日本企業ゆえの面白さ

私はソフトバンクグループに新卒で入社しました。

当時のソフトバンクグループは比較的倍率が高く、700倍近かったと思います。入社後はソフトバンク・テクノロジー株式会社に所属し、社長直轄プロジェクトであったYahoo!BB立ち上げに携わりました。

また、McAfeeストアやLogicoolストアなどオンラインストアの運営統括責任者(いわゆる店長)を4つほど掛け持ちしていました。日本を代表する経営者の間近で仕事ができたことは、貴重な経験だったと思います。

その後、海外大学院への留学を経て、富士通に中途入社しました。

最初はビックデータビジネスを専門とする事業部門にて、新規サービス立ち上げの中でも、特に商品化に携わっていました。

日本企業の面白いところは、外資系企業と異なり、自分たちで戦略を立て、新規事業を立ち上げ、またグローバルにも展開できる点。要するに、やりたいことができる場が用意されていることにあると思います。

ボトムアップの活動:富士通アクセラレーターができるまで

▲日本の大手企業初スポンサー兼出展を行ったWeb Summitにて

事業部門に配属されてからは、「いかにして新規事業を立ち上げ、イノベーションを起こすか」に課題意識を持ち、方法論を含めて模索しました。

最初に出会った手法が、リーンスタートアップです。リーンスタートアップの元となる顧客開発モデルを提唱したスティーブ・ブランク氏の愛弟子で、現ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ株式会社の堤 孝志氏と飯野 将人氏が主催していた、教育プログラムに参加しました。

これをきっかけに、リーンの方法論を一部取り入れ、社内で想いの強い人物をサポートすることで新規事業を起こせるのではないかと考えたのです。それを実践してみようと思って始めたのが、富士通アクセラレーターの原点となる、富士通アクセラレータプログラム社内版でした。

やっていくうちに、社内だけでなく社外のスタートアップとも協業していく必要性があると感じるようになり、それが富士通アクセラレータプログラム社外版に繋がっていきました。これらの活動は、当時の責任者と私で企画し、ボトムアップに近い形でスタートしています。

もともと富士通には、社内ベンチャー制度がありました。その応募案件の支援から始め、その後は事業部門、そして富士通研究所の新規事業テーマを支援しました。

具体的には、東京のOpen Network Labや、サンフランシスコのRunwayといったプログラムやコワーキングスペースとコラボし、メンターからアドバイスを受け、新規事業内容のブラッシュアップを進めて行きました。

その一方で、社外スタートアップとの協業プログラムは、開催時期をずらしてスタートさせました。

進めて行く中では、紹介した先の事業部や研究所から反発されたケースも少なからずありました。そこで、ある程度前向きな事業部門と組むことで、仲間を増やしていきました。

事業部門からマーケティング部門に活動の場を移してからは、部門のトップの役員にも味方になってもらいました。対外的なピッチコンテストやスタートアップイベントへの出展などを通して、メディアに取り上げてもらい、「富士通がこういう活動をしているんだ」という認知を社内外に広げていったのです。

その成果が徐々に出て、最近はオープンイノベーションにも前向きな雰囲気になっています。

大企業の持つリソースを活用し、スタートアップエコシステムとwin-win

▲Seattle AI Meetupにて富士通の取り組みをプレゼン

富士通アクセラレーターの協業事例としては、まず第1期で参加したソニックス社があります。この会社は、当時スマホアプリ開発後に行うアプリテストのサポートを提供する会社でした。200~300種類のスマホをデータセンターに置いているからこそ実現するサービスです。

VCから紹介いただいて、富士通とのコラボがスタートしました。第1期では参加事業部が3~4つ程度だったのですが、最終的には約30の部署や関係会社に紹介しました。

その結果、ある程度規模の大きいプロジェクトで採択が決まり、協業に繋がり、同社との取引も拡大しました。それこそアクセラレーターではないですが、共にビジネスを作ったという点で、興味深い事例です。

私は常日頃から、起業家は尊敬すべき存在だと考えています。なぜなら、起業家は自分の目指す夢や、なすべきことに向かってリスクを冒しながらも、全力で突き進んでいます。そこから新たな産業や雇用が生まれます。そして何より、彼らのやっていることは、本当に世の中を変えていると思うのです。

だからこそ、私は大企業側にいる立場として、双方がwin-winになれるやり方を模索しています。そうやって、スタートアップエコシステムにコミットしている姿勢を取りたいと思っています。

富士通は85年の歴史があるグローバル企業ですので、ブランド力が強みの一つです。富士通で、ベンチャー協業に関わってきたことで、著名起業家やベンチャーキャピタリスト、スタートアップエコシステムのコアメンバー、政治家や政府機関、メディアなど多くの出会いに恵まれてきました。大概の方は、富士通のことを知っており、またこちらが希望すれば、実際に会ってくれます。

また、富士通は営業力が強いですし、パートナー企業も数多くいます。スタートアップとうまくコラボして、富士通のソリューションとして組み合わせれば、上手く連携できると思います。

現在、日本では大企業が主催しているオープンイノベーションのプログラムが、100以上あります。なので、起業家の方には大企業が持っているネットワークや資源を有効活用していただければと思います。

ようやくスタートラインに立てる──協業と投資の両輪

▲ワシントン州商務長官(当時)のBonlender氏やその関係者と

もともと富士通アクセラレーターは、協業と投資の両輪でやる予定でした。当時の役員の考えもあり、今まではベンチャー投資があまりできなかった状況が続いていました。

しかし、状況は徐々に改善しつつあります。私も今はベンチャー投資が専門です。その意味では、ようやくスタートラインに立ったという感じです。

今後は、国内外問わず、有力なスタートアップに投資していきたいです。

我々が現在所属しているStrategic Growth & Investmentは、社長直下の組織で、M&A、ベンチャー投資、ベンチャー協業を主に行っています。外資系投資銀行やコンサル出身者も多く、公用語が英語のチームは、1つの実験装置のようなものと考えています。

「こういった形で日本企業も変われる」というケースを示せるよう、この実験が上手くいくと良いなと思っています。

私の仕事においては、起業家やVCとの関わりが多いので、スタートアップエコシステムに大企業側から貢献したいと考えていました。

一方で、富士通は関わっている事業領域が多岐に渡っています。私自身が病院や学校に行っても、その多くが富士通の製品を利用して下さっています。また、日本に限らず、ヨーロッパや中南米などの海外でも、多くの方が我々のソリューションを利用して下さっていますし、ブランドも認知して下さっています。

BtoB企業のため、その先にある利用者が直接見えない場合もありますが、我々が認識する以上に多くの人々に関わっていると感じますね。富士通という組織を通して頑張ることで、見えない方々に対しても、間接的にでも貢献できればと思います。