医薬品候補を最適な“かたち”で患者さんに届ける製剤研究

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▲入社以来、製剤研究に従事しています。実験のための出社と在宅ワークを上手く活用し、コロナ禍でも効率良く研究を進めています

私は2023年2月現在、製剤研究所に籍を置き、再生医療の製剤研究に携わっています。製剤研究にとっての最大のミッションは、創薬研究により見出された有効成分をヒトに投与できる“かたちにする”こと。初期創薬を担当する研究部門から見いだされた医薬品候補を患者さんに最適な“かたち”で届けることを目的とした研究です。

「医薬品候補を最適な“かたち”で患者さんに届ける」という製剤研究のゴールに到達するには、候補化合物の物性をしっかりと把握し、どの剤型にするのがベストかを薬理や化学などの他の部門の研究者と議論したり、工場で問題なく生産できるかどうかを生産部門の方々と議論する必要があります。製品の上市を見据え、そうやって社内のさまざまな部署と試行錯誤することが、製剤研究のおおまかな流れになります。

製剤研究の特徴は、研究の初期から、医薬品として上市された後まで、ひとつのプロジェクトに長く携わることだと思います。研究、開発、生産のステージだけでなく、販売後も製剤について責任を持って対応しています。たとえば、「錠剤をもう少し小さくできないか」といったドクターからの製剤に関するフィードバックに関する対応を検討しているメンバーもいます。

もちろんわれわれは研究することが仕事ですが、研究することが目的ではなくて、医薬品を世に出し、それによって患者様の病気を治したり予防したりすることが目的です。目の前の研究にこだわることも重要ですが、もっと重要なのは、その先を見据えながら、コストとスピードのバランスも考慮し、いま何をすべきで何をしないべきかを見極めることが肝要だと考えています。

有望なシーズも薬の“かたち”にする人がいなければ、患者様のもとに届けられない

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▲製剤研究で使う実験機器の一つ。革新的な医薬品を創るため、設備拡充も日々検討しています

私が医療に関心を持ったのは小学校のころ。人の困りごとをなくしたいという想いが発端でした。幼いながらに、プラスのものをさらにプラスとするような研究開発よりも、マイナスをゼロにする仕事に携わりたいと思うようになり、医師になろうと考えていました。

創薬のほうへと関心が移ったのは、看護師をしている母の影響です。医療分野の仕事について教わる中で、「医師となって1日に何十人かの人を診察するより、薬ならば、世界中の人々を助けられる」という想いからでした。

以来、その想いを軸として進学先を選び、大学では薬学を専攻。修士課程を修了した後、製薬会社に就職する道を選びました。

数ある製薬会社の中でも住友ファーマ(旧大日本住友製薬)を選んだ理由は、人を大切にする会社という印象を受けたことです。複数の製薬会社が選考中に座談会を用意してくれていましたが、その中でも、住友ファーマの人事の方が同じ目線で熱心に対応してくれて、「就活生のことを一番ちゃんと見てくれている」と感じました。

また、会社説明で、研修制度について詳しく教えてもらい、人を育てることに重きを置いていることも印象的でした。人を大切にする文化がある会社だと感じ、この会社でなら医薬品の研究をしながら成長していけると思い、入社を決めました。

製薬会社の研究職と言うと、薬理研究をイメージする方が多いと思いますが、私が製剤研究の道を選んだのにも理由があります。大学の勉強では薬理や薬物動態研究にもおもしろさを感じましたが、ちゃんとした製剤をつくる人がいないと患者様のもとには届けられない、というものづくりの大切さに惹かれました。

仮に有望な医薬品候補が研究で見つかったとしても、それが薬という“かたち”にならなければまったく意味がありません。医薬品を薬という“もの”として世の中に届ける仕事こそが社会貢献の扉なのだという想いから製剤研究を志し、いまに至っています。

抗がん剤の治験薬を大量に準備した経験が危機管理やコミュニケーション面での糧に

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▲日々議論を積み重ね視野を広げることで、研究開発を前に進めています

入社後、研究の初期から生産に移管する手前まで、さまざまなプロジェクトに関わってきました。

これまで携わってきた中で特に印象に残っているのが、抗がん剤の製剤研究のプロジェクトです。初期臨床試験段階に進んでいて、臨床試験のスケジュールに合わせて治験薬を提供することが私のミッションでした。

当時、そのプロジェクトでは、治験薬を社内で製造しており、製剤研究所としては、大量の製剤をつくらなければなりませんでした。治験に参加してくださっている患者様はがんを患っている方々なので、「治験薬の供給が治験のスケジュールに間に合わずに投薬できない」という状況は他のプロジェクト以上に避けなければなりません。

しかし、製造に関して、予期せぬトラブルが多発しました。開発部門や品質保証部門の担当者と毎日のように打ち合わせをしながらスケジュール通りの提供に向けて必死で対応しました。なんとか、投与期間中の約1年間一度も欠品させることなく、治験薬を提供し続けることができました。

この経験を通して、製薬のプロセスでは何が起こるかわからないということを学びました。あらゆる可能性を考えて、脳内で何度もシミュレーションする癖がつき、危機管理の面で以前よりうまく対応できるようになったと思います。

また、さまざまな分野、専門性の方とコミュニケーションを重ねた経験も、いまの仕事に活かせていると感じます。

現在、製剤研究者として再生医療のプロジェクトに携わっています。プロジェクトを進めていく中で、再生医療の研究を行うバイオロジストと製剤の研究員とでは、創薬研究に関する思考プロセスが異なる部分があり、研究に関するディスカッションをしていても、上手く話が噛み合わないこともしばしばあります。

ただ、抗がん剤の治験薬の製造で四苦八苦した経験から、こちらの意図を相手に正確に伝えるためにはどうすれば良いかを考え、議論の前提となるような部分まできちんと説明するよう心がけるなど、情報の範囲や量を工夫する習慣が身についていました。今では、立場や専門性の異なる研究員とディスカッションする上で、非常に助けになっていると感じています。

より困難な製品開発に向けて挑戦し続ける姿勢を大切に

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▲もともと、細胞培養は専門ではありませんでしたが、社内の専門家から教わることで習得しました

再生医療のプロジェクトに参画してから、当社の研究開発が進むことを待っている患者様がいることをドクターから聞いてからは、患者様に治験薬をお届けできることのやりがいを、より一層強く感じるようになりました。

再生医療は細胞や組織を移植する医療なので、従来の医薬品と違って、患者さんに投与する“もの”が生き物であることが大きな特徴だと思います。そのため、人工的に培養した細胞や組織を外科医の先生が移植する際、些細なミスや遅延が大きな影響を及ぼします。

そこで、どんな手順をとればミスなく移植できるかを体系化することが私の役割です。また、低分子医薬品の錠剤などと違って再生医療の製品は使用期限が極端に短いのが特徴です。それを可能な限り長くするなど、医療現場での扱いやすさを向上するための処方検討にも取り組んでいます。

最近の再生医療分野では、製剤とバイオロジーの研究の両方を理解できる人材の重要性が指摘されるようになってきています。当然のことながら、かなり難易度の高い仕事が求められるポジションですが、再生医療のプロジェクトに約5年携わってきたことで、製剤の専門家としてバイオロジストと円滑にコミュニケーションが取れるようになってきました。

再生医療は、“もの”としてかたちにするのが特に難しい分野と言われていますが、長く関わってきた自分だからこそできることがあると感じています。これまで培った知識とスキルを活かしてあえて難しいところにチャレンジし、引き続き再生医療の実用化に向けて邁進していきたいと思います。