Just Do It ──ふたりの物語のはじまり
現在、富士通の変革活動「フジトラ」の推進部門であるCDXO Divisionに所属し、「神山まるごと高専プロジェクト」をリードする濱上。入社してから29年間は、製造業のお客様を担当する営業として汐留本社で勤務してきました。
2020年の春、そんな濱上に転機となる辞令が出されます。
濱上:支店長として徳島に行ってくれと。徳島はこれまで縁もゆかりもない土地。さらに、当時は新型コロナウイルス感染症が流行しはじめたころで、なかなかお客様とも会えない状況でした。
赴任後まもなくは、私はなぜこのタイミングで徳島にきたのだろうかと悩みました。そこで、これまでを振り返り、あるプロジェクトを立ち上げることにしました。
BIZAN PROJECTと銘打ったそのプロジェクトでは、デザイン思考を用いながら、徳島県の発展や地域課題の解決に取り組むことにしました。
濱上:たとえば、「電子カルテシステムを売る」ではなく、「地域医療が抱える課題にフォーカスし、そこに対してわれわれができることは何か」から考える。すると、これまでのビジネスでは本来出会うことがなかった方とお会いする機会がたくさん出てくるようになりました。
地域課題の解決には「共創」が不可欠です。また、そういった出会いから、富士通のテクノロジーを活用できる新たなシーンが見つかることもあります。徳島支店長として活動した3年間で多くの出会いと発見がありました。
一方、大南氏にとって神山は故郷。大学進学時に上京し、その後米国スタンフォード大学院に進んだためにしばらくその地を離れていましたが、家業を継ぐため1979年に帰郷します。
大南:家業を継ぐことを条件に父親に無理言ってアメリカへ留学させてもらいましたので、地元に帰ることはなんの不満もありませんでした。子どものころから神山で一生を過ごすのだろうと考えていましたが、そのころの神山町はまだ賑わいがありました。
しかし、留学から帰ってくると一層過疎化が進んでいることに気づきました。とはいえ、とくにまちづくりをやろうという発想はなく、住んでいてもう少しワクワクする場所にしたい程度の思いでした。
そこで、自分が海外生活を経て得たものを使って、後の世代に何を提供できるのだろうか。そう考えた時に、「町と世界をつなぐ」国際交流だなと思ったんです。それから機会を探って、少しずつできることから取り組み始めました。
すべては一冊の本から。それぞれの想いが縁を紡ぎ、神山へ
現在はNPO法人グリーンバレーの理事として活動する大南氏。多様な人が集う価値創造の場「せかいのかみやま」づくりを進めています。大南氏が感じている神山町が世界に誇れる魅力とは。
大南:オープンでフラット、そしてフレキシブルなところですね。1993年から、町には語学指導助手(ALT)にホームステイしてもらうプログラムをスタートさせ、毎年たくさんの外国人青年を受け入れてきました。こうしたことが繰り返されることによって、外国人のいる風景が当たり前となり、誰も違和感を抱かなくなった気がします。
また、神山町は相手によって対応を変えるということはしないんですね。ここは、上下関係のない風通しの良い町なのです。
これまで、まったく異なる人生を歩んできたふたり。そんなふたりをつなげることになったのは、濱上が徳島へ赴任する前の送別会で会社の先輩から手渡された一冊の本でした。
濱上:徳島に行くなら神山町というところにぜひ行ってみた方がいいよと言って渡されました。そこには、これまで神山町や大南さんが取り組まれてきたことが書いてあって、「こういう世界があるのか」と思いました。
私は神山町と同じくらいの田舎の生まれなのですが、私の地元とは全然違った世界が広がっていました。この本で描かれている神山という土地に心惹かれたのと、大南さんという方にぜひお会いしたいなと思いました。
「本」をきっかけに、本の舞台となった土地や登場人物に縁がつながったのは大南氏も同じだと言います。
大南:私は小学生の時、中学生の姉が持っている世界地図を夜に枕元で眺めては日本の外へ興味を募らせていました。また、高校生の時は東京女子大の猿谷要教授が著したアメリカの地域や歴史に関する本を読みあさり、アメリカへの夢を膨らませました。
それが2002年、神山町国際交流協会が「世界に開かれた町」ということで総務大臣表彰を受けた際、賞の審査委員長を務められていたのが猿谷教授だったんです。まったく面識のない、影響を受けた本の著者に会うというのは不思議な縁を感じますよね。
濱上:まさに、私もいまこうして本の中で出会った大南さんと直接お会いしていますが、人のつながり、縁を感じますね。
神山まるごと高専が開校。大きく変わろうとする「町」と「富士通」のいま
発展を続ける神山町に2023年4月神山まるごと高専が開校しました。大南氏はその高専創設メンバーの一人です。
大南:Sansanがサテライトオフィスを開設した2010年当時から、最優先目標である株式上場を果たせたら、個人のプロジェクトとして教育の仕事がしたいという話は寺田さん(Sansan株式会社 代表取締役社長/CEO/CPOの寺田 親弘氏) から聞いていました。
当時は若手経営者の夢程度の受け止めでしたが、2016年1月に寺田さんからSNSでメッセージが届き、そこには神山に学校を作りたいと記されていました。その時、「あぁ、これは夢ではなく真剣な話なんだな」と気づきました。
高専の構想当初より寺田氏から相談されていたという大南氏。自身が高専設立に関わることになったのは自然な成り行きだったと言います。行政と協力し設立を進めていく中で困難も山ほどありましたが、2022年8月31日、認可報告を受け開校が無事決定します。
大南:ほっとしました。失敗はとかく人の心に残りやすいものです。
2019年に学校創設の公式発表をしてから、後戻りできない思いと、もし失敗したらこの町に居づらくなるのではと感じていました。ですから、開校が決まった時はとにかく安堵したというのが一番の感情でした。
創設に関わった人々のエピソードはすでにさまざまなメディアで語られ、多くの人の想いをのせ開校した神山まるごと高専。そこに、富士通もスカラーシップパートナーとして仲間入りします。
濱上:いま、私が富士通としてのプロジェクトをリードする役を担っていますが、それはいろんな偶然が重なっての縁でした。ただ、富士通自身がここ数年大きく変革してきたことと、私自身もさまざまな取り組みに挑戦してきた結果でもあると思っています。
大南:私の中でも富士通に対するイメージがガラリと変わりました。以前は、ワープロやPCのメーカーという重厚で巨大な会社という印象を持っていました。
しかし、時田社長が神山に直々にお出でになり、そのお話の端々に出てくる変革という言葉が印象的でした。トップを先頭に常に新たなチャレンジを繰り返している会社なのだなと。これまでのイメージが完全に払拭されました。
神山×富士通──予定調和ではないワクワク感を
神山と富士通。大南氏が考える理想的な関わり方とは。
大南:企業の方々からよく「何かできることはありますか」と聞かれることがあるのですが、私たちからするとその会社がどういうことが得意なのか、何をやりたいかもわからないわけです。なので、私はそういう時はいつも「一緒に探りましょう」と答えています。
まずは、神山町に足を運んでほしいと思います。きっと何かが見えてくるはずです。それが協働の第一歩になるような気がします。その中で、私は内と外の人たちが混じりやすい環境づくりのサポートをしたいと思っています。
濱上:企業側が何か一方的に神山の課題を解決するということではなく、それぞれができることを探しながら協力し合うということですよね。それは私もこの神山の地に来て実感しています。
神山には物事を起こしたい人が自然に結びつくような空気があるんです。たとえば、私は町にあるサテライトオフィスをよく利用するのですが、そこにいると自然といろんな人と出会うんです。それも、お昼を食べている時に偶然隣に座っている方が誰々さんで、あの取り組みをされている方なんです、みたいに。
神山まるごと高専には今年度44名が入学しました。町の風景も変わって賑やかになった神山町。最後に、一期生とこれから入学してくる学生に向けてコメントをいただきました。
濱上:学生のみなさんからは大きな刺激をもらっています。若い人といろいろなプロジェクトをしていると、自分も変わっている、挑戦しているという気持ちになりますね。神山町全体もアップデートしているし、自分も一緒に学び続けたいですし、そうありたいと思っています。
みなさんはポテンシャルの塊で、これからもさらに伸びていくはずです。恐れずどんどん伸びてほしいです。目立つ人もそうでない人もいるでしょうが、目立つばかりがすごいわけではないと思います。時に挫折もあるでしょうが、諦めず前を向いて学び続けてください。そして、一緒にCo-Learningしましょう。
大南:一期生が入学して、すでに好ましいカオスになっています。どこに収束するのかわからない未知、体験したことのない予定調和にならないワクワク感でいっぱいです。
ただ、皆さんはスカラーシップパートナーのサポートを受けられる恵まれた環境にいるのだということを忘れないでほしい。なぜ自分たちは恵まれたのか、社会に返すためにはどうすべきかを考えてほしいです。
そして、神山まるごと高専を卒業したら、今度は自分たち自身が将来の教育を支えていく側になっていく。こうした好循環を主導する人になってほしいです。
進化を続ける神山町と神山まるごと高専。富士通は応援し、伴走していきます。
※ 記載内容は2023年11月時点のものです