長い引きこもりから抜け出すまで。きっかけは就労移行支援センター
生まれつきの難聴、脳下垂体機能低下症、器質性感情障がい、そして最近の健康診断で発覚した原発性免疫不全症候群。これらは私が持っている障がいです。
幼いころは不便もなく、誰かと関わることが大好きでした。思春期に入ると、聞き返すことに申し訳なさを感じてしまい、コミュニケーションを取ることをやめたんです。コミュニケーションに苦手意識を持ってしまい、就職活動では面接がうまく行かず引きこもってしまいました。体調不良が続き、あるとき血糖値の低下から痙攣・発作が起きて緊急搬送される事態に。生命の危機に瀕し、血糖値上昇の薬を大量に投与された結果、脳に影響が出て精神障がいを患ってしまったんです。躁鬱を繰り返し、ひどい幻聴によって起き上がることもできず、引きこもりが加速しました。
精神科の治療もあって症状が少し落ち着いてきたころ、障がい者の就労移行支援センターに通うことになりました。社会に出たいというよりも、引きこもり期間が長くなり、そろそろ将来を考えないとまずいなという焦りがありましたね。
就労移行支援センターは、ひとつめのターニングポイントになりました。
元来、私はお喋りなタイプ。センターの職員の方が話しかけてくれることで会話ができるようになり、コミュニケーションの楽しさを思い出したんです。自分のために応援してくれる人の存在のおかげで、就職活動への再チャレンジを決めました。
そして出会ったのがデル。まずはデルのキャリアサポートセンターが開催しているプログラムに参加し、社会人としてのマナーなど、基礎を学ぶ1年間が始まりました。
ゼロはゼロしか生まない。一歩を踏み出す重要性
プログラム開始から半年が経ったころ、精神障がいが悪化。落ち込みが激しく、会社に行けなくなってしまいました。周囲から「半年も頑張ったから辞めても良いよ」という声がありましたが、逃げ癖を付けたくなかったんです。
デルのプログラムでは、トレーナーから毎日たくさんのフィードバックをもらいます。
たとえば、報・連・相の必要性。センターの職員を始め、これまでのコミュニケーションはいつも相手からでした。自分からアクションするという当たり前のことに気づいていなかったんです。デルのトレーニングでは、障がい者として合理的配慮はされても特別扱いを一切受けません。 健常者と同じレベルを目指すんだと自覚できたことが意識の変革につながりました。
これまで指摘されたことがないことを学べるのは有難く、もしここで辞めてしまえば貴重な機会をなくしてしまいます。頑張りたいという強い想いで、精神的な落ち込みから抜け出すことができました。
この山を乗り越えたことが、大きな自信になりました。パワーのいることでしたが、「乗り越えられるんだ」という実感が持てたんです。
入社当初は「やったことがないからできません」という言葉をよく発していました。でも、やってみないと何も変わらないことを知りました。ゼロは、ゼロしか生まない。たとえ上手くいかなくても、やってみれば気づきが得られる。次に活かすことができます。
感情の浮き沈みに関しても同様でした。それまで、「精神障がいがあるから気分の浮き沈みは仕方ない」と捉えていましたが、自分自身で感情をコントロールする必要性やコントロールの仕方を学びました。
10段階で気分(感情)を数値化し、気分が落ちたきっかけを記録します。何が起きたら自分の気持ちがどうなってしまうか、把握するトレーニングを続けました。パターンが可視化されると落ち込む前に対策が取れます。体調が悪いときはこのアクションを取る、そして次はこのアクション……。と実践を重ねデータを蓄積していくことで、コントロールを身につけました。失敗しても次のアクションを考えて、またトライすれば良い。一歩踏み込むことが大事なんです。
成功体験を持ち、自然とチャレンジが楽しいと感じるようになりました。最近では、社員の家族を会社に招待するファミリーデイの受付担当に立候補。まだまだコミュニケーションに課題はありますが、周りの人にサポートいただきながら失敗を学びにしています。
障がい特性を受け入れ、知ってもらう。誰もが働きやすい場所へ
1年間のプログラム終了後、ステップアップとして提示された社内各組織の業務サポートを行う部署の採用面接にチャレンジ。そして無事に合格が決まりました。
プログラム期間の最後の最後までたくさん指摘を受けていたので、まさか合格できるとは思っていませんでした(笑)。たとえ可能性がわずかでも、ゼロじゃないならやってみよう!という想いで応募したことが今につながっています。
そうして、ビジネスサポートグループという部署での仕事が始まりました。この部署では、各組織における事務作業や手続き関連が切り出され、その都度案件が発生します。たとえば福利厚生などの経費処理、システムの不具合やエスカレーションのためのインプット作業などです。現場からの依頼ベースで案件が都度発生するため、一般社員との電話やメールでのやり取り、ときにはミーティングも行います。
ビジネスサポートグループに所属してから5年。障がい者として特別扱いされない環境下で働き、「障がいを持っていても仕事ができる」と思えたことでとても前向きになりました。
一般社員の方々と働くことに始めは緊張もありましたが、一緒に仕事を進めている人たちが自分の障がい特性を理解してくれているため、特に困ることはありません。
障がい者と働いたことがない人にお伝えしたいのは、私が障がいを持っていることに対して「構える必要はないですよ」ということ。自分の障がいについて話すことは気になりませんし、なんでも聞いてほしいと思います。むしろ自分からたくさん話せるテーマですから(笑)。
弊社の従業員リソースグループ(ERGs)にTrue Abilityというコミュティがあるのですが、あるイベントで「海外では障がいについて明るく話し合うカルチャーがある」と聞きました。私自身、子どもの頃はどうして自分に障がいがあるのかと考えた時期もありました。でも、今ではそれも含めて自分。障がいとの向き合い方を知り、障がいによる影響を減らす対策も取れているので特別な意識はありません。
ともに仕事する方々にも自分の障がい特性を知ってもらい、気になることはどんどん質問してもらって、お互いが働きやすい環境を作っていきたいです。
コミュニティに属して得意を伸ばす。障がいを恐れない、新しい働き方
私は塞ぎこんでいた時期が長いので、沈んでいたあの頃にもう戻りたくない気持ちがあります。だから、今の仕事を通して頑張ることができています。
落ち込んでいた当時を振り返ると、何もせず、ひとりでいたことがよくなかったと思うんです。
障がいを持っていると落ち込んでしまうこともあります。でも、ずっと引きこもったままではいられません。勇気を出して一歩踏み出すと、状況や自分を変えることができます。今、もし落ち込んでいる人がいるなら、少しずつでも良いから何かやってみること。新しいことを試してみてほしいです。
そして、ひとりで悩まないでほしいです。家族や友人、就労移行センターやオンラインでのコミュニティなどなんでも構わないので、誰かと関わって誰かとつながるべきだと思います。
社会とのつながりを感じる上で、私にとっては「会社」が大事な居場所でした。
家族でも友人でもない、チームメンバーや他部署の方々との関わりのおかげで自分が社会の一員だと感じられる。仕事ができている実感によって精神的な落ち着きも生まれます。
そして苦手なことに固執せず、自分の「得意」に目を向けて、得意をもっと伸ばしていくこともおすすめです。
私はオペレーション業務に強いんです。過去事例があることや、イレギュラーケースも含めてパターンが想定されていることを引き受けることが得意。一方、ルールやオペレーションを一から作り上げていくことは苦手です。入社当初はそんな苦手も克服するように目標を立てて取り組んでいました。
ところが何度チャレンジしても難しかったんです。苦手領域のチャレンジを続けることでマイナス面に意識がいってしまい、精神的につらくなることもありました。気分の浮き沈みに影響が出てしまったため、できないことに目を向けるのではなく、「できること」にフォーカスし、成功体験を積む方法に切り替えました。人は誰でも、向き・不向きがありますから。オペレーション業務においても、その効率性や正確性をあげることでさらに高みを目指すことだってできます。
障がいの有無に関わらず自分で自分を受け入れ、誰しもがお互いに認め合い、そして働き続けていきたいです。