正解を伝えるのではなく、考える力を養うことを大事にする

薬学生の学びを支援するWEBサイト「薬学のレシピ」がリリースされたのは2021年。実習関連動画や国家試験対策、医薬品や調剤事例検索など、薬学生の学びに役立つ実践的なコンテンツを多数掲載しています。

多田 「日々頑張っている学生のみなさんを、もっと支援できるようなサービスがつくれないかという思いから、薬学のレシピは誕生しました。

薬学生は、とにかく忙しいんです。1年生は物理・化学・生物、薬学における基礎科目、2年生からは専門科目や実験など膨大な量の単位をとらなければなりません。4年生になると、実技やCBTと呼ばれる試験にクリアしなくてはなりません。

その山をやっと越えたと思ったら、今度は実習が始まり、同時期にインターンシップも開始され、研究や論文にも多くの時間を使います。そして最後には難度の高い国家試験が待っています。

このような並々ならぬ努力をして、薬剤師として日本の未来を支えていこうとしてくれている。そんな薬学生のみなさんを支援するサービスを届けたいと思ったんです」

「薬学のレシピ」のプロジェクトマネージャーとして、外部人材も含めた約10名のメンバーを率いる多田。ベンチャー企業のような規模感とスピード感で、サイト開発、コンテンツの制作、デジタルマーケティングやSNSの運用、関連企業への営業、さらに、会員数を増やすための大学への訪問など、プロジェクトに関わる幅広い業務をカバーしています。

このサービスを利用することで学習効率を上げ、さらには、より深い学びへのきっかけにしてもらいたいという多田。掲載するコンテンツづくりにおいては、ただ答えを提示するだけのサービスにはしないというこだわりを持っているといいます。

多田 「サービスの内容を考える段階で、多くの大学教員の方々に直接インタビューを行いました。その時に教わったのが、学生が自ら考える力をいかに養うかが大事だということ。

学習支援のサービスといっても、ただ正解を提示するだけでは、多くの参考書と変わりありません。薬学のレシピのコンテンツをきっかけにして、より深く考えることができ、何かを見出だしていく、それができれば、真に未来を支えていくお手伝いができると考えました」

検討のはじまりから、サービスローンチまで

実は「薬学のレシピ」のほかに、「実務実習指導・管理システム」という既存のサービスがあります。今年で10年目という節目を迎えるこのサービスは、薬科大生が実務実習をする際に利用するシステム。広く学生のみなさんに使われてきましたが、それらの接点を通じて感じた課題感から新サイトの構想が生まれます。

多田 「薬学生の中でも、特に5年生は、実務実習、研究、国家試験対策、インターンシップなど、重要なイベントを多く抱えています。そんな多忙な薬学生に、少しでも効率よく、必要な時に必要な情報を得られるようにしようと考えました」

忙しい日々を送る薬学生にとって役に立つサービスはどんなものか、調査を開始した多田たち。

多田 「さまざまな二次情報も参考にはなりますが、既存サービスのチャネルを最大限活用し、ネットワークのある大学教員や薬剤師のつてをたどって薬学生を紹介してもらうなどして、多くの学生の声を直接集めるようにしました。どのようなことに困り、どれくらい大変なのかをリアルに感じられたことは、プロジェクトを進めていくうえで大きな指針となりました。」

短期間ですが一気に情報を収集し、その情報をプロジェクト内で分析し、解決策を出す。そしてまた学生の意見を聞くことを繰り返し、課題と解決策をフィットさせていきました。

これを踏まえてサービス内容やビジネス構想を固め、会社に提案、事業着手の了解を得ることができ、いよいよプロジェクトは本格的に始動します。

多田 「そこからは、この構想を実現するためにフィットした企業や団体に声をかけ、win-win関係に同意してくれた企業、約10社と手を組むことで、一気にサービス化を進めていきました」

こうして、約半年というスピード感で、「薬学のレシピ」はローンチの日を迎えます。

現場再現の動画コンテンツ、患者と接する前にAI技術でセルフトレーニング

ローンチまでの業務の中で、力を入れたのは実習動画の作成だと振り返る多田。

多田 「薬学生は、実習として半年ほど病院や薬局に行くのですが、そこを舞台にした物語風の動画をつくったんです。登場人物は、実習生と指導薬剤師と患者。実習生が実際に起こりうるさまざまな課題に思い悩み、それに対して指導薬剤師がアドバイスをして解決するという構成です」

ドラマ仕立てにすることで、学生が自分を投影し、考えながら視聴することを想定したコンテンツづくりの姿勢にも、単に答えを教えるサイトにはしたくないという多田の想いが反映されていました。

そんな「薬学のレシピ」が次に目指すのは、AI技術を活用した薬学生のトレーニングサービス。城西大学とQualiagram(クオリアグラム)株式会社との共同研究を通じて、服薬指導に関する取り組みを進めています。

多田 「薬剤師が処方箋をもとに薬を調剤して患者さんに提供する時、正しい使用法などを説明する『服薬指導』が行われます。薬をただ渡すのではなく、そこでしっかりと患者さんとコミュニケーションを取ることが大切です。

しかし、実習で初めて服薬指導をする学生さんにとってはプレッシャーがあります。患者様の情報を聞き取り、必要な対応をするのですが、人の健康や命に関わるため、緊張する瞬間です。少しでも自信を持って実践に臨めるようにセルフトレーニングができるサービスがあれば、落ち着いて正しい服薬指導ができるようになると考えました」

研究中のセルフトレーニングシステムは、パソコン画面上で服薬指導の模範演技を見ることができ、それを参考に、今度は自分が話すことで、AIが、表情、話し方を数値化し、模範演技との類似度を判定するというもの。

多田 「判定では、総合点数だけでなく、パートごとに、表情の種別(笑顔の度合いなど)の情報が提供されるため、判定の結果が良くなくても、どこが模範演技と乖離しているのかを知り、改善することができます。一人でパソコンを相手に気兼ねなく繰り返しトレーニングができるため、実践の日までに少しでも自信をつけてもらえたらと思います」

学習支援サービスが次に目指すのは、社会を支えるインフラ

自らが立ち上げたサービスをさらに充実させるため、日々試行錯誤を重ねる多田。今後は薬学生以外も対象に、対象を広げて事業拡大する検討を進めています。

多田 「今年から理学療法士、作業療法士向けの実習システムの提供も始めました。今後も、社会福祉士や精神保健福祉士といった、いわゆるソーシャルワーカーの領域への展開も視野に入れています」

一つのサービスから、同じセグメントの市場にスケールしていくノウハウは、公共領域の仕事に従事していた過去の経験を活かせているといいます。 

多田 「公共分野では、標準的なパッケージシステムを全国で展開することを得意としています。 その経験が、全国の大学や企業への展開に大いに役立っています。

いっぽう民間分野では、多様な市場にリーチしていて、かつ、ひとつひとつのクライアントに深く入り込んで、深いレベルで業務や課題を理解している。また、さまざまな企業と組んで公共分野よりもスピーディーに事業を立ち上げることができると感じています。

私は公共分野と民間分野の両方に関わってきたこともあり、顧客思考という共通のDNAに加えて、それぞれのノウハウやメソッドを掛け算することで、他にはないユニークなやり方で事業創造できる、これが面白いところだと感じています」

公共領域と民間領域の利点を掛け合わせることができるのは、どちらの領域でも実績を積み重ねてきた富士フイルムシステムサービスならではの強み。薬の領域で生まれた一つのサービスは、同じニーズを抱える他の多くの領域へと展開され、スケールアップしていきます。

多田 「今は特に新型コロナウイルスの影響もあり、遠隔で学習できるサービスのニーズは高まっています。まさにニューノーマルな世界が出来つつあり、その中で、新しい未来を支える学生にとって、欠かせないインフラのようなサービスに出来たら嬉しい。

ビジネスとして会社に貢献するだけではなく、いまそこにいる学生にも、そして社会にも大きく貢献できる。そんなやりがいがこのプロジェクトには詰まっています」 

ビジネスとしての可能性だけでなく、多くの人のためになるサービスづくりに携わることに誇りを感じる多田。

その熱い思いで、社会に価値あるサービスを増やすために歩み続けます。