仕事以外でも取り組める、社会課題の解決── “ERG”
環境問題やLGBTQ+など、さまざまな興味関心に沿ってイベントやボランティア活動を行うグループ「ERG(※)」。本日は、2023年3月に開催されたTrue Ability(障がい者と共に歩むコミュニティ)とMosaic(異文化共生をめざすコミュニティ)のイベントについてご紹介します。
※ Employee Resource Group(従業員リソースグループ)のこと。Dell Technologies全体で13個のグループ、日本法人では7つのグループが活動中。世界中で5万人以上の当社社員が何らかのグループに所属しています
True AbilityとMosaicって?
True Abilityは、障がい者とその家族を理解し、障がいのある方との共生を考え、さまざまな取り組みを行っています。2023年には一般社団法人 日本障がい者サッカー連盟と賛同パートナーシップ契約を締結しました。そしてMosaicは、多国籍メンバーやカルチャーを理解し合ってお互いが活躍する職場と社会をつくるために活動しています。
「音のない世界を広げる」ゲスト講師:早瀬 憲太郎さん
今回は生まれつき聴覚障がいがある、NHK教育テレビ「みんなの手話」講師で、デフリンピック日本代表の経験も持つ早瀬 健太郎さんをゲスト講師に迎えました。
早瀬さんならではの観点で、参加者へ次々に問いが投げかけられました。
早瀬さん「私はいつから”障がい者”になったと思いますか?生まれたときからでしょうか。自分自身が聞こえないことを自覚したとき、障がいがあると認めたとき、病院の診断や障害者手帳を受けたときなど、さまざまなタイミングが考えられますよね。
1~2歳のころはそういったことはわからず、3~4歳になるころに、『周りと何かが違うらしい』と少しずつ感じ始めます。そして小学校に入学して、その違いをはっきりと感じるようになりました。小学校3年生で『耳が聞こえないんだ』と認識しましたが、まだこの時点では『私には耳が聞こえないという特徴がある』ということ。たとえば背が高い/低い、足が長い/短いなど、みんなそれぞれが持っている特徴のひとつだと捉えていました。小学校で過ごす中で、いつの間にか、周りから『障がい者』だと言われるようになっていったんです。
他人から言われるようになって初めて、『自分って障がい者なの……?』と意識するようになりました。小学校高学年のときに、『社会において自分は聴覚障がい者だと言われる”らしい” ……』と認識したんです」
多くの人が学校で習った、「障がいのある人について学ぶ」「障がいのために困っていることを支援する」という観点。これ自体がすでに、マジョリティ社会から見た考えであったことに気づかされます。「障がい者」という言葉自体、当事者の方々から自発的には生まれてこないということも、想像することはないのではないでしょうか。
早瀬さん 「自分は障がい者だと思っていなかったので、他人からの言葉と自己認識が結びつかない葛藤を長らく抱えていました」
本人の自己認識とかけ離れたところで、他人が「障がい者」とラベリングして見てしまうことが、苦しみを生んでいる。障がいがある人の視点から見る社会は、新鮮そのものでした。
聞こえないことが当たり前の世界に生き、手話という言葉を持っていた早瀬さん。耳が聞こえないことに対して、「良い・悪いの判断軸も、悲しい・悔しいといった感情も、ありませんでした」と言います。
ところが……早瀬さんは小学校での授業での出来事をシェアしてくれました。
早瀬さん 「あるとき、障がい者の気持ちを理解する道徳の授業が開かれ、先生から『耳が聞こえない人として、障がい者の気持ちを話してください』と言われたんです。自己認識もままならない中でいつの間にか、自分が障がい者の代表になってしまっている。耳が聞こえない他の方々の気持ちはわからないし、障がい者だと思っていない自分が代表者として勝手に答えられない、と伝えました。ところが先生は、『困っていることをみんなに話したほうが良いですよ』とアドバイスしてくれたのです」
そのとき初めて、他人(先生)が「私のことを可哀そうな人・大変な人だと捉えている」ことに気づいたと言います。
自己認識と他者が見る自分との間における隔たりが大きいため、お互い「なんだかわからない……」という状態に陥ってしまったと早瀬さんは話します。
うまく言語化できなかった当時の気持ちを説明してくれました。
早瀬さん 「私は、耳が聞こえないというアイデンティティを持って生きています。耳が聞こえないことを誇りに思っています。聞こえない世界の中で、聞こえない文化をもって、手話でコミュニケーションをしています。ところがマジョリティを基点とした社会では、耳が聞こえない・目が見えないといった特徴を持つマイノリティの人たちに、障がい者という立場や役割を与えられてしまうんです」
アイデンティティについて、早瀬氏からもうひとつ踏み込んだ質問がなされました。
早瀬さん 「皆さんはどんなアイデンティティを持っていますか?それを自覚することはありますか?」
たとえば国籍というアイデンティティ。
日本人の方で、日本において日本人同士のみが交流する場にいれば、自分自身が日本人だと意識することはあまりないのではないでしょうか。海外に出たり、あるいは多国籍のメンバーと仕事したり、他者との関係性の中では自己のアイデンティティを自覚することがあります。海外経験を持つ早瀬さんは、「一方で外国籍の方々は、他者との比較ではなく、もとからアイデンティティを持っていることが多い」と話します。
何らかのアイデンティティを自覚する機会がないまま、大人になるケースもあるのかもしれません。「もしかすると本来誰でも、そういった苦しさを持っているのではないでしょうか」。
「障がいの有無に関わらず、アイデンティティは大切」だというメッセージを感じました。
そして、障がいのある方々との共生についても語られました。
「耳が聞こえないこと」に対するアイデンティティ同様、「聞こえること」に対しても、それを自覚しないかぎり、向こう側の世界(聞こえない世界)やその世界を生きる人たちの気持ちをわかることは難しいと早瀬さんは語ります。
早瀬さん 「お互いがお互いを理解し合うことで、初めて対等な立場になれるんです」
手話講師、自転車競技、映画製作など、早瀬さんの幅広い活動の狙いも、聞こえる・聞こえない問わずみんな一緒に仕事することで、お互いが理解しあう輪を広げていくためのものだと教えてくれました。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)という言葉が一般化するにともない、D&Iが個人の考え方としても少しずつ普及しているように感じると早瀬さんは話します。たとえば手話も、従来は耳の聞こえない人のものでしたが、最近では「聞こえない人のことを知りたい」といった要望から学びたいと思う人が増えているそうです。情報補填のための手段として、手話通訳や字幕追加がなされるのではなく、相手とコミュニケーションを取ることを主目的においた考え方に変わりつつあります。
相手の世界(価値観)を重んじ、相手が能力を発揮できるための環境づくりを支援する姿勢は、障がいの有無を問わず、求められるあり方です。
会場からの参加者の声でも、「障がいのある方々は何に困っているのか、私が何をしてあげられるかという視点で考えることが多かったが、それもラベリングのひとつだと気づいた」という声がありました。
障がいの垣根を超えて、「どういう知恵や発想、アイデアをもらえるか」という視点も持って、「両者がお互いに良い影響を出し合う社会が望ましい」と早瀬さんは話します。
国籍、世代、障がい、あるいは血液型など、人は何らかのカテゴライズを行って他者を見ることがあります。属性が特徴のひとつになったとしても、最終的にはその人自身と対話してリスペクトすることが大切です。
また、言語同様、手話も国によってまったく異なることもシェアされました。それでも海外の方々は、自分が使いたい手話を優先して、相手がわからなくても自分の手話(アイデンティティ)でコミュニケーションを取ってくるそうです。お互いがお互いを分からない中でぶつかり合うことで、歩み寄り方を見つけることができる。必要なもの、嫌なことをはっきりと伝える世界だそうです。
デフリンピックで世界と戦った早瀬さんは、「世界では、自分を認めて自分を表現する強さ」が必要だと言います。はじめから相手に迎合するのではなく、ぶつかっていく中でお互いを理解しあう文化を教わりました。
お昼休みを利用した45分間の講演はあっという間に終わりの時間を迎え、イベント終了時、手話の拍手(きらきら)で締められました。
イベント参加者からはさまざまな感想が寄せられました。
普段は考えもしない観点で生きることについて学べた
障がいがある人は困っているという考え方も、無意識の偏見であることを自覚した。自分勝手な解釈に気づく機会となった
いろんなアイデンティティを持った人が生きる世の中こそが普通の世界という認識をみんなが持っていきたい
早瀬さんご自身から語られる経験や視点は、自分という存在や姿勢に気づきを与え、社会全体を見る機会をくださる内容でした。今手掛けている業務そのもの、ビジネスそれ自体と直結するものでなかったとしても、こういったERGイベントで知る・気づく・見つめる機会は、自身の生き方を少しでも変化させる一歩につながっていきます。デル・テクノロジーズでは今後も、社会貢献、多様性の推進、インクルージョン文化の醸成を目的としたさまざまな活動を、世界中で多くの団体と共に実施しています。
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