ブランディング・マーケティングを行う企業にとって、タレントの広告起用は非常に難しい判断を迫られる方策のひとつです。タレントさえ起用すれば売上が上がるわけではありませんし、企業のイメージが良くなるとも限りません。

では、私たちはタレント起用をどう考えるべきなのでしょうか。本来、タレント起用によって得られる利得とはなんなのでしょうか。また、テレビCMなどのマス広告を打っていくブランドしか、タレント起用の利得を得ることはできないのでしょうか。

このたびFICCでは、きゃりーぱみゅぱみゅや増田セバスチャンなどをはじめ、幅広いジャンルで活躍するタレントが多数所属するカルチャープロダクション、アソビシステム株式会社と「ブランド戦略に基づいたタレント起用」を実現するべく業務提携を開始しました。

アソビシステム代表取締役の中川 悠介氏、またFICCにて本取り組みを推進する馬場 雄一郎(FICC BX事業部マネージャー)が、タレント起用の際に持っておくべき視点について語ります。

▲左:アソビシステム・代表取締役 中川 悠介氏 / 右:FICC BX事業部 マネージャー 馬場 雄一郎

好感度ありきの起用は難しい

馬場 「中川さん、タレント起用って難しいですよね。ブランド広告やキャンペーンにタレントを起用するというのは、日本ではよく用いられる手法ですが、タレント起用の恩恵を捉えきれないままタレント広告を続けているブランドは多くあると思います。

たとえば好感度ランキングを参考にタレントを起用するケース。この起用法、短期的なアテンションの上昇に繋がることはあっても、ブランド自体の好意度向上には繋がらないことが、すでにいくつかの論文で示されているんです。

また一回限りの掛け捨て起用も多く見られますが、それではタレントが持つ “意味” をブラントに帰着させることができず、ブランドの資産形成には至りません

そうしたブランドのタレント起用に関して抱えていた問題意識をどうにか解決できないかと思ったのが、今回アソビシステムと業務提携を開始していくキッカケでした」

中川 「私たちも、芸能事務所の使われ方がただの“タレント起用”だけに終わってしまうことに課題感を感じていましたキャスティングしてCMや広告に起用するだけでなく、他にもブランドとの付き合い方があるだろうと。

たとえば、すでに実績のあるところで言えばタレントの視点を活かしたブランドコンサルティング。ただタレントが表に立つだけでなく、タレントがプロデューサーのような立ち位置でプロジェクトに携わるようなケースってあると思うんですね。

そういったかたちでブランドとタレントの距離を詰めていかないと、タレントが持つ資源を活かしきってもらえないと感じています。そこでブランドマーケティングを手掛けるFICCと一緒になることで、新たなタレントの資源を最大限活用する取り組みができると思っています」

タレントの一挙手一投足がブランドの資産に還元される

馬場 「そもそもタレントがタレントたる所以は、独自の視点、価値観を持ち、そして独自のオピニオンがあって、そこにファンが付いてきているという構図があるからですよね。特にアソビシステムに所属する方々は、みなさん独自の価値感をしっかりと持っているように思います」

中川 「そうですね、みな自分のやりたいことを持ち、自分のことを理解しているタレントが多いのはアソビシステムの特徴のひとつです。そして、特定のプラットフォームに依存しないタレントが多いのは、どのプラットフォームであってもファンの方々が着いてきてくれるから。だからこそ、届けたい価値を届くべきターゲットに届けることができ、さらに届く速度も早く、深みも増していくのだと思っています。

いままでタレント起用というのは“広告”中心で、ただメディアに露出するといったイメージでしたが、実際いまのタレント起用は“広報”や“マーケティング”といった意味合いの相談も増えているなと感じています」

馬場 「これまではタレントは“広告塔”として扱われていましたが、これからはより様々なシーンでタレントがブランドの“代弁者”となっていくのだと思います。だからこそ、好感度ありきや掛け捨てでの起用ではなく、ブランドが持つ価値観とタレントが持つ価値観がマッチするような起用が重要になってきますね。

ある研究によれば、タレント起用において、短期起用よりも長期起用の方が広告の想起率が高まることがわかっています。そのため、ブランドの価値観とマッチするタレントを長期で起用することで、タレントが持つエクイティ(価値)をブランドの活動に活かすことができるわけです。

要はCM外でのタレントの活動の一挙手一投足も、ブランドの資産に還元されていく形になり、またブランドの活動領域とタレントの活動領域が重なり合っていくことで、ブランドとしてはタレントの抱えるファン層へのアプローチがしやすくなるということです」

中川 「また、タレントの抱えるファン層へのアプローチという観点から考えると、タレントをブランドの企画会議やディスカッションに参加させたほうがいいと思っているんですね。なぜなら、ファンの方々が何に興味があり、何が好きなのかといったことを一番知っているのは、タレントのはずだから。

特にいまは社会そのものがマイクロコミュニティで成り立っていて、タレント個人も複数のマイクロコミュニティを抱えている時代。そう考えると、ブランドにとってもタレントの起用の仕方が変わってくるなと思っています」

「ブームではなく、カルチャーをつくる」ブランド戦略に基づいたタレント起用

馬場 「昨今のコロナ禍において、中川さんが感じている変化はなにかありますか?」

中川 「いろいろなことが変化していますね。以前であればオンラインでの取材や打ち合わせというのも考えられませんでしたし、ライブも生でやるものだと思っていたのが、いまではオンライン配信を行ったりと、様々な状況が変化しているなと感じています。コロナが収束した後もリモートワークは続けるべきだと思いはじめました。

これまでは “当たり前だったこと” を変えるって難しかったと思うのですが、いまはそうした当たり前が変化していくタイミング。それはブランドも同じみたいで、最近はブランドから『いままでと違う取り組みをやっていきたい』という直接の問い合わせも増えているんですね。なぜアソビシステムに声がかかるかと考えてみると、私たちは『カルチャーをつくってきたから』だなと。

カルチャーは、プラットフォームやフォーマットに依存せずにやれることが多いんです。そしてタレントというのは出演する作品等だけでなく、身につけているもの、日常的な言動など、全てを併せ飲んだ一人の“人格”として受け入れられる時代。

だからこそ、私たちはタレントが持つアイデンティティに常に目を向け、彼らのセルフプロデュース力を最大限引き出すことを通じてこれまでコンテンツ制作を行い、結果それらがカルチャーとしてこの国に根付いているのだと考えています。

そうしたカルチャーをつくってきたアソビシステムなので、単に芸能事務所としてタレント起用するだけでなく、企画を考えるところからブランドと一緒になったりと、多様な取り組み方、柔軟性のある取り組みができるというのが、ブランドからお問い合わせをいただけているひとつの理由だと思っています」

馬場 「これまでも中川さんは『ブームではなく、カルチャーをつくる』とおっしゃっていましたが、そこがFICCとしてやりたいことと似ているんですよね。FICCは、企業にブランドマーケティング支援をさせていただく上で、『トレンドではなくブランドをつくらなくてはいけない』という想いを大切にしています。そうした想いの根幹となる部分が同じだからこそ、今回の取り組みというのは非常に強固なコラボレーションになるのだと考えています」

タレントを有意義に起用する上で重要になってくるのが「ブランドマネジメント」と「タレントマネジメント」です。

FICCはブランドマーケティングの専門チームとして、10年以上そして100以上の戦略プランニングに携わってきました。また、アソビシステムはこれまで青文字系カルチャー、KAWAiiカルチャーを生み出してきたように、セルフプロデュース力を最大限引き出すタレントマネジメントを手がけてきています。

この二社が組むことで、ブランド戦略にアラインしたタレントを起用し、最適なチャネルでのマーケティング施策実施が可能になることはもちろん、そもそものブランド戦略の立案からIMC・プロモーション実施など幅広いソリューション提供が可能になります。

一時的な認知度向上のためのタレント起用ではなく、ブランドの代弁者・伴走者として、本質的なブランド価値への還元を目的としたタレントとの関係づくりを、私たちと実現していきましょう。