企業の社会的責任として、健康経営の取り組みは今後ますます重要性が高まる

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保健師として安全衛生業務全般を担いながら、従業員への保健指導・健康相談に加え、健康経営を進める上での計画策定・企画立案・推進・見直しと一連の流れを担当している吉冨。さらに、契約社員やパートタイマーの雇用契約管理、それに付随する人事諸手続きのペーパーレス化に向けた推進も担当しています。

吉冨 「企業保健師ですと、一般的には保健指導等がメイン業務になるケースが多いと思いますが、人事の安全衛生関連業務を一手に担い、他の人事業務も担当しているというのは珍しいケースだと思います。



健康経営を進める上で、一番の狙いは会社と従業員、そのご家族が互いに『幸せ』になることだと思っています。『well-being』という言葉が流行っていますが、まさに目指すべき方向性はここにあると信じて、日々活動しています。



当社の従業員の平均年齢は比較的まだ若く、これまで傷病で長期間休む方、亡くなってしまう方は、年に1件あるかないかという頻度でした。しかし、ここ最近、平均年齢が40代を超え、発生件数が少しずつ増えてきています。ご本人はもちろん、そのご家族に与える精神的・経済的インパクトは計り知れず、また会社にとっても一番脂の乗った働き盛りの戦力を失うわけですから、その損失はかなり大きいものになります」

一見、安定して勤務し続けているように見えても、その人が心身ともにwell-beingの状態であるとは限らないといいます。

吉冨 「他人の価値観を変えるのは本当に難しいことですし、その人のこれまでの人生(家庭環境や生育歴等)も大きく影響していることを思うと、なおさら、一筋縄ではいきません。それでも、ちょっとした『キッカケ』を提供し、それが少しでも積み重なっていき、『幸せな人生だったな』と思える人が一人でも増えることを願って、健康経営を進めています。


超高齢化社会が進む中、いかに健康寿命を伸ばして労働力を確保するか、医療費を抑制できるか、は生産年齢人口に属する内の生活習慣がベースになります。その面においても、従業員の健康増進に向けた活動は、企業の社会的責任としての重要度が将来的にも今後ますます高まっていくと思います。


終身雇用というよりは、今はキャリアップのため、いろいろな企業を渡り歩いたり、独立したりする人も増えている世の中ですが、在職中、当社が進める健康経営に触れることによって、当社を去った後も、その人の人生に何かしらプラスになることを残せるのがベストだと思っています」

「健康経営」を戦略的に推進することで会社に寄与し、自身の存在価値を見出したい

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最初に健康経営を意識しだしたのは2018年。「経営」という視点での関与は当時まだ薄く、産業保健スタッフの活動の一部という程度でした。

吉冨 「それまでも、従業員全員に対して健康診断後に産業医・保健師が面談を実施し、セルフケア研修開催のため全国各地の拠点50箇所以上を1年かけて横断する等、健康増進のための活動は続けてきていました。


そのような中、『健康経営』という考え方を耳にする機会があり、とても感銘を受けたことを今でも覚えています。コーポレート部門として、直接的に会社の利益を生み出す存在ではないけれども、こうした活動を見える化し、戦略を持って進めていくことによって、経営にインパクトを残せるということに、自分の存在価値を見出せる気がしました。何が効果的だったのか、直接的な要因は何だったのか等、数値化したり因果関係を明らかにしたりするのがなかなか難しい分野であるため、最初はどう戦略を立てていけばよいのか模索しながら突き進んでいました」

健康経営への取り組み以前から、富士フイルムシステムサービスは、同程度の規模感の他社と比較してもかなり手厚い安全衛生活動を実施していました 。そのため、本活動内容が、経営に与えるインパクトを金銭的な数字として見せることから取り掛かりました。

吉冨 「『健康経営』を進める上で、最初に行うべきことが『経営層の関与』と言われていることを知りました。そこで、社長による『健康経営宣言』を公式ホームページに掲載。さらに、当社の健康増進活動を紹介する新たなコンテンツを社外情報発信するなど、会社全体としての取り組みとなるように草の根運動を開始しました」

2年連続で、認定法人の評価500位以内に入り『ホワイト500』を取得

健康経営に取り組みだした結果、一番の成果は、二次検査率の向上でした。

吉冨 「これまでは、健康診断後に受診勧奨して終了というケースが多かったのですが、現在では、有所見者へ『健康診断後二次検査のお願い』を送付し、二次検査が完了するまで追い続けるという対応を実施しています。最近では、社内における認知度も上がり、二次検査率は2017年度が27.0%であった数値が、2020年度では88.6%とかなり向上しました。

健康診断はあくまでもスクリーニング検査に過ぎないということを認識してもらい、重症化する前に治療を開始できるという二次予防に繋がっています。


また健康経営に取り組みだして以降、健診受診率は毎年100%を維持しています。年度末に未受診の対象者に対して、最終的に本部長経由で受診勧奨をお願いしており、受診漏れが発生しないよう管理しています」

富士フイルムシステムサービスでは、半数以上が女性従業員です。特に30代・40代の女性従業員が多いことから、婦人科検診の受診率向上にも力を入れています。 

吉冨 「2015年度より、健康診断時に婦人科検診を同時に受診できるよう契約している全国の医療機関を見直しました。それにより、受診率が50%未満であったのが、80%を超えるほどに向上しました。


今後は、運動習慣率を伸ばすことにさらに力を入れていきたいと考えています。
年2回開催しているウォーキングイベントでは、コロナ禍においては積極的な参加への呼びかけは難しい状況でしたが、そのような中でも、毎回参加してくれる常連の従業員も増えてきて、社内のイベントとして定着してきていることを嬉しく思っています。今後は、まだ参加したことのない層にいかに興味を持ってもらうかが鍵になってきますので、さらに大きなイベントになるように力を入れていきたいです」

健康経営への取り組みが評価され、富士フイルムシステムサービスは2019年度以降、毎年、「健康経営優良法人(大規模法人部門)」に認定されています。

吉冨 「毎年、申請企業数が増え続ける中、2021年度、2022年度と認定法人の評価500位以内に入り、『ホワイト500』を取得しました。こういった認証が営業活動におけるプロポーザルの加点要素になるケースもあります。新卒・中途採用で当社の魅力をPRする上でも、この『ホワイト500』はとても重要な要素であると考えています。


健康経営の取り組みから得た一番の気付きは、取り組み内容と数値結果のつながりを図示することで、PDCAサイクルで回すことが可能になったことです。健康数値は、1年や2年で大きく変化が現れるものではありませんが、健康経営に取り組みだして5年目を迎える今、施策の効果を検証できる段階になってきて、おもしろ味を感じています」

保健師として『健康増進』という側面から、ワークエンゲージメント向上を図る

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自身の健康も追及。休日など、体を動かすことを心掛けている

今、健康経営を通じて目指していきたいことは、ワークエンゲージメント(仕事に対してのポジティブで充実した心理状態)の向上といいます。

吉冨 「価値観の多様化もあり、『働く』ことが全てではありませんが、やはり1日の1/3を働くことに費やしている現在の働き方を思うと、仕事を通じて活力・熱意・没頭が満たされているのは最高な状態ですし、それがその人にとってのwell-beingに繋がっていくと考えています。


健康増進を進めるだけでは到達できない目標であり、会社の風土や、営業利益、組織文化、業務内容、評価……など多くのことが起因します。まずは保健師としてできる『健康増進』という面から着手し、その中で従業員の方々からさまざまな声を聞く機会も多くあるので、現場のリアルな思いを経営に伝える橋渡しとして機能し、従業員のwell-being(幸せ)がさらに大きく広がっていくように、日々努力していきたいと思います」

吉冨は、富士フイルムシステムサービスで保健師として健康経営をリーディングしていく魅力をこう語ります。

吉冨 「私がこの会社の保健師として従事する上で、一番良いなと思っていることは、顔と名前を覚えられる人数規模である点です。当社は全国各地に拠点があるため、なかなか直接会うことが難しい従業員もいるのですが、そのような中でも名前だけは覚えられる規模感のため、一度接点があると、その後も繋がりを維持しやすく、何かあった際に相談を受けることも毎年毎年増えています。このアットホーム感を、今後も大切にしていきたいと強く思っています」