新型コロナウイルス感染拡大をはじめとする多くの社会問題を抱え、先が見えにくい時代において、FICCでは、パーパスとは何か、ブランドマーケティングのあり方とは何かを常に問いながら、既成概念を打破する戦略と実行を続けています。FICCでは昨年から、「マーケティングにおいても、従来のやり方では生活者に適切な価値を届けられないブランドも存在するのでは?」と社内で話し合いを重ねてきました。コピー・ストーリー・アートディレクション・テクノロジーという4つの領域からトレンドを深掘りし、知識として資源にしていこうという試みです。

ストーリー領域で注目されたのが、「余白」です。近年、SNSなどで盛り上がりを見せるプロモーションは、生活者それぞれの視点をもって能動的に参加して楽しむことができるように余白を設けている施策が多い点に着目したといえます。このような余白を活用した新たなサービスを生み出すことができないかと、SNS専門の広告代理店である株式会社For youをパートナーに招き、ディスカッションを進めてきました。

異なる関心を持つ人との対話が、新たな視点を生む

今回は、両社のキーパーソンにインタビューを実施し、昨年10月から重ねてきた対話についてインタビューを実施。FICCからは、メディア・プロモーション事業部 部長・林信輔と、同事業部マネージャー・森田雄が、For youからはCEO・野田爽介氏とCOO・小栗淳貴氏にご参加いただき、両社がタッグを組んだ背景やこれからの展望などについて対談を行いました。

 

▲左上:FICC MP事業部 事業部長 部長・林 信輔 / 左下:同事業部 マネージャー 森田 雄 / 右上:For you CEO 野田 爽介氏 / 右下:COO・小栗 淳貴氏

森田 「FICCでは、これまでもプロモーションにおけるひとつの切り口として、ストーリーテリングを考察してきました。さらに近年は、ストーリーやプロモーションにおける余白が、体験にどのような関係があるのかに注目しています。For youさんは生活者との直接的な接点があり、生活者の文脈を捉えることに非常に長けていると感じていたため、ぜひ一緒に取り組めないかとお声がけさせていただいたんです。今は週1度のペースで『余白』をキーワードにディスカッションを進めています」

林 「For youさんでは、コンテンツ制作や企画をはじめ、ブランドとユーザーの距離感のなかにある余白をSNSなどで有効に利用しているという事例もあって、FICCで着目した余白と、現代の世相を表すようなSNSがどのように関わってくるのか考察したいと思ったのが始まりですね」

野田 「FICCさんはパーパス=社会的意義という価値観をもって、企業のあるべき姿を根本から見つめ直し、さまざまな取り組みをされていますよね。私は、それを法人の『人格』や『人間力』を大事にすることだと捉えていて、非常に共感していたため、今回もぜひ一緒に取り組ませていただければと思いました」

FICCでは、社員がそれぞれの「問い」を持ち寄り、社員間でディスカッションするワークショップを定期的に設けています。ディスカッションのなかでお互いの価値観を共有したり、そこで発生した課題を社内外でタッグを組んだりすることで、より良いアクションを探っていくのです。

森田 「FICCでは一人ひとりが専門性を持っていて、それぞれの興味や関心のあるテーマを大事にしていこうという考えが組織に根付いているんです。その根幹にはリベラルアーツの思想があり、個々の『問い』に向き合うことで、組織や社会にとって新たな視点を創出するという循環があります。そこからプロジェクトの種が生まれて、プロジェクト化するケースもあります。でも、すべての始まりは対話だと思います。

今回のFor youさんとの協業も、それぞれが持ち寄った問いをもとに、今までの固定概念や既成概念をどう覆すのか?そこに困っている人はいるのか?僕たちが持っている武器(ノウハウ)で解決していくことができるのか?といった話し合いを通じて、新しいサービスの切り口を探っているといえます」

「余白」がプロモーションを進化させるキーワード

林 「話し合いには、正解があるようでなかったり、なさそうであったりします(笑)。今回、For youさんとのディスカッションをはじめた際、『ストーリー上における余白』についての問いを2つ3つ用意して、その問いをきっかけに議論を深めていきました。

例えば、コンテンツにおけるストーリーの余白がどれくらいあると魅力的に感じるのかや、人の関係は余白に影響を受けるものなのか、などです。それは、SNS上のプロモーション施策における余白活用の研究でもあるのですが、余白に異なる視点を加えることで、既存概念のブレイクスルーになるテーマを見い出すためでもありました」

野田 「『余白』という表現は抽象的に聞こえるかもしれませんが、私たちはユーザーを巻き込むコンテンツを『公園の砂場』のように捉えています。例えば、道具のない砂場での遊び方は少し迷うと思うんです。しかしスコップがひとつあれば、子ども達は1人でも砂を掘ったり山をつくったりしてすぐに遊び始められます。友達や親がいれば、他人に観てもらうというモチベーションも加わるとも思います。

コンテンツの遊び方が1パターンに縛られず、複数の遊び方ができるいくつかのヒントが用意されているだけで、人は思わず心も身体も動くと考えているんです。余白100%のノーヒントでは考えることが多すぎて迷ってしまいますが、70%や50%、30%など、余白の適切なパーセンテージや、余白の見せ方・つくり方自体を設計できれば、ユーザーにとってより魅力的に感じるコンテンツを生み出せるのではないかと考えるようになりました」 

小栗 「例えばNike By Youというナイキのスニーカーをオンライン上でカスタマイズできるサービスがあります。シューズに自分の好きな表現を重ねることができ、自分でカスタマイズしたものを実際に履いて出歩いたりSNSで投稿したりと、自身の表現を発信できることがカスタマイズシューズの魅力です。

ただ、いま私たちが話し合っているのは、ブランドやコンテンツそのものに対して余白を設けることではなく、広告やプロモーション手法についてです。現状、多くのプロモーションは余白が少なく、掛け捨てのプロモーションに陥ってるケースが多いと感じているんです。

例えば、SNS施策ではプレゼントキャンペーンをTwitterで展開したり、インフルエンサーにPR投稿をしてもらったりするなどの手法が多く、掛け捨てのプロモーションになってしまっています。しかし余白のあるプロモーションは、ターゲットの能動的なアクションを喚起させることができ、コンテンツを連続したブランド体験に昇華させられるため、長期的なブランド運営にも活きてくると考えているんです」

ブランドパーパスを表現する「余白」の可能性 

野田 「For youでは、SNS施策などでもどうやったら人の心が動くかを丁寧に時間をかけて設計し、自信のあるものを提供しています。しかしその鍵である余白自体について立ち止まって考える機会があまりなかったので、FICCさんとご一緒させていただくなかで、言語化や因数分解を行い、解剖が進んでいることに大きな可能性を感じています。

このディスカッションは、消費者の心に届いて、かつ消費者が前のめりに参加してくれる、求心力のある企画や施策を何度でもつくれる仕組みやロジック、考え方を発明していくプロセスそのものと考えています。このプロセスを経てアウトプットすると、ブランドが未来の消費者により届きやすくなるのではないかと期待しています」

林 「コロナによって売上低迷に苦戦を強いられるブランドも多い状況ですが、ブランドパーパスという概念はブランドが中長期的に成長するためには必要かつ重要なものです。抽象的な概念は再現性が高いため、余白による濃い体験を生み出すプロセスを解明すれば、今後のプロモーションに大きく貢献できます。例えばもし、ブランドが持っている信念を世界観として設定して、コンテンツの枠組みでは、すべてのアクションがブランド体験になるような仕組みを実現できれば、ブランドの本当にやりたいことがきちんと伝わるのではないか、と。

ユーザーとの距離が近く、施策実行力のあるFor youさんと、ブランド理解に強いFICCが一緒になってこのプロセスを解明していくことに、今では使命のようなものを感じています」

森田 「『自由度があって楽しい』という感覚や体験を通して、消費者が知らぬ間にブランドの価値を一緒に育んでくれていることが、余白のあるプロモーションの理想かもしれません。遊びに近い行為や体験をしながら、よりブランドのファンになってもらえたら嬉しいですし、ブランドが本来伝えたいパーパスが伝わって広がっていくといいですね」

小栗 「類似した機能を使ったり、技術を真似して生産して、その後は価格競争が起きたりする闘い方はどうしても多く見受けられますが、現在は、商品がいいから買うというより、なぜそのブランドが好きなのかを考えて購買する人が増えていると思います。ブランドが体現したい WHY(なぜ)の部分がしっかりとユーザーに伝わり、その考え方にユーザーが共感して商品を購入し、その商品を使ってユーザーの理想的な自己表現にまでつながることがブランド本来の目的だと考えています。

ブランドの人格や魂をコンテンツに吹き込んで、ブランドの世界観に共感してくれる人たちと双方向でコミュニケーションが取ったりすることでブランドや企業自体のルーツやビジョンに少しでも触れてもらう。それがファンが生まれていく第一歩目として中長期的に重要なことだと考えており、そのコミュニケーション設計の鍵が今回の余白というキーワードでもあります。ブランドとユーザー双方に寄り添ったタッチポイントをつくることが、今回のFICCさんとの協業の意義だと思います。

For youでもブランドやブランドが向かうべき先についてもっと考えていく必要がありますが、その点はFICCさんに学ばせてもらいながら、ブランドの意義と弊社の強みである面白い企画アイデアを掛け合わせていきたいですね。そうすれば、どのようなブランドやメーカーに対しても、余白のある企画を生むことができると思います」

ブランドパーパスの表現方法のひとつであるという、余白。その余白について問いを持ち寄り、両社で話し合いを続けた結果、プロモーションにおける画期的な施策の可能性や、ブランドとユーザー間におけるコミュニケーションの多様性が明らかになってきました。ブランドにとって理想的なプロモーションを追求する、FICCとFor youの挑戦は続いていきます。