スポーツ業界を盛り上げたい──想いを実現するために富士通へ
2019年に富士通に入社した青木。青木にとって富士通は2社目であり、以前はスポーツ用品メーカーの営業部門にて勤務していたといいます。
青木 「前職で最初に担当したのは、テニスや卓球といったラケットスポーツ関連用品を取り扱う専門店でした。その後、体育館の運営などの自治体向けビジネス、スポーツクラブやスイミングクラブを中心としたソリューション営業なども経験しました。
入社時に思い描いていたのは、スポーツ用具をただ販売するだけではなく、それらを楽しく使える場所を企画、運営すること。そのため、スポーツ施設の運営に携わることができた時は、とても嬉しかったですね」
入社前の希望が叶った青木ですが、次を見据える中で、ある想いに至ったといいます。
青木 「入社して10年ほど経ったころ、次の目標として、『スポーツ業界により大きなインパクトを与えられる仕事がしたい』と考えるようになりました。そこで、これまでの仕事を振り返ることにしたんです。
すると、これまでは『他社よりもいい商品、いい施設を作ろう』とばかり考えていたことに気がつきました。しかし、それではいまある市場の中でシェアを他社と奪い合うだけ。市場そのものを大きくする。そういう仕事ができて、はじめてインパクトを残せるのではないか。そう思ったんです」
市場を大きくする手段のひとつに、ICTの活用があると考えた青木。ネットで事例を探す中で、ある事例を見つけたといいます。
青木 「プロバスケットボールリーグの次世代型ライブビューイングを富士通が手掛けたという記事があったんです。そこで富士通のことを調べると、AIやセンシング技術を使った体操採点支援システムも開発しているとあって。このようにICTを活用し、業界のあり方を大きく変えていく。そういったビジネスをしている富士通なら自分の想いを実現できるかもしれない。そう考え、転職を決意しました」
その後、縁あって富士通に入社することになります。
青木 「富士通に入社後、担当したのは陸上競技を管轄する団体でした。そのお客様とICTを活用した新しい試みをいくつか進めていて、その派生ビジネスの一つとして『足型診断サービス』という企画を立案しました。具体的には、競技に参加される方が自身の足型を計測し、その人に合ったシューズをレコメンドするサービスです。走るのに適さない、フィットしていないシューズを使用している方って結構いらっしゃるんですよ」
この「足型診断サービス」が、その後のキャリアに大きく影響を与えることになっていきます。
「事業化」で感じた限界。その先で出会ったFIC Challengeステージ
「足型診断サービス」の事業化に向けて動いていた青木。しかし、これ以上の企画推進に限界を感じていたといいます。
青木 「私が所属していたスポーツ・エンターテイメント統括部は新規事業開発を専門に行っているわけではありません。そのため人的リソースや時間が足りないこともあって、なかなか思うように進みませんでした。
そんな時、プロによる支援を受けながら、6カ月間専任で新規事業開発を行える『Fujitsu Innovation Circuit*¹(以下、FIC)』のChallengeステージを知って。これはぜひ挑戦したいと思ったんです」
「足型診断サービス」を進めるメンバーとともに、FIC Challengeステージへの挑戦を決意した青木。挑戦に際し、「いま検討している方向性でよいのか」と、自身の企画を見つめ直したと語ります。
青木 「私の根本にあったのは『運動を通して、誰もが元気で健康に過ごせる社会をつくりたい』という想い。普段運動しない人にこそ、運動してもらえるようなサービスを作りたいと思っていました。
しかし、これまで検討していた『足型診断サービス』は、既に運動習慣のある人のみをターゲットにしたもの。そこで、これまで考えてきた企画を一旦白紙にすることを決めて。Challengeステージでは、『運動習慣がない人の行動変容を促すサービス』を開発することにしました」
いよいよ新規事業開発に取り組み始めた青木。Challengeステージ前半では、健康経営を推進する企業へのヒアリングを中心に行っていたといいます。
青木 「Challengeステージでは、新規事業開発の専門家とのメンタリングを定期的に行います。専門家と繰り返し面談する中で、顧客課題を発掘するためには、サービスの利用者やマーケットへのヒアリングが非常に重要であることを学びました。そこで、健康経営を推進している企業に、健康経営を行う上での課題や今後の理想のあり方などを、徹底的に聞き出したんです。
見えてきたのは、健康や運動を促進する社内の取り組みは、なかなか会社全体の健康経営にはつながらないという課題。そういった取り組みに参加するのは、運動への意識が高い方ばかりで、本当に運動が必要な方々は取り組みに参加しないんですね。ヒアリングを通して、自分たちが考えていた『運動習慣がない人の行動変容を促すサービス』が、企業の課題解決にマッチするという確信を少しずつ得ていきました」
*¹ Fujitsu Innovation Circuit…全社DXプロジェクトであるフジトラの一環として、2021年より始動した新規事業創出プログラム。このプログラムは「Academyステージ」「Challengeステージ」「Growthステージ」で構成されている。青木が参加した「Challengeステージ」は6か月間専任で新規事業開発に挑戦するステージ
いかにビジネスとして成り立たせるか。苦労の末に創出した事業アイデア
Challengeステージ後半ではMVP*²を作成。自分たちが考案したソリューションが、顧客課題の解決につながるのかを検証したといいます。
青木 「私たちは、MVPとしてひとつのアプリケーションを開発しました。if-then プランニング*³を用いて、生活上のあるタイミングで各自に適した運動を通知するというもの。
たとえば、朝起きたら10秒腕をのばしてみようといったメッセージが届きます。検証では、運動習慣があまりないという約100名の富士通社員に協力してもらい、アプリを使うことで、実際に行動変容を起こせるかを確認しました。検証実施により、今まであまり運動していなかった方の82%が、アプリによって運動するようになったという結果がでました。
また、検証結果をヒアリングでお世話になった企業の方々に報告したところ、『ぜひこのサービスを展開していきたい』というポジティブな反応をいただけたんです」
ヒアリングを通して顧客課題を見つけ出し、MVP検証も成功させた青木。順調に思える道のりですが、そこまでには大きな壁があったと語ります。
青木 「富士通の新規事業として、富士通の企業規模に見合った収益を出せるビジネスを考えなくてはいけない。この点に非常に苦労しました。メンタリングをしてくれた専門家からは、『スポーツ関連のビジネスは収益を上げにくいのでは?』と指摘を受け、最初は頭を抱えました。あれこれ悩んだ末、これまで軸に据えてきた『運動』から一度離れた時期もあったんです」
しかし、「これは本当に自分のやりたいことなのだろうか?」と立ち止まったと振り返る青木。その後、「運動」という軸は残し、別の部分を変えたといいます。
青木 「ビジネスモデルを考え直しました。どのような企業からどういった契約形態で収益を得るかという部分ですね。ビジネスモデルを変えたことで、それまでよりも大きな規模の市場を狙えるようになったんです。これでマネタイズの課題を克服。それからは自信を持って、『運動』を軸としたビジネスアイデアを考えていくことができました」
*²MVP…Minimum Viable Productの略。実用できる最小限の機能のみを備えたプロダクト
*³if-then プランニング…「もしAをしたら、Bをする」というルールを決め、目標達成率を上げるテクニック
走り抜けた6カ月。そこから得たものとは
事業アイデアを磨き上げ、Challengeステージでの最終発表の場に臨んだ青木。
青木 「メンタリングを担当いただいた専門家やFIC運営メンバーに、何度も発表内容を見直してもらい、準備を重ねました。ある方からは『最高の発表にしよう』という言葉もいただいて。6カ月間自分たちがやり抜いてきたことを信じて、発表の場に立ちました。企画にかける熱い想いは、しっかりと伝えられたと思います」
惜しくもChallengeステージの次の段階であるGrowthステージへの進出は叶わなかった青木。しかし、新規事業開発を通して今後のキャリアに活きるスキルが身についたと語ります。
青木 「顧客の課題を徹底的に掘り下げるヒアリング力や、市場や競合調査を通してマネタイズできるビジネスを見定める力など、新規事業開発に関する能力が確実に身についたと感じています。
また、Challengeステージでは期間中に2回、決められた時間の中でビジネスアイデアをプレゼンする機会があります。それを通して、制限時間内に要点をまとめて話すプレゼン能力も、以前より格段に上がりました」
最終発表の後、いくつかの社内の事業部門から声をかけられたという青木。その中のひとつ、Uvance本部Healthy Livingとともに、継続して新規事業開発を行っていく予定だといいます。
青木 「当初目指していたGrowthステージ進出とはなりませんでしたが、事業化への道を別の形で残すことができて。新規事業開発に本気で向き合った6カ月間の経験は無駄ではなかったと思います。『誰もが元気で健康に過ごせる社会をつくる』との想いを実現できるよう、今後も挑戦を続けていきます」
熱い想いを持ち駆け抜けたChallengeステージを終え、新たなる挑戦へ進みだした青木。FICで検討した案をどのように事業化していくのか、今後の彼の活躍が非常に楽しみです。