子ども家具を販売しながら感じた「もっと子どもたちと接したい」という想い

▲異色のキャリアを経て、「六甲道児童館」で勤務するようになった金坂

自らを「やんちゃな子どもだった」と笑って振り返る、「六甲道児童館」館長の金坂 尚人。実は最初から児童館職員を目指していたわけではなく、保育士だった母親に影響を受け、保育の道を志すように。大学進学を機に、生まれ育った富山県魚津市を離れて、関西へ向かいます。

金坂 「関西を選んだのは、当時、ボクシングが好きで、憧れていた辰吉 丈一郎選手が所属していたジムが大阪にあったから(笑)。幼児教育を学べる関西圏の大学を片っ端から調べました」

大学在学中は地域の野外活動のリーダーを担当するなど、自ら子どもたちと積極的に関わる機会をつくっていた金坂。しかし、将来の職業選択については葛藤がありました。

金坂 「自分としては、小学生や中学生といった、ある程度大きくなった子どもと接する方が向いているんやろうなと思っていました。だからこそ、子どもの成長にとって基盤となる、乳幼児もケアできるようになりたかったんです」

さらに、「資格を取得したら保育園や幼稚園で働く」といった現場主義にも疑問を持つように。

金坂 「たとえば、保育士の資格を持つ人が建築士になったら、子どもたちにとって過ごしやすい園舎ができるはず。子ども服デザイナーや調理士などもそう。異なる角度から保育にアプローチできないかと考えました」

そのような葛藤の末、最終的に子ども家具を扱う輸入家具店のスタッフとして働くことに。シックハウス症候群に悩む子どもでも安心な、天然木の家具の販売や組み立てをしていました。

しかし、接客する相手は子どもの親や祖父母ばかりで、子どもと直に接することはめったにない職場。そこで金坂は、「子どもともっとコミュニケーションをとりたい」と社長に直談判して、月に1回地域の公園で子どもが楽しめる遊びイベントを始めました。

そうして子どもたちとふれ合う中、金坂が保育士や幼稚園教諭の資格を持っていることを知ったお客さんから、保育園や幼稚園では言えないような悩みを相談されるようになります。

金坂 「でも、質問をされても、保育現場での実体験がないから何も答えられなかったんです。『学校ではこう習いましたよ』としか言えない状況が悔しかったですね」

悩む姿を見た家具店の社長からは、「あなたは現場でこそ生きるから戻りなさい」という言葉をかけてもらいました。そんなとき、大学時代の恩師を通じて、子どもに関わる現場で働けるチャンスが舞い込みます。

念願だった保育現場へ──多様なアプローチを学び、視野を広げる

▲野外活動では、子どものころから慣れ親しむ草花遊びを伝えることも

恩師からの紹介を受けた金坂は、幼児体育指導を中心とした保育事業を展開する会社に入社。午前は保育園、午後は児童館、土日は地域の野外活動と、それぞれの現場で子どもたちをサポートする生活を送ります。

金坂を熱心に誘ってくれたその会社の代表は、児童館や学童保育所を運営するNPO法人の理事長でもあり、保育の世界の大先輩。しかし、「価値観の違いからぶつかることが多かった」と、金坂は振り返ります。

金坂 「でも次第に、現場における主語はスタッフではなく、子どもだということがわかったんです。子どもを中心に考える姿勢が同じであれば、スタッフは、それぞれのアプローチで子どもと向き合っていい。

自分とは異なるアプローチをする相手だからこそ、その視点を取り入れることで、視野を広げることができたと思います」

しかし、1度だけ、仕事を辞めたいと考えたことがありました。

金坂 「あるとき、タクシーの運転手さんに自分の職業を聞かれて、説明できなかったんです。保育士なのか、児童館の職員なのか、野外活動のスタッフなのかがわからなくて、全部、中途半端に感じてしまいました」

思い詰めた金坂は、実家に電話をかけます。

金坂 「そのとき、たまたま電話に出た祖母に、『おら、地元に帰って、はたらこかな』と弱音をこぼしました。

すると、いつもは温厚な祖母が突然、『旅のもん*の分際でぇ身寄りもねぇ場所で仕事をいただいてるだけで、どれだけありがたいことか。それがわからんがやったら戻ってこんでいいちゃ!(*富山弁で、地元を離れて暮らす家族のこと)』と怒って、電話を切ったんです。

祖母にそう言われて初めて、自分がデメリットと感じていた中途半端な状況には大きなメリットがあると思い直しました。さまざまな場所で異なる年齢の子どもたちについて知ることができるんですから」

そんなある日、所属法人が神戸市の児童館を運営することになり、金坂は、責任者として赴任することを命ぜられます。

抵抗を感じた児童館への異動。15年が過ぎ「ここでよかった」と思えた

▲コマ回しなどの伝承遊びを通じて、子どもたちの集中力や達成感を養っている

ただ勤務地が変わるというだけではなく、責任者としての赴任。当時若干25歳だった金坂は戸惑い、「自分には絶対無理や」と感じながらも、その児童館を見学することに。

新しい現場となる「六甲道児童館」は、JR六甲道駅に隣接したビルの4階という立地にありました。

金坂 「初めて足を踏み入れたときは、ショックでした。天井が低く、庭も遊戯室もない。着任することに抵抗を感じました」

しかし、日々懸命に働くうち、自分がデメリットと感じていたことは、他の人にとってはメリットになりうることに気付きます。

金坂 「駅に近い六甲道児童館は、近所に住んでいる方々だけではなく、沿線地域の住民も利用しやすいんです。それに、六甲道児童館の下の階にはスーパーが入っているから、買い物に寄れるのも便利。

自分が結婚後、子どもとベビーカーで移動したり、子育て支援施設を利用したりする中で、保護者の気持ちを実感できたことも大きかったですね」

一方で、着任当初からずっと感じている歯がゆさも。それは、児童館がある地域では施設についての理解があるけれど、児童館がない地域では認知度が低いこと。

金坂 「地元の富山には児童館があり、そこで遊んで育ちました。でも、自分にとって当たり前だったことは、他の人にとって当たり前ではなかったんです。さまざまな地域事情を知るうちに、児童館が少ない、そもそもない地域では、児童館という名称すら知らない人がいることに驚きました」

0歳~18歳までの子どもとその保護者が無料で自由に利用できる児童館は、“児童”という言葉の印象から、小学生のための施設だと思われがち。「六甲道児童館」でも、入口から恐る恐るのぞきながら、「ここは小さな子どもでも来ていい施設ですか?」と尋ねる人が絶えません。

金坂 「保護者の悩みに耳を傾けて軽減することも、児童館職員の仕事。うちのスタッフたちにも、たとえ児童館のすぐ近くに住んでいても、その存在を知らずに孤立している子どもや保護者がいるという前提で考えるように話しています。

もっとたくさんの方々に児童館を認知してもらえるように、受け身ではなく、さまざまなアプローチで伝えていくつもりです」

金坂が「六甲道児童館」に着任して15年が過ぎました。児童館は、子どもにとって、家庭でも学校でもない、第三の居場所。だからこそ、「ほどよい距離感で子どもたちや保護者に寄り添い続けたい」と誓います。

金坂 「最近、昔ここに通っていた子どもたちが戻ってきてくれるようになったんです。保育の道に進んだ子が実習生として来てくれたり、たくさんぶつかって一緒に泣いた子が赤ちゃんを産んで笑顔で連れてきてくれたりします。街中で偶然子どもたちと会って、『かねちゃーん』と大声で呼ばれると、照れ臭くもやっぱり嬉しいですね」

子どもたちが夢中になれる「遊び」を通じて、「学び」につなげる

▲愛読していた絵本『ふゆじたくのおみせ』(福音館書店)から着想を得て始めた「どんぐりマーケット」

地域における児童館や児童館職員の役割は、「つなぐこと」だと考える金坂。定年後の高齢者など地域のために貢献したい方に活動の場を提供して、さまざまな専門性を持つ人材や団体を結ぶことで、地域を活性化しています。

さらに、近年、金坂が力を注いでいるのは、「遊び」と「学び」をつなげること。現在は大学で非常勤講師を努め、子どもと関わるさまざまな人を対象に全国で講演をする機会も増えています。

金坂 「講演では自分の得意分野である伝承遊び、コマ回し、ベーゴマなどの指導法や草花遊びをテーマにご依頼をいただくこともあります。自分が子どものころは、ゲームセンターもなく、あるもので工夫して遊ぶしかありませんでした。今は大人からものを与えられないと遊べない子どもが多いように感じます。でも、葉っぱ1枚あったら、草笛ができる。工夫する力を育む大切さを伝えたいですね」

何かに夢中になり楽しいと感じた時点で、それが「遊び」になり、いつの間にか「学び」につながる──。

そのアプローチのひとつとして、「六甲道児童館」が地域と連携して取り組んでいるのが、毎年秋に開催される「どんぐりマーケット」。マーケットに並ぶ商品は、子どもたちや保護者が手づくりした工作。使えるお金は、どんぐりなどの木の実。毎回、どんぐりを手にしたたくさんの子どもたちで賑わいます。

金坂 「木の実に付加価値をつけたことで、子どもたちがどんぐりを探しに行き、自然を学ぶ。こちらが教えるわけではなく、自ら興味を持ち知識を増やしていくんです。夢中になって遊ぶうちに、いつの間にか経済や経営の学びにもつながっています。子どもたちも関西人だからか、一生懸命値切りながら、楽しく売り買いしていますよ」

「どんぐりマーケット」を始め、さまざまな地域連携事業を展開し、今後も子どもを主役としたおもしろい取り組みを仕掛けていきたいという金坂。児童館職員を含め、子どもに関わる仕事を目指す人に、伝えたいメッセージとは──。

金坂 「まずは、いろいろなことに興味を持って、多角的な視点でおもしろさを見いだしてほしいですね。自分が楽しむ背中を見せられたら、子どもたちも一緒に楽しんでくれるはず。

子どもたちや保護者が児童館を訪れる理由は、施設を利用するためだけではなく、結局は人に会いたいからだと思っているんです。六甲道児童館には、魅力的なスタッフがたくさんいます。自分自身も『このおっさん、めちゃくちゃおもしろいやん』と思われたら幸せですね」

これからも子どもが「楽しい」と思える場所をつくるために、金坂の挑戦は続きます。