大学院ではタンパク質の機能解析を研究。そこから企業への就職を決意した理由
私が住友ファーマに入社したのは、2015年。新卒で入社しました。現在はリサーチディビジョンの基盤技術研究ユニットという部署に在籍しています。
主な業務はインシリコ創薬研究です。コンピューターやAI技術などを用いながら、計算科学によりコンピューターの中で薬を創ることです。具体的には、医薬品の候補化合物、いわば“薬のタネ”を見つける研究をしています。ハイパフォーマンスコンピューターを駆使することで、人間では解析できないような膨大な計算をすることが可能になるのです。
このような研究内容は、会社に入るまでは経験がありませんでした。
学生時代は工学系研究科で生物のタンパク質の機能解析をしてきました。大学4回生から6年間、タンパク質の機能解析を中心とした研究に没頭し、博士後期課程を修了しました。
博士号を取得した後は、アカデミアで研究を続けるという選択肢もありましたが、私は、企業へ就職するという道を選択しました。
なぜかと言いますと、私は研究だけをし続けるのではなく、研究を通してモノ・製品を世の中に出したい。出すことで社会貢献していきたいという想いを強く持っていたからです。
アカデミアの研究においてメインで行うのは、研究成果を論文として世の中に出すことです。しかし私の中では、論文を出すことよりも、自分の研究を社会に還元することに挑戦したいと感じていました。そのため、企業に入って、世の中に製品を出すことに携わろうと思いました。
また、企業の方が、腰を据えて研究ができるのではないかというイメージもありました。
アカデミアで研究を続ける場合、キャリアがステップアップしていく際、大学を移るケースが多いです。実際、先輩方を見ていると、数年間、海外での経験を積んだ後、日本へ戻ってこようとしても最適なポストがなくなっている、というケースがあることを知りました。
その一方、企業での研究職に就けば、会社内での異動はあるかもしれませんが、ひとつの組織の中で研究を続けることができますし、その方が自分には合っているだろうなと思ったのも、企業への就職を選択した理由のひとつです。
また、就職活動を通じて、社内に創薬研究に関する様々な分野の専門家がおり、協力しながら研究できることを知り、魅力的に感じていました。実際に、入社後も、年齢など気にせず気軽に質問やディスカッションができる環境であるため、広い視野を持った研究者へと成長できる環境と感じています。
新しいことに取り組める就職先を探して──出会ったのは、インシリコ創薬
大学ではタンパク質の研究をしていましたが、就職先を考える際に「タンパク質研究の専門性」だけにこだわりたいとは考えていませんでした。
会社に入ってからもこれまでと同じ領域の研究を続ければ専門性は深まりますが、その一方で、視野の狭い研究者になってしまうという懸念もありました。
そのため、これまでの専門性と掛け合わせることで、高いレベルの研究者として成長していける別領域の研究に取り組めないかと考え、就職活動に臨んでいました。そのような中で、当社の面接があり、面接官から「配属先として、インシリコ創薬分野の仕事をお願いしたいのだけれど、いいですか?」と言われました。
新しい分野に興味があったこと、もともと計算科学分野に興味があったこともあり、この言葉に、「ぜひお願いします」と返答しました。こうして、住友ファーマに入社することになりました。
実際、入ってみて思うのは、どんな分野を経験してきたにせよ、様々な視点から物事を捉え、考えるのが好きな方は、この部署に向いていると思います。インシリコ創薬では、創薬の上流から下流まで様々な分野のデータを扱うため、好奇心を持って創薬に取り組み、考え抜くことが大事だと感じています。
このような経緯で出会った、インフォマティクスの分野。この領域は変化が早く、新しいことを日々取り込んでいくことが必要です。
現在は、その中で「薬のタネ」になりそうな物質の候補を見つけるために、社内の実験データや、公開されている文献データを組み合わせて解析をしています。そういった研究の中で見つかった「薬のタネ」の有効性や安全性の実験を他部署の研究員と協力して進めています。
初期研究だけじゃない。広いステージで研究開発に関われるやりがい
ひとつの薬が研究を始めてから世の中に販売できるまで、およそ15年かかると言われています。
現在、入社して6年が経ちましたが、自分が携わったプロジェクトが実際に薬として世の中に出せたという経験はまだしていません。
そんな中でも、モチベーションを高く保ちながら研究に取り組むことは重要です。
これまで解析があまり進んでこなかった疾患のデータ解析を行い、まだ臨床開発の候補品には達していませんが、「薬のタネ」を見つけることができ、自信に繋がりました。まだまだ“薬”とするには多くの課題がありますが、薬の開発を待ち望んでいる患者さんを救うための大きな一歩になったと信じています。最近の技術の進歩により、情報が順調に集まってきているところなので、引き続き尽力していきます。
その他に、開発部門と協働して、臨床試験の計画を立てる際にデータ解析の観点で提案も行っています。
例えば、精神神経疾患の診断では、診断方法のエビデンスが不足しているなどの理由から、診断時にドクターの主観が混じってしまい、同じ患者さんを診てもドクターによって診断がばらつくという課題があります。そのため、精度の高いデータを取得するために定量的に判定できる指標を治験に組み込む必要があり、私から計測すべきパラメーターを開発部門に提案することもこれまでに経験できました。
このような形で、幅広いステージで創薬に関われることも、私にとっては大きなモチベーションになっています。
それに、他人からのフィードバックがある環境というのは嬉しいものです。一人でストイックに研究をするのもいいのですが、やはりいろんな人達と一緒に仕事を進めることに、よりやりがいを感じるタイプなのだと思います。
「データから創薬を変える」、住友ファーマだからこそできること
誰もやったことのない、新しいことに挑戦していると、課題にぶつかることも多々あります。
たとえば、扱うデータの質と量が我々にとって理想的な状態ではないことは、インシリコ創薬を進める上では大きな課題です。創薬研究に活用する観点から「質も量も高い」という状態の臨床データは珍しいのが実情です。
しかし、今の状況を改善するために、我々、製薬企業のデータサイエンティストが、データ取得に関しても要望を伝えるなど、働きかけていくことも必要だと感じています。
現在、創薬研究への活用も意識した臨床データの取得について、臨床医の先生との共同研究を行う機会も頂いています。また、質と量以外に、さまざまなデータを取っていくことも大切です。直ちに治療には繋がらなくても、「もしかしたらこんなデータが治療や創薬に役に立つかも知れない」という考えの基、試行錯誤をしながら前向きにデータを取り続けていくことも必要と考えています。
また、当社にはiPS細胞の研究をはじめ、世界トップクラスの研究分野が多くあります。この環境を活かして、先端技術と掛け合わせたバイオインフォマティクスを実現することも可能でしょう。実現できれば、課題解決につながるだけでなく、研究者として働くやりがいにも直結すると思っています。
このように、インシリコ創薬はまだまだ発展途上の領域です。
これからは、さらに臨床データを扱う機会が増えてきます。データを最大限活用し、「データから創薬を変える」ことで医薬品の創出に貢献していきたいです。