「Intellect」について

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※本記事は英語対談の抄訳になります。
Intellect日本チームとの対談(日本展開支援について)はこちら

──まずはIntellectの事業について教えてください。

セオドリック氏(以下、Theo氏) 「Intellectはシンガポールを拠点とする企業で、東南アジア地域最大級のメンタルヘルス領域のスタートアップです。B2C領域では設立から数年で300万人以上の人々にサービスを提供し、B2B領域の顧客にはグローバル企業から急成長するインターネット系企業までさまざまな顧客を有しています。

また、大手保険会社等とも幅広く事業連携しており、今後日本を含むアジア全体のメンタルヘルスケアを担う事業にしていきたいと考えています」

──具体的にはどのようなサービスを提供していますか?

Theo氏 「われわれのサービスは個人に対するメンタルヘルスサポートです。各企業と連携して従業員のメンタルヘルスケアに取り組んでおり、カウンセリング・コーチングのような軽いサポートから、心理学者・精神科医による遠隔医療、24時間体制の緊急ヘルプラインまで、あらゆる種類のメンタル状態に対するソリューションをデジタルで提供しています。

すでに、われわれのサービスはアジアにおける主要言語を含む10カ国語以上の言語でサービスを展開しており、医師やカウンセラーのネットワークは現在30カ国近くに及びます。そのため、アジア諸国の言語だけではなく文化的な違いなどにも対応できるサービスを提供できていると考えています」

「Y Combinator」に採択

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▲Intellect セオドリック氏とDGDV野島 Zoom対談

──IntellectとDGDVの出会いについて教えていただけますか?

野島 「Intellectが採択された世界最大手のアクセラレーターである『Y Combinator』(以下、YC)の2021年夏のプログラムで出会いました。(YCに関するDGDVの記事はこちら

当時、10代の若者のメンタルヘルスに対する意識が高まっていることや、コロナ禍において人と接することが激減したことによる精神的な苦痛といったことが世界的にも取り上げられるようになりました。今まで少しタブー視されていたメンタルヘルスへの取り組みが徐々に受け入れられるようになってきたことから、メンタルヘルス領域は重要なテーマであると感じていました。しかし、いまだに日本を含むアジア諸国ではメンタルヘルスについてあまり理解が進んでいません。だからこそアジアの独特な文化が理解できるサービスを展開することができれば、アジアのメンタルヘルス市場に変革をもたらし、人々のメンタルヘルスに対する意識を変えることができると思います。

DGDVでは、メンタルヘルス領域のほかの企業も複数投資検討していたのですが、その中でもIntellectはすでに300万人近いユーザーを抱えており、市場から高い評価を受けている状態で最も先進的な企業であることは間違いありませんでした。そして、Intellectへ出資した後は、彼らの日本展開をサポートしております」

──YCのプログラムへの参加はとてもハードルが高いと伺っています。Intellectが採択されたときはどのように取り組まれたのでしょうか。

Theo氏 「YCは、たとえるならスタートアップのためのハーバード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)のようなものです。最も古く、最も大きいだけでなく、最も成功しているスタートアップのネットワークの一つです。もともとシリコンバレーのスタートアップを中心に対象としていましたが、いまでは世界中に対象を拡大しています。

YCのプログラム自体は、数カ月と短いですが非常に激しい育成プログラムがあり、経営者のプロフェッショナルとして鍛えられます。YCの大きな特徴は、成功しているスタートアップとのつながりやすさと、そこで出会うトップクラスの人材にあると思いますし、とくにYCに採択された歴代の起業家たちは本当に貴重な存在です。

また、プログラムには、同じく成長をめざす多くのスタートアップ同士で助け合う風土があり、お互いのネットワークを最大限に活用することもあります。通常、採択されたスタートアップの起業家がアメリカ本社に3カ月ほど滞在し、直接会って話しあうのですが、コロナ禍ですべてがオンラインになったため、われわれはシンガポールにいながらアメリカ時間に合わせて行動し、とても濃密な3カ月間を過ごしました。

経験豊富なベテラン起業家たちから多くのノウハウを学び、各ステージごとでどのように目標に向かって仕事をするのか議論を行います。短期集中でセッションを行うことでわれわれがめざしていることがより明確になり、YCへの参画によって大きな成長を遂げることができたと思っています。

プログラムの終わりには世界中から集まる著名な投資家にピッチを行う『デモデイ』と呼ばれるイベントがあり、そこに集まった世界中の投資家に向けて資金調達のためのピッチも行いました」

──デモデイで得たものはありましたか?

Theo氏 「デモデイは大変有益でした。

まずは、世界の著名な投資家と容易に接点を持つことができ、話すことができました。その中で、DGDVにも出会うことができました。

加えて、創業前から後期IPOまでさまざまなステージの起業家がエンジェル投資家としても参加しているので、唯一無二な起業家ネットワークにもアクセスすることができたと思っております。

最後に、アジアの企業としてYCに参加をすることで会社の知名度の向上にもつながったので、Intellectの企業価値の向上にも貢献したと感じています」

DG Daiwa Venturesからの投資・関係性構築について

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▲Intellect バレリー氏とDGDV西川

──YCのプログラムを経て、DGDVを投資家として迎えた後、どのような変化がありましたか?

Theo氏 「出資以来、DGDVは多くのアイデアをわれわれに与えてくれています。もちろん、事業など自分たちで考えて実行すべきことですが、今何に取り組むべきか、何に焦点を当てるべきか、とても明確な示唆を与えてくれますし、一般的なフィードバックやアドバイスに加えて、マクロ視点の戦略やミクロ視点の戦術的なステップまでサポートしてもらえるのでとても頼りにしています」

──YCのプログラムは様々な業界のスタートアップを受け入れているようですが、ヘルスケア領域の位置付けはどのようなものなのでしょうか。

Theo氏 「YCのプログラムの中でも、ヘルスケアに関しては大変力を入れている領域だと思っています。YCの仕組みを少し紹介させていただくと、YCは参画スタートアップのセクターや特徴に分けていくつかのグループ分類をしています。

各グループにはそれぞれの業界で経験豊富なグロース担当や製品担当、そして専門家など、様々な分野で業界特有な専門知識を持つパートナーがいます。そして20年にも及ぶ歴史の中で、業界を問わず多様なスタートアップとのやり取りの中で蓄積されてきたノウハウがあります。

とくに、ヘルスケアではディープなバイオヘルスからライトなヘルスケア、また地域面でもアジアから米国のヘルスケアにいたるまで、とても多くの企業とのネットワークを有しています。そのため、今後この領域がどうなるか見極められる優れた専門知識と経験を持ち合わせており、われわれにとって大変有益なアドバイスを提供していただけるのです」

──デモを拝見してIntellectがほかのメンタルヘルスケア企業と比較して優れていることがよくわかりました。数ある投資家からのオファーからDGDVを選んだ理由を教えてください。

Theo氏 「まずは、DGDVが世界中のトップ投資家たちとつながっていることに魅力を感じました。YCではグローバルからローカルまであらゆるネットワークを持っている人に会うことができますが、その中でもDGDVのネットワークは地域・業種を問わず、また深い関係性があり、とても魅力的でした。

とくに印象的だったのは、DGDVのメンバーがチームで動いているということでした。通常投資家と話すときは1対1か多くても2人なのですが、DGDVにはじめて会ったときはチームメンバー全員がその場にいて、チームとして働くことに重きをおいていることがわかりました。

また、われわれはアジアにフォーカスして事業拡大を狙っており、中でも日本は重要な市場の一つです。そのため、日本も含めた拡大を展望する市場でサポートしてくれる強力なパートナーを見つけたいと思っています。

DGDVは、ヘルスケアのみではなくさまざまな業界にフォーカスしていて、資金面、事業理解、そして戦略的な専門知識の深さに対しても信頼できると判断し、出資のオファーを受けました。DGDVとともに仕事をすることで得られた大きなメリットは、現地の専門知識や現地ネットワークの強さの恩恵を得られたところです」

──DGDVと他の投資家との間に何か違いを感じますか?

Theo氏 「シリーズAやエクステンションラウンドでは、複数の投資家に参加いただきましたが、DGDVの1番の違いは現地に根差した専門知識です。これはまさに日本での事業展開に必要な条件だったので、DGDVに出会えて一緒に仕事ができることを大変うれしく思っています。

さらには、見込み顧客の紹介や現場でのニーズに対応するための人材採用まであらゆることをサポートしてもらっています。このような点でもDGDVをパートナーとして選択し、良かったと感じています。単なる投資家・投資先の関係ではなく、DGDVとは同じゴールをめざす信頼できるパートナーとして、真の関係を築くことができていると思っています」

今後の展望と投資家への期待

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▲Intellect セオドリック氏、バレリー氏とDGDV西川

──YCのプログラムに参加後、事業の状況はいかがですか? 今後どのようなことを実現したいですか?

Theo氏 「YCを卒業してから1年の間、いろいろなことがありましたが無事に資金調達を終えることができました。世界でもトップクラスの規模を誇る『Tiger Global』をリード投資家として資金調達を行い、さらなる事業拡大を図りました。

これは、現在の情勢などを考えるとわれわれにとって大きな強みであり、とても幸運でした。当面は十分な資本があるので心配する必要はなく、今後数年市場の動向に左右されることなく乗り切ることができるでしょう。

もうひとつは、B2Bビジネスにおいてもとても力強い成長ができたことです。この1年間で多くの大企業と仕事をするようになりパートナー企業も大幅に増え、現在は『DELL』、『Singtel』、『Shopee』、『foodpanda』などアジア地域の大企業と取引をしております。

今後は、資本力を強みにチャンスをいかにものにしていくかが鍵を握ると考えています。2023年から2024年にかけて多くの戦略を立てており、どのような取り組みができるかとても楽しみにしています。

この変化の嵐をどう乗り切るかという重いテーマではあるのですが、すでに当社のポジションはとても良く、良い結果が得られると確信しています。まだまだアジアではメンタルヘルスに関する意識が低いレベルにあると思っていますし、注目される必要があると思っています。

今後、われわれの事業がうまくいくことで、アジアのメンタルヘルス業界全体に大きな変化をもたらすことにもつながると確信しています」

──Theoさんは投資家に何を期待しますか?

Theo氏 「私が、個人的に投資家に期待していることは3つあります。1つめは『資金調達をする以前に良い関係が作れる投資家かどうか』 。2つめは『見込み顧客やパートナーとのネットワークがあるか』。そして、『最後に人材採用などにつながるかどうか』です。

この3つは、事業のサポートとして重要です。ただ、それだけではなく必要なときにサポートを提供してくれる投資家やしっかりと起業家に信頼を置いてくれる投資家と仕事をしたいと思っています。

起業家に好意的な投資家の存在は重要で、事業が良いときも悪いときも一緒にいてくれる投資家を探してきました。そして、個人的にもさまざまな投資家から事業が困難な状況にあるときの対応などを学んでいます。

とくに、アーリーステージの場合は起業家と投資家との信頼関係が大事だと考えています。たとえば、いろいろな面でアドバイス・コメントを提供してくれる投資家もいますが、すべての人がサポートを求めているわけでなく、過度にマイクロマネジメントされることを望まない起業家も多いはずです。それぞれの関係性やスタイルによって、最適な仕事の仕方を探ることが大切だと思います」

──VCにとって起業家との信頼関係はとても重要ですが、今後DGDVがスタートアップと話をする際に優先的に取り組むべきポイントはなんだと思いますか?

Theo氏 「われわれは、DGDVと素晴らしい協力関係を築けています。われわれの事業への理解や信頼があり、何か必要なことやサポートがあれば気軽に連絡することができます。このような関係性に本当に感謝しています。

また、将来パートナーになる可能性のある人など、われわれの事業発展を展望して、会うべきと考える人たちの紹介をしてくれます。さらには、事業とはまったく関係ない日本への入国ビザの取得サポートまで、ささいなことも対応していただきとても助けられています。当たり前のことと思うかもしれませんが、すべての投資家や起業家が常にそうであったとは言い切れませんし、本当に素晴らしい協力関係だと感じています」

野島 「スタートアップとの関わり方はさまざまで、たとえば、巨額の資本提供やスタートアップへの役員派遣など、投資家たちが差別化を図ろうとしたりもしています。それはグローバルに限ったことではなく、日本国内でも同じだと思います。

われわれが達成したいのはスタートアップとの間につながりと信頼関係を築くことです。DGDVが投資をする際には、ビジネスモデルや事業成長の可能性を確認することももちろん重要ですが、起業家の人柄やビジョン、起業家の特徴などを優先して、本当にこの人と信頼関係を作れるかといったソフトな部分もとても重視しています。

われわれは起業家とより密接になり、起業家の話に耳を傾け、気軽に話せる関係性になることでバリューを出せればと考えています。ときには耳が痛いことを言わなくてはならないこともありますが、とくに投資先によくないことが起こったときには逃げずに、チームとしてできる限りのことをしてサポートするように努めています。投資家の中には状況が悪くなると投資先から距離を取り始める方もいますが、われわれは投資先のスタートアップがいつでも気軽に相談できる距離の近い存在でいなければならないと思っているからです。

今後もチーム一丸となって、国内外問わずスタートアップを支えていきたいと考えています」

■Intellectについて
社名:Intellect Company Pte. Ltd.
本社:シンガポール
設立:2019年10月
CEO:Theodoric Chew
会社ホームページ:https://intellect.co/
概要:シンガポールを拠点として主に東南アジア諸国にてB2C・B2B2Eのメンタルヘルスアプリを展開。B2C向けのアプリでは、累計ダウンロード数が数百万規模となるなど、東南アジアにおける個人向けメンタルヘルスアプリのリーダーとしての立ち位置を構築。

また、足元では、B2B2Eのモデルにて法人向けに福利厚生の一環としてサービスの拡大を行っており、Grab社・Shopee社(Sea社の子会社。東南アジア最大級のeコマース)・Delivery Hero社(foodpanda)などのシンガポールを代表するスタートアップ企業に加え、Singtel社・Philips社などの大企業なども導入するなど、60カ国のユーザーおよび20カ国以上のメンタルヘルスセラピスト・コーチを有する。

DGDVはY Combinator 21Summer BatchにてIntellectに投資を実施。2022年夏にはTiger Globalをリード投資家としてSeries Aラウンドで約2,000万ドルの資金調達を実施。CEOのTheoderic Theo氏は、『Forbes Asia 100 To Watch 2022』にも選出されるなど、注目を集めている。