、当事者性が強くなかなか珍しい媒体だな、と思って運営会社を調べていてGPを知りました。私の母がある会社の人事を担当していたため、障がい者採用の制度があることは知っていたものの、障がい者専門の就転職支援サービスを行う企業があるとは思っておらず、興味を持ちました。そうした経緯でGPに入社することになりました。

日本の障がい者雇用の法制度は、企業の社会的責任にもとづいたもの。企業の社会的責任は、企業が社会的恩恵を受けて成長しているという前提で、「企業は社会に還元するべき」だという考え方で成り立っています。

しかし、そうした考え方は、特に私のような生まれたときからデフレがずっと続いている世代にとっては、正直なところ理解しにくく、社会的責任という理念だけで障がい者雇用を進めるのは難しいのではないか、と思っています。

実際に企業の支援に携わる際には、「何で障がい者雇用をやらないといけないの?」という話から始めることも少なくありません。何を障がい者雇用の付加価値にするかということに頭をひねるところが、障がい者向けの転職支援サービスを行うおもしろさでもあり、難しさを感じる部分でもあります。

GPでは、企業側を担当するリクルーティングプランナーとして、企業からの求人にマッチする人材の推薦、面接日程の調整、面接の同席のほか、必要に応じて入社後のフォローも担当しています。

障がい者雇用のリクルーティングプランナーとしてできること

▲GPの仲間たちと

北欧諸国は福祉が充実している、と聞いたことがある方も多いと思います。たとえば、スウェーデンではサムハル(Samhall AB)という大企業が一元的に障がい者雇用を行う、「保護雇用」という形をとっています。

日本の場合、多くの企業が障がい者雇用の主体となっているため、障がい者がいろいろな選択肢から自分に合う・合わないを考えて働く企業を見つけられるのが良いところ。コツコツと仕事をする人を求める企業があれば、成長や成果を求める企業もあるので、自分の描きたいキャリアに合わせて選べます。

企業のカルチャーの良さをヒアリングしてカウンセラーに伝えることで、良いマッチングを行うことにやりがいを見出しています。

たとえば、最近はワークライフバランスを重視する傾向がありますが、成果を出すために必要な工数をかけたい、と考える方が多い企業があるのも現実。そういった企業に対して、実務経験はないものの独学でコーディングした克己心のある聴覚障がい者の方をマッチングしたことがあります。非常にガッツがある方で、コーディングのレベルがわかる書類を自作していたこともあり、「スキル要件は違いますが、御社のカルチャーとフィットすると思うのでご検討ください」とお願いしました。雇用が実現し、その方は今でも同じ会社で活躍されています。良いマッチングができたな、と思う案件です。

一方で、難しさを感じているのは、まだ体調面が不安定ではあるが、働くことを希望されている方のマッチングです。紹介事業の介入価値を考えると、体調が不安定ですぐには就労することが難しい場合、GPが運営している「atGPジョブトレ」といった就労移行支援を活用して、就職の準備をしていただくことが非常に大切だと考えます。体調面を整えながら就職に必要なスキルを一生懸命学ばれている方たちを企業にご紹介できるよう動いています。

それから、私がリクルーティングプランナーとして心掛けているのは、納得できる理由を探しきることです。障がい者雇用においては、コピーやお茶出しなどのアシスタント的な業務のニーズが良く見られます。企業からは女性を希望されることが多いのですが、「それは女性でないとできない仕事ですか?」とお聞きするようにしています。

あるいは、過去に採用した方の攻撃性が原因で障がい者雇用がうまくいかなかったというケースがあるのですが、これは障がいが問題なのではなく、パーソナリティの問題です。障がいに対する誤った認識や偏見が助長されてしまわないよう、一歩踏み込んで根本的な部分を確認するように心掛けています。

インプットだけではなくアウトプットも大切に。母校で登壇して得た手応え

▲母校で登壇

最近、母校で登壇させていただく機会がありました。大学では政策学科を専攻し、財政政策から環境政策、福祉政策などを学びました。そこの特別授業として、障がい者雇用政策について講義してもらえないかとお話をいただきました。

自分なりに勉強し直す機会にもなると考えてお引き受けし、授業では日本の障がい者雇用政策の制度の成り立ちや海外の制度との比較などについてお話ししました。

講義後に学生さんから感想文をいただいたのですが、学生さんの中には、初めて障がい者雇用制度のことを知ったという方もいましたし、社会的な合意形成をとる難しさに対して興味深いという反応を示す人が一定数いることがわかったのは私にとっても大きな収穫でした。

また、友人のつながりから、これまで3回ほど小・中学校の授業企画に携わらせてもらいました。とくに2020年前後はオリンピック・パラリンピック教育のため小・中学校で外部講師を呼んで講義をするために予算がつけられていて、学校教育のなかで障がいについてお話をする機会があったんです。

GPには障がいのある社員がたくさん在籍しているので、GPの同僚に協力してもらって講義をしたり、「ヒューマン・ライブラリー」といって生きた人間が「本」役となり、読者に自分の人生について語る対話型のイベントをやってみたりしました。毎回、まだ「障がい」という概念がない段階で概念にフォーカスすることが良いことなのか迷うのですが、「駅で視覚障がいのある人をみかけたときに何かしたいけど、なんて声をかければいいかわからない」などの声が聞けて毎回発見がありました。障がい者雇用というカタチだけでなく、他の方法でも接点をつくり、障がいのよき認知を広めていきたいです。

良い意味で裏切られた福祉の仕事。障がい者雇用の奥深さを伝えたい

実は私自身、以前は福祉に対して固定観念を持っていました。すごくうがった見方ですが、誰かの役に立ちたいと思うことは恩着せがましいし、偽善だとすら思っていて、福祉という領域に近づけませんでした。それに新しい発見や考察の余地はないだろう、とおごっていたんです。

でも、ブラインドマラソンやGPでの仕事を通じて、いろいろな角度から福祉に関わることによって、良い意味で裏切られました。先日、盲導犬ユーザーの方と一緒に行動していたのですが、その方は目が見えない分、嗅覚や触覚を駆使して情報を把握されていて。非常に豊かな人生を送っているなと感じたんです。待ち合わせをした駅で、「ここはすごくお味噌汁の匂いがするんだけど何があるの?」と聞かれて、そこはお蕎麦屋さんだったんです(笑)。「そうやって空間を把握するんだ!」と新発見でした。

それから、障がい者雇用は理念だけではやっていけない、生産性というわかりやすい軸だけでもやっていけない場合にどうするか。たとえば、アスリート雇用や超短時間雇用など、さまざまなアイデアによる工夫や考察ができます。「考察の余地がない」ということはまったくない、むしろ深い考察が求められているということを実感しました。

最近では、障がい者雇用に対して正しく理解していただき、企業からのニーズには最大限応えていこうと考える一方で、関心を持っていただくための種まきもしています。アポイントをとって企業に伺ったときに、「15分くらい情報共有してもいいですか?」という形で、超短時間雇用の採用事例などを紹介する。それがフックになって、マッサージルームを立ち上げたい、アスリート雇用をしたいということにつながることもあるのです。

私は、障がい者雇用の仕事がとても好きで、やりがいを感じています。休みの日も情報収集したり、この業界に携わる人と関わったり、当事者の人に会いに行ったりしているほど。好きとかおもしろいといった気持ちが原動力です。

今最も考えているのが、視覚障がいのある方の仕事についてです。コロナ禍で対面によるコンタクトの機会が限られたことで、最もボリュームのあった雇用先がなくなっているのです。次は、何が大きな雇用の場になるかは視覚障がいのない私にはわからないことも多いので、当事者の方に聞きながら探ることにやりがいを感じます。障がい者雇用に興味を持って、楽しみながら関わりを持ってくれる人が増えたらいいなと思います。