経営トップの革新的な考えから生まれた、極めてユニークな教育機関

アパレル領域で世界№1を目指す、ファーストリテイリンググループ(以下、FR)。いま全社変革を強力に推進し、「情報製造小売業」という新しい産業をつくろうとしている。この一大変革期に求められているのが「FRの未来をつくる人」だ。こうした次世代経営者人材の育成を経営トップと直結で行っているのが、FR Management and Innovation Center(FR- MIC)だ。

FR- MIC統括部長の内藤聡は「FR- MICとは、経営トップである柳井正の革新的な経営への考え方から生まれた、極めてユニークな教育機関だ」と話す。内藤は25歳でユニクロ英国事業、35歳でユニクロドイツ事業の立ち上げとCOOを経験。その間、国と地域や文化的背景の違いを超えて、企業に、そしてFRに何が求められているのかを考え続けてきた。

内藤 「世界で必要とされ続ける企業とは、自分たちが何者で、何を目指しているかを明確に宣言し、自分たちのビジネスを通して人と社会に貢献する企業です。

だからこそFR- MICでは10年以上前から経営理念を中心に据えた経営者人材の育成と、人と組織のイノベーションによる全社改革の仕組みづくりを行っています。

FRのステートメントは『服を変え、常識を変え、世界を変えていく』、使命は『本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供』することです。この経営理念を実現・実行するために、私たちは『GLOBAL ONE 全員経営』という考え方を重視した教育を展開しています」

FRは「経営理念とその実行」に徹底的にこだわった経営を行っている。いま急ピッチで進められている全社変革は経営理念に基づいて、「お客様がほしいものが、いつもある」を実現させるためだ。当たり前のように聞こえるが、これを完全に実現した企業は世界中を探してもどこにもない。だから、全社変革によってお客様起点の情報で全部署がつながる、「情報製造小売業」への進化が必須なのだ。

そしてまた、全社変革の推進と社員一人ひとりの「個の成長」は不可分な関係にある。FR- MICはこのビジョンをグローバルで13万人を超える従業員に共有し、経営者人材と全社改革を有機的につなぐ仕組みをつくっている。相乗効果でFR全体の成長を牽引するのが、FR- MICのミッションだ。

全社員のチカラを最大化させる。そのための多角的な経営者人材の育成

FR- MICの教育プログラムは多様多彩だ。経営トップの柳井と店長の対話セッション、各国事業経営者とのワンテーブルでの経営課題のディスカッション、世界的なトップマネジメントのコンサルタントや経営学者とのワークショップなど、錚錚たる経営者や専門家が情熱と多大な時間を注いで、多角的な人材育成を行っている。

内藤 「私たちが考えるFRの未来をつくる人、本物の経営者とは、経営者のあるべき姿を自らが体現し、未来を語り、ハンズオンで人と組織を動かして全社変革を実行・実現する人です。

そのため、すべての教育プログラムは『全世界のお客様のため、そしてFRの成長のために何を実行するか』という、具体的な課題解決に落とし込んでいます。

そうすることで、経営者人材がFR- MICでの学びを現場で活用し、仲間と共有して磨いて実行力を高めていく。それが組織の知識として蓄積・更新され、全社変革とFR全体の成長の原動力になります。FR- MICの狙いは、まさにここです」

グローバル人事部統括部長でFR- MIC部長を兼任する安藤和弥は「社員一人ひとりの能力を高め、全社員のチカラを最大化させることによって、全社変革が実現できる」と話す。

安藤 「経営者人材育成というと、一部の幹部候補を対象としたプログラムを想像されるかもしれませんが、当社の経営者育成は全社員が対象です。

新卒社員を経営者に育て上げるのはもちろんのこと、やる気があれば『アルバイトからでも経営者』になることができる、それを世界中のどの店舗からでも実現できるような教育や人材発掘の仕組みを構築しようとしています。

その課題解決の一つが、店舗スタッフを対象とした『販売員教育』です。FRでは、グローバルで約13万人の店舗スタッフが活躍しています。お客様との接点である店舗で働く社員は、ユニクロやジーユーなどのブランド価値を高め、未来をつくる人たちです。

店舗スタッフ一人ひとりが、経営者マインドをもった販売員として活躍すると、誰も気づいていないお客様の潜在ニーズをつかめるようになります。

世界中の店舗スタッフとグローバルヘッドクオーター(日本にあるFR本部)の担当者がチームを組んで、お客様を起点に商品開発や業務改革を進めたらどうなるか。

それこそFRの使命である『新しい価値を持つ服を創造』する最強の集団になります。これが、全社員のチカラの最大化による全社変革であり、私たちの目指す『GLOBAL ONE 全員経営』の実践です」

経営者になるために、自らを鍛え上げられる環境

安藤は新卒でP&Gジャパンの営業に入社し、営業企画として主要ブランドの販売戦略やトレードマーケティングを任されていたが、未経験の人事でFRに転職した。その経験を踏まえて、「これほど人に期待し、成長を求める企業は希有。成長意欲の高い人ほど、どこまでも能力と活躍領域を広げられる」と話す。

安藤 「私の場合はFRの人事部に入社し、最初の仕事はサプライチェーン領域の組織改革でした。半年後に同チームのリーダーとなり、その半年後にはユニクロ香港事業に出向し、人事兼FR-MICとして人材育成に従事しました。

いずれも未知の領域でしたが、前職では想像もしなかった形で全社改革の一端に携わることができました。入社から一貫して『人と組織』に向き合ってきた結果、入社3年でグローバル人事とFR-MICの部長を任せられています。

FR- MICのメンバーはトップ経営者と一緒に教育課題に取り組むことも多く、日常業務の中で質の高い経営者教育を受けることができているとも言えます。非常に恵まれた環境ですが、その分、バリューの高いアウトプットを求められます。

常に次のフェーズに向けた課題解決を実行し、進化する組織なので、多角的な視点や知見を持った新しい仲間が活躍できる領域は広い。企業内教育の専門家というより、むしろ、商売に強い人、事業の立ち上げから成功までハンズオンで進めた経験やプロジェクトマネジメントに優れた人が、手腕を発揮して活躍できる部署です」

内藤 「FR- MIC統括部長の私が一番鍛えられているかもしれません。就任から約2年で、まだまだ未熟で発展途上ですが、ビジネスパーソンの筋力というか、困難を伴う課題解決と実行力が相当上がりました。

柳井との1 on 1ミーティングでは、私の想像をはるかに超えた視点と視座からの指摘を受け、その達成への提案を求められます。そのたびに、自分の実力不足を痛感させられますが、難しい課題であればあるほど挑戦への気持ちが高まることは確かです。

FR- MICに求められるのは既存の教育プログラムやメソッドを超えた、これまでにない経営者人材育成です。既知の事実を教えるだけの研修では目的を達成できません。

前例がないチャレンジの連続で、正解はどこにもなく、自らの手で答えを導き出して実行していかねばなりません。難易度は非常に高いが、人と組織の新しい価値を生み出したい、現状に満足せず新しいチャレンジをしたいと考える人には、さらなる高みを目指せる条件がそろっています」

FR- MICは柳井自身が全力投球でかかわっている組織だ。経営陣との議論の機会も多く、経営の根幹に直接触れられる。また、トップレベルの外部講師陣との密なコミュニケーションから、マネジメントや最先端の人材開発についての学びも多い。実際、FR- MICを経て執行役員や各国の事業責任者や、若手で各国事業の経営参謀になる人が何人もいる。

グローバルで活躍する、本物の経営者を輩出する組織へ

FRの主要ブランドであるユニクロは、25の国と地域で2000以上の店舗とECを展開している。企画(商品開発)・製造・販売まで自社で行っているので、サプライチェーンも巨大だ。そのため、グローバルな経営者人材の質と数を高めることが、全社改革の推進で必須だ。

安藤 「FRは、日本発のグローバル企業です。すでにユニクロは海外の売上が国内を上回るグローバルブランドに成長しています。

まだ進出していない国や地域も数多く存在していますから、世界各地で日本と同じように展開、浸透することができれば、これまでのアパレル業界の概念を超える規模と存在感を示すビジネスに成長するチャンスがあると思います。

このチャンスをつかみ、私たちがもっと飛躍するには、国や地域を超えて事業展開を推進する強靭な経営者の育成が急務です。

さらに、『グローバルで活躍する本物の経営者になれる企業』を具現化できれば、世界中から優秀な人材が集まり、さらなる成長加速を実現できます。この課題を即解決したい。社外からも新しい仲間を募り、FR- MICも進化させないといけません」

内藤は企業内教育が与える影響の大きさと可能性の広がりを感じている。

内藤 「FR- MICは経営者人材育成機関ですから、私たち自身が本物の経営者のあるべき姿を目指して、新しい価値を創造していきたい。ここで学んだ経営者人材の『個の成長』がチームへ、事業へ、そして全社変革にとつながり、その波及によって経営者人材が育つエコシステムを築きたいと考えています。

FR- MICで習得できるものは、すべての経営者に通じています。自分を含めてFR- MICのメンバーには、どの事業や組織からもグローバルで活躍する経営者として求められる人になっていただきたい。

そのためには『FRの未来をつくる人』へと自らを鍛え上げてほしいと思っています。そして、FR- MICが本物の経営者を輩出し、FRを必ず世界№1にする。さらにはFRを経営者輩出企業と呼ばれるまでにしたい。非常に高いハードルですが、挑戦する価値があります」

FRは完全実力主義だ。年齢・性別・国籍などに関係なく、グローバルに活躍する場と機会がいくらでもある。FR- MICはスタートラインやバックグラウンドが異なっていても、「個の成長」によってポテンシャルを最大限に引き出そうとしているのだ。

FR- MICが目指しているのは、どのポジションからでも、教育を通して真の意味での経営者を輩出する、究極のエコシステムの創出なのだ。