先端テクノロジーとデジタルの活用で、店舗での購買体験に巨大な変化の波が訪れている

▲デジタル業務改革サービス部 部長の石川 尚

ユニクロやジーユーで買い物をして、変化に気づいた人も多いのではないか。セルフレジが増え、スタッフに在庫確認を依頼すると手元のデバイスで素早く検索するなど、買い物の仕方が少しずつ変化しているのだが、こうした購買体験の向上は、ファーストリテイリングが最新テクノロジーへの大型投資を進め、ITの力で販売スタッフの働き方を変革しているからだ。

この変革のためのITチームを率いているのが、デジタル業務改革サービス部 部長(RFID・IoT、店舗領域)の石川 尚(42歳)だ。

石川 「ファーストリテイリンググループの使命は、『世界中のお客様に、世界最高の購買体験を提供する』ことです。そのためには、顕在化されたお客様の不満はもちろん、不満とすら思っていない『わずかな不都合』も、すべて解消したい。

これを可能にするのが、ITを中心とした先端テクノロジーです。すべてが『お客様起点』であることが、ファーストリテイリングのIT部門と他社との大きな違いです。だから、情報システム部という、ありがちな部署名ではなく、デジタル業務改革サービス部なんです」

ITで購買体験を向上させた事例が、グループブランド商品へのRFID(ICチップと小型のアンテナで構成されたタグ)の導入だ。

これにより、年間で販売される約13億点がいつ、どこに、どれくらいの数があり、どう売れているかを可視化し、「お客様の欲しいものが、いつもある」という商売の理想の姿に近づいている。石川は「RFID導入もそうだったが、チャレンジできると感じることが他社と比較にならないほど多い」と話す。

全社の業務を横串で見て、改革を提案・推進できるのがIT部門

▲ファーストリテイリングでは『現場・現物・現実』の三現主義を徹底している

石川は大学卒業後、自衛隊に一般幹部候補生として入隊し、その後IT関連企業を経て北京でMBAを取得し、ファーストリテイリングに入社した。

現在、石川が率いる店舗IT&RFIDチームは、在庫管理、決済、計画、そして購買体験向上の4つの柱で全社の業務改革を進めている。

石川 「これまでアパレル業界は、人の手で問題を解決する労働集約的な傾向が強かったのですが、ファーストリテイリングは、それは既に過去のものであると考えています。

実際、RFIDの導入で、店舗での売場づくりや在庫管理といった業務改善を超えて、全世界の店舗と販売スタッフの生産性アップ、さらにはサプライチェーン全体の改革にまで発展しています。

いわば、私たちはファーストリテイリングにおける全業務のプロセスを最適化させる部署と言えるかもしれません。なぜなら、全社の業務を横串で見て、ITの力で何をどう変えられるかを提案・推進できる、専門性の高いチームだからです」

しかし、変革のスピードと業務改革における要望は、とてつもなく早く、高い。石川は、この難題の解決にどのように取り組んでいるのだろうか。

石川 「私たちは事業会社のIT部門ですから、経営方針とそれを展開する事業環境をベースに、課題を解決していきます。

そこには、ビジネスマインドとお客様視点が絶対に必要です。特に、ファーストリテイリングは『現場・現物・現実』の三現主義が徹底しています。IT部門のプロジェクトマネージャーであっても、ビジネスアナリストであっても、一般的な職務範囲に止まっていては、革新的な業務改革は実現できません。

どんなポジションでも、非常に細かいところまで店舗業務を理解し、お客様や店舗のスタッフにどういうインパクトを与えられるか、自ら確かめて進めることが求められます。そこに面白さとやりがい、充実感を求める人には、存分に実力を発揮できる環境です」

石川は、グローバルで活躍できるのも、ファーストリテイリングのIT部門の大きな魅力だと話す。

グローバルで世界中の先進企業とワンチームで業務改革を推進

▲2019年秋、イタリア初となる店舗をミラノにオープン

日本の東京・有明にあるグローバルヘッドクォーターのデジタル業務改革サービス部のメンバーは、海外出張が多い。

なぜなら、ファーストリテイリンググループは、26の国と地域で3500以上の店舗とECを展開し、世界最高水準の業務を、グローバルで各拠点が同じように行うことを目指しているからだ。となると、それを支えるシステムも、全世界で同じであることが望ましい。

石川 「当社はグループ全体で『GLOBAL ONE』を掲げて、国やエリアごとの地域最適ではなく、全体最適の実現を愚直に進めています。だから、私たちも全世界どこにでも行きます。IT部門は、単なる『情報システム担当』ではなく、ワンチームで業務改革を行う仲間。

だからこそ、自分たちの手で、全世界で約13万人いる社員がより働きやすく、お客様により良い購買体験を提供するための変革を推進している、という強い実感があります」

グローバルな展開は、世界中のIT関連企業とのコラボレーションでも広がっている。各国の大手企業からベンチャー企業まで、先進技術を持つさまざまな企業とともに、業務構築を行っているからだ。

石川 「経営陣からは、『ITが業務をつくるように』といつも言われています。業務の全体最適を実現させるのは、先端テクノロジーと実際の業務とを適切につなげられるのが、私たちだからです。世界各地に拠点があり、世界的な企業と協働できるファーストリテイリングでは、IT人材もグローバルな活躍ができます」

確かに一般的な日本企業の情報システム部とは、仕事の内容がかなり異なる。しかし、その分、一般的な「情報システムの仕事」というステレオタイプな考えは、一度捨て去ったほうがいい。

3倍の仕事量。だが、3×3以上のスピードで成長できる

▲世の中の誰も実現していない改革を実行するため、”仮説構築能力”が常に求められる

ファーストリテイリングの店舗業務改革におけるIT部門の影響力は、急拡大している。

「私たちにない経験と技術、発想力をもった新しい仲間が必要だ」と、石川は訴える。SIerなどIT関連企業だけでなく、コンサルティング会社や事業会社の経営企画や事業企画で、経営陣を巻き込んだ業務改革の経験者にとっては、とことん実力を発揮できるチャンスだ、と話す。

石川 「当社の店舗業務改革のIT領域人材は、ビジネスアスリートであることを求められています。矛盾と矛盾の間に挟まれて、問題解決をしていかねばなりません。一般的な企業の情報システム部門の3倍の仕事量ですが、その二乗、いやそれよりもっと速いスピードで成長できます」

ファーストリテイリングは完全実力主義だ。国籍も性別も年齢もバッググラウンドも関係なく、実力さえあれば大きな仕事と責任を任せられる。世界の先進企業との協働でIT技術を磨き、ネットワークを広げられる。しかし、そこには欠かせない素養があると言う。

石川 「中でも仮説構築能力が、常に求められています。私たちがやろうとしているのは、まだ世の中の誰も実現していない、ITの力による革新的な業務構築と改革です。

答えがあるわけでもなく、当然、既存のパッケージもないですから、自分たちで、最適な組み合わせの仮説を立てて、システム構築していく。非常に難易度が高いですが、自分たちで選択できる自由度が大きい。

常に最速のスピードで成果を出すことを求められている、ヒリヒリとした緊張感がありますが、そういう環境にいるからこそ、自分でも想像していなかったパフォーマンスを発揮できる。

チームでプロジェクトを推進し、収益への貢献度も、はっきりと数字に現れる、しかも、自分が手がけた業務改革を、形として店舗で見ることができ、お客様やスタッフの喜ぶ様子がわかります。だから、達成したときの喜びは、何倍も大きくなる。私自身もそうですが、自分とチームの成長に限界はないと、日々、実感できます」

情報システムの枠を超えて、リアルなビジネスの中で可能性を広げられるのは、間違いない。