デジタル領域での出遅れを取り戻すために。ABCが掲げるDX施策とは?

2021年に新設された、朝日放送グループホールディングス株式会社(以下、朝日放送グループ)のDX・メディアデザイン局。設立の背景にあったのは、朝日放送グループが抱えていた、ある課題意識でした。

赤藤 「世の中がDXの流れに進みつつある中、テレビ業界自体、デジタル面では全体的に大きく遅れをとっていると感じていました。朝日放送グループでは、局ができる前の2019年からこのデジタル領域に本格的に向き合うことになりましたが、多くの局は最近になってようやく本格的に取り組みだしたところだと思います」

そのため、朝日放送グループでは中期経営計画の一つとして「データ利活用体制の構築とデジタル技術の活用促進」を掲げました。データとデジタル技術を活用し、ユーザー目線でサービスを作っていこうという想いが込められています。

赤藤 「そして局をつくるのにあたり、データの利活用、情報リテラシーの向上、オープンイノベーションの切り口から取り組むことにしました。これにあわせて、DX・メディアデザイン局の業務スコープは、大きく3つです。

1つ目が『ICT』。社員の情報リテラシーを上げながら、デジタルによって多様な働き方や業務効率化を実現しようというものです。2つ目の『デジタル・メディア』は、グループのデータ利活用の環境や体制を整備しようという取り組み。

そして3つ目が、『研究開発』。自社開発だけでなく、オープンイノベーションの観点からほかの企業や大学などの力も借りながら、広く技術シーズを集めて研究開発していこうというもの。この3つを融合させて、DXを進めていきます」

生活者目線でコンテンツやサービスを生み出し、その実績により、他の系列局や業界全体に貢献したいという狙いで設立されたDX・メディアデザイン局。赤藤は、その局長に任命されました。

赤藤 「2019年からグループ会社である株式会社デジアサ(以下、デジアサ)に出向し、社長を務めていたところに局長の話をいただいたので、今は兼任という形です」

デジアサでは字幕制作、データ放送とWEBを中心としたデジタルコンテンツ制作、そのコンテンツの付加価値を高めるSNSや広告配信の運用を主に行っています。

赤藤 「DX・メディアデザイン局とデジアサの業務は、表裏一体というか、戦略部門と実動部隊みたいな関係です。DX・メディアデザイン局で戦略や企画を考え、デジアサがテレビを他の媒体につなげていくためのコンテンツ作りをする。実際に事業に落とし込んで継続させるところまでを担ってもらう形ですね」

従来の放送局の形を変える、デジタル技術。デジアサやDX・メディアデザイン局の社員たちは、新しい技術やデータの利活用に興味がある人や、新しいサービスを立ち上げたい人などさまざま。しかし全員が、「テレビ業界をより良くしたい」という同じベクトルで業務にあたっています。

黎明期から感じたインターネットの可能性。デジタルで問題を解決する楽しさ

赤藤は新卒で朝日放送グループに入社しましたが、最初からテレビ局を目指していたわけではありません。就職活動をする学生用の資料を読み、朝日放送グループが「インターネットでのメディア展開事業を始めている」と知り、そこに興味を持ったといいます。

赤藤 「当時は一般家庭にはまだインターネットが普及していなかったのですが、大学の研究室にあったPCはインターネットにつながっていて、ほかの大学の人たちや就職した先輩とチャットをすることがありました。

電話代がとても高いあの時代に、ネットワーク上で気軽に話ができたり、知らない人とゲームができたりする。これって純粋にすごいなあと思いまして。インターネットには、ずっと興味があったんです」

「インターネット」というワードをきっかけに朝日放送グループに志願した赤藤は、技術局に入社。最初の2年間は、放送運用センター(テレビマスター)で、放送を安定して送り出すためのシステムの運用に携わりました。

しかし、ルーティンの仕事よりは自分自身の手でモノ作りをしたいと思い、2年で異動を希望。情報システム部へと入ります。 

赤藤 「情報システム部では、みんながPCを使って滞りなく仕事ができる環境作りが主な業務ということで、情報通信のインフラを提供していました。

当時の部長は、部下にたくさんの裁量権をくれる人でした。年に一度、各人にそれぞれ課題が与えられるのですが、それさえクリアすれば自由に働いていい、という考えの方で、新しいことにもどんどん挑戦させてくれました」

当時のことでとくに赤藤の印象に残っているのは、社内用に会議室予約の機能を作ったこと。社内の多くの人も業務でメールや インターネットを使い始めたころで、予約をオンラインでできるようにシステムを整えたのです。

赤藤 「皆さんに使ってもらうのはドキドキでした。多くの人が使うとなると、不満や不具合などネガティブな意見も出ます。でも、自分が手を動かして作ったものを、いろいろな人に使ってもらえることは楽しかったです。『便利になった』『もっとこうしてほしい』というフィードバックが返ってくることも、やりがいに直結しましたね」

その後、赤藤は開発部に異動し、インターネットを活用した動画配信の業務に着手。異動してすぐに、インターネット上でのABCのファンクラブを自社開発したり、最近では「バーチャル高校野球」という高校野球の配信サービスの立ち上げにも携わりました。

デジタル技術を駆使して、自らの手でものを作り、提供していく楽しさを知った赤藤。また、デジアサに出向になるまで、開発部で主任、課長、部長と順調にキャリアアップも実現していきます。

研究開発分野こそ、人とのつながりが大事。大学院で得た気づきと学び

振り返れば、15年以上を開発部で過ごした赤藤。その間に印象に残っているのは、業務のかたわら大学院に通った経験です。

赤藤 「当時の上司が理解のある人で、2003年から2006年までの間、仕事をしながら大学院に通わせてもらえたんです。今では機械学習のような、映像や音声を自動で解析する技術が当たり前ですが、当時はテクノロジーがまだ追いついていなかったので、大学院では、もしデータが取れたらどんなサービスができるのかというのを、先行して研究開発していました」

仕事と並行しながら勉強し、赤藤は博士課程を修了。苦労して学んだ知識や気づきは、今でも業務に活かされています。

赤藤 「当時の研究室の先生とは今でもお付き合いがあり、業務で絡むこともありました。また、当時一緒に勉強していた仲間との交流も続いています。もちろん人脈だけでなく、業務において重要な考え方や価値観もたくさん学びました。

たとえば『情報』を扱う時、自分が便利だと思う情報が、ほかの人にとってはあまり価値がない、ということもありますよね。その場合、より多くの人が必要とするのはどんな情報なのか公正に判断して、世の中のニーズを見失わないようにしなくてはいけない、と感じたんです。そのためには、いろんな人と関わって、お互いのアイデアを交換する機会が必要ですね」

研究開発の業務は、部屋にこもって黙々と作業するのではなく、外部とのつながりの中で作っていくものだと、赤藤は考えるようになりました。

赤藤 「放送局以外の人との付き合いも大事にしています。いろいろな企業や通信事業者、研究者などと接点を持つことは刺激的ですし、新たな開発のきっかけにもなっています」

外部とのつながりという観点では、2018年と2019年に赤藤にとって印象的な仕事がありました。

総務省の地域の放送サービスに関する事業企画公募に応募・採用され、他社と共同での研究開発を進めていったのです。中でも、朝日放送グループは、視聴データとSNSの紐付けによる新しい情報拡散のモデルを探りました。

このように、多忙な中でも外部とのつながりを持つことで、新しい事業に取り組むきっかけを掴んできた赤藤は、その経験をこう振り返ります。

赤藤 「企業で働きながら、2〜3年間大学などの外部機関に行ってみるというのは良い経験だと思いました。とくに放送局など特殊な業界では、専門以外の分野を学んだり、一般企業とのつながりを作ったりして、広い視野を持つことが大切ですね」

領域にとらわれず、若手が自由に活躍できる場を作りたい

デジアサの代表になり、現在2年目の赤藤。ガラリと会社を変えるのではなく、日々の業務のやり方を変えることで、少しずつ組織を改新していこうと考えています。また、2021年にできたDX・メディアデザイン局では、局長としてテクノロジーをさらに駆使し、仕事の幅を広げていくことが目標です。

兼任という形で、朝日放送グループのデジタル領域を牽引している赤藤は、共に働きたい仲間として、技術畑出身ではない人材も歓迎しています。

赤藤 「僕らがやっているDXとかメディアデザインって、技術畑の人間が多い領域です。でも新しい領域の業務ですので、多様性が重要で、必ずしも技術系でなければダメだということはありません。技術目線だけでなく、文系の方の視線も不可欠ですし興味があれば、ぜひ仲間になってほしいですね」

朝日放送グループ全体に変革を起こす可能性を秘めている、デジタル領域。赤藤は、グループ会社全体に対してデジタル分野の調査研究を行い、課題解決や事業提言などを示す、シンクタンクのような役割も果たしていきたいと意気込んでいます。

赤藤 「シンクタンクといっても、単なる研究所ではありません。何かやろうとしたときに、自分達で試作品までは作れるというような、絵に描いた餅で終わらせない、実行力のある組織でありたいんです」

自分で手を動かす――そのマインドは、朝日放送で長らく培われてきたものです。自分たちの力でできることを増やしていきながら、専門分野は外部の力も取り入れていく。そんなオープンイノベーションの考え方で、これからも新規領域に果敢に挑戦していきます。

赤藤 「私はDX・メディアデザイン局を、若い人たちが自由な発想で働ける場所として機能させたいのです。今はグループ会社もかなり増えてきていますので、さまざまな業務に絡ませることができると思います。放送局の枠を超えた、多彩な経験ができる局にするつもりですので、若い人たちの力を待っています」

朝日放送グループの、そしてテレビ業界全体の未来の目を向け、DX推進を牽引する赤藤。多くの事業や開発を手掛けてきた経験を糧に、若い世代を巻き込みながら、着実な改革を実現してくれるはずです。