障がい者ラベルへの違和感

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▲幼少期から音が怖かったため、日常的にイヤーマフが欠かせなかった (右から3人目が新濃。カバンにイヤーマフを付けている)

「本当に障がい者なの?」

外見ではわからないためそんな問いを受けることもありますが、私には知的障がい(※)、ADHD、発達障がいがあります。障がいがあっても、一般の学校に通い、一般の人と同様にアルバイトもしました。

※ 知能(IQ)検査によって知的機能・適応機能を測り、IQ70以下の場合に知的障がいを診断される

職場では実績が認められ、アルバイトから契約社員に。新規プロジェクトの立ち上げにはリーダーとして参画。当時20歳の私にも、責任ある仕事が任されました。しかし早朝から深夜にわたる勤務が長期化し、障がいと相まって“困難”が発生。障がいがあることを告げて働き方を相談しました。

(障がいを理由にするのは)「甘えではないか?」と、当時の上司からそんな言葉を受けました。

そうして、障がいを開示して転職することにしました。次に就いたのはビデオ・オン・デマンドサービスの技術職。おもしろい仕事である一方、過度な配慮を受けることが……。

障がいがあるから難しいよね」「無理してやらなくていいよ!

優しさから掛けられる言葉は、もどかしさでもありました。

障がいがあってもチャレンジしてみたい。今できないことだってやってみたい。

そして2021年、デル・テクノロジーズの障がい者採用の研修生(※)として入社しました。

※ 研修型雇用と呼ばれるもので、就労経験のない障がい者あるいは離職期間の長い障がい者に対して1年間のビジネススキルトレーニングが提供される。2012年宮崎オフィス(キャリアサポートセンター)で始まり、2021年に東京オフィスでも同プロブラムが開始された

ここに至るまでの転職活動中、たくさんの疑問にぶち当たりました。

どれだけ面接がスムーズでも、知的障がいを開示した途端にお見送りになったり、「知的障がいがあると聞くと、採用するのは躊躇う」「制度上、知的障がい者を雇うことはできない」と言われたりすることもありました。あるいは、単純作業の求人ばかり紹介されたことも……。

私そのものではなく、「障がい者」というラベリングで見られるんだと感じました。

歯がゆさを感じる中でデル・テクノロジーズの選考は異なりました。

ここなら私そのものを見てくれるかも──

期待して入社した日から2年が経ち、働くほどに私そのものを見てくれる・認めてもらえることを感じています。障がいを特別視せず、改善すべき点には真正面からフィードバックがもらえる。

自分らしくいながら、もっと成長したいと思える。最高の環境で仕事ができています。

転機につながったトレーナーのひと言

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▲2023年春、1年間のプログラム修了。お世話になったトレーナーと、共に学んだメンバーたちと

研修型雇用と言われる当社の障がい者採用プログラムは、1年間の限定プログラム。

ビジネスマナーや仕事で用いるOfficeツールなど、テーマに沿ってトレーニング(※)を受けます。実務経験があった私は、トレーニングの参加者でありながら、メンバーサポート、次年度のプログラム企画、人事業務の事務仕事も行いました。

※現在は3つのテーマに沿ったトレーニングが展開されている(①貢献:ビジネスマナーやOfficeソフトの使い方、メールなど、②継続:ストレスマネジメント、セルフコントロール、仕事の進め方など、③挑戦:プレゼンテーション、プロジェクトワーク、配属先の現場業務OJTなど)

プログラム修了後のキャリアを考えるにつれ、障がい当事者の私がトレーナーとなって、障がいのある人たちをサポートしたいと思うようになりました。

しかし当時のトレーナーから、「今の新濃さんのコミュニケーションを改善しないと難しい」と言われたんです。私のコミュニケーションの何が問題なんだろう……。

ところがある日、衝撃が走りました。

ミーティング風景を撮影し、自分のコミュニケーションを客観視するトレーニングでした。

映像を止めてひと言ずつ検証されることで、自分のコミュニケーションの特徴に初めて気づいたんです。

私の話し方ってキツイ!怖い……!

私の威圧的な発言が、その場に緊迫した空気を生み出していました。ところが、私と同じ内容を別の人が話すと、先ほどまで答えに窮していた人が笑顔で意見し、穏やかに会話が続いていたんです。

的確にひと言で答えるコミュニケーションこそ正しいと思いこんでいました。職場ならなおさら、無駄を省いたほうが望ましいだろうと。

その後は元来の好奇心も相まって、コミュニケーションをとことん勉強。すると、プライベートでも変化が訪れました。

伝え方を変えると、周囲の笑顔が増えたんです。友人からは「丸くなったね!」と言われることも(笑)。

自分を客観視して課題を改善すれば、ポジティブな反応が得られる。新しい自分の発見は楽しい「自分」がどんどんアップデートされていく。初めて味わう感覚を知り、変化すること・成長することが楽しくなっていきました。

パフォーマンスを出すために必要な支援がある

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コミュニケーション課題を克服し、2022年に障がい者採用プログラムのトレーナーとなりました

プログラムリーダーと一緒に、7名(身体障がい1名、精神障がい5名、発達障がい1名)のトレーニングやサポートを行っています。2023年度も新しいメンバーを迎える予定です。

就業経験のない人、自身の障がいとまだうまく付き合えない人など、それぞれの事情を抱えたメンバーが入社する私たちの部署。だからこそ、一人ひとりの得手・不得手を理解し、得意を伸ばす組織をつくりたいと考えています。

社会で働き続けるためには、成功体験を積んで自信をつける必要があります。パフォーマンスを出すための支援を受ける(与える)ことが第一歩

中学校時代、教室に行けなかった私は保健室登校をしました。また、音が怖くて防音用のイヤーマフを付けて登校・試験を受けることもありました。

ところが、こういった行動は「わがまま」だと解釈されることも。しかし、いざトレーナーの立場に就いてみて、合理的配慮と「わがまま」の線引きの難しさを実感しました。障がい当事者であり、一般社会で過ごす私は、どちらの気持ちも立場も理解できます。

本人が「こうなりたい・こうしたい」という想いを持っていて、それを実現するための支援であれば、合理的配慮。つまり支援によって障がいのハードルを乗り越え、健常者と同じ土俵に立てるかがひとつの判断基準ではないかと現在は考えています。

ただ、これって日常的に自然に起きていることだと思いませんか?

たとえば営業成績が伸び悩んでいる、プレゼン資料がうまく作れない人がチームにいたら、教え合ったり助け合ったりしていませんか?

保健室登校やイヤーマフのように、めずらしい困り事(事象)だと、稀少性ゆえに「わがまま」と捉えられるのかもしれません

そうはいっても、障がい特性は人それぞれ。人ごとに異なる事象が生まれます。

コミュニケーションが成り立たない、相手を理解できない、といった戸惑いは起きて当然

障がいのある人の中には、ダメだと言われた行為を咄嗟に取ってしまうことも。

「ただ気になってしまった……」という衝動ですから、意図があるわけではないんですね。「なんでやってしまったの!?」「どうしてそうしたの?」という質問はあまり意味をなしません。

また、「何にどう困っているの?」と具体的に尋ねても、本人が答えられないこともあります。オープンクエスチョン以外の聞き方をするなど、工夫する必要があります。同時に、障がい者自身も自ら助けを求める姿勢だって大切。そうして双方が歩み寄れるといいですよね

自分と相手を包み込み、インクルージョンを実践する

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私は、障がいがあることを恥じたことも、困ったことも、ありません。生まれたときからこれが私。

もちろん、障がいが起因して「できないこと」はあります。でも、練習を続ければ、あるいは別の方法で代替すれば、できないことはない。コミュニケーションの仕方も改善できたし、お箸の持ち方など日常生活においてもできることが増えました。朝の通勤電車にも乗れるようになりました。

「苦手がある」のは、誰だって同じ障がいに対して特別な意識はいらないんです。

障がい者との接し方がわからないなら、わからないことを本人に尋ねればいい。人と人とのコミュニケーション。相手が障がい者だからといって、特別なお作法はありません。

また、障がいのある人にも、障がいに対して過度な意識を持たないでほしいと思うんです。

なかには、何かしら過去の出来事を引きずり、恥ずかしさや負い目を抱えたままの人もいるかと思います。どんなことがあったとしても、今の私を見てくれる人がいる。そして、「私」を自分自身で認めてあげる。そうすれば、つらい記憶や想いは溶けていくと思うんです。

デル・テクノロジーズの考え方(カルチャー)において、大切なのは今と未来。今の私が持っている強みを武器に、活躍できる。かなえたい未来の実現に向けて、支援をもらってチャレンジできる。誰だって何かしら得意があるから、 無理しなくても、卑下しなくても、「私」が「私」でいれば大丈夫。

私はトレーナー業務に加えて、e-sports部、障がい者とその家族を支援するERG(従業員リソースグループ)のTrue Abilityにも所属しています。過度な配慮や遠慮を受けない、フラットな関係性。その上で、障がい当事者として意見を求められることも多い。当事者として率直に意見を出しながら、社内外のイベント企画をリードするなどさまざまな場面で価値発揮できています。

私らしくいられる場所で、私はいろんな「私」と出会いました

今の私、理想の私、チームメンバーが見る私、他部署の人が見る私......。

決してひとつではなく、正解も、間違いもありません。多様性は自分の中にも存在しています。相手との作用によっても変化していきます。相手が「私」をどう見たとしても、自分の新たな一面を楽しめばいいですよね。

ユニークな障がい特性のある、個性あふれるメンバーとの毎日は新しい発見の連続。想像しないハプニングが起きることもあります(笑)。一つひとつの出来事に触れて、相互理解が深まります。彼ら・彼女らの視点は斬新で、気づけなかったことに気づくことも。トレーナーである私がメンバーから教わる日々です。

幼いころから母に、「相手を包み込んであげなさい」と言われて育ちました。

私も、相手も。過去も、現在も、これからの未来も。どう変化しても、どれも受け入れて、すべてを包み込んでいく組織と社会をつくっていきたいですね。

※ 記載内容は2023年6月時点のものです