グローバル投資は、ライトパーソンへのアクセスと、ひたすら地道な接点づくりが必須

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写真1:DGDVの連携先VCであるSV AngelのSFオフィス

——DGDVのメイン拠点は東京ですが、どのようにグローバルで良質な投資先企業を探しているのか、ソーシングの進め方について教えてください。

渡辺「私は前職での経験も含めますと、約8年間海外のスタートアップのソーシングや投資実行に関わっていました。その間、いろいろと悩み、先人の皆様のお知恵もたくさん拝借しながら、地道に投資活動を継続していく中で、徐々にDGDVとしてのベストな方法を見つけてまいりました。

まず最初にお伝えしたいことは、日本からグローバル投資を行う際、案件やパイプラインの数を増やすことは容易に可能ですが、その中で良質な投資先や案件に出会うことは極めて困難ということです。現地でコアなエコシステムにアクセスする何らかの手がかりに加えて、地道なネットワーキングの積み上げがなければ、高成長を遂げる良質なスタートアップと出会い、投資ができる可能性はほとんどゼロに近いと言って良いかもしれません。

その点で、DGDVがTwitterやLinkedIn、Facebook、Coinbaseなど、後にカテゴリでグローバルトップとなる企業がスタートアップだった時期に投資を行ってきたデジタルガレージグループのネットワークやコネクションを受け継いでいることは、大きなアドバンテージとなっています。

特に米国のスタートアップ業界では、現地のライトパーソンたちと信頼関係がない中でシリコンバレーに拠点を置くことだけではエコシステムの中枢に入ることができません。さらに、競争環境が大変激しい中で、日本の投資家は“Pump&Dump”や“Scam”と言われるような、現地の投資家であれば避けるような投資案件の格好の餌食となってしまいがちというのが実態です。

それに対してこれまで、DGDVのポートフォリオが順調に育ち、シリコンバレーの他VCと比較しても合格点とされるような実績を上げることができている理由の一つは、デジタルガレージグループが2000年代から、リード・ホフマン(LinkedIn創業者)やロン・コンウェイ(SV Angel創業者)といったライトパーソンをピンに立てて、現地のVC、エンジェル投資家や起業家たちと深く結びついたネットワークを介してスタートアップと連携してきた信頼資産がベースにあることが、有利に働いているからだと考えられます。

ただし、組織や会社間の信頼関係は、そこに内在する人同士がメンテナンスをしていかないと、簡単に錆びてしまいます。

2020年以降、ビジネスシーンでZoom面談が一般的になったことは私たちにとって追い風になりました。VC業界でも、起業家との一度目の面談や、VC同士でのキャッチアップがすべてZoomに置き換わったからです。

グローバル投資においては、泥臭く接触する社数を積み上げることが鉄則なので、現地に行かずとも、現地に行く以上に数多くの起業家やVCと接点が持てたことは、東京にメイン拠点を置く私たちにとってチャンスでありボーナスタイムともいえる状況でした。

具体的には、日本時間の朝7〜9時は米国時間の午後〜夕方にあたり、私たちは火曜日から金曜日のこの時間帯を“ゴールデンタイム”として、多くの海外VCや連続起業家、投資家たちとのコールに時間を費やしてきました。すると、チームとして1週間に10件以上のVCや起業家との接点を持つことができ、それを1年間続けると約500社と話ができます。

デジタルガレージグループとして培われてきたつながりに加えて、かつて勤務していた海外VCからの紹介で新しく知り合うVCもいれば、メンバーのMBAの同期からつながるVCなどもいました。もちろん一度つながって以降、定例化するようなケースもあります。

特に2020~2021年の2年間は、シリコンバレーから離れてマイアミ、シカゴ、シアトル、ロサンゼルスなど別の新興テックハブに一時的に移った起業家や投資家もおり、われわれはこのお互いにとって会うハードルが低い“ゴールデンタイム”を有効に活用しながら、これまでグループが培ってきたネットワークをさらに拡充、発展させることができました。そして2022年の初頭からは、DGDVでも海外との往来を再開し、すでにZoomで何度も意見を交わしあった各投資家・起業家たちとFace to Faceで関係を深めていくフェーズに入っています。

DGDVはこれまで、セコイア・キャピタル (Sequoia Capital)やアクセル(Accel)、ゼネラルカタリスト(General Catalyst)、エスブイ・エンジェル(SV Angel)、グーグルベンチャーズ(Google Ventures)といった米国西海岸の名門VCと同じラウンドで共同投資を積み重ねるなど、連携を強めてきました。

また、ソーシングの手がかりとして、資金調達を何度も経験し、企業を成長させてきた連続起業家たちの意見もとても重要視しています。彼ら、彼女らはこれから成功していく起業家を横の関係で知っているため、連続起業家のコミュニティやVCネットワークからの紹介は非常に貴重なものとして捉えています」

——そのような海外トップVCとどのように関係性を構築していくのか、もう少し詳しく教えてください。

渡辺「海外トップVCとは、単に共同投資するだけでは信頼関係は深まりません。信頼関係を構築するために、月に1回の定例コールを行い、共同投資先に関するビューの交換や、われわれが高く評価している日本のスタートアップに関する情報のトスアップを行います。

また、お互いのロングリストの共有やさまざまな新興テック領域について市場ビューを語り合い、共同投資というワンタイムの出来事だけではなく、継続的にコミュニケーションを取りあい、信頼を勝ち取っていくことを重要視しております。良い思いや、ときには辛い思いをも一緒に経験することで、その信頼関係はより強固なものになっていると感じています。

同じVC同士ですので、競合関係でもありますが、そのような中でもDGDVが強みを持ち、バリューアップ向上に寄与できそうな領域をまずはわかってもらい、かつ接点を増やしていくことで、警戒し合う会社同士のポジショントークではなく、友人同士のように本音を言い合うフラットな関係に変えていくことができます。

そしてやはり、グローバルでの投資実績は他のVCから評価される最も重要なポイントです。DGDVはY Combinator(以後、YC)のDemoDayに招待を受けて参加していますが、これは無条件で参加できるものではありません。YCの内部におけるVCのランキングや起業家側からの格付けに基づいて選出し、参加させてもらっています。

こうした機会を得るためには、相互に評価される関係性の中で投資の意思決定を迅速に行う、一つ一つのオペレーションを起業家ファーストに行うなど、信頼を勝ち取っていくための非常に地道な改善が必要になります。

実際にDGDVでは、YC選出企業に対する投資意思決定をスピーディーに進めるためのオペレーション改善を行いました。
(参照記事:「Y Combinatorにまつわるよくある誤解と、投資家として実際に参加してわかったこと」


世代交代が起きる海外トップVC-同世代で腹を割った信頼関係も築きやすく?

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写真2:Blume Venturesのオフィスにて、DGDVメンバーの野島とBlumeのキャピタリスト達

——海外VCとやり取りをする中で、気づいた最近の変化などはありますか。

渡辺「海外VCと接していて感じる変化としては、海外のベンチャーキャピタル業界ではコロナ禍の裏で大きな世代交代のムーブメントが起きていて、レジェンドと呼ばれていたパートナーやMD(Managing Director)たちが自身の判断で引退をしているんです。

実際に、著名VCであるライトスピード(Lightspeed Venture Partners)やニューエンタープライズアソシエイツ(NEA)でそうしたトランジションがあったほか、セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)や、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)でもどんどん若いパートナーレベルのキャピタリストが増えてきています。

スタートアップ投資は、培われた経験に裏打ちされたパターン認識の側面と、最新情報を常にキャッチアップしながら流れを読むという2つの側面が必要です。特に後者の最前線で生の情報をキャッチアップし続けることはとても難易度が高く体力も必要とするため、いつか若い起業家たちの感覚にシンクロできなくなることを見越して、自らのタイミングで潔く引退するレジェンド投資家も多いようです。こうした背景から、米国のVCでは20~30代でもパートナーやMDクラスを張っているキャピタリストが増えているように思います。

以前、私はYahoo!の創業者であるジェリー・ヤン(Jerry Yang)氏が代表を務めるVCのシリコンバレーにあるオフィスで席を並べて働いていたことがあり、その時の印象深い話として、アリババ(Alibaba)のCEOであるジャック・マー氏とゴルフコースを一緒に回る中で、アリババへの投資を決断したというエピソードがあります。

ジェリー・ヤンとジャック・マーは年齢が4歳差で、最初の出会いは、プライベートの旅行の際に偶然会ったことがきっかけだったようです。それ以来親交を深め、投資を決めたきっかけもゴルフだったということです。同じ世代の起業家たちとプライベートも含めて裏表なく付き合う中で起業家の感覚を知る活動においては、ジェネレーションというのが一つの重要なファクターになるのかもしれません。

世代交代が起きている米国のVCたちに倣ったというわけではないのですが、DGDVでも20代・30代のメンバーがMD、プリンシパル、マネージャーなどとして責任を持って各チームを統括して活躍しており、TelegramやWhatsAppなどのメッセージアプリで、現地VCの同世代のパートナーたちと、日常的につながった状態でやりとりができています」

——実際、海外VCの同世代のキャピタリストたちとはどんなやりとりをしているのですか?具体例を教えてください。

渡辺「たとえば、ホフキャピタル(HOF Capital)のマネージング・パートナーであるファディ・ヤコブとは月次で定例会を持っています。

ホフはFortniteというゲームの販売元であるエピックゲームズ(Epic Games)やソーファイ(SoFi)、クラーナ(Klarna)やフラッターウェーブ(Flutterwave)など、名だたるユニコーン企業を輩出してきたVCです。ホフとDGDVは太いパイプを築いてきており、これまで20件以上一緒に投資を検討し、2022年には一緒に4件の投資を実行しました。ファディもまた30代のキャピタリストで、来日時には、直接お会いしてプライベートな話をすることも多く、友人のように接しています。
(参照記事:HOF Capitalとの対談

また、ソーシングや投資先支援で米国西海岸に訪れる際には、Googleに加え、Airbnb、Paypal、Slackなどに投資してきた現地の有力なVCであるSV Angelのオフィスを訪ねて情報交換をしています。最近では、Climate Techやweb3、クリプト、AIといった分野で起きている最先端の動きについて議論したり、私たちから日本のスタートアップの潮流の変化についての情報提供を行ったりもしました。

SV Angelの創業者ロン・コンウェイ氏はレジェンド投資家ですが、彼の息子のトーファー・コンウェイ氏も、ストライプ(Stripe)、ドアダッシュ(DoorDash)、コインベース(Coinbase)、ダッパーラボ(Dapper Labs)といった米国でトップ100に入る企業に投資をしてきた非常に優秀なパートナーで、2022年のForbesのミダスリストでも12番目の投資家として選ばれています。

SV Angelはこれまで日本のVCとの接点を積極的に持っていなかったようですが、頻繁に会うようになったいまでは『日本への接点で想起するリストのトップにいる』と言ってくれており、彼らの投資先企業が日本進出を検討しているときには、『日本市場を理解している人に相談しよう』と言って、まずDGDVを頼ってくれるような関係に発展しています。

さらに、タイガーグローバル(Tiger Global)のパートナーであるアレックス・クック氏とも、頻繁にキャッチアップコールを実施しています。彼は主にFintechを担当していて日本の案件にも興味を示しているのですが、『言語の壁に阻まれて、日本のスタートアップに関する情報が収集できない』と困っていたので、私たちからさまざまな日本のランドスケープの説明や、具体的な日本のスタートアップを紹介して投資を検討してもらうこともあります」

——これまで培ってきたネットワークが結実しているのですね。その他にもDGDVのネットワークの優位性につながる要因があるとすれば、それは何でしょう?

渡辺「基本的には地道にひたすら数を打ち、合わせて投資実績を残してきたというアクションの結果でしかないのですが、しいて他の要因を挙げるとすれば、DGDVで働くメンバーの経歴でしょうか。メンバーは海外勤務経験のある者に加えて、海外のMBAを修了した者も多いので、MBAの同級生が著名なVCに入って出世するパターンがよくあります。

実際にテマセク(Temasek)やインサイト(Insight Venture Partners)とは、そうした経緯でリレーションを築くことができました。私たちが日本の案件を紹介する代わりに、テマセクは東南アジア、インサイトは世界各国の投資先を紹介してくれています。

そして、一度関係性を構築してからも、『投資先が日本進出を考えているから、1時間ディスカッションに付き合ってくれないか』と頼まれたときには壁打ち相手として快く応じてしっかりとリサーチをして臨んだり、ときには『家族が日本へ旅行に行くんだけど、いいレストラン知らない?』と聞かれたときに好みに応じたリストを送ったりなど(笑)、公私にわたり良好な関係性を築くことを心がけています。

口約束で終わらせずにしっかりと手を動かしたり、投資実績を残したりといったアクションの積み重ねは本当に重要です。

また、DGDVでは各キャピタリストが領域ごとの専門性を深めており、CB Insightsなどの調査会社に対しては、われわれからも正しい情報を開示する代わりに、公開されているレポートよりも一段深い情報を聞き出すなど、コールなども行い連携しています。

そうして深めていった専門性を元に、特定領域に強いキャピタリストたちとも親密にしています。スローベンチャーズ(Slow Ventures)に、初期のエバーノート(Evernote)などに投資した実績を持つケビン・コーラン氏というMDがいますが、今彼はweb3やコンシューマーエンターテイメントの領域、かつシードステージの担当で、プレシリーズAやシリーズAにフォーカスしている私たちよりも早い段階で投資を行っています。実はケビンはFacebookの創業メンバーでもあり、コンシューマー向けプロダクトやアプリの事業拡大にも豊富な知見を持っているので、私たちもよく彼の意見を参考にしています。

スローベンチャーズはコンシュマーインターネットビジネスにおいて一定期間ごとに特定の領域を定め、まとめて有望な会社10社ほどに投資をするという手法をとっていますが、彼が目をつけた中から確率高く伸びる会社が出てきております。彼らがリードした投資先を私たちが検討することもあり、その際にはビジネスの実態も含めて忌憚ない意見をもらっています。その他にも、ヘルスケア領域ではAppolo HealthやGSR Ventures、Hikma Ventures、FinTech領域ではanthemisやPaypal Venturesなどとも、リファレンスなどで連携しています。

グーグル・ベンチャーズ(Google Ventures)とも、共同投資を行って以来、協力関係にあります。もともとDGDVは別名“DG Lab Fund”と呼ばれ、Due Diligence(DD)の際にDG Labで事業開発に携わるエンジニアの意見を参考にしながら技術的な部分での優位性の判断を進めてきました。

実は、Google VenturesもDGDVと同じようなDDの進め方をしており、投資検討の際に、Google本体のエンジニアを含むチームを組成し、DDに携わってもらうことがあるそうです。

このように、DDの進め方が似ている点でも相性が良いですし、DGDVメンバーとGoogle Venturesメンバーで同士もFintechやweb3、Healthcareなど多分野についてTelegramで頻繁に情報交換を行っております。そうした関係性を元に、2023年2月27、28日に東京都の主催で開催されるCity Tech TokyoにはDGDVの招へいでGoogle VenturesのClimate Tech領域担当のロニ・ヒラナンド(Roni Hiranand)氏が参加します。
(参照記事:「DG Daiwa Venturesが東京都主催「City-Tech.Tokyo」のイベントアンバサダーとなりました―海外トップVCの招へいなどで協力」) 

DGDVとしても、こうした日本のスタートアップエコシステムが成長することにつながるような紹介など、日本と海外の架け橋になるような活動には積極的に貢献していきたいと考えています」

アジアでも徹底してインナーサークルに入る―米国以外のソーシング戦略

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写真3:インドにて親密先VCとDGDVメンバー

——ソーシングでもDDにおいても、現地の感覚や現地の生の情報をつかむことが大事になると思います。DGDVは米国以外の地域ではどうやってソーシングやDDを進めているのでしょうか。

渡辺「米国投資で功を奏してきたライトパーソン×地道な関係構築というVCネットワーク構築の進め方は、米国だけでなく、インドや東南アジアでも当てはまります。

DGDVでは、現地の案件を検討する際には、かならず信頼できる地場のVCのパートナーたちと情報交換をしながら進めていきます。たとえば、セコイア・キャピタルのインドとはオフィスを往来する間柄にあり、何度も情報交換をしていますし、一緒に投資検討することが決まると、コールやメッセージも含めて頻繁にやり取りが始まります。また、インドの地場でナンバーワンのVCであるブルーム・ベンチャーズ(Blume Ventures)ともDGDVのシニアプリンシパルである揖斐さんを中心に良好な関係性を築いており、『一緒に投資をしよう』と誘ってもらって共同リードの形でDDを進めることもあります。

そして、東南アジアやインドへの投資においても、デジタルガレージがトコペディア(Tokopedia、現在のPT Goto Gojek Tokopedia Tbk)やドゥルーム(Droom)などといった新興IT企業に対して長期投資を行ってきたこと、またDGDVとしてもヘルシアンズ(Healthans)やホーメージ(Homage)など、実際にその国々で投資実績を積み上げてきたからこそ信頼のベースが築けていることを肌で感じております。

インドや東南アジア、韓国には、各国に若くして成功している起業家と投資家のコアなネットワークがあり、私たちもときには彼ら、彼女らと一緒にお酒を飲んだり、休日を一緒に過ごすなど、さまざまなアクティビティを共にしています。

ただ、こうした地場のネットワークをせっかく持っていても、その後の地道に汗をかくパートを怠って、関係性が深まらないままでは、“ただお金を出してくれるだけの日本の投資家”として都合の良い存在になってしまいますし、そうしたVCに対するレピュテーションは日本以上のスピードでインナーサークルの中で簡単に広まっていくので、細心の注意を払っています。

最近DGDVでは、シンガポールのスタートアップ企業からの、『日本でカントリーマネージャーを雇いたい』というニーズをお手伝いしました。一口にスタートアップへの参画と言っても、日本のスタートアップに参画するのと、シンガポールのスタートアップにカントリーマネージャーとして参画するのとでは、求められるマインドセット・スキルセットがまるで異なるため、採用面談にも工夫が必要です。

そこで、DGDVでMD兼海外投資統括を務める金森さんが面接官となり、自ら候補者全員との面接を実施しました。候補者、投資先企業、両者のバックグラウンドを理解しながら採用活動を行った結果、非常に感謝され、満足いただける採用活動につながりました。ほかにも、『ビザを発行したい』というニーズに応えて迅速に手配のお手伝いをして非常に喜ばれたこともあります。ひとつひとつは些細なことかもしれませんが、こうしたニーズにクイックな対応を積み上げることが、良好な関係性の構築につながると考えています。

DGDVのメンバーは現在バックオフィスも含めて20名ほどとなり、立ち上げ期に比べると約4倍の組織となり、ここ数年でようやくやりたいことができるマンパワーが備わってきました。メンバーは全員中途入社のため、前職の専門性を活かした支援ができるのですが、支援をしていく中で求められるポイントが実感値としてわかってきて、さらに精度を上げることができています。

そうした強みにフォーカスして、逆に私たちの方から海外の投資先企業に対しても果敢に提案するケースも最近では増えており、チーム一丸となってバリューアップに取り組んでいます」

日本発でグローバル投資をこれから始めるには―気をつけるべきポイント

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写真4:シリコンバレーにて、ジェリー・ヤンと渡辺

——昨今、海外スタートアップへの投資を戦略に入れる日本企業・CVCなどもますます増えてきているように感じます。これから投資を始める上で気をつけるべきことがあれば教えてください。

渡辺「やはり冒頭から申し上げている通り、泥臭く、地道なアクションの積み重ねを数多く行うことが、一番の早道と考えております。

日本企業がシリコンバレーにいくら拠点を置いていても、そこには“ガラスの天井”のようなものが存在しており、簡単にはトップVCとの信頼関係を築くことができません。ライトパーソンを自力で見つけるのはなかなか困難を極めますので、ポジショントークではなく、きちんとフラットな意見をくれる外部パートナーを慎重に吟味した上で、見つけることが最初は重要になると思います。

2022年からは海外の大型カンファレンスもほとんど全てリアル開催に戻りました。こうしたネットワーキングで重要なのは、単純なことではありますが、まずはとにかく接点を増やしていくことだと考えています。

私たちはこれまで海外のカンファレンスに足を運んだ際には「東京からきたVCです」とアピールして、カンファレンス後にサンキューメールを出すといった、些細なことではありますが、そんなことを一つ一つ愚直かつ丁寧にやり続けてきました。まずは接点をとにかく増やし、その上に共同投資や意見交換といった機会を積み上げて、1社1社と信頼関係を築くことを意識していくことで、いつしか海外トップVCやエコシステムのライトパーソンへのパスが拓けてくるのだと思います」

——日本市場への進出を手伝うというアングルでのネットワーキングはワークすると思いますか。海外の投資家は日本市場に価値を感じているのでしょうか。

渡辺「ある海外トップVCと日本市場の魅力についてディスカッションしていた際に、『日本はプロダクトが市場に浸透して定着するまでのハードルは高いものの、一度定着すると顧客が離れがたい、堅く収益が予測できる市場だ』と言われたことがあり、なるほどと思いました。

iPhoneなどは最たる例で、一度使い始めた人たちのほとんどがずっと継続して使い続けているかと思います。企業は将来的な利益の積み上がりを重視するので、サービスやプロダクトとしての離脱率が低いことはプラスの市場特性として評価されていることに加え、やはり1億2,000万の人口を抱える市場は世界的にもまだまだ大きいので、言語の壁や様々なローカライズコストがかかるといえど、総論としてはそのコストをかけるだけの価値はあると十分に見なされていると感じました」

——海外と日本で、イグジット環境にはどんな違いがありますか?

渡辺「まず、海外はIPOまでの時間軸が長いですね。また、高額のM&Aでイグジットに至るケースも多い傾向があります。さらに、未上場株式の取引を行ってアーリーフェーズの投資家からレイターフェーズの投資家へとバトンを渡す、いわゆるセカンダリーマーケットが盛んなことも、日本の未上場スタートアップマーケットとは大きく異なる点です。

私たちの方針としても、当初IPOを展望している企業についてはIPOの実現を支えていくことが基本姿勢であるものの、企業がM&Aを狙いに行くと方針を転換した際には、その意向に沿って支援していく心構えを持っています。

たとえば、私たちの投資先の1社であるイスラエルのカーブ(Curv)というセキュリティスタートアップはPayPalに買収されました。当時、カーブは要素技術が素晴らしいものの、クライアントのパイプラインを増やしていくフェーズで苦戦していました。CEOはそうした状況を勘案の上、同社の技術を評価してくれる企業へのM&Aを目指そうという方針を早い段階で決断した結果、この買収が成功裏に実現しました。

ほかにも賛否両論あったイグジットの特殊な事例として、スパック(SPAC)が挙げられます。弊社の投資先でもアキリ(Akilli)はSPACで米ナスダック(NASDAQ)上場を果たしたのですが、実際にSPAC上場、そして売却という一連の手続きを通してやってみて初めてわかることが非常に多かったです。

詳しくはまた別の機会にお話しできればと思いますが、いずれにしても、VCとしてはさまざまな形態のイグジットを経験し、選択肢や判断基準を持ち合わせることで、今後さらに柔軟な対応が可能となると考えています」

——海外ではセカンダリーマーケットも活況だという話を伺いましたが、昨今の状況はいかがでしょうか。

渡辺「全体としてセカンダリーでの株の売買は盛んに行われている印象です。足許では情報をいただく機会も増えてきました。われわれはPreA~シリーズAにフォーカスしているため、あまり実際にセカンダリー案件に投資する機会はないのですが、現地のセカンダリーのブローカーたちと話をしていると、誰もが知るユニコーン企業に関してあまり表立っては聞こえてこない情報も入ってきたりします。

市況の先読みやリサーチに活かすことができるという点でも、セカンダリーマーケットのプレイヤーとも上手く付き合いながら、投資に生かしていきたいと考えています」

——グローバル投資は華々しく映りますが、泥臭く、地道な取り組みの積み重ねだということがわかりました。DGDVの築き上げてきたポジションは、そう簡単に追い付くことができない稀有なものですね。

渡辺「これからも培ってきたネットワークを軸にグローバル投資を続け、日本のスタートアップエコシステム発展の一助となれるように、引き続き泥臭く、できることはなんでもやる精神で、チーム一丸となって取り組んでいきたいです」