Y Combinatorに参加しました!──でもそもそもYCって、何がすごいの?
DG Daiwa Ventures※(以下、DGDV)は、昨年に引き続きY Combinatorが開催するYC 22W Demo Dayに、今回も投資家として参加いたしました。過去にはAirbnb社・DoorDash社・Instacart社・Stripe社・Coinbase社も参加しているY Combinatorは、世界で最も有名なアクセラレータープログラムです。
Y Combinatorが半年に1度、3カ月間にわたり実施するスタートアップ育成プログラムと、その最後を飾るピッチイベントであるDemo Dayは、成長率が高く、世界一の質のファウンダーを有するスタートアップの参加実績と、プログラムへの参加ハードルの高さ(参加許可率約2%の狭き門)が相まって、有望なスタートアップと早い段階で出会うことができる場として、世界各国の投資家から注目を集めています。
DGDVは、Demo Dayが行われる約1カ月半前から参加企業リストを入手し、Demo Dayに先立ってデュー・デリジェンス(以下、DD)を開始しており、デスクトップリサーチだけでなく、有望先に対しては実際にアポイントを取り、事前の関係構築や情報取得を試み、Demo Dayに備えております。
そのように準備を進めて迎えたDemo Day当日(日本時間2022年3月30日・31日の深夜1時から早朝6時まで実施)は、DGDVからは海外案件を担当するキャピタリスト6名全員で、全社のプレゼンを視聴し、事業トラクションなどDemo Dayで新たに明かされる情報を確認し、投資先候補を更に絞り込み、即座にアポイントを取ります。
その後、Demo Day当日の日本時間午前中やそれ以降の投資先候補との会議を通じ、経営者・チームの資質、事業戦略、市場機会や事業のポテンシャルなどを見極めた結果、今回のYC Winter 2022では計8社への投資にいたっております。
(※)DG Daiwa Venturesは、デジタルガレージと大和証券グループの合弁によって設立されたベンチャーキャピタルです。
「日本の投資家はYCでは良い投資ができない」は本当か?
DGDVは、グローバル投資家とのネットワーク拡充、アーリーステージのグローバルスタートアップへのリーチ機会獲得を目的として、前回開催のYC Summer 2021から参加を開始いたしました。Y Combinatorについて、よくある言説として、「良いスタートアップはDemo Day前に投資家の座組が内々で決まっていて、日本の投資家がDemo Dayで初めて会っても投資させてもらえない」というのを聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、これは半分本当で、半分間違っています。
確かに2019年以前にはそのような状況を目の当たりにしたというメンバーが弊社にもおりましたが、1つ大きかったのは、コロナ禍における特例措置でY Combinatorがオンライン開催実施となったことで、普段現地にいない日本から参加する投資家にも平等に機会が拓けたということでした。参加スタートアップも世界各地に分散しているため、日本にいながらにしてフラットに良いスタートアップにアプローチできる機会が増えたというのは、日本の投資家にとっては確実にアドバンテージとなりました。Y Combinatorで良い投資をするにあたり、もう1つ大きなハードルになるのは、意思決定までの時間軸の短さです。
YC Demo Day後には通常、SAFE(Simple Agreement for Future Equity。株式取得略式契約スキーム)を用いて、1~2週間といった短期間でY Combinatorと共に投資を行う機会(ラウンド)が開かれます。
有望なスタートアップには各投資家からのオファーが殺到し、Demo Day前にすでにオーバーサブスクライブとなり、参加権を得ることができない例も多く見られます。さらに通常1~2週間(早いケースでは2日以内など)でクロージングを行うという時間軸の短さは、投資の意思決定権を持つ投資委員会という組織を冠する一般的なベンチャーキャピタル(以下、VC)にとって、投資委員の日程調整など主にロジ面でのハードルが高くなってしまいます。DGDVでは、このY Combinatorのオンライン開催という好機を逃さず、少しでも良い投資ができるよう、特例として時間軸というハードルを超えるための体制を構築しました。
具体的には、投資小委員会という投資委員会の委託機関を作り、Y Combinator参加という狭き門を通ったスタートアップ向けに一定の投資授権枠を設けることで、投資金額のキャップがある状態とし、ガバナンスとDDのクオリティを保ちつつ、通常よりも早い意思決定を可能としております。これは前段で触れた通り、Y Combinatorのこれまでの実績が信頼に足るということもありますが、それ以上に、LP企業様をはじめステークホルダーの皆様に、この取り組みにまつわるDGDVの熱意と意図をクリアにご理解いただけたことがとても大きく、大変感謝しております。
起業家にとってサポーティブな投資体制を作り、実際に投資実績を作ることで、Y Combinatorの伝統あるクローズドコミュニティに入り、さらに有望なスタートアップに初期段階でアクセスすることができるという貴重なチャンスを掴むことが、今後、日本発のグローバルVCとしてDGDVが飛躍するために必要な施策であるという思いを共有しながらステークホルダーの皆様含めてチームが一丸となった結果、投資精度の担保とスピードを兼ね揃える体制(投資小委員会制度)の構築につながりました。
「リモート化で、Y Combinator参加企業の質は落ちた」のは本当か?
一部のメディアなどで、「リモート化で十分なメンタリングを受けられなくなったために、Y Combinator参加スタートアップの質が落ちている」というような指摘があったようですが、これも実際に投資家として参加してみるとそんなことはなく、Y CombinatorのDemo Dayまで辿り着くスタートアップは、MoMで30%のKPI成長は当たり前、50%や70%を叩き出している企業もたくさんあります。
メンバーの中には2016年ごろからY Combinatorに参加しているキャピタリストもいますが、リモート化によって参加のハードルが低くなったことで、むしろ応募の裾野が広がり、出てくるトラクションの数字感などを比較してもレベルは上がっているようです。
実際に、われわれはこれまで計15社のY Combinator参加企業への投資を実行しましたが、中には半年程度で2倍以上の著しい成長を遂げたスタートアップもあります。
たとえば、インドのKarbon Card社 (中小企業向けコーポレートクレジットカードを展開)は、Demo DayでDGDVが投資してから間もなく、Olive Tree CapitalなどからUS$15Mの調達を達成し、大きくアップラウンドしましたし、シンガポールのintellect社(従業員向けの遠隔ヘルスケアサービスを提供)は、Demo Dayの約半年後にはTiger GlobalからUS$10Mを調達し、すでに東南アジアのみならず日本展開も目指して着々と歩みを進め始めています。
また、既存投資先でDGDVがリード投資家として長く支えてきたGenomelink社(遺伝子情報を基にした各社サービス提供を行うプラットフォームを運営)は、Y Combinator参加企業に選出されたことで大きく飛躍し、Y Combinatorへの参加自体がスタートアップを成長させていく実態についても目の当たりにすることができました。
「Y Combinatorは、日本登記の企業では参加不可能」は本当か?
先日のYC Winter 2022では、アジアの創業者が全体の20%近くを占めていたにも関わらず、残念ながら日本人創業者は見られませんでした。この理由として、米国、ケイマン諸島、シンガポール、カナダのうちどこかでの法人登記が必須であるというY Combinatorの応募要件が足かせになっているということがよくいわれています。
ただ、実態としてはEUや韓国、シンガポール以外のSEAで登記したままの企業も多くY CombinatorのDemo Dayには参加していました。実際に、DGDVはその中で韓国の企業に投資を実行していますが、彼らはY Combinatorからの投資を受けるに当たって米国法人を作るかどうか検討した結果、結局韓国法人のままでY Combnatorの参加投資家から出資を受け入れることを選択しました。つまり彼らは、有力投資家との接点を作るためにY Combinatorを活用したということです。
選出されたスタートアップの60%近くは2度以上YCに応募している点、30%近くは事業化以前のアイデア段階のステージであるという点など勘案するに、日本のスタートアップにもまずは挑戦する価値は十分にあるものと思います。
Y Combinator参加企業への投資や、参加経験を有する既存投資先との多くの情報交換により得られた、投資家の立場と参加スタートアップの立場、両面からのナレッジを活かして、今後DGDVはY Combinator参加に関心のあるスタートアップへの参加支援なども提供し、国内発で世界を舞台に戦えるスタートアップを多角的にサポートしていきたいと考えております。
また、今後Y Combinatorの有望な参加企業に対し、DGDVからの出資に留まらず、LP企業様へも直接の出資機会を提供するといった取り組みも検討してまいります。
有望なスタートアップを「種」の段階から一緒に支えて育てていくことで、スタートアップと日本の大企業の両者の利益に資するような取り組みができるのではないかというようなことも、DGDVメンバーで日々議論しており、是非次へのチャレンジとして挑戦していきたいと考えております。
執筆担当:DG Daiwa Ventures 渡辺 大和/大久保 未紀