プロジェクトマネージャーを経験して感じた「やりがい」と「難しさ」
全社DXプロジェクト「フジトラ」の一環として、2021年より始動した新規事業創出プログラム「Fujitsu Innovation Circuit(以下、FIC)」。このプログラムは「Academyステージ」*¹「Challengeステージ」*²「Growthステージ」*³の3ステージで構成されています。深澤はAcademyステージを修了し、2022年9月現在Challengeステージにて、自身のアイデアをもとに新規事業開発を行っています。
深澤 「Challengeステージでは、顧客の課題に対して『こういう解決策があったらいいのではないか』という仮説を立てるところからはじめます。現在は、その仮説が合っているのかを検証するため、ユーザーヒアリングを行っている段階です」
自身も含めChallengeステージに参加している社員は、一時的にFIC専門の部署に所属すると話す深澤。以前はジャパン・グローバルゲートウェイ本部に所属し、官公庁向けのシステムを開発してきたといいます。
深澤 「異動する前の職場では、プロジェクトマネージャーを務め、お客様との調整や担当するプロジェクトの進捗管理を行っていました。官公庁に導入するシステムは規模がとても大きく、日本という国全体に関わるものが多いんです。開発に携わる私としても、『世の中の役に立っている』という実感がありました」
仕事を通して、大きなやりがいを感じていた深澤。しかし、同時にその難しさも感じていたといいます。
深澤 「規模が大きいということは、それだけ関連するプロジェクトの数が多く、各プロジェクトに関わるメンバーもたくさんいます。また同じプロジェクトのメンバーには、私よりも年齢が上の方や、担当システムを熟知しているメンバーがいます。そういった中で、チームをマネジメントしていくことはとても大変でしたね。
プロジェクトマネージャーになったばかりの頃は、経験豊富なメンバーにとんちんかんなことを聞いてしまうこともあったんです。当時は、メンバーから『何をいっているの?そんなことも知らないの?』と思われていたかもしれません。
ただ意識していたのは、自分の考えをしっかり持って話をするということ。『全部教えてください』ではなく、『こう考えたのですが、どうでしょうか』と、質問のなかに必ず自分の意見をいれるようにしていました」
そんな深澤の姿勢が徐々にメンバーの心を動かし、プロジェクトマネージャーとしての信頼を得ることができました。
*¹Academyステージ…アメリカのバブソン大学で教鞭をとる山川 恭弘准教授の講義を受講し、起業家マインドを学ぶことができる
*²Challengeステージ…社外有識者のサポートを受け、6カ月間専任で新規事業開発に取組む
*³Growthステージ…Challengeステージから選抜されたチームが、各種支援と投資を受け、ビジネスアイデアの事業化に取り組む
新規事業開発の第一歩として挑戦したAcademyステージ
官公庁担当SEとしてのキャリアを歩んでいた深澤。そんな彼女が新規事業に興味を持ったきっかけには、「ある経験」があったと語ります。
深澤 「前の部署では、プロジェクトマネジメントの他にPoC*⁴用システム開発も行っていました。まっさらな状態から、ユーザーが抱えているであろう課題を考え、その課題を解決するための機能やUIを作っていく過程はとても楽しかったですね。
また同じ頃、似たようなことを社外でもやっていて。知人が経営する小売店で公式LINEアカウントを立ち上げるという話があり、私も携わりました。『お店のターゲットユーザーはどういう人たちなのか』『その人たちの目に留まるような投稿の仕方は』など、ユーザー視点を意識しながら考えて。『正解がないなかで、自分なりの答えを見つける』という体験に、とてもワクワクしたのを覚えています」
社内外での経験から事業創造に興味を持った深澤。まずは起業家としてのマインドセットを身につけるため、Academyステージに参加しました。
深澤 「Academyステージでは、まずアメリカのバブソン大学で教鞭をとる山川 恭弘先生の講義を受け、起業家としてのマインドセットを学びます。次は、その学びを活かし、ランダムに割り振られたチームでビジネスアイデアを検討。そして、最後はピッチコンテストを行います」
チームメンバーは深澤を含め5名。誰とも面識がない中、チーム活動がスタートしたといいます。
深澤 「特に役割分担をしたわけではないのに、みなさん自然と自分のポジションを見つけていました。議論をファシリテートしてくれる人や議論が活発になるようサポートしてくれる人、また、出てきたアイデアを整理してくれる人など。
私は、あえて一歩引いた視点から議論に参加することを心がけていました。議論に集中すると、あるアイデアがとても素晴らしく見えてくることがあるんです。でも、『本当にそうなのか』と客観視することも重要で。そこは私の役割と思って、全体を俯瞰する視点を持ちながらチーム活動に参加していました」
チームには、さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーが集まったという深澤。
深澤 「FICに参加する前は、自分が担当するお客様やプロジェクトメンバーとしか関わりがなくて。同じ富士通にいながら、自分とは全く異なる経験をしてきた人と出会えたことは、とても貴重な経験となりました。
それに、多様なメンバーからは多様なアイデアが出てくるんです。出てきたアイデアを組み合わせ、ブラッシュアップし、ピッチ資料を作り上げていく過程はとても刺激的でした」
*⁴PoC…Proof of Conceptの略。新たなアイデアやコンセプトの実現可能性やそれによって得られる効果などを検証すること。
失敗学やチームメンバーから得た豊かな学びが、自己を成長させる原動力に
山川先生の講義はたくさんの学びがあったという深澤。そのなかで最も大きな感銘を受けたのは、「失敗学」だといいます。
深澤 「講義のなかで、『失敗しないことよりも、失敗を受け止めて次にどう活かすか』ということが、自己の成長につながると教えていただきました。いろんな所でいわれていることですが、日本には失敗にあまり寛容ではない雰囲気があると思います。実際、私自身も『できる限り失敗しないように』と行動してきたなと。
でも、失敗学を学んで意識が変わったんです。失敗を通して自分のできることを増やし、成長し続ける人でありたいと思うようになりました」
また、チーム活動でメンバーからもらったフィードバックも、自身の成長につながるものだったと深澤は語ります。
深澤 「チーム活動では、まわりに遠慮してしまい、自分がいいたいことをいえず、口ごもる時もあったんです。自分でも自覚していたのですが、フィードバックとして他者から指摘されると、とても心に響きました。自分では隠せていたつもりでも、まわりには伝わっていたんだって。
失敗学ではないですけど、『では、これからはどうしよう』と考えました。それからは『もっと積極的に発言しよう』と考え、よりチーム活動に能動的に参加するようになったんです」
これまでは、率直なフィードバックをもらう機会はあまりなかったという深澤。自分を見つめ直すいい機会になったと振り返ります。また、Academyステージを受講する中で、自身の想いを再確認したといいます。
深澤 「Academyステージを過ごした約3カ月間。はじめての経験やたくさんの学びがありました。そしてなによりも、自分の気持ちと向き合うという意味で、とても価値ある時間だったと感じています。『やっぱり、新規事業創出をやりたい』と、心から思うようになりました」
挑戦の連続で悩む日々。それでも進み続ける新規事業開発の道
Academyステージで新規事業への想いを再確認した深澤。現在はChallengeステージで新規事業創出に挑戦しています。
深澤 「今は、まだまだ新規事業開発の初期段階。ユーザーの課題を発掘するため、多くの方にインタビューを行っています。これまでインタビュー経験なんてなかったので、『どうしたらいいんだろう』『これを聞いてもいいのかな』と悩むこともあります。
しかし、Academyステージで学んだ失敗学のおかげで、『やってみないとわからない』『失敗しても大丈夫』と考えられるようになっていて。経験がないなかでも、積極的にインタビューを行っています」
新規事業創出は、ユーザーインタビューの他にマーケットや競合の分析、仮説立案・検証、MVP*⁵の作成など、今後も初挑戦の連続。その中で、「あるもの」を大切にしていると深澤は語ります。
深澤 「新規事業創出は、これまで未経験のことばかり。そして、誰かが正解を教えてくれるわけでもなく、不安や悩みは尽きません。それでも、自分のアイデアを形にするため、前に進んでいかなければいけない。そのような中で、自分や自分の想いを見失わないよう、『ブレない軸を持つ』ということを大切にしています。
私の場合、『世の中に影響を与えられることがしたい』『社会や世界が豊かになることがしたい』という軸を持っています。日々悩みながらも、自分自身の軸をしっかりと持ち続け、それを拠り所に一歩ずつ進んでいきたいです」
Academyステージで学んだことを活かし、着実に前に進み続ける深澤。ほかの社員にもぜひ挑戦してほしいと話します。
深澤 「Academyステージは、普段の業務では出会うことのできないさまざまな価値観を持った人が集まる場所。そのような環境に身を置くことで視野が広がると思います。私自身もそうでした。
また、山川先生の講義やチーム活動を通して、多様な価値観に出会い、視野を広げることは、今後のキャリアを考えることにもつながると思うんです。私のように、改めて新規事業を創出したいと思う方もいる人もいるでしょうし、受講をきっかけに全く別の分野に興味を持つ方もいるかもしれません。新規事業への興味の有無、また年齢や現在の業務に関わらず、多くの人にぜひ挑戦してほしいですね」
*⁵MVP…Minimum Viable Productの略。実用できる最小限の機能のみを備えたプロダクト