住友ファーマは、医薬品だけではなく、予防などヘルスケア領域のソリューションの創出・提供にも挑戦し、人々の健康と幸せを支えている。住友ファーマの研究者とマネジメント担当の視点から、若手がチャレンジしやすい体制、風通しの良い環境、創薬のやりがいなどを語ってもらった。


チャレンジ精神を持って世界をリードする会社


──学生時代の専攻分野や、住友ファーマへの入社の経緯を教えてください。まずはベテランの石山さんからお願いします。

石山脳の原理に興味があり、大学では生物工学のラボで脳の可塑性を研究しました。新しいサイエンスを社会応用する企業で働きたくて、就活では化学、繊維、食品業界まで広く見ましたね。旧住友製薬には、まさに私の研究テーマだった記憶に関わるタンパク質を人の治療に応用する計画があったので、1993年に入社しました。

そのプロジェクトで7年ほど研究開発に従事し、次のテーマとして認知症や精神神経の領域へ。脳疾患を重点の一つとしながら、病気を根本から治す画期的な医療ソリューションの創出という夢のために、社外とのアライアンスなどのマネジメントも手がけ、現在はプロジェクトディレクター※として研究から初期開発段階の全プロジェクトを裏から支えています。

※取材当時(2022年2月)。同年12月現在はリサーチディレクターを担当。

──入社5年目の手嶋さんと、6年目の加藤さんはいかがですか?

手嶋私は一つの創薬プロジェクトのリーダーとして、創薬の「種」ともいえる化合物を臨床試験に進めようとしています。サルなどを利用した基礎研究や、大学病院と共同での臨床研究のデータ解析なども手がけています。

入社前は、農学部の博士課程で昆虫の行動解析をテーマに研究しました。アカデミアの道も考えつつ、就活では直接人の役に立てる農薬業界の企業を検討していました。当社に応募したのは、行動解析の技術はヒトやマウスにも応用可能でしたし、専門と少し違う世界のほうがチャレンジングでおもしろそうだと考えたためです。当社はiPS細胞が日の目を見る前から投資や共同研究を進めていて、チャレンジ精神を持って世界をリードする姿勢にも共感しました。

加藤私はがん領域で創薬研究を行い、広範なプロジェクトをリードしています。

大学の薬学部でもずっとがん領域を研究し、がん細胞の浸潤(しんじゅん)転移に関わる機能解析を行っていました。就活も製薬業界の研究職に絞り、がん領域が重点領域になっていることと、若手も幅広く挑戦ができる社風に魅力を感じて入社しました。

薬学以外の知見も活かせる創薬という仕事


──具体的にどんな研究業務を日々行っているか教えてください。

手嶋創薬プロジェクトにおいて、50人規模のグローバルなチームで専門家とともに臨床試験のプランを作成したり、データ解析や実験にあたったりしています。現在はプロジェクトのステージが上がり、薬剤の候補となる物質の細胞や実験動物に対する応答を研究する段階から、ヒトでの有効性や安全性を調べる臨床試験段階へ移行しようとしています。基礎研究から臨床試験への橋渡しのために、サイエンス面からの考察やデータ取得なども担当します。

加藤私も細胞系を使うインビトロ(培養器などの中での実験)と、動物を使うインビボ(生体内での実験)の両方で自ら手を動かしつつ、リーダーを務めるプロジェクトの進捗を管理しています。加えて、変異を持つがん遺伝子に特化した治療法を探るための予測マーカー(対象患者を特定する指標)の探索も手がけます。

まだテーマとして未確定の領域を扱う「布石研究」に向けたデータ蓄積では、AIを用いたターゲット探索も進行中です。研究では多様なデジタルデータを扱うため、データ解析の専門部署との協力も欠かせません。

──マネジメントにはどのような業務があるのでしょうか。

石山当社の創薬研究では「研究プロジェクト制」を導入しており、年齢や経験は問わず、テーマの内容や発案者の熱意などを基準に選ばれた研究プロジェクトリーダーが予算や人事の裁量権を持ち、研究の前期から後期まで一貫して責任を持ってプロジェクトを中心的に進めます。

意欲的な若手にもチャンスが多い体制で、私たちプロジェクトディレクターは創薬の進め方や、他部署や外部との連携方法などの支援を担います。

意義ある事業を進めるため、薬のニーズや市場性、どう差別化すれば価値が出るかといった評価を海外の部署と連携して実施し、予算配分を決定します。

──皆さん異なる分野のご出身ですが、大学での学びは仕事に活きていますか?

手嶋農学部出身なので薬理の知識は十分でないものの、博士課程で実験装置や解析プログラムを作るために培った、物づくりやプログラミングの経験、行動解析の技術などは確実に活かせています。従来測れなかったパラメータがオリジナルの実験機器で測定可能になり、臨床研究に進むという成果も出せました。入社後は、データサイエンティストやAI技術者養成のための大学院コースなど、会社が提供するスキルアップの機会も活用しています。

加藤薬学部で身につけた実験などのスキルはそのまま役立っています。知見のないテーマは論文や有識者から日々学んでいますね。

石山当社の重点領域の一つが脳をターゲットとする精神神経なので、脳の原理の研究経験を持つ私は各プロジェクトの意義を理解しやすいです。理系出身者の合理的な思考法と、幅広い情報を調べて結論を導く能力は、マネジメントも含めあらゆる業務に役立っています。

年齢や経験値が研究の妨げにならない社風



──住友ファーマの社風や仕事環境の特徴を教えてください。

手嶋入社1年目の人も積極的に「このテーマがおもしろそう」「この技術が役立つのでは」と議論していますし、若さや経験不足が妨げにならない社風ですね。私のような薬理の門外漢でも、プロジェクトリーダーとして認めてもらえる環境です。

加藤がん創薬研究ユニットでも入社数年でプロジェクトリーダーになる人が多く、私は2年目でリーダーになりました。多忙な先輩たちに相談を持ちかけても親身に考えてくれますし、常に充実したサポートを感じています。

──かなり柔軟な組織という印象です。マネジメントでは企業風土の醸成にどう取り組んでいますか?

石山社内の風通しの良さをとくに意識しています。「研究プロジェクト制」もその一つで、トップダウンではなくてボトムアップでプロジェクトを進める仕組みです。

研究の初期段階では「バーチャルワンチーム」という活動の下、研究課題を提案した人とそれに興味を持つ人が所属を問わずに議論します。ほかにも、上司以外のメンバーに悩みを相談できる「メンター制度」や、若手が活躍する風土醸成のための「RDワンチーム」という活動もあり、他社の研究員との交流もさかんです。

当社は研究所を縦糸、プロジェクトを横糸として、縦と横からマネージする人がいるマトリックス型組織です。そのため、1人の強引な意見では物事が進まない構造です。物事を進めるときには活発なコミュニケーションが発生し、新しいことに取り組みやすくなっています。研究に限らず、各部署の呼びかけに応じて、自分の能力を生かすべく挙手制で異動する社内公募制度もあり、個人の意欲を尊重する社風だと思います。

「企業へようこそ、本当の研究の始まりだよ」


──住友ファーマで働くやりがいは何でしょうか。

加藤がん領域では、化合物の動物実験で腫瘍が小さくなる、生存が延びるといったデータが出ると、臨床試験がより現実味を帯びてきてワクワクします。プロジェクトを次のステージに進めるには、複数の研究者が担当する領域をまとめて提案を作らなければならず、骨が折れます。しかし、提案が可決されると患者さんへの貢献に一歩近づくので、科学者としてもリーダーとしても壁を越えて成長したと実感します。患者さんへの貢献が研究者としての一番の目標であり、モチベーションですね。

手嶋良い実験結果が出たときの喜びは科学者冥利(みょうり)に尽きますし、やりがいを感じます。夢は自分主導の研究が薬になり、患者さんの生活に入っていくこと。いつか必ず達成したいです。

石山世の中にまだないまったく新しい薬を「ファースト・イン・クラス」と呼びます。当社はこのファースト・イン・クラスを目指す思想が、トップから現場まで一貫しています。そのチャレンジを続けてきたからこそ今、成果が出ているわけです。

現代の医薬の多様なモダリティ(治療手段)に対応し、低分子、遺伝子、核酸などさまざまなタイプの薬の研究はもちろん、デジタル技術を駆使した予防、診断、治療、予後など広範囲のサポートも、専門部署を作って挑戦中です。たくさんの芽がある場所での仕事は非常にエキサイティングですね。

──最後に、これからどんな人とともに働きたいかお聞かせください。

手嶋私は入社直後に上司から「企業へようこそ、本当の研究の始まりだよ」と言われたんです。アカデミアでは、偶然に得られた結果であっても論文として発表できてしまうこともありますが、企業で作る薬に偶然はなく、確実な有効性が出て安全でなくてはいけません。たしかなサイエンスに基づいて、本当に再現性がある研究をしなければならない。上司の言葉を聞いて、私はここで本当にやるべきことができるんだ、と感動したことを覚えています。

専門外の人でも、サイエンスの力で人に貢献する想いがあれば、できることが見つかると思います。ぜひ、サイエンスへの誠実さと好奇心を持つ人に来てほしいです。

加藤業界として高い倫理感は必須ですが、さらにやる気があり、良い意味で遠慮がない人と働きたいです。周りに遠慮してアイデアの提案や相談をできずにいたら、その間に他社に先を越されて具現化されてしまうことも珍しくないのが製薬業界。積極的に試したいアイデアを口に出し、人を巻き込んで実行する人が活躍できます。

石山加藤や手嶋も含め、やりたいことに挑戦し続ける人は、何事も好奇心を持って深く掘り下げることで目的を達成しようとします。そういう人と仕事がしたいですね。当社は製薬企業なので、ゴールは人々の健やかな心と体を守ること。そうした「愛情」を大切にしてほしいです。


編集後記
薬による治療だけでなく、予防や診断など幅広くヘルスケア全般のソリューションの研究開発に挑戦する住友ファーマ。薬理の知見だけでなくデジタル技術も駆使しながら健康医療の最先端を走る同社では、工学や農学などの出身者の活躍も著しいことがうかがえた。入社2年目からプロジェクトリーダーになるチャンスもある環境で、自身のサイエンスの力をぜひ存分に発揮してみてほしい。