「みんなが選ばない道を選びたい」から、ABCへ

私は昔から「みんなと同じことをしてもおもしろくない」という価値観を持っていました。他の人がやっていることは大体想像がついてしまうので、できるだけ自分の想像のつかない方向性に進みたいんです。

高校時代も、周囲が医者や弁護士といった頭がいい人たちが選びがちな進路を選択するのを見て「おもしろくないな」と思い、あえて理数系の道に進むことを決めました。

東京大学の工学部に入り、大学院に進んだあとはデータサイエンスに関する研究に傾注します。その後就職活動の際にも、「みんなが選ばない道を選びたい」という想いは変わらず、周りが就職先として選ばないテレビ局を選びました。

IT企業に入ったらどうなるかは、IT企業に行った研究室の同期の状態を見ればなんとなく想像がついていたんです。しかし、テレビ局は違います。「入ったらどうなるんだろう?」という好奇心で決めるという、ある意味ギャンブルな行動でした(笑)。

また、テレビの影響力にずっと関心を持っていたのも一因です。大学在学中は、学業と並行してIT系のベンチャー企業でエンジニアとして働いていたのですが、その際にもテレビの影響を感じていました。

たとえばスマホのアプリなどをつくっていたとしても、テレビCMを打つだけでドカッとユーザー数が増えるなんてことがありまして……。「テレビは終わった」という人も多くいますが、そうした効果を目の当たりにする中で、影響力は変わらず確かなものだと感じました。

昔のように番組をつくって流していれば大儲けできるような構造ではなくなったことも事実です。ひと工夫、ふた工夫が必要になってくるとき、その方法を考えていくと思うとワクワクしました。

その中でもABCを選択したのは、M-1グランプリの投票システムなどをかなり早い段階でインターネットを使用して手掛けていたから。その他にもまだ配信が普及していないころから、バーチャル高校野球と呼ばれる高校野球の配信サイトを手掛けるなど、メインコンテンツをつくり込むだけでなく、新しいことをしかけていく文化があるのが魅力でした。

そんな環境下でできるだけ新しい技術を使って、新しいテレビの体験をつくり出せたらな、と。データに関する研究をしていたこともあり、そういった知見を生かせたらとも思っていました。

泥臭い経験から、値千金な価値を拾う

入社してから最初の2年間は報道技術にいました。

今まで私はパソコンと対話して生きてきたのですが、そこでの業務はパソコンにまったく触らない、泥臭い仕事でした(笑)。カメラケーブルという、とても重たいケーブルを何メーターも何キロも引いたり、台風の時にタンカーが関空の連絡橋に衝突して渡れなくなったときに関空の中で中継を入れたりと、いろいろなことをしていました。

一見やりたいことにまったく関係なく思えるでしょうが、空気感や文化なども含めて、テレビの現場をしっかりと肌で感じられたのは貴重な経験でした。それをデジタルでどう変えていくことができるかと考える良いきっかけになったのです。テレビに出演するなど、楽しいこともありました(笑)。

その後技術局開発部に移ってからは、M-1グランプリの敗者復活戦の投票システムの開発など、番組そのものに関わるシステムをつくるようになりました。

投票システムは、普通のパーティー規模のものであれば簡単につくれますが、M-1グランプリほどの規模になると全国を対象に一斉に投票をすることになり、大量のアクセスが一度に来るため、難しくなります。

それをさばき切るのは一筋縄ではいかず、技術的な知見もしっかり蓄えておかないといけませんでした。システムが落ちてしまえば、企画そのものが倒れてしまいますから、どのようにして構築していくかを必死に考えましたね。また、票数を間違えるようなことがあると芸人さんの人生を狂わせてしまうような事態になるため、入念にテストも繰り返しました。

正直入社をしてみるまで、テレビの番組をつくることがここまで大変だとは思いませんでした(笑)。ただ、これだけの人を時間もお金もかけて、クオリティの高い番組ができあがっている中で、技術的観点から「ITを使えば新たにこういった事ができますよ」と、付加価値を提供できるのは、とてもいい環境ですね。

「影響力」と「大きな学び」がやりがいにつながる

たとえば、2019年からM−1では視聴者さんに送ってもらった平均点を出すようになったのですが、そこは私が新しくつくらせてもらった部分なんです。

他にも2020年は都道府県別の画面を出したのですが、制作さんとの打ち合わせの際に「こういう画面を見せるのはどうですか?」と提案したら、「尺を伸ばすよ」と言ってくださって。新しく画面や集計のしくみをつくりつつ、CGさんとの打ち合わせを密にしながら、オンエアに載せていきました。

せっかくシステムに関わるのに、ただ票を集めることだけで満足してしまうのはもったいないですし、視聴者さんも何か新しいことがあった方が絶対に楽しいはず。そう言ったプラスαの提案をしていくことが、とても楽しかったです。

そんな業務の中でやりがいを感じるのは視聴者さんやグループ会社のお客様へアプリやシステムを提供して、SNSで盛り上がっているのを見たり、フィードバックがもらえたりした時。

それもテレビの影響力あってこそ。イチから自分でアプリをつくっても、そこまで多くの人に使ってもらえるまでには、通常かなりの時間がかかるのですが、番組自体に力があると、早く多くの人に使ってもらえますから。

また、難易度の高い仕事に挑戦する楽しさも、やりがいに通じています。私は常に新しい技術をキャッチアップするように努めています。アマゾンさんやグーグルさんのような大手のクラウドベンダーさんともしっかりと密に連携を取って、最新の情報に基づいてできるだけ新しいことを実践していくようにしているんです。

もちろん社内でも大きな学びがあります。朝日放送テレビには、探偵ナイトスクープや、アタック25、M-1グランプリ、格付けチェックなど、多くの看板番組があります。

ユニークな番組をつくる人は突拍子もない発想をしますから、社内の人と話していても勉強になります。そういう人と話しているといつも、自分の考えが凝り固まっていたのだなと気付くんです。

また考えを教えてくれるだけでなく、提案をおもしろがって聞いてくれる人が多いのも、モチベーションが持続する要因でしょう。新しいことをしようと思った時にやりやすい環境だと思います。

グループ間をデータでつなぎ、新たな価値を生み出す

2020年の4月から朝日放送グループホールディングスに移り、経営戦略局DX推進部で働いています。

朝日放送グループホールディングス社には「朝日放送テレビ」の他にも、「朝日放送ラジオ」や、関西ではお馴染みの住宅展示場・ABCハウジング等を手掛けている「エー・ビー・シー開発」、CS放送をしている「スカイ・エー」、「ABCゴルフ俱楽部」など、さまざまなグループ会社があります。

そこで、グループ会社の皆さんに対してデジタル化(DX)を推進する動きをお手伝いする役割を担っているんです。

テレビそのものというよりグループ全体を見たうえで、どういったことが技術的にデジタルやウェブを使ってできるのかを考えなくてはなりません。各社にヒアリングをして、対話をしていく中で、どういうところに問題があるのか、まず課題を明らかにしていき、そこに関して技術的な観点からサポートしています。

たくさんのグループ会社がある中で、一社一社の連携が取れているか、というとまだまだです。DXを推進していくにあたり、たとえばデータなどを軸にしてグループ間でしっかり連携を取り合って、お互いの会社にとって利益になるようつなげていくことで、ユーザーさん、顧客の皆様にとってもいい形にしていきたいと思っています。また、社内のみならず他の会社様とも連携を取って新しいサービスや新しい体験の提供をどんどん進めていけたら良いですね。

ただ、まずそういったデータをしっかり見ていくということが社内に浸透しきっていませんので、しっかりとデータに基づいた話をできるような文化ができあがるよう、こちら側もツール整備を進めています。

今までは番組そのものをおもしろくするしくみの提案をすることがメインでした。しかしデータを扱うことで、たとえば「この番組にはこういった視聴者さんが多くて、だからこのようなCMはもっと売れると思います」といった提案ができ、スポンサーさんたちに提案しきれていない番組の価値を見つけ出すことができると目論んでいます。

朝日放送グループには、テレビ以外にもまだまだ気が付いていない価値があるはず。そんな価値をしっかりと掘り出していくお手伝いを、どんどんしていきたいですね。