コロナ禍の中だからこそ、リモートでできることを

日本では鎌倉時代の武家社会において広く受け入れられ、以降、生活や芸術、言葉、精神性などさまざまな面で人々に大きな影響をもたらした「禅」。最近は、スティーブ・ジョブズが生前中に熱心に取り組んでいたということや、シリコンバレーを発端に今や世界中で盛んに行われている「マインドフルネス」の源流としても、あらためて注目が集まっています。

そんな禅宗寺院であり、日本における禅寺としては最も古い時代に創建されたものの一つでもある臨済宗建長寺派・東光禅寺(神奈川県横浜市)。エータイ提携寺院の一つとして、10年以上にわたりお付き合いのあるお寺です。

禅を少しでも多くの人に体験してほしいと考え、東光禅寺では長年にわたって坐禅会や写経会を盛んに開催してきました。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大によって、今年2月を最後にそうした催しを開催することが困難になってしまいます。

その中で、「坐禅が自分を調える貴重な機会だったので残念」、「お寺との接点がなくなってしまったようで悲しい」などの声が多く届いたことから、小澤住職は何かできることはないかと考え、4月中旬からオンライン坐禅会を開始します。

小澤住職 「以前はオンラインでの坐禅など想像すらしておらず、むしろ懐疑的でした。しかし、外出や経済活動の自粛などによって社会全体にストレスや不安が渦巻く中、少しでも皆さんに己と向き合い心穏やかに過ごしていただく機会となるのであれば、と考えました」

口コミやSNSなどによる影響もあり、すぐにオンライン坐禅会には多くの人々が参加するようになりました。今では毎回80~100名近くが熱心に坐を組み、日本語と英語のバイリンガル対応をしていることもあり、禅に関心の高い外国人も多数参加しています。

小澤住職 「これまで坐禅に関心があっても、遠くに住んでいる、育児中である、仕事で時間が取れないなどの理由で実際にお寺に足を運ぶのが難しかった方にとって、自宅からでも参加できるということでそのハードルが大きく下がったのではないでしょうか」

参加してみて感じた「つながる」ことの有難さ

2020年7月22日の夜9時前、Zoomを使って東光禅寺が開催するオンライン坐禅会に入室すると、そこではすでに多くの人々が開始時間を待っていました。顔を出して参加されている方を見回すと、性別、年代も実にさまざま。ご夫婦やお子さんと家族そろってカメラの前に坐っている方も少なくありません。また外国人も多く見られます。

やがて小澤住職があいさつし、簡単な姿勢と呼吸の説明とストレッチの時間があった後、画面が切り替わり木板(もっぱん)と呼ばれる木の板を住職がたたきます。「カンッ、カンッ」と心地良い木の乾いた音に耳を傾けると、徐々に心が静まっていくのがわかります。

小さな鐘が4回鳴り終わると、いよいよ約15分の坐禅が始まります。「疲れを感じている方は、時々軽く体をほぐしながらでも構いません」と小澤住職。微動だにしてはいけない、といったこれまでの坐禅のイメージと異なり、気持ちよく坐ることができます。

ふと目の前のパソコンの画面に目をやると、そこには同じように熱心に坐る多くの参加者の姿が。見ず知らずの関係であるにも関わらず、このオンライン坐禅会を通して不思議な一体感と安心感、つながりを感じることができたのが、とても印象的でした。

いつの間にか坐禅に没頭していると、「チーン」という鐘の音であっという間に15分が終わったことに気がつきました。最後に合掌一礼をして終わります。その後、休憩を取りながら小澤住職が日本語と英語の両方で10分ほどお話をされます。

小澤住職 「新型コロナの影響だけでなく、先日は豪雨による大きな被害もありました。こうした事態が起こるたび、私たちは自然の圧倒的な力や命の儚さ、死とどう向き合えば良いのかといった難しい問題を突きつけられます。それはすぐに答えが出るものでもなく、またこれからもずっと背負っていかなければならないものなのかもしれません。

ただひとつ確かなことは、今この瞬間、私たちはオンラインとはいえこうしてお寺を中心に集い、幸運にも静かに自己と向き合う時間を与えられているということ。それは決して当たり前のことではありません。

『当たり前』の反意語を『有り難い』と申します。まさに有難きこの命とこの機会に感謝し祈るように坐る、ぜひそんなひと時にしていただきたいと思います。姿勢と呼吸を一すじに、心がまっすぐになる時間を過ごしてください」

続いて2回目の坐禅を行った後、短いお経を一緒にお唱えし、坐禅会が終わりました。

小澤住職 「世界中でさまざまなことが不確かな状況ではありますが、『明日は決して闇ではなく光であると信じ、この一日一日を全うして生き抜いていく』ことが何よりも大切です。仮に闇のままであったならば、その時は自らが光となって周りを照らせば良いことです。

まさに、今を生かされていることへ感謝をすること以上の修行はありません。皆さんが一生懸命に坐禅に精進されているお姿を拝見し、私も勇気づけられました。ありがとうございました」

小澤住職が最後のあいさつをする間、多くの方が首を大きく頷かせていました。その後、清々しい表情で退室していく参加者の様子が深く心に残りました。人はひとりでは生きていけない、つながって生かされている。喧噪を離れ気持ちよく心静かに坐る中で、そんなことを考えさせられた貴重な体験でした。

ちなみにこの日は延べ16カ国からの参加があったとのこと。国際色豊かなその多様性にも驚かされました。


参加者の声──ご住職に心救われる

オンラインでもバックグラウンドが異なる中で一人ひとりがつながって心を調えることは、臨済宗の原点につながるものがあるとご住職は話します。コメント欄に寄せられたコメントからも坐禅会がどれだけ参加者に大切にされているかが伺えました。

参加者A 「坐禅会ありがとうございます。一回目は小澤住職のお顔を拝見して、声を聴いただけで安心して涙が出てきました。ウイルスへの恐怖と不安、先行きへの心配が心に溜まっていたのでしょうね。
坐禅会で静かな感情で自分と向き合えたと思います。東光禅寺さんという静かな環境でなく、自宅でもこんな体験ができることに驚き、感謝です。こんな状況ですが、いろんなことを見つめ直す大きなチャンスでもあるのかと捉えております。坐禅会が心の支えになっておりますので、このままぜひ続けてくださいませ」

参加者B 「Thank you for your thoughtful message. You are so kind to offer this service to those of us overseas. It really means everything to me, and I’m sure a lot of people. Leaving Japan was difficult, and this is a such an amazing to maintain that connection, but on a spiritual level, which supersedes all.
(訳:ご住職の思いやりあるメッセージにとても感謝いたします。ご住職は海外の私たちに対しても、親切にこのサービスを提供してくださっています。それは私だけでなくきっと多くの人にとって、本当に意味のあることだと思います。個人的には、日本を去るのは苦しかったんです。でもこのような形で日本とのつながりを持ててとても驚いています。リモート坐禅会により精神的なレベルでつながっていると感じられます)」

参加者C 「外出自粛の中でも、何か楽しみを見つけて子どもたちと毎日充実した日々を過ごす努力をしているものの、なんだかモヤモヤが残る日々です。
そんな中、家族で坐禅に参加することができ(7歳の次男は途中で寝てしまいましたが)家族みんなが何かスッキリした、坐禅したせいかよく眠れました。また、他の参加者の方々の様子を見ることができ、お寺を通じてのつながりやご縁を感じ、心が温かくなりました」

TV番組や動画を見る機会が増えた昨今、音を消し坐禅をして『心を統一する時間』をつくることが今の私たちに必要なのかもしれません。

「丁寧に今を生きる」ということ

坐禅会の後、あらためて小澤住職に話を伺いました。

小澤住職 「禅や仏教の奥深さやその精神性、今の時代と社会に向けたメッセージなどをいかにわかりやすく発信し、より多くの人に親しみを持って触れていただけるかを常に考えています。
まだまだ仏教の世界には『新しい取り組みへのハードルが高い』という印象がありますが、守り継ぐべきことは守り、変えるべきところは変えていく姿勢で何事にも柔軟に取り組んでいきたいです」

ちなみに小澤住職は、海外の大学院を経て民間企業に所属し、開発途上国における日本の政府開発援助の広報担当をしていた経歴の持ち主。その経験は海外の人々に禅を伝える一助となっていました。

新型コロナの影響を受ける以前、お寺には旅行者や日本在住外国人をはじめ、国際会議の出席者、米軍基地の関係者、留学生など多くの外国人が坐禅に訪れていたといい、その様子は「Japan Times」や海外の大手通信社をはじめとするメディアにも多く紹介されました。

小澤住職 「禅の修行では、何も坐禅や読経ばかりしているのではなく、日々の『日常茶飯』、つまり掃除をしたり料理をしたり、洗濯や裁縫をしたり、畑で野菜を育てたり、といった何気ない日常の行いもすべて修行であると考え、心を込めてそれらに打ち込んでいきます。

日本人の暮らしにはもともとそうした精神性が宿っていたと思いますし、そうした“丁寧に今を生きる”というマインドセットが、慌ただしい現代において海外の人々をもひきつけているのだと実感しています」

新型コロナは社会全体に大きな影響を与え、お寺でも多くの人が集うことが難しくなっています。一方で、何もかもがリモートやオンラインに依存してしまうことの危うさも小澤住職は指摘します。

小澤住職 「今、物理的に会えなくてもネットがつながってさえいれば問題ない、とする風潮が見られますが、仮に何かの問題でまったく電気が使えない、ネットが使えないとなったら社会はどうなってしまうのか。より大切なことは、まさに一人ひとりの地に足の着いた生き方、心の持ちようなのではないでしょうか。
たとえば、オンライン坐禅会中にネットが途切れてしまい続けられなくなることもあるかもしれない。しかし、そこで不必要に腹を立てたり、がっかりしてしまうのでは本末転倒。“その際はどうぞスイッチを潔く切って、それぞれの場所で引き続きしっかりと坐禅で心を調えてください”とお伝えしています」

現代においては、法事やお葬式、お墓参りなどを通じた関わりといった印象の強いお寺や仏教の世界。しかし、本来はそうした先祖供養だけではなく、常に変化し続ける「今」をいかに生きていくかという、まさに現代を生きる私たちのためのものなのかもしれません。

小澤住職 「もちろんオンライン坐禅会にも参加していただきたいのですが、いつか心配なくお寺に集うことができるようになった際には、ぜひ、東光禅寺やそれぞれお近くの禅寺での坐禅会などにも実際に足を運んでいただき、その歴史や人々の数多の祈りによって紡がれてきた場の力というものを感じていただきたいと思います。きっと、本来の己の心というものと向き合うきっかけにもなるはずです」

何気なく通り過ぎているお寺の一つひとつに、それぞれの歴史と人々の想い・祈りがしっかりと根づいている、と小澤住職。

新しいものを取り入れ必要に応じて変化し続けると同時に、守り抜かれてきたこともしっかりと受け継ぎながら今を丁寧に生きていく。そんな力強いメッセージをいただいたような気がしました。