社会問題は他人事じゃない。仕事を通して解決したいと気づいた学生時代

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▲学生時代はフランス語を専攻し、フランスやトーゴへ渡航。「問題が起きている現場を見たい」とボランティア活動などに参加していた

「atGPエージェント」は、障がい者採用をしたい企業と就職を希望する候補者双方をサポートし、より良いマッチングを目指すサービスです。2003年、GPの創業当初から展開しており、障がい者転職サポート実績は業界No.1を誇ります(当社調べ、注1)。僕のような法人営業担当者は企業の課題やニーズをヒアリングし、主に採用面において、ニーズに沿ったサービス紹介や求人掲載、候補者の紹介から選考管理を行っています。

2017年に新卒入社してから2020年現在まで、従業員3000名以下の企業を中心に年間で120~140社をサポート。そして、約150名の就職決定を生み出してきました。目にした書類や面接同席したことを考えれば、もっと多くの候補者の方とお会いしています。そのような3年間を経て障がい者雇用の知識は増え経験も積みましたが、入社前は障がい者雇用について何も知らない状態でした。

就職活動では業界を問わず幅広く見ていました。とある会社の選考で、「GPって知ってる?」と言われて。初めて聞いた社名でしたが、説明会に参加することにしました。GPの理念は社会問題を解決すること──そう話す代表の進藤 均に、「社会問題をビジネスで解決することは難しいんじゃないですか?」 と僕は質問しました。すると、「ふたつは違う方向を向いているようだけど、同じ方向を向いて走らせることができるんだよ」と返ってきたんです。

その言葉を聞いて、自分自身も社会に希望を持つことができるんじゃないかと感じました。僕はトランスジェンダーで、いわゆる “マイノリティ” として生きる中、納得できないことも多く経験しています。どれだけ就活しても興味がわいた事業はなかったのですが、社会問題は他人事に思えなかったんです。

進藤の話に出てきた「社会問題」や「マイノリティ」、「差別偏見の解消」というワードは自分にすごく刺さってきて。この会社ならやりがいを持って働けると思い選考に進みました。

面接でトランスジェンダーであることをカミングアウトすると、たいていの企業では「話してくれてありがとう」と感謝されたり、「うち男性社会だけど大丈夫?」と懸念を示されたりするんです。でもGPでは特別な反応がなかったですね。出身地を話されて「そうなんですね~」と返すくらいの感覚で。何もないことを、心地よく感じました。

マイノリティが受ける差別偏見や生きづらさを変えることで、より選択肢のある社会にできたら、「この人生で良かった」と後悔なく死ねる。そう考えて、GPに入社することを決めました。

注1:障がい者(障害者)の求人転職情報・雇用支援サービス|アットジーピー

うわべではなく「本当の課題」を捉えれば、気づかなかった道が見えてくる

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▲同期とオフの日に集まって、リフレッシュに出かけることも。お互いに励まし合い、切磋琢磨する仲

社会問題やソーシャルビジネスについて知るために、まずは現場で働きたいと希望していました。とくに法人営業なら、社会問題を『ビジネス』で解決することをより近い立場で考えられそうだと感じていたので、配属された時には「よっしゃ」と思いましたね(笑)。 

最初に担当した仕事は新規契約受注のためのテレアポでした。コールセンターのアルバイト経験があったのでテレアポ自体は苦にならなかったです。 

一方で、マイナスな声を聞くことが多いと感じました。電話越しに聞くリアルな言葉。「うちシュレッダーの業務とかがないんだよね」「ファイリングの仕事はなくてね」  その前提にあるのは、「障がい者は働けない」という偏見や思い込み。しかし、自分には切り返せる言葉がなく、すごくもやもやしながらテレアポを続ける日々でした。

その後、契約獲得のために企業へ出向くようになりました。商談の場面では、障がい者の採用についてどのような課題があるかを聞きます。それを持ち帰って上司に相談すると、「本当の課題はそこじゃないよ」とよく言われましたね。 

たとえば「業務切り出しができない」と話していても、切り出す業務がないのではなく、そもそも障がい者に何ができるのか検討がついていない場合もあります。そうすると自分たちの知識だけで検討するしかないので、できるかもしれない業務が候補にあがらない……ということが起こり得るんです。

この場合の課題は「業務切り出しができない」ではなく、「障がい者に任せる業務の想像がつかない=知識が足りていない」と考えられ、前者と後者ではまったく打つ手が変わってきます。

うわべの課題ばかり聞いていて、根本的な “本当の課題” にたどりつけていない。そう感じさせられた僕が取り組んだのは、事前に電話で情報をヒアリングしそれをもとに仮説を立ててから商談に臨むことでした。仮説をもとに話すことで過去の事例や現場の温度感など具体的なエピソードが話題にあがりやすくなり、課題の本質に迫る対話ができるようになりました。

数々の書類や面接同席で目にしたことを振り返ると、同じ障がい名でも人それぞれ特性は異なり、かつ苦手なことや困難にどれだけ対処したかという経験も違います。生活環境、育った家庭環境、いつ障がいを発症しどの段階で病院に行ったか……これらを総合的に考えると、誰ひとり同じ障がいの人はいないんじゃないか、とすら思えてくるんです。

障がい名だけで判断はできない。企業のニーズと障がい者の個別性を踏まえて、よりよいマッチング事例を多く生み出すことが「障がい者は働けない」という偏見の解消につながると考えています。

健常者と障がい者の区別がない採用──そのために自分ができることとは

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▲自分にできることを模索しお客様の期待に応えられたときは、働く中でも嬉しい瞬間

日本には障害者雇用促進法という法律があり、国が雇用率を定めて相当する人数の障がい者の雇用を事業主に義務づけています(注2)。この法律は障がい者の職業の安定を目的としていますが、ともすれば企業は「障がい者雇用率を達成するための採用」になりがちです。

そうすると障がい者が職場で活躍し成果を上げることや、スキル/キャリアアップという視点が抜け落ちることがあります。障がい者は職場に満足できず転職する、企業は仕方なく採用し経営悪化したら契約を切るという負の連鎖が生まれてしまいます。

そのような中今でも印象深いのが、2019年、入社してから3年目のときに経験した採用決定です。その企業は雇用率が充足していて、障がいへの理解や配慮もある程度進んでいる状態でした。ただ、健常者を含む全体として、システム部門での採用が急務だと分かったんです。

採用が上手くいっていない理由は年収の高さで他社に負けてしまうこと。そこで、障がい者採用の市場では、残業の配慮などから希望年収が高くない方もいらっしゃるのではとシステム部門で障がい者採用を行うことを提案しました。

そして募集を開始すると、なんと1カ月で採用が決まったんです。「システム部門で採用できると思わなかった、ありがとう」と言ってもらえて嬉しかったですね。

このときに採用が決まったのは40代の方。40~50代は市場全体で見ても採用が決まりづらい層で、ご経験も企業ニーズとマッチしないことが多いものでした。加えてその方は偏見が根強い障がいを抱えていて。なかなか求人を紹介できなかったところに選択肢をひとつつくれたと思うと、自分がやりたいことに近づく経験ができたんじゃないかと感じました。

本来採用というのは、必要としている人と必要とされたい人のマッチング。障がい者雇用枠を埋めるためにどうするかではなく、「採用ニーズにマッチする方がたまたま障がい者だったから、成果を出すために企業は配慮環境を整え、社員は業務に集中する」という姿が自然になってほしいと願っています。

そのためには自分自身も「障がい者雇用でどうするか」と虫の目にならず、鳥の目をもって「その企業の “採用全体” での課題はなんだろう」と考えることが大事だと意識しています。

この「虫の目、鳥の目」の話は、内定者のころに当時の副社長が話してくれました。社会人になると虫の目になりやすいと。 確かに忙しい日々の中で、目標達成のために効率だけを重視してしまいがちなときもあります。企業担当者の悲観的な声に流されかけることも。

でも、目の前のことしか見えない営業にはなりたくない。「自分はマイノリティが生きやすい社会をつくるためにこの仕事をしている、じゃあ今自分に何ができるだろう?」 と自問しながら仕事に向き合っています。

注2:障害者雇用促進法の概要|厚生労働省

差別偏見を解消し、マイノリティが未来をあきらめずに済む社会へ

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▲生きづらいどん底の状況を経験したからこそ、後悔のないよう自ら行動し、社会を変えていきたい

営業として働く3年間のなかで、仕事ぶりが評価されて部署のMVPをもらったこともありました。しかし、もどかしかった経験も数えきれないほどあります。採用時は良い決定だったと思っても、入社後にこちらも人事も予期せぬ原因で早期退職になってしまうことも……。そんなとき、自分たちの介在価値はなんだろうととても悔しくなります。

「マイノリティが受ける差別偏見や生きづらさを変えられたら」そう思って入社しましたが、まだ生きづらさを根本から変えることは全然できていないと思います。それでも自分の行動にまったく意味がないとは思っていません。

企業が認識していない課題に気づき、一緒に課題解決に導くこと。その結果働く障がい者が増え、一緒に働く人が障がい者に対して「働ける」印象を持つことで、差別偏見を少しずつでも変えていけると考えています。実際、とある企業の方に「あの採用は本当に良かった、今度は本社でも採用したい」と言っていただけたことがありました。負の連鎖ではなく良い連鎖を生み出すことができると実感した言葉です。

GPは今期(2020年度)から「障がい者と職場に多様な選択肢をつくり、双方がwin-winな雇用を実現する」という方針を掲げました。この方針の実現には、採用決定までのお手伝いではなく、入社後の定着や活躍の実現にまで踏み込む必要があります。

「atGPエージェント」内はもちろん、就労移行支援事業所「atGPジョブトレ」なども含めatGP全体で連携し、それぞれのサービスの良さを掛け合わせて「採用してよかった」「入社してよかった」と双方に思ってもらえる雇用を生み出したいです。

そしてゆくゆくは、障がい者に限らずマイノリティの人生の岐路において、選択肢が当たり前にある状態を実現していきたいと思っています。僕自身も大学生のときに、トランスジェンダーだと公表してアルバイトの面接を受けたとたんに、約10社近く連続で落ちたことがありました。それまで面接に落ちたことが無く、接客経験も豊富かつ同じ業界の仕事を希望して受けたので「何がいけないんだろう」とショックでしたね。

しかも、そのあとトランスジェンダーであることを言わないで受けたらすぐに受かったんです。お客様にとっては僕がトランスジェンダーであるかどうかではなく、接客態度やサービスの質の方がよっぽど大事なはずなのに。マイノリティであるというだけで選択肢が断たれるのは、理不尽で納得がいきませんでした。

障がい者雇用のさまざまな現場を目の当たりにし、自分と同じく理不尽な状況に直面する人が多いことを知りました。選択肢があり、それを選択できるというのは、幸せなこと。社会的にマイノリティであることによって、本来なら得られるべき権利や機会が本人も知らない間に失われていて、その選択肢があったことにすら気づけない──そんなことも少なくありません。

社会的にマイノリティであるかどうかは関係なく、あるはずの道を誰もがちゃんと選べるように、これからもひとつでも多くの選択肢をつくり続けていきたいと思います。