外部資金を活用して成長促進を行う理由とは──資金調達の必要性と資金調達支援の意義
──今回のテーマは“企業のステージ別の資金調達支援について”ですが、そもそもなぜ資金調達がスタートアップに必要とされるのかを教えていただけますか。
野島 「ひと言で言えば、資金調達はスタートアップにとってネクストステップに挑戦するため、また事業の成功率を上げるために必要なアクションであるから、それに尽きると思います。ベンチャーキャピタル(以下、VC)は今でこそインターネット系の企業に投資を行うイメージが強いかと思いますが、もともとはアメリカで、まだ実績を持たないスタートアップでも研究開発やプロダクト生産にかかる費用を集めて事業化させ、新しいハードウェアをつくることができるように、という目的をも持って生まれました。
たとえば、あるスタートアップが自身のポケットマネーを1,000万円持って事業を始めた場合、1,000万円分の研究開発費用しか投下できません。しかし、自身の事業アイデアに賛同してくれたVCから1億円の資金を調達できれば、1億1,000万円を研究開発費用と製品化のための資金に費やすことができます。
事業の幅を広げる目的で、資金を使うタイミングはいろいろとあると思います。とくに外部資金の調達が重要になる分野は、たとえばAIやバイオテックというような研究開発に時間を要する、いわゆるディープテックと呼ばれる分野ではないかと考えています。
資金の有無が研究の存続に関わるだけでなく、研究の成果がプロダクトやサービスの開発につながれば、世界を大きく変えられる可能性もあります。自己資金と外部資金をうまく併用し、事業拡大までの最短距離を走るという意味で、スタートアップにとっての資金調達、そしてそれを私たちVCが支援するということは非常に重要だと考えています」
──事業の成長の歩みの速度を上げるために資金調達が必要ということですかね。
野島 「そうですね。たとえば、資金調達に成功すれば、研究開発に限らず、セールス・マーケティングにもより多くの予算を割くことができます。とくにコンシューマー向けのビジネスを展開しているスタートアップが競合に勝つためには、先行して面を取りにいく、広告等を活用した大規模なマーケティング・セールス手法が有効なケースがあります。
また、調達した資金を生産ラインの拡大や人材採用に充てるスタートアップも多く存在します。企業が、『いまこの事業・分野を増強できれば、自分たちの事業成長を促進できそうだ』という分野に、外部から調達した資金を投下することで、事業拡大を加速させることができるわけです。
私たちはこれまでVCとしてさまざまな企業とご一緒してきた経験を活かし、事業成長のためにいかに資金を使っていくべきか、といった点も日々チームで連携しながらポートフォリオ企業と膝を詰めて議論させていただいています」
成長に不可欠な資金調達。まずは自社の立ち位置の正確な把握が肝心
──続いて、ステージ別にどのような資金調達が必要になるのかを教えていただけますか。
野島 「まず、各ステージで必要となる資金と投資家候補は異なるものであると考えており、大前提として、調達した資金が多ければいい、というわけではないです。もちろん質より量という考え方もあり、調達資金が多ければ次のステージまで辿りつく確率は多少上がる部分もあります。
スタートアップはどのような投資家をどのような観点で選ぶと好ましいのか、業界の知見に明るく資金量が少ない投資家候補A社と、業界に知見はないものの、より資金を拠出可能な投資家候補B社を例にして、お話ししたいと思います。
まずは自分がどこのステージにいるかを把握することが重要だと考えています。今のVC業界では、資金調達を一度行うと段階が上がるといった観点で、どの会社がどのシリーズかは、ある程度決まっています。DGDV内ではステージについて、その資金調達の回数という定義上のステージではなく、スタートアップが今実態としてどういった立ち位置に存在しているか、といった意味合いでのステージを指しています。
この定義に則った各ステージにおいて、必要となる資金量や相性の良いVCは異なるため、適したタイミングで適したVCと組むことが非常に重要だと考えています。企業のステージは、早期のシードから、シリーズA、シリーズB、シリーズCと表し、事業が安定する成熟度を順に指しています。まず、ここでのシードとは、プロダクトやサービスをつくる前、もしくはプロトタイプを作っている段階のことを指します。
起業家がパッションを燃やしながら、自身が狙う市場のリサーチをしたり、どのようなセールスチャネルを活用すればいいかを考えたりしつつ、試行錯誤しながらプロダクトやサービスのローンチを目指しているフェーズです。シリーズAは、プロダクトやサービスのローンチがすでに終わっており、一定の顧客が付いてユーザーからのフィードバックが集まってきている段階です。
起業家がまずは自身のつくりたいものをつくっているのがシードだとすれば、シリーズAはユーザーに必要とされるものをつくることができているフェーズだといえるでしょう」
──シードからシリーズAに至る前に、起業家がつくりたいものとユーザーから求められるものを擦り合わせる段階があるということですね。では、続くシリーズBやシリーズCはいかがでしょうか。
野島 「シリーズBになると一気に段階が変わります。ユーザーに必要とされるだけでなく、ユーザーが愛用する、つまり継続利用してくれるプロダクトやサービスが完成している段階です。すなわち“Product Market Fit”と呼ばれる状況に近づいている、または達成しているステージです。
シード・シリーズAの段階の会社が課題に対してソリューションを作っている“Problem Solution Fit”の段階に対して、実際にユーザーが満足してプロダクトを使用し、『お金を払ってでも手に入れたい』と信頼され愛着を感じてもらえる段階が “Product Market Fit”と定義され、スタートアップにとっての一番のビッグステップといっても過言ではありません。
シリーズBでは、ユーザーが喜んで支払う価格、つまり“Willingness to Pay”を把握する必要がありますし、継続率はもちろんユーザー獲得コストに対して自社サービスの価格が見合うものなのかといった定量指標もしっかり追う必要があります。
こうして諸々の実証が終わると、いよいよシリーズCと呼ばれる段階になります。シリーズCまでくると、いくらコストをかけることでどれくらいの顧客が獲得できるかという点も把握できており、IPOを見据えたフェーズに至ったと言えるでしょう」
事業成長に必要なもの──DGDVの考えるステージごとに適したパートナーVCの選び方
──それではステージごとの最適なパートナーの見極め方や資金調達のポイントについて教えてください。
野島 「シード期は、起業家のパッションを軸に事業や会社ができあがった状態ですので、まずはしっかり事業に共感してくれて、かつ一緒にサービスやプロダクトをつくり上げてくれるようなVCをパートナーとして迎えるべきだと思います。
この時期の起業家は試行錯誤をしながらプロダクトを作り上げていくため、相談相手がいないと孤独になりがちです。だからこそ、起業家が創出したビジネスに向き合い、メンターのような立ち位置で相談相手になってくれるような存在が必要だと考えています。
もちろん相性も重要で、起業家にとって気軽に相談できる人がいると、シードからシリーズAに進む確率も上がるように思います。加えておすすめしたいのが、ネットワークを持っているVCを選ぶことです。
というのも、資金調達を達成した後は、実際にプロダクトをローンチさせるためにどうすればいいか、最初の顧客を獲得するにはどうしたらいいかを考えなければなりませんが、意外なことに初期の顧客を見つけるのに苦労するケースが少なくありません。
実際にシード期のスタートアップに話を聞いてみると、『最初のお客様はVCから紹介してもらった』という企業もかなり多いことから、事業に関係する顧客のネットワークに強みのあるVCを選ぶことも重要だと思います」
──シード期の企業が資金調達に成功するためには、どのようなところを意識すべきですか。
野島 「資金の出し手である投資家の考え方やポイントを知っておくことは大事だと思いますね。投資家が重視する指標の一つとして“Total Addressable Market(TAM)”があり、これはプロダクトやサービスにそもそも市場があるかどうか、あるとすればどの程度の規模なのかという点を見ています。
加えて、ユーザーがお金を払ってでも解決したいと思うようなペインがあるのかという観点も重視しています。投資家の理解を得るために、起業家は自身の原体験や経歴を踏まえ、なぜその事業に取り組むのか、なぜそこにペインを感じたのかをしっかり伝えられることが重要になるでしょう」
──シリーズAについてはいかがでしょうか。
野島 「シリーズAになると、すでに複数の顧客が付いています。Problem Solution Fitと初期的なProduct Market Fitの達成度合いを検証する段階に入っており、ある程度マーケティングにお金をかけて面を取りに行った結果を証明すべきタイミングです。このフェーズで相性が良いのは、業界に関する知見があり、起業家が設定したKPIと照らし合わせながらアドバイスをくれるVCだと思います。
むやみに資金を投入すればいいわけではなく、選択と集中の上、戦略的に事業を進めていく必要がある時期であるからです。シリーズAの資金調達を成功させるために、スタートアップはProduct Market Fitに必要な資金量を見極めると共に、次のシリーズBを見据えた事業計画を策定することも必要となります」
──それではある程度のトラクションがでてきたシリーズBでは、どんなサポートが必要になるのでしょうか?
野島 「シリーズBになると、競合も出てきて市場のパイの獲得合戦が加速します。投入すべき分野にしっかりと資金を投下しグロースさせていく段階なので、資金力があることはもちろんですが、次の事業展開を一緒に考えてくれるパートナーが最適です。シングルプロダクトで生み出すことができる価値には限界があり、次のサービスやプロダクトを考えるべき時期にも入っているからです。
この段階においては、市場への理解が深く、競合や先行者を凌ぐ事業創出の可能性を一緒になって模索できるようなVCからの資金調達を実施すべきだと思います。なお、個人的には、このシリーズBでの資金調達は企業の長期的な成長を左右するきわめて重要な局面だと考えています」
──事業の行方を左右する新たな展開を考える時期だからこそ、慎重にパートナーを選ぶ必要があるというわけですね。では、シリーズCはいかがですか?
野島 「シリーズC以降は、投資額に対して売上や利益が伸びるかが予測できる段階で、IPOも近づいています。
この段階まで来ると事業面ではほぼ自立できている状況のため、相談相手としての適性や市場への精通度よりも、IPOというゴールまで継続してサポートできるだけの資金力があることが最も重要になるのではないかと思います。
このように、各ステージによって、求めるべき投資家像や、起業家が投資家にアピールすべきポイントというのは変遷していきます」
──スタートアップ側からすると、投資家は常にいてくれた方が良いようにも思いますが、今のお話だと相応しいタイミングでなければ、今ではないと勇気を持って判断しお断りもすべきということでしょうか。
野島 「そうだと思います。もちろん、その企業が今資金調達しないと事業が潰れるというような段階にあるようでしたら話は異なります。ステージ別の特徴やポイントについてお話しましたが、これらは比較的事業が堅調に推移しており、また投資家への適切なアピールができている企業で、さまざまな投資家から提案をもらって選択ができる立場での判断になります。
一概に資金があればあるほど良いというわけではありませんが、他方でやるべきことをやるためにはやはり”Cash is King”という側面はあると思っています。企業の状況を鑑みながら、柔軟に判断していくことが重要だと考えています。もちろん、DGDVは起業家と一緒にそういった判断についても議論し、決断しています。それも私たちが提供すべき資金調達支援の一環だと考えています」
最適な資金調達を通じて成長へ──DGDVが国内外問わずVC間との連携を重視する目的
野島 「DGDVは、資金調達支援の1つとして、連続性を重視しており、その観点で私たちが支援を得意とするステージの前後をカバーするVCとの連携は非常に重要です。私たちの立ち位置が国内と海外で少し異なるため、その連携方針も国内外で異なります。
たとえば、DGDVは国内ではアーリーと呼ばれるシリーズAやシリーズBへの投資を得意としているため、それ以前のステージでどのような企業が存在し、どのように成長しているのかといった情報収集を兼ねて、シード投資を得意とするVCとの連携を大事にしています。VC業界が他の業界と少し異なる特徴の一つとして、VC間の共存関係が成り立つという点が挙げられると思います。
先ほどお話した通り、ステージごとに求められる役割が分かれおり、それに応じて投資家層も異なっているため、シリーズA、シリーズBを主戦場とするDGDVとその前後のステージを得意とするVCは競合関係になく、むしろ非常に重要なパートナーであると考えています。
とくに、前のステージであるシード投資家にとっては、シリーズAの投資家が投資してくれることは自分たちの投資先企業の成功や成長につながります。私たちも決してギブアンドテイクのテイクだけにならないよう、先方とギブアンドテイクの関係を維持できるよう、日々心がけています」
──投資家・VC間の連携が重要ということですね。それでは海外はどのように異なるのでしょうか。
野島 「VCとの連携の姿勢や考え方については、国内外で同じなのですが、DGDVは日本の投資家であるため、地の利がない海外でシード投資を行うのは難しいという、私たちの立ち位置が大きく異なります。
もちろん事業アイデアの理解や、特定の領域に関する経営者の相談役になることはできますが、現地のネットワークと現地のVC対比の少ない私たちがシード時期の海外スタートアップに包括的に提供できるものは、それほど多くないと考えているからです。
他方で、シリーズAやシリーズB以降という、ある程度自国での事業展開の成功が見え、次の事業ステージで日本やアジア市場への進出を目指している海外スタートアップに対しては、積極的にサポートをしています。
有難いことにDGDVは、日本でも数少ないグローバルで投資ができるVCだと認識いただいているため、日本の投資家に入ってもらいたい、となったタイミングでは必ず相談を受けられるよう、普段からグローバルVCとも情報連携をしながら関係性の構築に努めています」
──逆の視点で言うと、海外の投資家に対して、『日本のこの企業に投資してください』と声をかけることもあるのでしょうか?
野島「はい。海外投資家の呼び込みはDGDVとして、とても注力している点です。海外投資家との強固なネットワークがあることは、ほかのVCとの差別化ポイントであり、私たちのインタンジブル・アセット(無形資産)だと認識しています。そもそも、私たちが海外投資家に積極的に日本スタートアップへの投資を呼びかけるのは、残念ながら日本のVCエコシステムが、アメリカを筆頭とする欧米の主要諸国やアジアの成長国などと比べて小さいことが理由です。
最初にお話しした通り、事業における投資額は事業の成功率を左右します。資金が足りないと、それがボトルネックとなり事業成長がストップ、あるいは遅延してしまうからです。資金力の差で、優れたスタートアップが本来であれば成し遂げることができたはずの成長機会を逃がしてしまうのは勿体ない。その一心で取り組んでいます。
実際、現在の日本のVCの資金調達額は約8,000億円(※INITIAL調べ)と言われていますが、その資金力だけでは日本のスタートアップからの需要を支え切れない部分もあります。とくに50億円、100億円規模の投資額が求められるシリーズC以降に対応できる日本のVCは限られています。
一方、アメリカにはそうした多額の投資が可能なVCがたくさん存在しており、そのことがユニコーン企業を多数輩出する後押しともなっています。こうした現状を勘案しても、シリーズC以降のスタートアップの成功率を高める上で、海外投資家を呼び込むことは不可欠であると考えていますし、DGDVはまさにそこに注力し、海外投資家の最初の日本投資の第一歩を積極的に後押ししています。
海外投資家からの調達を求めるスタートアップがいれば、是非私たちのアセットを活用してユニコーンになるためのステップを踏んでほしい。そうして日本のスタートアップエコシステムをもっと大きく、また日本のスタートアップを一つのアセットとして魅力的なものにしたいと思っています」
──同じ投資家やVC同士での共創思考が必要である姿勢をDGDVさんから感じます。そのほかにも日本のVCとして目指されていることはありますか?
野島 「私たちが海外投資家を積極的に呼び込んでいるもうひとつの理由は、実は日本においても、日本国内に留まらずグローバルマーケットを意識して事業を行っているスタートアップが多いからです。事業を拡大するためにアジアや欧米への進出を目指している企業や、事業を始める段階からグローバルを見据えている起業家がより早く事業に集中できるようにするためにも、最適なタイミングで最適な投資家とつなげていくお手伝いをしたいと思っています。
海外投資家とも連携して支援した結果、GAFAと肩を並べるようなグローバル企業や世界を変えられるスタートアップが日本からもっと輩出されるといいですよね。もちろん、海外展開ニーズを持たない企業の支援も積極的に行っていますし、たとえば海外投資家から資金調達を行ったからといって必ずしもグローバル市場に展開しなければならないわけではありません。
DGDVとしては、各スタートアップの事業内容やステージに応じて最適なVCを紹介させていただきながら、彼らが目指すゴールに最短で辿りつけるためにサポートしたいと思っています」