安全な薬を創る。最も難しく、その分大きなやりがいを感じられる仕事

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▲「守り」の研究と思われがちな安全性研究。実は大きなやりがいを感じられる「攻め」の研究です!

私は、医薬品候補剤の非臨床安全性研究を担当しています。

安全性研究は、候補剤の研究開発ステージに合わせて安全性を評価するための戦略を考え、それに従って毒性試験を行い、臨床試験や市販後のヒトでの安全性を担保していく仕事です。

多くの候補剤では、研究開発を進めていく過程で毒性面での課題が出てきます。たとえば、毒性試験で動物の肝臓に毒性が認められたり、心機能への影響が認められたりするなど。

そのような時は「毒性があるからダメ」と判断するのではなく、まずは「どのような毒性なのか」を明らかにし、さらに「この毒性はなぜ起こるのか」「ヒトでも同様に起こり得るのか」などを動物や細胞、in silicoなどの様々なツールを用いて検証していきます。

非臨床試験で発現した毒性所見を適切に解釈してヒトでの安全性を考察することは、安全性研究をする上で最も難しく、その分大きなやりがいを感じられる場面だと思います。

安全性研究の特徴のひとつは「関わる研究開発ステージが多岐にわたる」という点です。多くの候補剤の中から医薬品にふさわしいものを見つけ出すという初期段階のテーマから、既に臨床試験が始まっているテーマまで、幅広く評価に関わります。

さらに、当社の安全性研究では、扱う候補剤の種類も様々です。低分子化合物はもちろん、最近では再生・細胞医薬や核酸等の安全性評価も行います。

また、候補剤の研究開発ステージや種類に応じて、社内の他の部署のメンバーと連携することが欠かせません。たとえば臨床試験前の低分子化合物のプロジェクトに安全性担当として関わる場合、薬理、化学、薬物動態といった研究部門に加え、開発本部や技術研究本部など他部門のメンバーと協力し、臨床試験を開始するために必要な対応を進めていくことになります。

さらに、グローバルで研究開発を進めていく候補剤については、海外の子会社とも協力してプロジェクトを進めています。私自身も、担当している候補剤の安全性評価の結果について海外の安全性のメンバーとメールやウェブ会議で議論を重ね、両者が納得した上で候補剤を次の研究開発ステージへと進める、ということを経験できました。

このように、当社の安全性研究では多岐にわたるテーマを扱い、それぞれについて他部門や海外のメンバーと協働で非臨床安全性の評価を進めていきます。

“毒性はマネジメントするものだ”──固定概念を覆してくれた当社の研究者

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▲大学時代の経験から、非臨床から臨床への「橋渡し」をする仕事がしたいと考え、安全性研究者を志しました

大学時代、私はヒトの病理学を扱う研究室に在籍していたのですが、その研究室の特徴は、がん患者さんから外科的に切除したがん組織を利用して研究ができるということでした。

私はがんの進行に関わっていると思われるある因子に着目し、患者さん由来の組織を用いてその因子の発現意義を調べると同時に、培養細胞などを用いてその因子がどのような働きをしているかを調べていました。

これらの一連の研究は、いわゆるトランスレーショナル研究(基礎研究から臨床研究の橋渡し)といわれるものですが、大学時代の研究を通して、培養細胞や動物を用いて得られたデータとヒトの組織から得られるデータとを紐づけることの難しさ、重要性を強く感じていました。

こうした経験から、非臨床から臨床への橋渡しを意識する立場で仕事をしたいと考えるようになり、製薬企業を中心に就職活動を行いました。

最終的に当社を選んだきっかけは、会社説明会で実際に安全性研究に携わっている社員の話を聞けたことでした。実は、説明会で話をしてくれた方と現在も同じ職場で働いているのですが、その方がおっしゃっていた「毒性はマネジメントするものだ」という考え方に惹かれたのが、入社の決め手となりました。

この方が伝えたかったことは「毒性がどのような性質のものなのかを見極め、きちんとマネジメントすることが大事である」ということだと解釈していますが、この言葉を聞いたとき、安全性研究に対する考えが大きく変わりました。

というのも、当時の私は「毒性の課題があるものは候補から省き、安全性に問題がない候補剤を前に進めるんだろう」というイメージしか持っていませんでした。

しかし、当社の安全性研究の実際は、そのイメージとは大きく異なるものでした。安直に「No」という判断を下すのではなく、「ヒトへ安全に投与することができるか?」を問い、その問いに答えるためのデータを取得することが実際の仕事であると気付きました。

また、必要に応じて毒性評価系を新たに構築し、毒性評価の精度を高めていくことも重要な業務のひとつであるとわかりました。

実際に私自身も入社2年目に国内大学への派遣の機会があり、「ヒトに投与して初めて顕在化する毒性を実験室レベルで再現するための基盤研究」に取り組みました。派遣先の持つ基礎技術を当社での安全性研究に応用するため、派遣先で手技の習得や試験系のブラッシュアップを行い、社内で毒性評価系の立ち上げを進めました。

毒性評価の精度を高める研究に携わることができたこと、特に非臨床と臨床でのギャップを埋めるための研究にチャレンジできたことは、非常に良い経験になりました。

“一歩一歩、進んでいる”ことを実感。当社のチャレンジングな環境

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▲再生・細胞医薬の安全性評価では、iPS細胞由来の細胞製品を患者さんに投与する治療法の確立を目指しています

私は現在、精神神経領域のプロジェクトのほかに、再生・細胞医薬分野の安全性評価も担当しています

本分野は当社が世界に先駆けて取り組んでいる領域であり、「こういう毒性試験をすれば良い」というルールが未だ整備されていない分野です。

現在、iPS細胞由来の細胞製品を患者さんに投与する治療法の確立を目指していますが、製品の性質や投与方法が従来の医薬品とは大きく異なっており、それに伴い想定される副作用も異なると考えられています。

たとえば、細胞製品を開発する上で最も懸念されるのは、製品となる細胞をヒトに移植した時にそれが腫瘍化するのではないかという点で、安全性評価のポイントのひとつと考えられています。

また、細胞製品をヒトに投与する時には手術が必要となることから、手術手技そのものの精度や安全性の評価が必要と考えられるケースもあります。

このように、細胞製品の安全性を評価するためには、製品ごとに評価方法について規制当局に相談し、必要に応じて評価体制を整えていく必要があります。

実際にこれまでに経験のない新たな試験を実施する必要があった際には、社内外の多くの方の協力を得て試験実施体制の整備を進めました。細胞製品の研究を担当する再生・細胞医薬の研究開発を専門としている社内メンバーとは密に連絡をとり、大学や研究機関の先生との相談を重ね、さらに、実際に試験を実施いただく関係会社には何度も足を運んで、試験を実施するための体制を立ち上げました。

また、再生・細胞医薬分野のプロジェクトもグローバルでの開発を目指しているため、開発国に応じた評価ストラテジーを考えていく必要があります。そのため、どのような安全性評価が適切であるかについて、再生・細胞医薬の安全性評価を担当するメンバー間で情報を共有しながら、様々な角度から議論するようにしています。

再生・細胞医薬の安全性評価では、本分野特有のチャレンジングな課題に取り組む必要があり、手探りの状態で進めることも多いですが、同時に、一歩一歩進んでいることを実感できるやりがいのある仕事だと感じています。

正解がわからない問いに対して考え抜く。すべては患者さまの安全のために

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▲当社には「ディスカッション重視」の風土があります!

非臨床研究の段階で実施した安全性評価やヒトにおける安全性予測の考察を踏まえて候補剤を臨床試験へ進めていくことになりますが、現在の技術では、ヒトでの安全性を100%の確度で予測することはできません。

一方、そのような限界がある中でも、臨床試験を安全に実施できるようにすることが私たちのミッションであるため、非臨床試験で得られたデータをひとつひとつ科学的に考察して判断し、ヒトでの安全性を担保していく必要があります。

考察の難しい課題に直面することもありますが、最近では入社1年目の社員にもグローバルプロジェクトのチームに入ってもらい、それぞれの専門性に応じて意見を出してもらったり、毒性試験の実施や結果の考察を担当してもらったりしています。

今後入社してくださる方にも、安全性の課題が生じた時は、その課題について科学的に考察し、ぜひ自分なりの意見をぶつけてもらいたいと思っています。

時には難しい判断を迫られる仕事ですが、ひとつひとつの毒性課題にしっかり向き合うことを通して、最終的な目標である「薬を創る」ことに貢献できるよう、これからも取り組んでいきたいと思います。