働く人のストレスチェックシステムを開発。海外や新しい市場への戦略展開も視野に

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▲ストレスチェックシステムの開発・デリバリーに従事する駒瀬

ヘルスケアクラウドサービス事業部の駒瀬。システムエンジニアとして、ストレスチェックシステムの開発・デリバリーに従事しています。

「厚生労働省は2015年から企業に対して従業員のストレスチェックを義務化していますが、富士通はその14年前の2001年から、ストレスチェックシステム『e診断@心の健康(以下、e診断)』を開発、提供してきました。

e診断とは、ストレスチェックに関連して、回答収集、診断、分析までをトータルに行うサービスのこと。産業保健スタッフの業務効率化・省力化に加え、従業員のセルフケアを促す機能が特徴です。

e診断チームは、開発、運用保守、デリバリーなどの担当で構成されています。その中でも私は、お客様のご要望や時代によるニーズの変化に応じて、毎年のレベルアップ(機能追加)に関する企画・提案をし、また販売戦略の立案にも従事しています」

ストレスチェックシステムの国内トップシェアを誇るe診断。シェアが高い理由として、駒瀬は次の3点を挙げます。

「まずは国内最初のシステムであり、長い運用実績があること。次に毎年の機能強化を重ねてお客様に使いやすいものになっていることを高く評価いただいていると思います。上長への報告にそのまま使えるグラフィカルなレポートが出力可能なほか、さまざまな指標で分析できてCSVとして出力できるなど、かゆいところに手が届くといったお声もいただいています。

さらに、開発当初から東京大学と産学共同研究を継続しており、学術的な信頼が担保されている点も支持いただいている理由のひとつだと考えています」

一方、e診断の市場は転換期。新たなフェーズを迎えようとしていると駒瀬は言います。

「これまで企業は、法令遵守として1年に1回のストレスチェックを実施していれば良かったのですが、昨今は『エンゲージメント』や『Well-being(ウェルビーイング)』をキーワードに、ますますポジティブなメンタルヘルスが注目を集めています。

以前は産業保健スタッフが従業員の高ストレスによる休職や退職を予防するために機能開発がされてきましたが、今後は人事・経営層が、健康経営やウェルビーイング経営に活用していけるような機能を追加していきたいと考えています。ニーズの変化にともない、『測定・管理』から『介入・改善』へと機能をシフトしていくことが重要です。

他にも、国内でのメンタルヘルスソリューションのノウハウを活かした海外展開や、労働者以外のポピュレーション、たとえば地域住民や入院・外来患者への転用についてなど、新しい展開についても検討を進めているところです」

職場のメンタルヘルスをテーマに博士号を取得。研究成果を現場に届けたくて、富士通へ

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▲現場で働く人と、より近いところから貢献したいという想いから、民間企業への就職を決めた

家族に医療従事者が多かったことから、病に苦しむ人に手を差し伸べたいと駒瀬は看護学科へ進学します。

「患者さんの一番近くでケアを届けたいという想いで、看護学科を専攻しました。病院実習を重ねるうちに、病気で苦しんでいらっしゃる方をそばで見て、そのいくつかは日ごろの心がけで予防していけることに気がつきました。そこで、病気を未然に防ぎ、ずっと健康でいられる支援がしたいと考えるようになりました。大学3年のときに保健師コースを希望し、健康を保つための保健学を学ぶようになりました」

学科卒業時に看護師と保健師の免許を取得した駒瀬は、さらに労働者のメンタルヘルスについて学んでいきたいと、東京大学大学院へ進学します。

「自分が学生時代には、過労自殺やパワハラなどがニュースでよくクローズアップされていて、うつうつとした気持ちで働く方も少なくないのではないかという印象を持っていました。そこで、より多くの方々が、ポジティブに、いきいきと仕事ができるお手伝いをしたいと考えるように。

『うつうつと働く方』と『いきいきと働く方』、その違いについて学んでいくなかでワーク・エンゲージメントという概念に辿り着きました。ワーク・エンゲージメントが高い労働者ほど心身ともに健康で仕事の生産性も高まりハッピーになれるという考え方。そこで、職場のポジティブなメンタルヘルスを学ぶために東京大学の川上憲人先生のもとで5年間研究し、精神保健学の博士号を取得しました」

その後、周囲の多くが研究の道に進むなか、駒瀬が自身の活躍の場として選んだのは民間企業でした。

「実際に現場で働く方々と、より近いところから貢献していきたいという気持ちが強かったのだと思います。とくにストレスチェックシステムのトップシェアを持つ富士通に魅力を感じましたね。アカデミックと現場の橋渡しをすることで、より多くの方がハッピーになれるようなシステムを届けたいと考えるようになりました。院生時代を通して富士通と産学共同研究で関わらせていただいていたことも、入社を決意した理由のひとつになっています」

新入社員研修を経て現在の担当に配属された駒瀬。入社早々、身をもって労働者の立場を体験したと話します。

「入社した年は自分にとっての適度な業務量がわからず、仕事を抱え過ぎてオーバーフローしたことがありました。その後すぐに業務調整をしてもらいましたが、長時間労働がメンタルヘルスにとってよろしくないことを、研究者としてではなく一労働者としても体感することができました」

まずは社内のメンタルヘルスから。社員同士の横のつながりプロジェクトに挑戦中

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▲本業とともに自主プロジェクトにも力を注ぐ駒瀬

駒瀬にはe診断のインパクトの大きさを実感したこんな出来事がありました。

「会合でお客様やパートナー様と直接会話をする機会があり、そこで『e診断は分析がしやすく、とても使いやすいです』といったお声をいただくことがありました。そのときに、自分が開発に関わっているe診断が、何千何万人といる運用者の方や、その先にいる何百万という労働者の方々に使っていただけていることと、そのインパクトの大きさについて実感することができました。

また『こんな機能を加えてほしい』といった声もあって。具体的には、心身の不調からパフォーマンスが落ちている状態を示す『プレゼンティズム(労働損失率)』という指標に関するもの。その指標を追加するなら、『この部署のプレゼンティズムは30%です』と割合で出すのではなく、『この部署の経済損失は200万円に相当します』と金額で出すほうが、人事や経営層に対して、インパクトと説得力をもって環境改善を迫りやすくなるという要望でした。実際にe診断が現場で活用されている場面を想像することができ、とても良い刺激になりました」

ますます仕事へのモチベーションが高まるなか、院生時代から温めていたアイデアをかたちにするべく、駒瀬は新たな自主プロジェクトも始めています。

「メンタルヘルスのケア方法として、社員同士の横のつながりがとても重要だと考えています。困っていることや不安を気軽に話せたらいいですよね。そこで富士通グループ社内で『ピアヘルパープロジェクト』を立ち上げました。

これは、つらくなったときに相談にのってくれる『ケアギバー』と、相談にのってほしい『ケアレシーバー』をマッチング。上司や産業保健スタッフに相談しづらいと感じる人のために、よりハードルの低いところから気軽に誰かとつながれる環境を整えられたらと考えています。今月から小規模のトライアルが始まっていて、効果を実証できればこれを全社に展開して社内に助け合う文化を構築し、ゆくゆくはこの仕組みを社外にも届け、より多くの方のメンタルヘルスの改善につながればと考えています」

そうやって新しいことに積極的に取り組めているのは、会社や上司の理解があるからこそ。職場環境の魅力について駒瀬はこう話します。

「富士通グループには、新しいことに対する積極的な挑戦を奨励する風土があります。上司は私のやりたいことをいつも尊重し、挑戦する機会を提供してくれています。このプロジェクトに関しても、社内の関係部門とつないでくれるなど、さまざまな面でサポートしてくれています」

確固たる想いをかたちに。すべての働く人のエンゲージメント向上をめざして

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▲働く人のハッピーをめざし、一途に活動してきた

周囲に恩返しすることがいまの目標だと話す駒瀬。将来を次のように展望します。

「将来的には、e診断を活用してより多くの労働者にポジティブメンタルヘルスを届けたい。ストレスの低下だけでなく、エンゲージメントの改善にも貢献できたら嬉しいですね」

それが実現できるのは、富士通だからこそ。確固たる想いを持つ人を後押しする環境が同社にはあると駒瀬は言います。

「富士通にはグローバルで12万人以上の社員がいて、あらゆる強みを持った人たちが集まっています。さまざまなプロフェッショナルがいるだけでなく、東京大学をはじめとする研究機関とのつながりや、官公庁や他企業との連携もあり、こうした質の高い人材や環境は、やりたいことを実現する上でとても頼もしいと思っています」

また、働きやすさも同社の魅力のひとつだと話す駒瀬。

「当社は、Work Life Shift(ワークライフシフト)というコンセプトで働き方改革を推進しています。テレワークしても出社してもいいし、月単位で就業時間を守れば始業・終業時間も自分で決められる (※)など、働く時間も場所も柔軟です。

私は東京大学で研究員や公開講座における講師の仕事を続けているので、富士通の業務と並行して論文をまとめたり、講座の準備を行ったりしています。エンジニアとアカデミアという異なる視点からメンタルヘルスに関われることが自身の成長につながっていると感じます」

Work Life Shiftの各施策は、富士通全社DXプロジェクト「フジトラ」とも密接に連携しているもの。 エンゲージメントやWell-being、心理的安全性などをキーワードに変革が進められてきました。今後もますます働きやすい環境が整い、いきいきした従業員が増えていくことが期待されます。

すべての働く人にハッピーでいてほしいと語る駒瀬。その想いの根底にあるものとは。

「これまで研究を重ねてきた『感謝法』という考え方があります。感謝法とは、ものごとに感謝し、『ありがとう』のハードルを下げることで幸福度が高まるのではないかというもの。ネガティブな気持ちで働いている人も、ものごとの捉え方を変えたり、感謝を伝えたりすることで周囲との関係性や職場環境が変化し、一人ひとりのメンタルヘルスが向上すると私は考えています。

全社的にも従業員同士で気軽に感謝を伝えあうことができる『サンクスアプリ』 が導入されており、イベントの中で講演する機会もありました。自分にできるかたちで、これからも多くの方々のメンタルヘルスに貢献していけたらなと考えています」

働く人のハッピーをめざし、一途に活動してきた駒瀬。目の前のすべてのことに感謝しながら、「ありがとう」の気持ちを大切に、これからも走り続けます。

※ 製造拠点やお客様先常駐者などは除く

※ 記載内容は2023年9月時点のものです