プロセスケミストとして低分子医薬品の安定、安価、安全な原薬の製法確立を目指す

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▲実験にはプロセス化学の醍醐味がたくさん詰まっています!

私が所属しているプロセス研究所(以後、プロセス研)では、薬の有効成分となる化合物である“原薬”を、工場で安定的かつ安価に、そして安全に作るための工業的製造方法を確立する研究を行っています。

プロセス研は、低分子医薬品を扱うグループと、抗体・核酸・ペプチドなどの新規モダリティ(※1)を扱うグループとに分かれています。さらに、低分子医薬品を扱うグループは、第3相臨床試験の後期開発ステージの候補化合物を主に担当する第1グループと、私の所属する第2相臨床試験より前の初期開発ステージの候補化合物を主に担当する第2グループに分かれています。

※1 新規モダリティ:「まだ一般的に使用されていない医薬品」や「使用され始めている医薬品」。中分子と呼ばれるペプチドや核酸関連化合物、抗体修飾剤、遺伝子治療剤、mRNA、再生・細胞医薬などを指す

低分子医薬品の研究の初期段階では、メディシナルケミストと呼ばれる探索合成を行う研究者が化合物の合成を行います。数多くの化合物の中から、有効性、薬物動態、安全性のクライテリアを満たした候補化合物が見いだされたタイミングで、プロセス研究がスタートします。

探索合成段階での化合物の合成方法は複数の候補化合物を合成する中で見いだされたもので、合成量は多くても100g程度です。数kg~数十kgレベルの化合物量が必要となる工業的な製造方法として最適とは限りません。そのため、我々プロセス研のミッションは、プロセスケミストとして、新たに安定、安価、安全という条件のもとで大量生産できる合成ルート・製法を考えることです。

当社では「メディシナルケミストとプロセスケミストは密接に連携して、創薬研究をスピードアップしていこう」という考えがあります。当社のメディシナルケミストが所属する化学研究ユニットとプロセス研が同じ研究棟で研究を行っており、日々、気軽に情報交換が行える環境があることは、当社の研究の強みの一つだと感じています。最近は、それぞれの部署の若手研究員が社内で交換留学のような形で部署を異動して、連携を深める取り組みも行っています。私も入社2年目にメディシナルケミストの仕事を1年間担当し、創薬研究を広い視野でより深く学ぶことができました。

幸せな人生には健康が不可欠。触媒化学の専門性を活かせるプロセス研究

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▲キログラムスケール合成を行う実験室の風景。製造前のパイロット実験などを行います

大学時代は触媒化学の研究をしていました。特に、まだこの世にない新しい化学反応性を持った魅力的な金属錯体触媒の探索に没頭していました。触媒は、ほんの少量を加えるだけで反応の速度を高めたり反応性を劇的に変化させたりすることができます。私の取り組んでいた研究は、効率よく目的の化合物を合成できる条件を探すという点においては、安定かつ安価な合成方法を探す医薬品のプロセス研究にも本質的に似ていると感じています。

ただ、私はもともとは製薬に強い興味を持っていたわけではありませんでした。触媒化学を専攻していた研究室の先輩方は、どちらかというと化学メーカーに就職する方が多く、製薬企業に進む方は少数派でした。

そんな私が製薬企業に関心を持ったのは、飼っていたペットが痴呆症になってしまったことがきっかけでした。大学に通いながら介護をしていたのですが、その日々の中で「ただ生きながらえる状態は、真の意味で生きているということはできるのか?」と次第に考えるようになりました。そこで、「幸せに生きられる状況とはどのようなものか」と考えたとき、「健康が何よりも大事だ」と思い至り、製薬企業に興味を持つようになりました。

また、「プロセスケミストは自分の専門性を活かせる」と思ったのも製薬企業に興味を持った理由の一つです。化学反応では、試験管レベルのスケールだと上手く進む反応が1〜2リットルの大きなスケールになると失敗するということがよくあり、私の大学時代の研究も同じ課題に直面しました。そのとき、スケールを大きくすることによって起こる挙動を見極めることでその課題を解決できて、「これはおもしろい!」と思い、プロセス研究が自分に合っていると感じました。

住友ファーマのことを知ったのは就職活動を始めてからです。当時、母が飲んでいた薬のラベルに大日本住友製薬(現:住友ファーマ)と書かれているのを見たのがきっかけでした。アンメットメディカルニーズの高い精神神経領域、がん領域、再生・細胞医薬を重点領域として取り組んでいる点が、「人が満足に生きるためには何が必要か?」という自分の価値観とマッチし、入社意欲が高まりました。

企業研究者としての成長と患者さんの健康に貢献できる喜び

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▲最新機器を駆使して反応中にどんな現象が起きているか確かめます!

我々が確立した製法で製造した候補化合物はヒトに投与することになります。そのため、プロセス研究では原薬の品質にも細心の注意を払う必要があります。原薬に不純物が混じっていると、不純物を除くか、安全性に問題がないことを証明しない限り、投与することができなくなる可能性もあります。そのためにも、まずは小さなスケールで実験したときのデータをきちんと分析して、「その不純物がなぜ生成されているのか」、「どうすればそれを減らすことができるのか」を抜け漏れなく検討していくことが重要です。

これまでの仕事で特に印象的だったのは、入社1年目にプロジェクトで、原薬製造におけるトラブルの解決をメインで任されたことです。医薬品の製造まで持っていくことの難しさを経験しつつも、先輩のサポートもあり無事、期限内にトラブルを解決することができ、大きな達成感を得ました。ただ、それと同時に、もしトラブルが解決できていなかったらどれほど悪影響が生じただろうかという恐ろしさも想像してしまいました。時間や成果にそこまで縛られない大学での研究と違って、期限までに成果を出すことが求められる社会人としての責任が芽生えた出来事でした。

仕事で一番やりがいを感じるのは、研究で成果を上げることが、ダイレクトに会社への貢献につながり、それがひいては、患者さんの役に立っていると思えることです。原薬の製造が成功すれば、その先に臨床試験があり、製品となってさらにその先にいる患者さんへと届けられていきます。我々が患者さんと直接顔を合わせる機会は多くはありませんが、社会的意義のある仕事に携われていることを、とても誇りに思っています。

“ひらめき”と“情熱”を持って挑み続ける。科学者として成長できる恵まれた環境

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▲若手研究員だけで集まって闊達にディスカッションすることも多いです

企業に入ってプロセス研究に携わるようになってわかったことがあります。それは、大きなスケールでうまく反応させるためには、うまくいかない要因を一つひとつ潰していくだけでなく、科学者の“ひらめき”も大切だということです。“思いつき”に近いレベルもありますが、新しい仮説を立てて試してみると、劇的に改善することがあります。

それを見つけることがプロセス研究の醍醐味だと感じますし、その体験がどんどんクセになっていく感覚がありますね。

将来的には、プロセスケミストなら誰が見てもあっと驚くような反応ルートを見つけてみたいですね。業界の注目を集めるような研究成果を、学会や論文誌を通じて発信できればと思っています。

社内では、若手が研究内容を発信できる機会が豊富に用意されているので、その中で自分の考えをまとめたり、ベテランの方からフィードバックを受けたりしながら、新たな発見ができるんです。そんな恵まれた環境の中で、プロセスケミストとして成長していけたらと思っています。

まず何よりも、自分の考えを貫くパッションを持って挑戦していける人がプロセスケミストに向いていると思います。期限を意識しつつも、自分のひらめきとアイデアで課題にがっぷり四つでぶつかって解決していける情熱を持った方と一緒に働けたらうれしいです。