まだ誰もつくったことがないものを形にしていく喜び
入社3年目の小口が2019年現在手掛けるのは、光技術を活用した「LiDAR(ライダー)」というセンサーの開発プロジェクトだ。物体を検知し、物体との距離を測る「LiDAR」は、自動運転の目と呼ばれ、大手自動車部品メーカーにおいても重要視されている。
小口 「 LiDARは市場で製品化が始まったばかりの、自動運転が急激に進む社会でこれからの展開が期待される製品です。当社の LiDAR開発プロジェクトには立ち上げ当初から参画してきました。まだ世の中に無いものをつくってきたという点で、大きなやりがいを感じています」
小口が車載ソフトウェア開発の仕事に就くきっかけはなんだったのだろうか。
小口 「原点は高校時代、友人の影響で PCを購入したことですね。PCってなんでもできるんだなっていうのに感動して、大学は名古屋で情報通信系の学部を選びました」
その後、小口はC言語やアセンブラ、HTML、PHP、プログラミングの基本的なところを一通り勉強していった。しかし実は、当時はそれほどプログラミングにこだわっていたわけではなく、就職するのはサービス業でもいいなと考えていたくらいだという。
小口 「でも結局、愛知県内の組込系のソフトウェア会社に就職しました。みんなで力を合わせて、何かひとつのモノをつくり上げるのが好きなんです。あと、せっかくここまで勉強したのに生かさなかったらもったいないと思ったのが本音です(笑)」
そうして入社したソフトウェア会社で、小口は身につけたプログラミングの技術を生かし、自動販売機や高速道路の情報端末のシステム開発、さらに自動車関連の組込系ソフトウェア開発を手掛け、経験を積んだ。
大企業で働きたい──やりがいと安定を求めて
開発の経験を重ね、現場責任者を任されるようになった小口だったが、転職を考えるようになる。
小口 「前職では本当に良くしていただきました。数十人規模の小さな会社だったので社長をはじめ、役員との距離もとても近くて、何でもやりたいことをやらせてもらいました。ただ、結婚して子どもが産まれ、収入や働き方という面でこのまま働き続けられるか不安になり、安定している大きい会社で働きたいと思うようになりました」
そこで小口は転職活動を始める。希望していたのは、名古屋で自動車関連のシステム開発ができる会社だった。
小口 「名古屋は言わずと知れた自動車産業の中心地。そこにはたくさんの仕事があって、優秀な人材や最先端の技術が集まってきます。仕事が多いということは、その分自分にもチャンスがあるということ。刺激的な出会いがたくさんあります」
そうして富士ソフトの面接を受けた小口に、運命の出会いが待ち受けていた。
小口 「転職活動の面接で会ったのが、富士ソフトで自動車関連ビジネスを担当する常務の三木でした。自動車業界の今後や、車載ソフトウェアがどうなっていくのか、そんな話で盛り上がりました。内容もとても勉強になりましたし、面接に来ただけの自分にこんなに熱心に話してくれて、なんて魅力的な人なんだと思ったんです」
三木と出会い、「この人と仕事がしたい」と思った小口は、富士ソフトに入社することを決めた。
小口 「実際に入社してみたら、三木は役員なので、一緒に仕事をするという感じではありませんでした。当時はそんなにえらい人だとわかっていなかったので……。
でも、今でも顔を合わせると気さくに話しかけてくれます。大きい会社ってもっと冷たい人が多かったり、ギスギスしてたりするのかなと思っていたんですけど、全然そんなことないんですね(笑)」
富士ソフトに入社して参画したLiDAR開発プロジェクトは、小口にとって刺激的なものだった。
小口 「当時、聞いたこともないような先進技術に携わることになってワクワクしたのを覚えています。前職では過去に開発したものを流用した派生開発が多かったので、初めは不安もありました。
しかし、富士ソフトには優秀な技術者がたくさんいて、刺激を受け切磋琢磨しながらエンジニアとしての成長を実感することができました。一つひとつの案件の規模も大きく、マネジメントという面でも経験を積ませていただいたことが大きな糧になり、今につながっています」
対等な人間関係と、ゴールイメージを持つこと
小口は仕事をする上で、モットーとしていることがふたつあるという。
小口 「ひとつ目は、上司や部下、お客様であっても、対等な人間関係を築くということです。お互いに対等であるからこそ、いいことも悪いことも、言うべきことを言い合える。いい仕事をするために、とても重要なことだと思っています。
ふたつ目は、ゴールをイメージしてから着手するということ。やみくもに手を付けるのではなく、目指すべき姿に向かって取り掛かると、圧倒的にバグや手戻りが少ないのです。それはエンジニアとしてもそうですし、プロジェクトのマネジメントをする上でも同じことが言えます」
小口にこのふたつを教えてくれたのは、前職で育ててくれた上司だった。小口は富士ソフトについて、技術的なことは勉強しなければいけないことだらけでも、今までの経験を生かしてさらに次の成長を目指せるのが、いいところだと感じている。
そして2019年春、小口は1年間を通して著しい成果を上げた社員として、年間MVP表彰を受賞した。受賞者は、毎年開催される創立記念式典の場で表彰される。
小口 「全国から受賞者だけが本社のある横浜で開催されるパーティーに招かれるのですが、本当に豪華で、大きい会社ってすごいなと思いました。誇らしいというか、素直に嬉しかったです」
入社3年目にして栄えある場に選ばれたのは、リーダーシップでお客様満足度向上に貢献し、高い生産性と安定した品質が評価されたから。それはまさに、自身のふたつのモットーを着実に守り、継続してきた成果だろう。
プロジェクトマネージャーとしての成長を目指す
2019年7月、小口はLiDARプロジェクトのプロジェクトマネージャーに任命された。
小口 「プロジェクトメンバーには、自分より経験も技術力もあるメンバーもいます。そんな中でも、自分にプロジェクトマネージャーを任せようと思ってもらえたのは、プロジェクトの立ち上げ当初から携わってきて、仕事への取り組み方や、お客様との信頼関係を認めていただけたからなのかなと思います」
しかし、エンジニアとプロジェクトマネージャーに求められることは違ってくる。
小口 「これまでの仕事のスタンスは変えずに、さらにチームとしてパフォーマンスを上げていくことを考えなければいけません。そのためには、まず風通しを良くして、一人ひとりが気持ち良く仕事ができるようするところからですね。来年は自分のプロジェクトのメンバーが表彰されたらいいなと密かに、狙っています」
小口は自分のことを「エンジニアとしてものすごい才能があるわけではない」と言う。将来的にもスペシャリストとして技術を極めていくというより、マネジメントの道を進んでいきたいと思っているそうだが……。
小口 「だからといって、技術的なことを勉強しなくていいわけじゃないと思っています。入社以来、自動車関連のシステム開発を担当していますが、まだ AUTOSARのプロジェクトを担当したことはありません。いつかは通る道。そのときのために勉強して備えておかないといけないですね」
小口が所属するASI事業部では、欧州の自動車メーカーを中心に策定されている標準規格“AUTOSAR”に準拠した、車載プラットフォームの開発や導入支援に取り組んでいる。小口のようなエンジニアが、自動車産業の未来を担っていくのだろう。