年々広がる障がい者雇用に企業が適応するためには、採用企業もアップデートが必要

私、森田 健太郎は、2011年から障がいのある方の就労支援事業を担当しています。この10年間は変化が激しく、企業の受け入れの枠組みも広がりを見せており、障がい者雇用は年々進んでいると実感しています。

今回はその中でも、変化するマーケットに企業が適応するために、選考のポイントをご説明します。

障がい者雇用市場の現状

※2023年4月以降は、障がい者雇用率上昇の可能性あり

まずは、障がい者雇用市場について見ていきましょう。雇用義務対象の追加等の影響もあり、法定雇用率の引き上げが進んでいます。この10年間はこれまでより早いスピードで法定雇用率が引き上げられているので、いかに効率的に障がい者の雇用をするか、また入社後のミスマッチを解消して定着や活躍につなげていくかが今後の企業の重要な課題です。

続いて、障がい者雇用数ですが、18年連続で過去最多となっています。とくに、精神障がい者の雇用数はここ10年ほど多くなっている傾向にあります。実雇用率では、従業員1,000人以上の大手企業が高い傾向にありますね。

次に、求職者のデータを見ていきましょう。ハローワークでの活動者の傾向を見ると、身体障がい者が30%であるのに対し、精神障がい者の割合が全体の60%を占めており、精神障がい者の方が多く職を求めています。また、身体障がいでは50〜60代の方が職を求めている割合が多いのに対し、精神障がいでは20〜30代の若年層の求職者が多いのが特徴です。

障がい者採用の選考のポイントと心構え

ゼネラルパートナーズ(以下、GP)としては、企業には自社のニーズにマッチした方を採用いただきたいと考えています。しかし、せっかくマッチした人材を採用できても、定着や活躍がうまくいかなかったという問題があるのも事実です。

そのため、ここからは定着や活躍につなげていける障がい者採用の選考のポイントを見ていきましょう。

まず、選考において企業が心がけることは以下の4つです。

1つ目の「共通の具体的な就業イメージを持つこと」は、最も重要な心がけです。企業はミスマッチを防ぐため、障がい者は自分らしく働くため、生き生きと働くイメージを両者が持つことが大切です。

2つ目は「企業からの情報共有と候補者の反応回収」ですが、障がい者雇用における失敗事例の多くは、認識のズレから生まれます。そのため、選考プロセスのなかで企業から可能な限り情報を提供し、伝えた後の求職者の反応を確認して、お互いにとって採用が本当に適切なのか見極めましょう。

3つ目は、「入社後にもコミュニケーション機会を設けると求職者に伝えること」です。企業の受け入れ体制や本人の障がいの状況、仕事の習熟度などは常に変化します。入社後の状況変化による認識の齟齬やミスマッチは少なからず起きるものなので、起こったときに早期解決できるようコミュニケーションしていこうと共有しておくことが大切です。

4つ目の「障がいがあることを特別扱いしない」というのは、選考プロセスにおいて重要です。過剰に気を遣って受け入れ上必要な情報のやり取りを控えてしまうと、結果的に双方にとって不利益な採用になります。必要な情報収集をするためにも、特別扱いするのではなく、自然体のコミュニケーションを心がけましょう。

続いて、一般的に障がい者雇用の選考にかかる期間と流れを見ていきます。書類選考から採用まで、1カ月程度かかる傾向にあります。

入社後のギャップ発生を防止するプロセスを取り入れると、人材の定着が期待できます。たとえばステップ4の「実習受け入れや職場見学」、あるいは配属部門の社員の方の面談設定などを通じて、働くイメージを具体的にしておくことが効果的です。

さらに、ステップ6の内定後のオファー面談時にも必要な配慮のすり合わせを行うことで、認識のズレを防げます。選考の状況に合わせて取り入れると、良いご縁につながるでしょう。

書類選考で確認したい3つのポイント

障がい者雇用を行う場合、書類選考で確認すべき以下の3つのポイントも把握しておくとより良いご縁につながります。

1つ目は主に精神障がいのある方が中心ですが、意外と自己判断で就職活動を行う方が多くいらっしゃいます。それがすべて誤りというわけではありませんが、客観的な裏付けがあるほうが安定就労の可能性が高まります。主治医の見解や就労支援員の客観的な情報が書類に書いてあるか、確認するのが良いでしょう。

2つ目は最近減っていますが、「配慮事項がありません」、「特に問題なく就労できます」と書類に記載されている場合があります。まったく配慮がいらない方が絶対にいないわけではありませんが、具体的な配慮事項がないか注意深く確認することが大切です。

3つ目は抽象度の高い話ですが、自己開示ができているかと読み替えられます。たとえば自分の障がいや考えていることをオブラートに包む表現をしたり、あえて自分の障がいの特性や症状に触れていなかったりする場合があります。

このようなケースは自分の障がいを客観的に受容できていない可能性があるので、障がいときちんと向き合ってきた様子が見られるかを確認する必要があります。

ここで、選考時に提出される書類の修正前の事例と修正後の良い事例を具体的に見ていきましょう。

修正前の事例では、障がい状況に具体的な説明や根拠がないため、会社としてどのような配慮をすべきかわかりません。

一方、修正後の事例では、現在の症状や希望したい配慮が具体的に書かれています。詳細に書かれていると障がいが重く就労が無理な方なのだろうと捉える企業の方もいますが、それは誤解です。

自身の障がいを理解しているからこそ、 障がいの全貌が網羅されており、記載ボリュームが多くなっているのです。入社後のミスマッチは「知らなかった」が原因で起こることが多いので、情報量が多いことはポジティブに捉えましょう。

書類選考で確認すべきポイントを見てきましたが、求職者のすべてが書類だけでわかることは決してありません。書類から得られる情報は限られるため、採用ターゲットに近い方にはまず会ってみて、書類で足りない情報を収集するようにしてください。

面接で確認したい4つのポイント

障がい者雇用の面接では、次の4点を確認しましょう。

1つ目は特に重要で、面接時に絶対確認が必要なことです。就労許可が出ていても、求職者自身が実は就労できるコンディションではないこともあります。だからこそ、面接の場で改めて求職者に確認しましょう。

2つ目は、企業が求職者の体調を安定的に維持する配慮をすることが明確である上で、求職者がセルフマネジメントできるかを企業が見極める必要があります。

企業の配慮は重要ですが、配慮すればすべてが上手くいくわけではありません。企業が手を尽くしても上手くいかない場合の原因の1つとして、求職者自身が必要な対応をできていない場合があります。企業の配慮は前提としつつ、自己対処できるかは面接で確認してください。

3つ目は、求職者が自己受容できているかどうかです。障がいが原因で過去と同じようなパフォーマンスが発揮できないケースはよくあります。それはネガティブなことではありませんが、できない事実を求職者自身が受け入れていることが大切です。

そのため、求職者が昔できていたことを話すだけの人であれば、注意深く掘り下げる必要があります。昔できていたけれど今はできないと求職者自身が発信できると、入社後のミスマッチ防止や本人が体調を壊すリスクの抑制につながります。

4つ目の「求職者が自ら周囲に相談したりヘルプを出したりできるかどうか」も、面接で確認したいポイントです。面接の場でお互い理解を深めたとしても、予期せぬ事態は発生します。企業が気付くことも大事ですが、受け入れる側も日々の業務のなかでマネジメントをしているため、細かく気を配れないこともあるでしょう。

だからこそ、求職者自ら手を挙げて助けを求めたり相談できたりするかを見極められると、入社後のトラブル回避につながります。障がい者が自己開示に抵抗感を持っていないか、面接で確認しましょう。

一般的な面接の流れ

注目したいのは、ステップ3です。想定する業務内容の説明を面接時にしておくと、本人がその業務をできそうかどうかの反応を見ることができ、ミスマッチ防止につながります。

ただし、障がい者雇用では業務内容が明確に決まっていないケースもあるかと思います。そのため、「この業務で決まっている」より「この業務を考えていて、できることや必要な配慮に基づいて調整する」と伝えると求職者の安心感が増すでしょう。

面接の際、障がいに関して深く聞くことは失礼にならないか心配する企業の方もいると思います。結論として、業務に関することはミスマッチを防ぐために詳しく聞くのが大切です。

たとえば、うつ病の方に発症の理由を聞くことで、配慮すべき点を見極められます。ただし、深堀りする場合は配慮の観点から聞いておきたいと前置きし、話しづらければ無理に話さなくても良いと伝えましょう。

最後に

障がい者採用を成功させる選考のポイントをご紹介しましたが、重要なのは障がい者だからといって特別な対応をするのではなく、障がい状況を詳しく確認して必要な配慮を考えることです。企業と求職者がお互いに共通の働くイメージを持ち、求職者に生き生きと働いてもらえる採用につなげましょう。

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