分譲マンションの課題は、社会の課題になる。管理会社の私たちにできること

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▲2019年に設立した「マンションみらい価値研究所」のメンバーである大野(写真中央)

大和ライフネクストでは2019年に「マンションみらい価値研究所」を設立しました。マンション管理会社としては初となる総合研究所です。

設立の目的は、マンション管理組合が抱えるあらゆる課題……高齢化にともなう役員のなり手不足や、建物の経年劣化への対応などの解決につながるよう、情報発信を通じてマンション管理に関わるステークホルダーとの間に良い循環を生み出していくこと。そのためにさまざまな調査と研究を行い、レポートを執筆し、毎月ホームページ上で公開しています。

具体的には、「築40年を経過したマンションの修繕工事費の実績」や「消えゆく機械式駐車場」などのハード面に関するものから、「管理組合の資金運用の実態について」や「紛争の実態。マンションではどんな訴訟が起きているか?」などのソフト面に関するものまで、多岐にわたるテーマを取り上げてきました。

大和ライフネクストには約40年のマンション管理事業を行ってきた実績があります。その中で得られた膨大なデータと知見をもとに、時には1,700件以上の現場の声を救い上げ、レポートとして世の中へ広く発信しています。そのほかにも、メールマガジンの配信やセミナーイベントの開催、また最近では、2022年4月に大和ライフネクスト本社内にオープンした、スタジオ機能を備えたスペース「赤坂プラスタ」を活用した情報発信にも取り組んでいます。

マンションは今や社会インフラのひとつ。適切に管理していかないと、将来的に管理不全のマンションが近隣に悪影響を与えるといった社会問題に発展することが予想されます。そうならないように、マンションの所有者、つまり管理組合がご自身の資産として、マンションを良い状態に保っていく必要があります。

そのサポートをしていくのが管理会社の使命ですが、私たちはマンション管理の現場でさまざまな問題を目の当たりにし、危機感を抱いています。マンションごとの個別の事情もあれば、居住者の高齢化によって工事の資金となる修繕積立金が不足してしまった、認知症の方が孤立してしまったなど、多くのマンションに共通する社会的な課題もあります。

これらの課題に私たちだけで取り組むのではなく「マンションみらい価値研究所」から世の中へ広く発信していくことで、社会全体に働きかけて、少しずつでも状況を変えていきたい。そんな想いで日々研究を続けています。

情報発信を続けることで、少しずつでも確実に変化が訪れる

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▲「マンションみらい価値研究所」の仲間たち。マンション管理に多角的に携わってきた少数精鋭のメンバーだ

私は今、マンション管理の現場を支えるバックオフィス部門にいますが、その前には、まさに現場でフロント業務を担当していました。具体的には、複数のマンションを担当して、理事会に対して多岐にわたる提案を行い、それを総会にはかり、組合運営をサポートしていました。ただ、一通り仕事がわかってきたころから、少しずつモヤモヤを感じるようになったんです。

たとえば、高齢化が進んだマンション。建物も経年が進むとより多くの修繕が必要になるのですが、工事費用を集めようにも、高齢で年金暮らしの方が多いと修繕積立金の値上げは難しくて……これまで通りの管理業務の提供だけでは、いずれは限界を迎えるかもしれない。それを痛感するようになったんです。

建物も人も老いていく。それは変えられないけれど、何も手を打てないのかという無力感やモヤモヤがあって。明るくない話ですよね。その後、現在のバックオフィス部門に異動してからも数年間、そのモヤモヤが心の底に残っていました。

そのころ久保 依子と田中 昌樹(いずれも「マンションみらい価値研究所」の研究所メンバー)が、社内提案制度で入賞した「総合研究所プロジェクト」(今の「マンションみらい価値研究所」)の設立に向けて動き出していました。私の直属の上司であった久保が「こういうことを始めるの」とすごく楽しそうに話すのを聞いていて。その姿に、とても前向きな未来を感じたんですよね。モヤモヤの解決へのヒントを得た気がして「私も協力したい」と申し出たところ、研究員として参加することになりました。

ただ、レポート発信を始めた当初は、「どのぐらい社会の役に立っているのかな」と不安になった時期もあったんです。現場で感じていたことを、レポートとしてまとめる達成感はありました。ただ、何か発信をしても、それがすぐに問題の解決につながるわけではない。考えてみれば当然のことかもしれませんが、当時は焦りを感じていました。

しかし、あるとき社内から「役員報酬に関するレポートが、担当マンションで報酬額を検討する際に参考になったよ」という声をもらったんです。それから、本当に少しずつではあるけれど反応が返ってくるようになって、マンション管理に関わる誰かの役に立てているんだという実感が湧いてきました。

また、一部のレポートをプレスリリースの形でメディア向けにも配信するようになってからは、全国紙やWebサイトなどで研究結果を引用してもらえる機会も増え、マンション管理には問題が山積みであるということを気づいてもらうきっかけにもなっているな、と。そして、やはり情報発信は続けていくことが大切なんだなと感じるようになりました。

2022年4月オープン「赤坂プラスタ」にかける期待

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▲有観客での配信が可能な、テレビ局さながらの大きなスタジオ。マンション管理を通じて人々の暮らしについて考え、発信する場として活用する

さまざまな思い入れを持って取り組んでいる「マンションみらい価値研究所」ですが、大和ライフネクスト本社の1階部分をリノベーションし、今年2022年4月にオープンしたばかりの「赤坂プラスタ」を活用しています。

「赤坂プラスタ」は、有観客で配信できるまるでテレビ局のような大型スタジオと、ラジオブース型のスタジオの2種類を備えた情報発信施設です。当社のどの部署でも利用できる施設なのですが、私たち「マンションみらい価値研究所」としては、ホームページでレポートという文字情報として発信しているものを動画で発信する場所として活用しています。

このスタジオの最大の目標は、さまざまなステークホルダーによる交流・対話を行い、そこから得られる多彩な知見を世の中に発信し、その情報発信を通じて社会とのつながりを生み出すこと。マンション管理を通じて社会の課題を見つけ、その解決に向けて新しいことに積極的に取り組んでいく大和ライフネクストの強みを、存分に活かすことのできる場であると思います。現在はコロナ禍ということもあり社外向けイベントは配信がメインとなっていますが、いずれはお客様や協力会社の方を招いて、オンラインもリアルも幅広く交流し、課題について一緒に考えることができる場にしたいと考えています。

大型スタジオの方はコワーキングスペースになっており、イベントや配信を行っていない時間は社員が自由に使うことができます。会議をすることはもちろん、違う事務所のメンバーとの交流ができるんです。スタジオで何かの準備をしていたり、会議をしたりしている様子を、周りで仕事をしている他部署の人が見て、そこから会話が発生し、偶然アイデアや交流が生まれる……なんてことを期待しています。

さらに、情報発信や交流を通じて、マンション管理の最前線で働いている社員の誇りにつながるといいな、という気持ちもあります。現場の仕事一つひとつがデータや知見として集まって、研究所のレポートとして発信されて、社会に対しても影響を与えることができる。だからこそ、管理現場の誰もが自らの仕事の重要性を実感してもらうことができるといいな、と思っています。

マンション管理の明るい“みらい”は、私たちの社会全体の明るい“みらい”

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▲「マンションみらい価値研究所」の所長である久保(写真左)と大野が「赤坂プラスタ」で打ち合わせをする様子

マンション管理事業は、暮らしの土台を支える社会インフラ的性質があり、人々の生活に根差した社会課題が身近にあります。だからこそ、その課題を取り扱う研究所がある。今回、スタジオ新設という取り組みは目新しいですが、これまで私たちがマンション管理事業を長年行ってきて、提供してきた価値の延長だと思っています。

たとえば分譲マンションで、当然水も出るし、エレベーターも作動している。それが明日突然故障しても、ほとんど管理会社と設備会社だけでなんとかなるでしょう。でもそれが、建物の老朽化や居住者の高齢化のような、より長いスパンの課題になってくると、課題解決に必要な登場人物が増えてきます。場合によっては行政やマンション周辺に住む方々まで働きかけ、対話をしていく必要があります。

今日明日の未来を指す「あした」ではなく、数十年やそれ以上という長いスパンの「あしたのあたり前」を、社会を巻き込みながら作っていく。それが私たちの情報発信、ひいては研究所としての存在意義なのだと思います。

ホームページのレポートを読んでくださっている方もたくさんいらっしゃいます。主にマンション管理士や弁護士、同業他社や不動産業界の方、そして管理組合の組合員の方々が見てくださり、課題解決のために参考にしていただいているようです。

その情報発信の形は続けつつも、これまで届かなかった層の方にも情報を伝えていきたい。そのために、動画配信という新たなカタチを実現するための舞台装置が「赤坂プラスタ」なのだと思っています。

たとえば「SDGs」という言葉も認知が広まって、いろいろな取り組みが進んでいますよね。そんな風に、より多くの人に気づきを与えるような情報発信を続けて、これまで関わっていなかった人たちの意識が変わって、それぞれの立場で知恵を絞るという行動が生まれる。そうやって一人ひとりの力が集まれば、解決につながる大きな力になります。それが当研究所のテーマである「マンションの明るい“みらい”」につながると考えています。

マンション管理は、まさに社会の縮図です。目指すは、より多くの人が心地よい距離感でつながり、お互いの暮らしを豊かにしていける未来。そのために「マンションみらい価値研究所」、そして「赤坂プラスタ」が、大きな一歩を踏み出すきっかけになればと思います。