ほんとうに環境がよくなるための法規渉外をする

―唐内さん、本日はよろしくお願いします。

唐内 「よろしくお願いします。いやぁ、緊張します。インタビューされるなんて生まれてはじめてですし、本当に僕で良かったのか今でも不安です。ですが、実は話すことは好きなんですよね(笑)」

―話すことが好きなんですか(笑)!? こちらも緊張していましたが、そのお言葉を聞いて安心しました。さっそくですが、環境法規分野の法規渉外ってどのようなことをされているのか教えていただけないでしょうか。

唐内 「法規というと難しく聞こえますよね。簡単にいうと、環境に良い多くの製品を世の中に送り出すために、各国の環境規制や法規動向などを調べて社内の設計・開発などの関係部署に展開し、製品開発に役立ててもらっています」

―なるほど。製品をつくるために守るべき必要な法規情報を展開しているのですね。

唐内 「はい。そうですね。製品開発に加えて、事業戦略にも活用してもらっています。それから、法規の改正や制度導入を官公庁や各国業界団体に交渉することにも力を入れています」

―攻めの法規渉外ですね。例えばどのようなことを交渉されたのですか?

唐内 「欧州や中国等において自動車のCO₂クレジットの制度化と、その制度に高効率エアコン技術が対象となるよう交渉しました」

―詳しく教えていただけますか?

唐内 「はい。CO₂クレジット制度は自動車のCO₂削減に効果がある技術の普及を後押しする仕組みで、一つ一つの技術を当局が評価して対象技術になるかどうかが決まります。その制度を新たに導入したり、既に制度がある国には、クレジット制度の対象に『高効率エアコン技術』を入れてもらうよう交渉してきたんです」

ーなるほど!環境を良くするために、数々の交渉を行ってきたんですね。クレジット制度があると、車両メーカーとしても採用しやすくなるのですね。

唐内 「そうなんです。その中でも、CO₂排出量の改善性能の高いものが選ばれるようになります。つまり、とても高効率で環境性能がよいデンソーのエアコンを選んでもらいやすくなるということです」

ー結果として、CO₂排出量が少ない車両が増え、カーボンニュートラルが推進されるということなのですね!

唐内 「そうですね!デンソーの製品には、エアコン以外にもCO₂改善技術があるので、これからもクレジット制度の対象となるように活動してきたいと思っています」

「このままではいけない」 と感じて大切にしたことは “人のつながり”

ー現在は、法規改正などの交渉を積極的に行われているようですが、以前はできていなかったとお聞きしました。何がきっかけで変わったのか教えていただけますか?

唐内 「日本の部品メーカーはどこか受け身で黒子のようなイメージが強いと思うんですよね。海外の部品メーカーは自分たちのビジネスが発展できるような法規渉外を積極的にしているのに比べ、僕たちは、既にある法規の遵守に徹していて、攻めの渉外が全然できていなかったんです」

ー法規交渉をするということは、一段上のビジネスに挑戦するということですもんね。黒子のままだとビジネスを広げるのに限界があるということでしょうか。

唐内 「そうなんです。なので、もっと積極的に直接、交渉していかないとデンソーの環境に優しい技術が普及できなくなる、このままではいけないと本気で思ったんですよね。でも、いざ交渉しようと思っても事例がなく、官公庁や業界団体とのコネクションもなくて」

ーハードルがすごく高いですね……!どのようにして、乗り越えてこられたのでしょうか?

唐内 「小さなことでもいいので事例をつくることから始めました。そして、今まで以上にコミュニケーションをとるようにしたんです。当時、設計・開発部門とは、既存の法規情報をこちらからお伝えするだけで深く連携できていなかったので、開発方針を理解した上で規制動向と照らし合わせながら、技術が認められる方法を一緒に考えるようにしました。
それを、海外拠点の仲間にも常に伝え、距離を感じさせないくらい一緒に活動している状態にしたんです。そして、たくさんの方に協力をいただきながら官公庁とのコネクションをつくり、みんなで一緒にCO₂クレジット制度そのものの導入や、エアコンなどの技術をクレジットの対象にすることができました」 

ー社内関係部署や海外拠点と一体となり、一歩ずつ進めてこられたんですね。

唐内 「そうですね。法規渉外をして、すぐに法規化されることは殆どなく10年くらいかかる場合もあります。その間、みんなで諦めずに地道な活動を繰り返してきたので、10年前に比べると法規渉外が比較的、当たり前にできるようになってきたと思っています」

 ー実際、車両メーカーとの調整も難しいのではと感じたのですが……。

唐内 「製品を搭載いただく車両メーカーがいてこそ成り立つものなので、デンソーだけではなく、車両メーカー、社会にもうれしさがあるような法規渉外をしています。自分たちだけの都合を考えるのではなく、三方よしになるような、そんな制度と関係性を築くことを大切にしています」

ー三方よしって、すごく大切ですね。でも、その状態になるまでって簡単じゃないような……。 コミュニケーションなどで気を付けていることはありますか?

唐内 「コミュニケーションで大事にしていること……。『相手の気持ちを考えて話をきちんと聞く』ことかな。あと、『相手が嬉しいことは何だろう』っていつも考えるようにしてます。仕事って、関わる人との関係性がすごく影響すると思うんですよね。だからこそ、“人とのつながり”をいちばん大切にしています」

ーいつも相手のことを考えているんですね。

唐内 「なんか、かっこよく言っちゃいましたけど、考えすぎて動けなくなることも多いんですけどね(笑)」

地道だけど 「おもしろい」。たくさんの人に役に立つからこそ続けられる

―ところで法規渉外のお仕事ってすごく専門知識が必要なイメージですが、唐内さんはもともと法規を専門として入社されたのですか?

唐内 「いえ、僕は電気工学を専攻していて、デンソーに入社して法規認証渉外に関わる部署に配属されてから学びはじめました」

ーえ!? まったくの未経験だったところから今に至るのですか?そして、異動もされず、ずっと?

唐内 「はい。ずっとこの仕事です(笑)」

―何十年も同じ仕事を続けるって、すごい!どうやって、モチベーションを保っているのですか?

唐内 「う~ん。一言でいうと、おもしろいんです。アメリカに出向もできましたし」

―仕事がおもしろいって最高ですね!どのような点が魅力か、もう少し詳しく聞かせていただけますか?

唐内 「法規は政治や政策などに連結しているので、日々変化があるんですよね。なので、毎日、政策や法規を読まないといけなくて、そこにかなりの時間をとられてしまうという、とても地道な仕事なんです。でも、社会の大きな動きを知れますし、会社の中でも全体の方針を知れたり、また、様々な部門の方々と知り合えたりできるのが、とてもおもしろいんです」

―社会全体を俯瞰しつつ、法規の動向も把握する。その地道に調べてくださっている情報って、すごく重要ですよね! 

唐内 「だと嬉しいですね!新しい製品をつくるときには必ず法規情報が必要なので、設計・開発部門から調べて欲しいと頼まれるんですよね。あらゆる手段を使ってお答えするのですが、『ありがとう』とか『助かったよ』とか言ってもらえた時、すごく嬉しいんです。先ほど話したCO₂クレジット制度化が認められた時も、感謝の言葉をいただいて、こちらも、『ありがとう』という気持ちでいっぱいになったんです。すごく達成感もあって、癖になる感じなんです(笑)」 

―関係部署の皆さんの仕事が前に進むことによろこびを感じていらっしゃるんですね! 

唐内 「役に立ちたいんです。法規渉外のプロフェッショナルとして頼っていただいているので、もとめられている以上のことをする、ということを意識しながらやっています。そうすると、信頼も得られるんじゃないかなあと」

―そのスタンス、すごいですね!わからないときに、安心して頼れる存在がいるってすごく心強いと思います。

「先を読む力」を身につけて、世界中から必要とされたい

―唐内さんが、これからさらに目標とされていることがあれば教えていただけますか?

唐内 「そうですね。国内外でデンソーのプレゼンスをもっとあげて、新しい法規をつくるときには自然と声をかけてもらえるくらいになりたいです」

―すでに、デンソー社内からかなり頼られる存在になっているかと思いますが、世界の官公庁や各国業界団体からも頼られる存在へ……。

唐内 「そうなっていきたいなと思います。そのために、『先読み』ができるようにならないといけないと思っています。 今、デンソーではカーボンニュートラルを実現するために、新しい技術やソリューションがどんどん考えられています。それらを社会に普及させていくためには、法規だけでなく、政策や標準化動向を先読みし、企画や提案ができるようになりたい。でも先を見通す力はまだ足りていないと思っていて、日々悩みながら試行錯誤しています」

―法規や政策に適していないと、どんな価値のある新しい技術があっても普及できないですもんね。法規という基盤を先行して整え、デンソーの製品が全世界に渡ってカーボンニュートラルが実現できると最高ですね。

唐内 「はい。最高ですね。実現できるように地道に努力していきたいと思っています」

―唐内さん、お話しいただきありがとうございました。デンソー製品が世の中に普及できるのも、唐内さんのような方がいてくれるからだと改めて感じました。これからもカーボンニュートラルの実現に向けて頑張ってくださいね。