Fintechを活用して、資産運用をもっと身近に

“Keep Innovating The Financial Industry”をミッションに掲げるFOLIO。この言葉には、テクノロジーの力で業界に一石を投じようという強い意志が込められています。

甲斐 「金融業界は歴史が長い業界ゆえに、トラディショナルな部分がまだまだ残っています。高い壁を感じていますが、独自の金融サービスの提供だけでなく、金融システム提供者という側面からも金融業界をイノベートし続ける存在でありたいと思っています。

FOLIOは2015年12月に創業し、資産運用のライセンスを保有したオンライン証券会社として事業を展開してきました。特筆すべきは、サービスのみならず、証券システムや運用基盤まで、すべて内製で作り上げてきたことです。 

甲斐 「創業当初から、運用会社に必要な基盤を含めてほとんどを内製で作ってきました。その運用基盤をFOLIOから切り離して、全国の金融機関向けにロボアドバイザー用の運用基盤をSaaSとして提供する事業も立ち上げています。つまり、FOLIOはオンライン証券会社の枠にとどまらず、金融SaaSを手掛ける企業でもあるんです」

FOLIOを立ち上げた創業者である甲斐は、幼い頃から金融領域との縁がありました。両親がともに証券会社に勤務し、小学1年生の頃から「父親の機嫌を左右するものだから」と日経平均株価に興味を持ち、チェックしていたといいます。

そして、自身もゴールドマン・サックス証券に就職した甲斐。金利デリバティブのトレーダーとして日々海外の金融業界の動向にも触れる中で、2014年末にアメリカのFintech企業であるレンディング・クラブ上場のニュースを知り、大きな衝撃を受けます。

甲斐 「幼少期からの経験もそうですが、実際に証券会社で働く中で、日本ではまだまだ資産形成や資産運用が浸透していないことを痛感していました。また10年間トレーダーとして働いてきた経験から、自身の手で資産運用をすることの難しさも非常によくわかっていました。

そんな折に、世界でFintech企業が次々と勃興し、新たな動きが加速していることを実感し、テクノロジーが巻き起こす新しいうねりに興味を持つようになっていったんです。Fintechを活用すれば、日本人にとって資産形成や資産運用が身近になるような改革を起こすことも可能ではないかと」 

 そして2015年12月、甲斐は社内外から優秀仲間を集めて、FOLIOを創業しました。 

創業時から優秀なメンバーが集まる。わずか2年で91億円の調達へ

▲創業期の旧会社ロゴと甲斐の写真

実現したいことやビジョンが明確であっても、立ち上げ時の仲間集めに苦労するスタートアップは多いもの。ところが、FOLIOの採用活動は創業期から順調すぎるほどだったといいます。

甲斐 「創業時のメンバーは8名ですが、デザイナー、インフラエンジニア、バックエンドエンジニア、フロントエンドエンジニアがしっかりと揃っていて、それぞれの分野でも相当な実力を持った存在ばかり。プロダクトのモックアップをすぐ作れる状況でした。理想的なチームを築くことができたのは、メンバーも自分と同じようにFintechのうねりを感じ取っていたからだと思います。『資産運用に興味はあるが手を出せない。技術やデザインによる金融変革の時代は来ている。』という意識もメンバー間で共有されていました」

Fintech事業の基盤を作るには、膨大なお金と時間の投資が必要です。早期の資金調達の必要性を感じていた甲斐は、創業からわずか2年後に91億円を調達します。  

甲斐 「91億の調達が完了した時、FOLIOはまだ第一種金融商品取引業者としての登録が完了して半年程度、プロダクトはβ版がローンチされたタイミングでした。つまりは、まだ試行錯誤を繰り返し、プロダクトマーケットフィットのためのPDCAを回している段階です。マーケットフィットする前の状態でこれだけの資金を調達ができたことは、当時の投資家の方々が我々の事業に対する理解と期待によるものです。本当に感謝しています。

よく、スタートアップは『資金調達しすぎてもよくない』とも言われています。たしかに、調達することで気が緩んでしまうパターンや、露出に費用を掛けすぎてしまうパターンもあるので、この忠告は半分は正解だといえます。

しかしながら、FOLIOの場合は証券会社、新たな金融サービス基盤を作るために大きな先行投資が必要でした。華々しいニュースとは裏腹に、証券と資産運用の仕組みをすべて内製化するために必死で開発をしていましたし、かなりの倹約主義を貫いてきました。オフィスの坪単価が1万円台を超えたことはなく、新しい取り組みをする場合にも、費用対効果を徹底的に重視していたんです」 

調達すること自体が目的ではないし、何のために調達するかが明確だった。そう振り返る甲斐は、資金を最大限に有効活用するため、裏側で開発を進めながら、表側では認知拡大と人材採用に向けて、メディア露出を続けていきました。

事業が想定通りに進まず、組織も崩壊。どん底で気づいたカルチャーの大切さ

創業以来、虎視眈々と“攻め”のモードで事業を作り上げてきたFOLIO。しかし、プロダクト改善を進める中で、自分たちの力だけではどうしても越えられない壁にぶつかります。

甲斐 「『ここさえクリアしたら、課題が解決できる』とわかっているのに、あと一歩のところで制度やコンプライアンスによる限界、外部連携などの制約に阻まれ、実現できないことが多かったんです」 

例えば、そのひとつに“郵送爆弾”と社内で呼ばれていたものがありました。 

甲斐 「FOLIOには、好きなテーマを見つけて、そのテーマに関連する10個ほどの個別銘柄をまとめ買いできる“テーマ投資”というユニークなサービスがあります。ところが、顧客がそのテーマを購入すると、それぞれの会社の株主総会報告書や決算資料が大量に郵送で送られてくるという課題が発覚しました。

たとえば、テーマを3つ買った人には、最大30社分の書類が届いてしまうわけです。周りの知り合いからも、Twitter上でも、『あれ、どうにかならないの?びっくりするんだけど』という声が上がってくる。なんとか電子化できないかと外部機関にも掛け合ったのですが、それら郵送物の制作・発送を請け負っている会社があることや、株主総会への出席率は郵送通知の方が高いといった理由から、業界として電子化が進みませんでした。 これは一例ではありますが、そうやって当社だけでは解決できない課題は山ほどありました。外から見たら、なぜアレやコレをやらないんだろう?って思われていたと思います 」 

マーケットフィットがなかなか実現できず焦りが募る中でも、株主がいる以上は会社を成長させなければなりません。課題に直面する中、LINE社と提携して大規模な開発を進めたり、マーケティングに大きく投資したりと、FOLIOは前のめりの勝負に打って出ます。 

甲斐 「2019年4月には、LINE社と全面協業で、“LINEスマート投資”というサービスをローンチしました。証券会社としては圧倒的な顧客獲得数をあげましたが、アクティブユーザー6000万人を抱えているLINEというプラットフォーム上のサービスとしては、満足のいく結果ではなかった。日本人の資産形成に関する興味の薄さ、口座開設にマイナンバーを提出しなければいけない手続きの煩雑さ、最低投資金額の壁など、構造上の課題も見えました」 

大きな投資を行い、綿密に準備をしてきた事業が予想以上に伸び悩む中、KPIと実績が乖離するにつれて、組織崩壊の足音が聞こえてきたと回想します。 

甲斐 「運用コストの高い金融システム、攻めのマーケティング活動、従業員100名以上の固定費が重なって、毎月大きな赤字が続き、『このままではまずい』という状況に陥りました。完全な先行投資型であり、Cost Efficientな事業領域ではないですからね。一歩間違えるとこうなります。

そこで、事業の選択と集中を行い、一部事業の縮小を会社として決断したんです。ただ、正直なところ『選択と集中』というのは聞こえはいいですが、不可逆な意思決定ゆえに、決断以上にやり方が非常に重要。この意思決定、特に社内コミュニケーションのプロセスにはいまだに大きな問題があったと思っています。やはり、結果として事業縮小はメンバーのモチベーションを大きく下げました。

もちろん、選択もあれば集中もあるので、次のコア事業に軸足を移そうと頑張っていくれていたメンバーもいるわけですが、少なくとも縮小される既存事業を作ってきた人たちからすれば大きなDisappointがあるわけで、一気に大量離職が起こります。

そして、もう一つ、私が絶対的にできていなかったことがあった。それがMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透です。その当時までの採用も、基本的にはスキルセット採用・履歴書採用という側面がありました。カルチャー醸成がしっかりとできていなかった。ここが組織離反を大きく加速させたと考えています。 MVVの浸透や、カルチャーフィット採用の重要性を身に沁みて感じました」 

試練の日々だったとはいえ、自身のメンタルモデルが大きく転換する良いきっかけになったと語る甲斐。リーダーシップを発揮すべきスタートアップの経営者にとって、自己肯定感は非常に重要な要素ながら、ときにその自己肯定感が仇となり、自分を客観的にみることができない状況(メタ認知できない状況)に結びついてしまうことを学んだといいます。

甲斐 「メタ認知ができないと、例えば会社で何かトラブルが起きたときにまず(自分以外の部分から)原因追及を行い、誰かのせいにしようとして結論を導いてしまいがちです。 もちろん、それでは何も解決しません。他方、経営者がメタ認知ができていれば、課題が顕在化した時に、まず自分の行動に原因を追求するようになるので、課題発見も解決も非常にシンプルで格段に早い。前述の選択と集中の話も、基本的には自分に原因があるはずなんですよ。そう考えると原因の発見も早いし、学びも深いし、次にも活きます」 

自己肯定感を否定することなく“自責化・メタ認知”のメンタルモデルの大切さに気づいた甲斐。苦境を強いられたことで、組織のマネジメントを行うリーダーとして、より一層の成長を遂げたのです。

6カ月かけてMVVを策定。苦境を乗り越えてひとつになった組織の強み

どん底を経験し、MVVの重要性に気づいた甲斐は、事業や組織を立て直す過程でMVV策定に取り掛かります。 

甲斐 「FVCC(=Folio Value Create Community)というMVVを作るコミュニティを発足させて、有志を募りました。たいへんな時期を乗り越えてFOLIOに残ってくれたメンバーは皆モチベーションが高く、積極的に参加してくれて。私が自ら議長を務めて毎回参加するというルールで、6カ月間、週1~2回議論を重ねました」 

MVV策定のために、相当な時間を費やしたという甲斐。まずは社内で編集者を務めるメンバーが甲斐に計4回、6〜7時間ほどのインタビューを行い、それを全て文字に起こし、その中で甲斐がよく口にするキーワードをピックアップ。『創業時からの想い』や『経験からの学び』といった言葉から、ありたい姿を実現するために重要な価値観を絞り込んでいきました。 

甲斐 「MVV策定に関しては話し出すと丸一日話せるくらい、全員で苦労して仕組みから作っていきました。Mission・Visionの作り方と、Valueの作り方も全然違うので、その辺りから全員で侃侃諤諤、議論をして定めていきました。またこの当時のことについてはこの後に続けて詳細をお話できればと思いますが、最終的に「変化、信頼、追求」という3つのバリューの軸が導き出されました。FOLIOは創業以来かなり突き抜けた社員が多く、また紆余曲折を経たがゆえの変化に対する強さがある。そして一番FOLIOらしい軸として、お互いへの信頼があります。

実際、採用面接に来てくれた方は口を揃えて、『社員の方はいい人が多いですね』と言ってくださる。これは、メンバーがみんなであの苦難を乗り越え、同時に誠実で『スマイル』や『サンクス』に象徴されるような信頼関係があるからだと思っています。それらを表現したバリューとして「突き抜ける・背中を合わせる・変化を楽しむ」の3つが紡ぎ出されました」

策定したバリューを全社に浸透させることに力を注ぐため、現在はコミュニティ名をFVCCからFVIC(=Folio Value Instinct Community)に変更。コア事業が確立されてきたことや、難局にあってもFOLIOで働き続けることを選んだメンバーが自律的に組織を運営してきたことで、社内も非常に活気づいてきたといいます。 

甲斐 「大規模な開発を行いますし、事業目標を高く掲げているので、これからも大変なことのほうが多いかもしれません。しかし、誤解を恐れずにいえば、今のFOLIOは“自己を最大限成長させられる環境”だと思っています。

楽して成長できるわけではないけれど、能動的に意見をいったり、行動したりすれば、それが事業や組織に反映される体制が整っているからです。自分がやりたいことで、自己を成長させられる環境といえるのではないでしょうか」 

FOLIOには、モチベーションの高いメンバーが揃い、熱量が伝播しやすい土壌が整った“打てば必ず響く”組織が構築できてきた、と甲斐は語ります。

甲斐 「自分にしっかりとしたスキルや考えがあれば、会社に対して十分に貢献できるでしょう。そして、結果として大きな社会的価値を生んでいく。そんなことが実現できる組織だと思っています」 

 (後編に続く)