コロナ禍における障がい者雇用の変化

「障がいのある方の雇用が打ち切られたり、求人が減って就職が困難になったりしていないのですか?」

コロナ禍において、そんなことをよく聞かれます。

しかし、結論からいうと、現状そこまで求人は落ち込んでいないと考えています。障がい者雇用は企業の一つの義務でもあり、法定雇用率を遵守しなければいけないという背景がある中、コロナ禍であっても採用や雇用はしっかり進めていく企業は多いです。だからこそ、一般の採用マーケットと比較すると落ち込みが少なかった。それが事実です。

一方で、受け入れ方には変化がありました。「会社に来てもらえれば何かやることはあるから、とりあえず採用しよう」ではなく、「こういう業務をお任せする」とか「こういう活躍を期待する」など、雇用する上できちんとした目的をもって受け入れをするポジティブな姿勢の企業が増えてきました。

とくにコロナ禍でのテレワークなどの働き方や就業環境下においては、目的意識がないと、「入社してもらったはいいけど、何をしてもらえばいいのか」と本末転倒な話になってしまう可能性が大きいです。そのため、採用のあり方が変わってきていると感じます。

だからこそ当事者の方々にとっても、必要な配慮は受けながら、活躍できるスキルを身に付けているかが今後のポイントになってきます。

もちろん、企業も更に努力していく必要があります。それは、障がいのある方を雇用する義務という観点だけでなく、少子化で労働人口が減る中で、障がい者だけでなくLGBTや外国人、高齢者など多様な方々とうまく協働していけるかどうかが、企業の成長にも密接に繋がってくると考えられるからです。

働き方が変化する中でも、障がい者が働きやすい環境をつくる

業界や企業問わず、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、働き方に大きな変化が急速に起きました。障がいのある方に関しても、突如として在宅ワーク・リモートワークが進みました。会社としても計画的に進めていたものではなかったので、リモートワークの体制や枠組みが実装されないまま、「とにかくリモートワークをしなければ」という意識だけが先行的に進んだ背景があります。

そんなウィズコロナ・ポストコロナの社会の中で、障がいのある社員とともに働きやすい環境をつくっていくために、今後どのように取り組んでいくべきかを考えてみたいと思います。

働き方の変化に関するアンケート結果

まずは、データから見る働き方の変化と問題点です。

実際にリモートワークが進んでいく中で、障がい当事者の方がそれをどうとらえているのか、ゼネラルパートナーズ(以下、GP)が運営する「障がい者総合研究所」にて2020年5月にアンケート調査を行いました。

コロナによって就業環境に変化があったと答えている人は74.6%と、多くいることがわかります。

そして、コロナ禍での働き方の変化というと前向きなイメージを持つ方もいると思いますが、就労状況が「どちらかと言えば悪くなった」と考えている障がい当事者が少し多いようです。あるいは「どちらでもない」と言っている人が多いことから、手放しに「働き方が変わって良かった」と捉えている人は少ないことがデータからわかります。

また、実際の変化については「在宅勤務」になったことを挙げる方が一番多く、次いで「自宅待機」や「勤務時間の変更」を挙げる方が続きます。

具体的にどういう仕事上の変化があったのか、という質問の回答で一番多いのは、「コミュニケーション」です。また、「業務の進め方」やネガティブな意味合いで「業務量が減った」という変化もありました。

そして、働き方が変わったことであなた自身にどんな変化があったのか聞いたところ、「オンオフの切り替えがしづらくなった」「体調が悪化した」「業務効率が下がった」など、ネガティブに捉えている要素と、「効率が上がった」「体調が安定した」など、ポジティブな要素がありました。

効率が上がった人もいれば下がった人もいますし、体調が悪くなった人もいれば安定した人もいます。二極化が進んでいますが、全体でみるとネガティブに捉えている方がわずかに多いことが、アンケートの結果からわかります。

一方で、今の働き方で当事者の方がポジティブに働くために自己管理上気を付けていることは何かを質問したところ、「生活リズムを整えること」や「適度な運動すること」などが、要素としてあがっています。

今度は働き方の変化として、良くなったと思うものを取り上げてもらいました。「通勤時間がなくなった」のが良かったと答える方が一番多く、先ほどもありましたが「体調管理がしやすくなった」という声もありました。

一方で、悪くなったこととしても「体調管理」が上位にあがってきていて、うまくできる人もいれば逆に難しい人もいるという印象です。あとは、障がい当事者の方も、「コミュニケーション」が一番悪くなったと感じていることがわかりました。

コミュニケーションの状況について、さらに質問したところ、「まったく問題がない」「ほぼ問題がない」と答えた方は約半数以下で、「ややコミュニケーションが不足している」「コミュニケーションが不足している」と答えた方が5割を超えている状況です。ここに多くの問題がある印象を受けました。

働き方の変化において「コミュニケーション」に一番問題が多い。このことから、コミュニケーションで何が大事なのかを考えてみると「相互が能動的にコミュニケーションを取ること」であるとまとめられます。

具体的に、チームや部署側から見た能動的なコミュニケーションと、当事者側からの能動的なコミュニケーションをそれぞれ取り上げて、何ができるのかご紹介します。

他には、企業側が雑談のチャットルームをつくって、「ちょっとしたことでもコミュニケーションを取っても良い」、という雰囲気を醸成したり、敢えて業務外の顔合わせのミーティングの機会を作るなどして声掛けをしやすい状況にしたり。さらには、「いいタイミングだから」と社用スマホを支給することで業務の幅・裁量が広がった事例もあります。これはむしろ、障がい当事者の方に別の機会を提供することで、コミュニケーションの活性化がなされたと言えます。

一方で、当事者から職場へコミュニケ―ションの場合は、「挨拶」など自分から能動的に話しかけることや、リモートだと体調が伝わりにくいので体調が悪いときは状況をしっかり説明すること、相手の話をしっかり聞くことなどの工夫をしていました。

まず、職場から当事者へのコミュニケーションの場合。たとえば企業が「業務で困ったときにオンラインでのチームミーティングを誰でもセットできるようにしたこと」が挙げられます。これは具体的には、、「いつでもチームミーティングをセッティングしていいからね」と当事者に伝えたり、ツールを使って雑談の機会を増やす働きかけをしたりという取り組みでした。

こういったところでコミュニケーションに問題が発生しないよう、お互いに工夫をしていることもアンケートの結果として見えてきます。

環境の変化による課題が浮き彫りに。相互のコミュニケーションがカギとなる

前半では、新型コロナウイルスの影響で、就労状況に急な変化があった障がい者の方が多かったことがわかりました。就労環境の変化には、「通勤時間の短縮」や「体調管理のしやすさ」など人によっては良い面があるものの、それによって生じた課題の方が相対的に多くなっています。

その中でも、「コミュニケーション」の課題が浮き彫りになっており、働く人と組織が相互に意識して支え合うスタンスを持って、能動的にコミュニケーションを取っていくことが重要です。

効率の上がる・下がる、体調の悪化・安定は、両方向に数字が出ています。障がいや症状は人それぞれ異なるので、一概には言えませんが、身体障がいの方で通勤などの移動に負荷が大きい方は、通勤時間が減り比較的負担がかかりにくくなり、働きやすくなっていることもあります。

一方で、精神障がいのある方は、生活リズムをつくることで症状が安定する場合もあるので、通勤時間が無くなったことがきっかけで生活リズムが乱れてしまうことがあります。他にも、オンオフの切り替えが難しい方は延々と仕事をしてしまった結果、体調の悪化につながることもあるのです。

オンライン化を脅威ではなく「成長の機会」に

コロナ禍による急速な働き方の変化は、ネガティブなところとポジティブなところがありますが、これからの働き方はどうなっていくのでしょうか。先ほどの体調や就業環境とは別の働き方の観点で、業務について見ていきます。

障がいのある方もいろいろな職種で働いていますが、業務として一番多いのはいわゆる事務、もしくは庶務業務や清掃など作業系のお仕事です。多くの社員が出社せずに在宅勤務になったことで、フロアの清掃や備品の整理といった業務がなくなり、在宅勤務しようにも業務の多くが出社していたから生まれていた仕事だったという状況もあります。

事務職にしても、リモートワークが進んだことで必要なスキルセットも変わりつつあります。たとえば、ペーパーレス化が進むことにより、今まであった紙で請求書を印刷する業務が減ることも実際に起こり始めています。

さらには、チャットなどコミュニケーションツールが充実したことで、わざわざ集まらなくても必要な時にオンラインでミーティングをすればこと足りるようになります。これらが普及することにより、人と人との対面の接点がどんどん少なくなっています。

逆に言うと、自分ひとりの時間が相対的に増えます。なので、今後は自己完結できる業務がスタンダードになり、ひとりで一連の業務をこなすことが仕事をする上での前提条件になるのではないかと思います。

テレワークが進むことで必要がなくなる業務を具体的に挙げると、今まで障がい者雇用の社員が担当してきた業務が多いんです。ここまではネガティブな話です。

一方で、リモートワークで仕事が完全になくなる、人が介在する必要がなくなるわけではなくて、その分新しく発生する業務も想定されます。オンラインで行える業務ですね。

つまり、コロナ禍でのテレワーク導入や業務の効率化として、紙のものがウェブになり、今までの業務が減ることは、会社として必要な仕事が変化しているということなのです。

この環境下では、これまでの枠組みにとらわれず、価値発揮の視点で考えることが大事です。障がいのある方は、これから必要になる新しい業務のスキルを身につけ、勉強する必要があります。

一方で、企業側は、「やる仕事がないからあなたは休んでいて」「障がいのある人は作業しかできないんでしょ?」という姿勢ではなく、新たに必要となる仕事を創出して、障がいのある方にお任せしていくことが必要です。このような相互の動きがこれからますます必要になります。

オンライン化やペーパーレス化は、ニュースなどではよく「業務なくなっちゃうよ」といったネガティブな論調で論じられることが多いんです。しかし、こういった変化を「脅威」と捉えるのではなく「成長の機会」と捉えて、前向きに向き合っていく必要があります。ですから、障がいのある方には、「前向きに勇気を持って頑張っていきましょう」と、お伝えしたいです。

どう考えるかは個人差があると思いますが、障がいを理由にできない仕事は基本的にないと思っています。しかし、現状は「障がいがあるから事務か作業だよね」という枠組みがあります。

そんな現状を変えるには、まず、そこを一回取り払って、会社として必要な戦力やスキル、やって欲しい業務を洗い出す。そして、今働いている障がいのある方やこれから受け入れる方の特性などを踏まえて、業務の内容ややり方を必要に応じて調整していく。こういう考え方が良いんじゃないかと思います。

考え方としては、初めから「障がい者はきっとこういうことができるだろう。逆にできないだろう」という前提を置かないことがすごい大事なことですね。

わかりやすい事例としては、身体の障がいがあるけど、営業職で就業が決まった方もいるんです。その方は手足に障がいがあり、移動が大変なので一見営業としては不向きな感じがします。しかし、コミュニケーションが得意で業界経験もある方だったので、オンライン営業がメインの企業であればハンデキャップも関係なくなります。

そういったマッチングも生まれているので、例ひとつをとっても、「障がいのある人は絶対に無理だよね」ということはなく、オンライン環境下においては枠組みが広がっている可能性もあります。

企業側は、障がいのある方のために業務を創出するというよりは、何を必要としているのかを考えた上で、障がいのある方のために業務を調整するような形で考えていただければいいと思います。

なんとなく前提条件を頭に思い浮かべてしまうのは、障がいを知らなければ知らないほどあることだと思うんです。だからこそ、「そこはゼロベースで考えた方がいい」と、伝えていきたいですね。

GPとして、社会全体が障がい者を受け入れる土台を持てるようにしていく

2021年3月1日に障がい者雇用の法定雇用率が引き上げられました。2018年に雇用率が上がった時は0.2ポイント、今回は0.1ポイント引き上げられましたが、今回の雇用率アップは、今までの雇用率アップと比べると、企業側が周到に準備を進めてきたという印象があります。

以前に比べると順調に進んでいるように感じます。私は障がい者雇用に関わるようになって丸10年になりますが、10年前と比べると雲泥の差ですね。当時は精神障がいのある方の受け入れ先ってほとんどなくて、「精神障がい」というワードだけで多くの企業はアレルギー反応を見せる世界観だったんです。今もまだまだではありますが、当時と比べると精神障がい者の受け入れも進んでいます。

そうは言っても、私たちも日々営業活動をする中で受け入れ側の理解は途上だと感じます。たとえば、人事の担当の方は障がいのある方への理解がすごくあって、「積極的に採用を進めていきたい」と話していても、いざ現場のチームで受け入れるとなると、現場が受入れに難色を示したり、条件を厳しく設定したりすることがあります。

人事担当者が変わる、新しい部門に入社する、となるとまたイチから説明して理解を積み上げていくことが必要な状況です。日本における障がい者雇用は、属人的なもので進めているところがあるので、ちゃんと障がいのある方を理解をすることはもちろんですが、会社として社会として受け入れていくための、土台づくりが今必要だと思います。

障がいのある方が定着(離職せずに活躍)している企業の事例や情報をどんどん発信できると、障がいを受け入れるためのノウハウが当たり前のように企業に備わる。そうすると企業も前向きに障がい者雇用を実現できると思うんです。

そのようなことを、GPとして行っていければと思いますね。

そして、その先で、障がいの有無が関係ない、だれもが自由に働ける社会を実現していきたいです。そのために、どんな変化も前向きに、可能性ある未来に向けて一歩ずつ進んでいきます。