創業後10年でスタートアップに転身。求めていたのは、同じ方向を見てくれるVC

article image 1

——フェアリーデバイセズ株式会社(以下、フェアリーデバイセズ)は、途中からスタートアップに転身されたそうですね。まずは、会社の成り立ちから教えていただけますか。

藤野氏 「創業から約10年間は、受託開発や共同研究をメインで行い、さまざまな技術やノウハウを蓄積してきました。電機メーカーや通信キャリア、自動車の電装部品メーカーをお客様とし、製品開発を進める上で必要な機械学習やソフトウェアに関する領域の中でも、彼ら、彼女らにとって自社対応が容易ではない難しい部分を委託いただいていました。

われわれも難しい課題を解くことには一定の自負がありましたし、ディープテックのテクノロジーイネイブラーとして、お客様の製品開発や性能向上に貢献してきました。さまざまなお客様の製品に触れるなかで、日常的な生活やビジネスを助けてくれるパートナーのようなAIを自社で開発したいという気持ちが次第に高まり、第二創業ということで業態転換に至りました」

——株式会社DG Daiwa Ventures(以下、DGDV)としては、フェアリーデバイセズのどのようなところに魅力を感じましたか。

眞田 「フェアリーデバイセズには、DGDVが設立された翌年(2017年)の春に初めてお会いしました。

DGDVは、DG Labというデジタルガレージが運営するエンジニアと事業開発リソースを有するオープンイノベーション型の研究組織と連携しており、このDG Labには発足当初からAI分野でトップレベルのメンバーが揃っていました。彼ら、彼女らと話すなかで、“日本国内で最先端のAI分野のエンジニア”として真っ先に名前が挙がったのが藤野さんでした。

実際にお会いしてからは、じっくり時間をかけてフェアリーデバイセズがもつ技術やビジョンへの理解を深めていき、2018年春に最初の出資を行いました」

藤野氏 「眞田さんをはじめ、DGDVメンバーの情熱は、最初にお会いしたときから伝わってきました。よくある『お金を出すから、出し手がえらい』という姿勢は一切なく、むしろ真逆の『対等な立場で、一緒にやっていきましょう』という想いが伝わってきて、心を打たれたのを覚えています」

眞田 「われわれDGDVも、フェアリーデバイセズの技術力はもちろんのこと、藤野さんが語る未来へのビジョンに非常に感銘を受けました。理想の未来を描き、『その未来を創るのは自分たちのチームだ』との強い自信があるのが伝わってきたからです。

ビジネスへの理解が深まり、その理想の未来が実現可能であることが見えてくるにつれて、フェアリーデバイセズという会社を応援したいという気持ちがますます強まっていきました」

——他のVCからもお話があったと思いますが、藤野さんはどのような軸でリード投資家となるVCを選ばれたのでしょうか。

藤野氏 「同じ方向を向いていけるVCかどうか、ですね。投資家と経営陣は同じ方向を向いていないといけない、という気持ちが強くあります。これは直感的な感覚ですが、DGDVとであれば、投資家と経営陣が同じ方向を向いて成長し、一緒になって作り出そうとしてくれると思いました」

眞田 「ひとつ、印象的なエピソードがあります。当初、藤野さんから希望調達金額は1億円程度とお聞きしておりましたが、ある日、『5億円調達したいと思っています。調達方法や配分はお任せします』と託されました。これにはかなり驚きました」

藤野氏 「たしかに、そう言った覚えがあります」

眞田 「たしかにDGDVは投資先の支援内容のなかでも、とくに資金調達に力を入れており、経験も有しています。しかし、それでもこれは大変なことになったと思いました」

藤野氏 「無理難題を突きつけたという自覚はありました。しかし、経験豊富なDGDVにお任せすれば、きっと大丈夫だとも思っていました」

眞田 「藤野さんの、そしてフェアリーデバイセズの挑戦をなんとしても応援したい、その一心でした。自分にできることがあればなんでもやろうという想いで取り組んだことを覚えています。当時の資金調達環境としては、2017~2018年はまさに音声認識を実用化して社会に実装しようという機運が高まっており、GAFAをはじめ多くの資金が投下されているなど、いいタイミングでした。

そこにフェアリーデバイセズの高い技術力と魅力的な将来ビジョンを加えたエクイティストーリーを一緒に構築し、さまざまな投資家に訴求していきました。藤野さん自身の強い情熱も投資家からの評価の後押しとなり、蓋を開けてみると、調達予定金額を大幅に超過する需要がありました。

結果として、DGDVがリード投資家として最大出資をしつつ、フェアリーデバイセズと相乗効果が期待できる投資家の方々にご参加いただくことができました」

投資しておわりではなく、はじまり。成長とともに立ち現れる課題をお互いに協力して解決

article image 2

——資金調達した後、さまざまなハードシングスに直面したと伺っています。

藤野氏 「まず最初に、私たちのチャレンジしている内容がバーティカルな取り組みであるということ自体に非常に大きな難しさがありました。ハードウェアの開発はもちろん、その上に乗るOS、ソフトウェア、そしてクラウドシステムやAIに至るまで、すべてのレイヤーを開発するのは大変難しいことです。

2018〜2019年当時、日本で最先端のスマートフォンに匹敵するバーティカルな開発を行っている企業は、私の知る限りありませんでした。だからこそ、『これは私たちが取り組むべきだ』という使命感を胸に挑んだのですが、これはいまでも大変だと思っています」

眞田 「プロダクトをリリースするまでの期間が長く、リリースできるまでなかなかトラクションが出ないのがディープテック系企業の難しいところです。

製品開発に関してはフェアリーデバイセズにおまかせですが、トラクションが出るまでの間、他の投資家の期待値をコントロールするような役割をわれわれが果たせたのではないかと思っています」

藤野氏 「まさにその通りで、開発したいものを構想し、プレゼンテーションにまとめるだけでもかなり時間がかかってしまうものなので、DGDVには投資家との関係性の構築の仕方について大変お世話になりました。

また、バーティカルなことに取り組む上で、ヒト、モノ、カネのいずれも足りないところからスタートしましたが、DGDVと出会ったことで資金面の目途が一定程度立ったことも大きかったです」

眞田 「他には、テレパシージャパンの買収のサポートもさせていただきました。フェアリーデバイセズの現取締役である竹崎さんがテレパシージャパンのCEOを務めていらっしゃったとき、藤野さんから『彼のチームが非常に素晴らしい。この会社は非常に良いので、フェアリーデバイセズとして買収したい』というお話を伺いました。

資金の余裕がないなかで、フェアリーデバイセズがテレパシージャパンを買収するためのスキーム策定や、買収関連リスク低減策の検討、既存投資家への説明などを担いました」

——DGDVは経営資源のモノ・カネ・ヒトのうち特にカネの部分での支援に力を入れているのがうかがい知れますが、どのような考え方で投資先の支援を行われているのでしょうか。

眞田 「主役はスタートアップであり、VCは黒子であると考えています。そして同時に投資をさせていただいた時点で、同じ船に乗るクルーの一員になったとも思っています。ですので、さまざまなケーススタディを見てきたVCならではの経験を活かし、投資先の課題を同じ目線で一緒に乗り越えようと努力をしています。

DGDVは、さまざまな事業会社や金融機関で経験を積んだ多様な人材が在籍しており、メンバー全員が投資先の成長のために貢献したいというメンタリティを持っているチームワークファンドです。

スタートアップの抱える課題を解決するために、資金調達支援や経営人材の採用支援等、われわれがお役に立てることはなんでもやっていこうという考え方をしています」

藤野氏 「会社が規模を拡大していく中では、株主構成の面をはじめさまざまな課題が出てきます。こうした課題を一緒に認識し、アドバイスやサポートをいただきながら二人で協力して解決で解決に向かえるのは大変ありがたいです」

——資金面などの課題をクリアしつつ、どのような想いで製品を開発されましたか。

藤野氏 「『デバイスの装着者が見ているものを見て、聞いている音を聞く。その上で、人の心に寄り添い、私たちを手助けしてくれるようなAIを作りたい』という想いが一番最初にあった大きな気持ちです。試行錯誤の結果、生まれたのがスマートウェアラブルデバイス“THINKLET®(シンクレット)”です。

人間は体験したすべてを記憶できるわけではありませんが、デバイスは映像などすべてを記憶し、記録することができます。それをインターネットにつなげて映像をリアルタイムで転送し、相手と会話することもできます。この技術を活用すれば、たとえば、遠隔地にいるベテランエンジニアから業務を教わるなど、対面と遜色のないリモートでのOJTが可能になります。

現在はこのコミュニケーションが主体の製品に仕上がっていますが、今後はコミュニケーションデータを記録して保存しておくことで、デバイスを通してAIが現場の人に役立てるような簡単な仕組みにも進んでいきたいと考えています」

コロナ禍を機に方針を転換。DGDV流の経営方針への寄り添い方とは?

article image 3

——2020年からの新型コロナウイルス感染拡大のど影響はありましたか。

藤野氏 「当初、“THINKLET®”を軸に1社に深く入り込んで、AIがパートナーになるにはどのような機能が必要かを調査し、製品開発に活かす戦略を進めていました。

たとえば、ダイキン工業様の事例ですと、エアコンの保守点検やメンテナンスの現場で、どうすればエンジニアの方の仕事を楽にできるかを現場に同行し、深く検討するなど、深いAI機能を作って掘り下げていく案件を徐々に増やしていければと思っていました。

しかし、コロナ禍で現場への同行が困難となったため、方針を転換しました。『遠隔地にいる人と会話する』『現地の映像を記録する』といった機能にも十分にニーズがあることは分かっていたため、1社に深く入り込むのではなく、多くの企業に広く製品を活用してもらえるよう、共通的に横展開できる機能に絞ってシンプル化するほうへ舵を切りました。そうしてできたのが、LTE搭載ウェアラブルカメラ“LINKLET”です。

以前から、“深さ”と“広さ”のどちらを先に攻めるべきかと考えていたので、事業内容や製品ががらりと変わったというより、展開順序が変わった感じですね」

眞田 「コロナ禍の影響を受けて、当初の数千台や数万台単位で製品を導入いただけるお客様に営業を行う方針から、ライトに製品を拡販する戦略に転換されましたが、この経営判断に関してDGDVはフェアリーデバイセズの経営陣を100%信頼していました。

むしろ経営方針の変更に合わせて、どれだけの資金がいつまでに必要かを常にアップデートし、資金調達の旗を振ることが、コロナ禍におけるわれわれにとっての最大のテーマでした。

ありがたいことに、ダイキン工業様の出資をはじめ、フェアリーデバイセズのストーリーに共感し、ご理解くださる投資家の方に多数出会うことができた結果、現在、プロダクトをうまく世の中に届けられていると思っています」

藤野氏「“LINKLET”は、CES 2022 Innovation AwardsをWearable Technologies部門をはじめ3部門で受賞したことや、TIME誌の選ぶ Best Invention 2022 に選出されるなどグローバルで評価していただき、製品として一定の知名度も獲得できました。

さまざまなお客様に利用していただき、その中からより個別化したニーズをお持ちのお客様に対応できる製品を開発するというロジカルなステップも整っています。そういった意味では、順序を変えてむしろ良かったのではと思っています」

ディープテック企業として難しい課題を解決し続ける。その魅力を共に全世界に広めたい

article image 4

——長い業歴、そしてスタートアップへの転換にともない、社風も大きく変わったのではないかと思いますが、組織はどのように変化しましたか。

藤野氏 「受託開発を行っていたときからずっと、難しい課題を解決することが仕事でした。実績がないことであっても、お客様からご要望をいただいたら勉強して解きにいこう。その繰り返しで、実際にお客様の役に立ってきたという経験もあり、自分たちならきっと解決できるという自負やカルチャーのようなものがあったんです。

だからこそ、スタートアップに転換したときも大きなハレーションは起こらず、退職も起きませんでした。今もまた変革の途中ですから、社内でのコミュニケーションは丁寧に取る必要があると考え、気を引き締めています」

——未来のことについても伺えればと思います。今後の展望を教えてください。

藤野氏 「“LINKLET”が正式リリースされたところなので、まずは国内でサービスを大きく広めていきたいです。そして、広く利用されて集まったさまざまなデータを活用して、現場の仕事を手助けできる熟練工AIを作るサイクルに磨きをかけていきたいと思います。

国内で一定の実績をあげることができたら、海外の同じような現場にも展開していきたいですし、サービスを通じて日本の誇る高い現場力を海外に輸出し、世界中の現場の作業水準が上がるような循環が生まれていけばいいですね。そのための第一歩を踏み出したところだと考えています」

眞田 「製品を売るフェーズに入り、DGDVとしては、“LINKLET”が国内だけでなくグローバルにも広がっていくことを期待していますし、実際に売れると信じています。ハードウェア×ソフトウェア×AIの領域に強みをもつ企業は世界的にも非常に高い評価を受けており、グローバルの投資家は常にそうした企業を探しています。

そのため、われわれが日本と世界との架け橋となって、そのような投資家にフェアリーデバイセズを積極的に紹介しながら、フェアリーデバイセズが今どういうステージか、今足りていないものが何かを客観的に意識しながら常に最適な支援方法を模索しています。

CESやTIMEでの受賞も追い風となり、これまで以上に投資家へアプローチがしやすくなってきていますので、フェアリーデバイセズの製品や技術力や戦略をこれまで以上に紹介していきたいですね。高い水準の国際競争力を有する企業だと思うので、世界中のお客様に向けてどんどん製品を届けてほしいと期待しています」

——フェアリーデバイセズではメンバーを募集中だと聞いています。どのような仲間を迎えたいですか。

藤野氏 「私たちは、動くものを作り、壊して確かめて、また作ってといったことをずっと繰り返してきた会社です。そうした作業を楽しいと思えることが大前提です。実は今回の “LINKLET”も社内コンテストから生まれたプロダクトです。自分たちでものを作って遊ぶための余白を大事にしているので、言われるがままにただ作るのではなく、自分で発想し、それを作る過程を楽しめる人にぜひ仲間になっていただきたいです」
FairyDevices採用ページ