DGDVが一丁目一番地と掲げるオープンイノベーション支援。その狙いとは

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──オープンイノベーションという言葉はよく耳にしますが、どういったことを指すのでしょうか。

揖斐 「まず、企業の成長や繁栄にはイノベーションが源泉となっています。そのイノベーションを起こす方法としては、主にクローズドイノベーションとオープンイノベーションがあります。

クローズドイノベーションとは、自社のアンテナにかかる情報をもとに、自前のリソース(ヒト・モノ・カネ)のみで自力でゼロから取り組むことを称し、オープンイノベーションは、社内外含めて多様な連携先からの情報をもとに各々が得意なリソースを集約し、すでにあるものは有効活用しながら取り組むことを称します。

情報や機会の量、時間の短縮、必要コストの低減など、さまざまな観点から、オープンイノベーションの方が効果的であると一般には言われており、多くの企業が取り組んでいます」 

──では、DG Daiwa Ventures(以後、DGDV)が取り組んでいるオープンイノベーション支援の概要について教えていただけますか。

揖斐 「オープンイノベーションは、われわれのようなベンチャーキャピタル(以後、VC)が一丁目一番地として取り組むべきものだと考えています。

ファンドとして大企業からお預かりした資金をスタートアップ投資で運用し、イノベーションの種の発掘、連携を促すことで、日本のエコシステム全体を盛り上げていく使命を担っています。

ただ、日本のエコシステムはまだまだ規模が小さいため、国内だけでは小さなパイを獲り合うことになってしまいます。

非連続的な成長を推し進めていくためには、国内外を問わず大企業とスタートアップをつないで新しいものを生み出すことが欠かせない、という考えのもと、DGDVは2016年の創設来、積極的にオープンイノベーション支援に取り組んでいます」

──具体的に、どのような支援を行っていますか?

揖斐 「ファンドにご出資いただいたLP企業と定期的かつ密に接点を持って、私たちの投資先や投資候補先・検討先のスタートアップ企業を紹介しています。

もちろん、一方的に紹介するのではなく、企業側のニーズに沿ったマッチングを心がけています。たとえば、具体的な業種を注目領域に掲げて該当するスタートアップの紹介を希望されたり、逆に幅広く海外のスタートアップに興味を持たれていたりと、LP企業の関心も多岐にわたります。

個別のディスカッションや紹介先からのフィードバックなども通じてテーマをブラッシュアップし、お互いの投資活動や事業連携に還元しています。

そのほか、LP企業のインキュベーションプログラム企画実施のサポートや、海外出張に同行してSequoia Capitalなど現地のネットワーク構築をサポートしたり、海外投資家の日本のスタートアップ視察に同席し、ミーティングのフォローなどの活動も行っています」

 ──DGDVのオープンイノベーション支援の強みや特徴は、どんなところにありますか?

揖斐 「各キャピタリストが担当として大企業のカウンターパートの方と個人レベルで信頼関係を築いていることが強みです。

信頼関係をベースに潜在的なニーズや本音を引き出すことができることにくわえ、普段から案件を注視しているキャピタリストが窓口となってコミュニケーションを取ることで、一次情報をタイムリーに伝えつつ、最適なソリューションの提供が可能となっています。

こうした伴走体制は、業界では決して当たり前のことではありません。一般に1~2年でメンバーが入れ替わるファンドも多い中、オープンイノベーション支援という息の長いプロジェクトとは時間軸が合わないからです。

長い目で見て寄り添うという時間軸の観点に加え、キャピタリストが自身の担当先に責任感を持ち、深くコミットしないとオープンイノベーション支援は実現できません。

地に足をつけて、共に将来を描いて歩んでいこうとするマインドが、DGDVのキャピタリストには備わっていると思います」

オープンイノベーションの結実──各ステークホルダーの信頼関係やニーズの理解が基盤に

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──国内のオープンイノベーション支援の具体例について教えてください。

揖斐 「私たちの投資先である、米Blockstream(ブロックストリーム)の基盤技術を活用し、デジタルガレージを含めた、DGDVの運営するファンドのLP企業2社が合弁でCrypto Garage(クリプトガレージ)を設立しました。

同社では、暗号通貨などに使われているブロックチェーン技術を用い、金融サービス、オープンソースプロジェクトの開発を行っており、2021年には暗号資産交換業者登録も完了しました。

このような国内外を含めた大企業とスタートアップとの連携によるオープンイノベーションの結実事例をこれからも増やしていきたいと考えています。

また、DGDVは他VCや投資家はもちろんのこと、アカデミアや行政などとも連携し、徐々に仲間を増やしている段階です。

日本の大企業のインフラストラクチャー、海外のスタートアップが持っている先端技術、そしてデジタルガレージ由来のオープンマインドなイノベーションの創造力をかけ合わせ、新しいビジネスの創出にチャレンジしています」

──ジョイントベンチャーを設立する場合もあるのですね。ほかの事例はいかがですか?

揖斐 「2010年4月にDGDVのグループ会社であるデジタルガレージがスタートした、グローバルに活躍するスタートアップ育成を目的とする、Open Network Lab(以下、Onlab)があるのですが、これは国内の草分け的な存在のアクセラレータープログラムです。

世界的なアクセラレータープログラムであるY Combinatorに近いもので、毎回いろいろなテーマを設定し、有望なスタートアップを募ります。

Onlabでは協賛企業との議論を受けて設定したテーマのプログラムを企画する場合もあり、そこではこれまで培ってきたノウハウをもとにスタートアップの選定やインキュベーションのサポートを行っています。

DGDVとの関わりという観点では、たとえば最近、ファンドのLP企業の1社でもあるA社とOnlabをつなぎ合わせて、共同でアクセラレータープログラムを実施した例があります。

きっかけはA社に『A社の事業と親和性の高いスタートアップをとくに初期の段階で発掘したい』というニーズがあったことでした。

A社のニーズに一番適した形を検討するため、研究開発の公募プログラムやアクセラレータープログラムの差異のご紹介にはじまり、自社単独か他社への委託か、負担と期待効果の観点から比較し、議論するお手伝いなどもさせていただきました。

ある程度形が固まってからは、DGDVが持つスタートアップのネットワークを活用したり、実際のプログラムの進め方や運営ノウハウをお伝えしたりと、デジタルガレージグループ全体を巻き込んで、“全面サポート”というスタンスでさまざまな側面から支援をさせていただきました。

どちらもエポックメイキングな結実事例だと自負していますが、結果として各ステークホルダーの皆様にとってご満足いただける結果につながったのは、やはりDGDVがLP企業とのコミュニケーションを密に取っているからだと思います。

信頼関係の構築に基づいた正確なニーズの把握に加え、イノベーション意欲を駆り立てるパッションやデジタルガレージがグループ全体で長年かけて培ってきたノウハウがあってこそ実現に至ったと考えています。

今後もDGDVがハブとなり、オープンイノベーション推進の支援を続けていきたいですね」

DGDVのグローバルネットワークが、オープンイノベーション支援につながる理由とは

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▲DGDV親密先VCの1社BEENEXTとともに

──海外における支援事例についてはいかがですか?

揖斐 「たとえば、ファンドのLP企業の1社でもあるヘルスケア企業のB社との取り組みは、海外における支援事例として挙げられます。

B社には、DGDVのヘルスケア担当者から月次でグローバルの業界トレンドや最新の情報をお伝えしつつ、最適なタイミングでスタートアップを紹介しながら投資機会を提案しています。

逆に、先方から投資案件のDD(デューデリジェンス)や進め方のご相談など領域に留まらない汎用的なご相談をいただいたりもしています。

こうしてコミュニケーションを取る中で、直近の関心事項や親和性が徐々に理解できるようになるので、先方のニーズに沿った海外イベントのご紹介や出張に同行してネットワーク構築のサポートを行うことができています」 

──どのような経緯で海外出張に同行することになるのでしょう?

揖斐 「『出張に帯同させたい』と思ってもらうには、前提として良好な関係性の構築が欠かせません。その上で、先方が出張を通じて確実に収穫を得られるよう、担当者に限らずチームで総力を挙げて知見やネットワークを活かしてプランニングのお手伝いをしています。

たとえば、ボストンで世界最大規模のカンファレンスが開催された際には、相性の良いスタートアップに出会うために、どのゾーンをどのようなルートで回ることが効率的かを計画・提案しました。

私たちのLPは、グローバルで名が知られた大企業が多く、とくにB社は業界の雄とも呼ばれる企業です。海外のスタートアップにB社を紹介するととても喜ばれるんです。

B社は優れた技術を持つスタートアップとつながることができ、スタートアップは日本の大企業とオープンイノベーションに取り組むきっかけを掴むことができます。

こうしたWin-Winの関係性を取り持つ機能を期待いただいて、海外出張の帯同といった珍しい事例が実現したのだと思います」 

──関係性構築の上に積み重ねた準備や努力の賜物なのですね。ほかにも何か紹介いただける取り組みはありますか?

揖斐 「同じくLP企業の1社であるC社とはインドのスタートアップであるAirmeet(エアミート)に共同投資を実施しました。

DDや投資の意思決定は日本で行った上で、『実際に現地のマーケットを見に行こう』と、C社の担当者とタイミングを合わせてインドに出張しました。

C社にはインドのネットワーク拡充を目的として、『現地のVCにも会いたい』というニーズもあったため、DGDVがインドで形成しているネットワークを活用して米国トップティアVCや日系VCのインド支店の方とのアポイントメントを手配しました。

実はC社が接触を希望したリストの中には、当時DGDVとまだ接点のないVCもあったのですが、インドでこれまで遂行してきた投資活動を紹介しながら門戸を開いてもらった結果、C社の期待に応えるアポイントメントを組むことができました。

結果として、私たちにとってもさらなるインドネットワークの拡充にもつながり、大変貴重な機会でした」

──コネクションがなくとも諦めずに接点を探しに行く、まさにDGDVの流儀ですね。C社にも喜ばれたのではないですか。

揖斐 「そうですね。現地のVCから市場に対するビューをヒアリングしたり、実際に市場を目の当たりにしてまさに生の声を聞くことができたことで、実務に役立つ情報を集めるお手伝いができたと思っています」

蒔いた種の成果が見えるまで、腰を据えて向き合う。それがキャピタリストとしての使命

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──揖斐さんがオープンイノベーション支援に熱意を燃やすようになったきっかけを教えてください

揖斐 「前職のインターネット企業は、M&Aを繰り返しながら全世界に事業を創出してイノベーションを推進し続ける稀有な日本企業でした。

私もアメリカ赴任を経験していますが、文化の違いからコミュニケーションに苦戦してしまった経験があります。そこで、グローバルに対応できる柔軟なマネジメントを学ぼうとシンガポールとフランスのビジネススクールに通うことにしました。

そこで衝撃を受けたのは、授業の中のケーススタディとして日本の大手製造業の企業が取り上げられるたびに、『手先が器用だから』、『勤勉だから』という具合に、成功の要因が日本人へのステレオタイプで語られていたことです。

経営やマネジメントを学ぶビジネススクールでさえ、そうしたステレオタイプが根づいていることに危機感を覚え、再び日本経済に注目をしてもらうためにも、イノベーションを起こさなければならないと強く感じました。

自らスタートアップ関連のビジネスコンテストにも参加する中でメンターなどを通してグローバルに業界の方々とコミュニケーションをすることができ、スタートアップ業界の魅力に惹かれていきました。

グローバルの中で日本企業のプレゼンスを上げていくことや、スタートアップに関わってイノベーションを起こすことに携わることができる道を模索していたところ、DGDVのようなオープンイノベーション型のグローバルVCの存在を知りました」 

──実際に仕事をしてみて、どんなところにやりがいを感じていますか?

揖斐 「私たちが情報を提供することで、ディスカッションが活性化し、LPである大企業の担当者の方の頭の中に新しい発想が生まれたとわかる瞬間が一番うれしいですね。

大企業の環境では、すでにそこでビジネスが確立していることもあり、決まったスコープの中で仕事をされていることが多いのですが、アウトオブボックスといいますか、『こういうこともできるんじゃないか』といった発想が生まれ、スコープから外れたディスカッションに発展していったときに一番やりがいを感じます」

──オープンイノベーションの取り組みの中で、大企業側の価値観そのものがアップデートされるような瞬間に立ち会えるのですね。それでは最後に、オープンイノベーション支援を通じたDGDVの展望を教えてください。

揖斐 「DGDVはグローバル×オープンイノベーションをしっかり実行できているVCだと、胸を張っていえます。

ただ、それでもイノベーションや新しい事業へと結実するまでには5~10年といった長い時間がかかるのが一般的です。最後まで責任を持って伴走することも、キャピタリストの使命だと思っています。

DGDVはグローバルネットワークに強みを持っていますが、グローバルVCとして結果を出さなければ、すぐにスタートアップにも大企業にも相手にされなくなってしまうという危機感をいつも持っています。

私たちの投資機会の確保という意味でもネットワークは欠かせないので、これまで通り、今後も地道な関係性構築を継続し、大企業の今後の収益の柱や社内改革といったオープンイノベーションに役立つようなサポートをしていきたいですね」