組織再編で期待した「横断したビジネスチャンス」と、横連携の難しさ

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▲2023年5月現在の様子

2020年に富士通に入社し、AIやDigital Annealer*¹など先端技術活用事業のマーケティングやブランディングを担当していた池満。

池満 「身近な例をあげると、AIを活用した音声データの文字起こしや翻訳をするソリューション。それ以外にも幅広く最先端の技術を扱っていて、それが私たちの事業部の強みだったと思います。また、特定の領域に特化したものというよりは、業界や業務を問わず使っていただけるソリューションなので、さまざまなお客様のあらゆるニーズに応えられると自負していました。

ただ、専任でこれらのソリューションを扱う営業担当者はいなくて。そのためお客様との距離を縮めることに課題を感じていました」

入社した2年後、組織が大きく再編され、池満はDigital Solution事業本部(以下、DS事業本部)に異動。担当業務や環境が変わったと言います。

池満 「ソリューションの開発・企画・デリバリーすべてに対応する組織としてDS事業本部が立ち上がり、私がいたような技術寄りの部門から、お客様に近い現場寄りの部門までが統合されました。大きな組織改編に驚きはあったものの、『これはいいチャンスだな』と考えていました。

以前の部署で感じていた課題を改善できるかもしれない。DS事業本部内のあらゆる組織が連携することで新たなビジネスも生み出せるかもしれない、と期待していました」

新組織に大いに期待していた池満でしたが、本部横断での連携はそう簡単ではなかったと言います。

池満 「私のように新組織に期待する人もいれば、そうではない人もいます。多くの人にとって、隣の部署のことで知っているのはその名前くらいですから、その不安は大きかったと思います。

そうなると、以前の組織の人とばかりつながり、組織再編のメリットを活かせないということになりかねない。そういった課題を解消するためにも、DS事業本部のミッションのひとつとして、本部横串での活動推進がありました。

立ち上がったワーキンググループ(以下、WG)や活動はたくさんあり、私もいくつかの活動に参加していました。でも、上期には思うように進まなかったんですね。まだ組織が立ち上がったばかりということもありましたが、もっと大きな問題が。そこに参加しているメンバーにはそれぞれ本業があり、本部横断活動に注力するのは難しいという問題です」

下期、この問題を解消すべくDS事業本部内に戦略企画統括部が新たにつくられ、池満もその一員となります。

*¹ Digital Annealer…富士通が提唱する高度なコンピューティング技術とソフトウェア技術を誰もが容易に利用できるサービス群である「Fujitsu Computing as a Service(CaaS)」の構成技術のひとつ。量子現象に着想を得たコンピューティング技術で、現在の汎用コンピュータでは解くことが難しい「組合せ最適化問題」を高速で解く技術。

自分の想いを受け止め、後押ししてくれる人物との出会い

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▲新たな出会いがきっかけでできた「場づくり」について語る池満

2022年下期、新しい統括部に異動した池満。

池満 「新組織のミッションのひとつとして『組織の風土改革』を掲げ、DS事業本部配下の各事業部からいろんな職種の方が集まりました。もちろん有志活動がダメということではないです。ただ、業務ミッションとして取り組む人もいないと、モノゴトが大きく動かなかったことも事実。上期の反省を活かしながら活動しています」

また、この異動の裏にはある人物との出会いがあったと言います。

池満 「2022年6月末ごろに、『組織横断で自律的な活動をやっていきませんか』というYammer(社内SNS)の投稿を見つけました。ちょうどWG活動での問題が見え、私個人としても何かアクションを起こしたいなと考えていた時期です。その第一印象は『あ、おもしろそうなことを始めた人がいるな』と。

興味はある。でも、そもそも自分に何ができるのか、事業部での仕事と両立していけるのかという不安もよぎりました。どうしようかと、投稿があってから3日ほど悩みました。とりあえず、話を聞いてから決めようと思い、恐る恐る『できる範囲でやりたいです』とコメントしたんです。そうしたらすぐに、その投稿した方からメッセージが送られてきました」

その人物とは、桑岡 翔吾

池満 「それまで、桑岡さんとの直接的な接点はなく、遠くから『なんか変なことをやっている人だな』と思っている程度でした(笑)。しかし、桑岡さんと話すうちに、どんどん惹きつけられている自分に気づきました。桑岡さんの人柄といいますか、リーダーとしての力強さに魅了されていたんだと思います」

桑岡が立ち上げた活動への参加を決め、最初のフォロワーとなった池満。さっそく桑岡に自身の想いをぶつけます。

池満 「もともと、今回の組織改編は『新しいビジネスを生み出すチャンス』だと思っていたこともあり、それを実現できる場をつくりたいと考えていました。具体的には、本部横断でソリューションの販促企画を考えるディスカッションの場を用意するというものでした。

ただ、新しい場づくりの経験がなかったため、自分のアイデアをどう実現できるか不安がありました。そんな不安そうにしている私をよそに、桑岡さんは『いいじゃん!やっちゃおうよ!』と、力強く背中を押してくれたんです」

その後、池満の考えた企画はワークショップの形で実現し、そこで生まれたアウトプットの一部は、ビジネスにもつなげることができました。

緩やかなつながりが、新たな価値創造に結びつくと信じて

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▲フォロワーの重要性に気づいた池満

池満はワークショップの経験から、多くのことを学んだと振り返ります。

池満 「まずは、『やればできる』ということ。私自身、ファシリテーションは未経験でしたが、やってみるとなんとかなりました。ただやる前は『やったことがない』ということに不安を感じ、あれこれ考え過ぎていたと思います。

そんなときに自分の想いを受け止め、背中を押してくれる存在がいると、自信を持って一歩が踏み出せるということを学びました。

また桑岡さんから、『フォロワーの重要性』も学ぶことができました。今までは自ら行動を起こし、チームを引っ張るリーダーばかりに目がいっていました。ただ、自分が周囲をリードする立場になってみて、フォロワーはとても大切な存在だと気づきました。

ひとりでできることは限られていますし、何か壁にぶつかったときに手を差し伸べてくれたり、後ろから見守ってくれたりする存在はかけがえのないものです」

ワークショップの成功を受け、より多くのメンバーがリーダーシップとフォロワーシップを発揮して挑戦できる環境を作っていきたいと考えるようになった池満。

池満 「ワークショップや社内向けアプリ開発プロジェクトを続けるうちに横断活動の輪が広がり、メンバーの数は5~6名から30名ほどに増えました。自分が経験したようなリーダーシップとフォロワーシップの好循環を生むサイクルを作りたいという想いを込め、コミュニケーションを進化させています。

具体的には、メンバーとの議論を通じて活動のVision/Mission/Valueを設定し、多様なメンバーの間で共通認識を作りました。さらに、その認識を土台として、あらためてメンバーの『やりたい』という想いを共有する場を作り、新たなプロジェクト活動の創出を進めています」

池満はこの活動での実績が認められ、2022年度の下期に、桑岡とともに戦略企画統括部へと異動。これまでの活動を本業として進めることになります。

池満 「有志活動から本業となり、個々の横断活動への挑戦だけでなく、もう一歩踏み込んだ狙いも定めるようになりました。それは、この活動を通じて一人ひとりが組織の方針を考え、自律的に行動するマインドセットを持てること。さらにそれが社内に浸透していくことをめざして活動を推進しています」

心理的安全性の高い組織づくりへ。イノベーションを生み出す集団にしたい

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▲心理的安全性の高い組織づくりをめざしたいと語る池満

池満は「社内への浸透」という大きな目標を達成することもさることながら、足もともしっかりと支えていく必要性を感じていると言います。

池満 「自律的に行動するって、やはり怖いと思う人はまだまだ多いと思います。怖さを払しょくできるのは、『相手に認めてもらえる実感』だと思うんですね。なので、私が打ち合わせを進行する際に心がけているのは、メンバー全員が意見を言いやすいようにすること。

また、『誰が言ったか』ではなく『意見の中身』を重視するよう意識しています。あるメンバーがせっかくいい提案をしてくれたのに、説明が少し足りず、その中身にうまくフォーカスが当たっていない場合には、私の方で言葉を補うようにしています。

誰もが、自分の意見が受け入れられると嬉しいですし、自信がつくと思うんです。自信がつくと、発言する内容も、行動も変わる。実際に、初めは少し自信なさそうに見えた人が、自分からどんどん発信するようになり、集めたフォロワーとともに新たなアクションを……、という変化がこの活動から生まれています」

活動も、参加メンバーも日々成長していると嬉しそうに話す池満。次の一手として、ある社内プロジェクトとの連携を画策していると言います。

池満 「活動を続ける中で、『誰に対しても、自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態』の重要性を感じることが増えてきました。『心理的安全性の高い組織は生産性も高く、ハイパフォーマンスを発揮する』という調査結果もあり、私の中で『心理的安全性』というキーワードが大きくなってきました。

そんなとき、心理的安全性の高い組織をつくることをミッションにしたプロジェクトが社内にあるのを知ったんです。何か連携ができないかと、すぐに声をかけました。

話をすると、そのプロジェクトには『これまで人事部門を中心に進めてきた活動を現場にも浸透させたい。その実践事例を社内外に発信したい』との想いがあるとのこと。私たちとしては、その知見や実践するためのサポートが欲しいですし、私たちからは実践の場を提供できる。両者の思惑が一致した形となって、その具体的な連携方法を詰めているところです」

心理的安全性の高い組織づくりをめざし、多様な意見を尊重しあえるマインドセットに変えたいと願う池満。最終的には、組織や人がつながることで、新たなビジネスやイノベーションを生み出すことをめざしています。そのゴールに向かい、少しずつ、でも着実に前進し続ける横断活動を、リーダーシップとフォロワーシップの両面で推進する池満から目が離せません。