ひとり親に寄り添うサービスで、誰よりも話しやすい存在に

賃貸住宅の家賃保証サービスを行っているCasa。入居者からの相談の中に「養育費が受け取れず、家賃が支払えない」という声が少なくないことを受けて、養育費保証事業を2020年9月から開始しました。

荒井 「離婚する夫婦のうち、養育費の取り決めを交わすのはわずか40%。そのうち4割もの割合で養育費の未払いが発生している、といわれています。私たちは、そのようなひとり親世帯に対して養育費保証サービスを提供していて、離婚時に交わされた取り決めにしたがってきちんと養育費が支払われるよう、サポートを行っています」

養育費相談室の荒井のもとには、日々さまざまな相談が寄せられています。

荒井 「離婚後の生活に対する不安や、自立を目指す上での悩みはもちろん、中には『離婚を考え始めているんですが、まだ迷っていて……』といったご相談も。そうした方へは気持ちを“整理する”段階からサポートし、寄り添いながらお話を聞かせていただきます。実際に養育費の未払いが発生している場合は、解決に向けたアドバイスや、養育費保証の詳しい内容について案内しています。相談内容に応じて、自治体の窓口や行政書士とも連携しています」

離婚にまつわる話は、周囲にはなかなか相談しづらいもの。そんなときこそ、Casaのような第三者を積極的に活用してほしいと荒井は話します。

荒井 「こうした問題をひとりで抱え込み、悩んでしまう方は少なくありません。そんな方に対して、『自分がひとりじゃないことを知ってもらいたい』という想いがいちばんにあるんです。親しい友人やご両親が近くにいない場合でも、SNSやメールで気軽に相談してほしいです。お話ししやすい環境を心がけていて、『身近な人より相談しやすい』といっていただけることも増えてきました」

養育費未払い問題を解決したい──事業発足から養育費保証の存在意義を見出すまで

▲養育費相談室へは月間約100件ほどのお問合せがある

自身も、18歳と22歳の子を持つシングルマザーの荒井。Casaに入社したきっかけは、提携している日本シングルマザー支援協会に登録したことでした。

キャリア支援も行う同協会で仕事の紹介を受けるなかで、養育費の未払い問題に着手するCasaに興味を持ったと話します。

荒井 「私も含め、同じ境遇にある友人たちは、ダブルワーク・トリプルワークをして、生活や子育てに必要なお金を懸命に捻出していました。ほとんどの方が、養育費を受け取れていないために、無理をしてでも働かざるをえなかったんです。そこで『なぜ片方の親だけが、こんな思いをしなければならないのだろう?』と疑問を持ったことが、会社への興味につながりました」

養育費未払い問題を解決したい——そんな想いを持って選考に臨んだものの、面接を受ける中で、決意が揺らいだ瞬間もあったと振り返ります。

荒井 「上場企業の新規事業で、組織も新しく立ち上がったばかり。一方の私はとくに秀でた経歴やスキルもなく、営業経験もない。責任の大きさに見合う自信が持てなかったんです。ただ、社長面接で直接お話ししたときに、社長が私の質問に何ひとつ隠さず答えてくれたのが印象的でした。その場にいたメンバーとも『一緒にやっていきましょう』という話をして、『この人たちとならきっと大丈夫だ』と安心でき、入社を決めました」

意欲に胸を膨らませてCasaに入社した荒井。ところが、そこで待っていたのは、予想よりも厳しい現実でした。

荒井 「養育費を受け取れていない方が、世の中にたくさんいると知って愕然としました。そもそも、当事者間で連絡を取り合ったりお金の話をしたりするのは、とても難しいこと。どうしても感情的な部分でぶつかってしまうことが多いんです。ですが一方で、第三者である私たちがあいだに入ることで解決できるケースが多いことにも驚かされました。お支払いもスムーズになりますし、遅延が生じる場合であっても事前に連絡をいただけるんです」

Casaのサービスの大きな特徴となっているのが、上限36カ月の保証期間。業界内では12カ月としている企業が多い中、実に3倍もの期間を保証の対象としています。

荒井 「先日、養育費保証の契約を希望された方がいたんです。その方はすでに離婚されていて、パートで働き始めていました。生活に必要なお金を自分で稼ぎ、養育費をこどもの学費に充てるとするなら、自立に必要な期間として36カ月が必要だと。まさにCasaのコンセプトにぴったりの方でした。養育費はこどもたちのもの。専業主婦だった方も含め離婚後は自立をして、『養育費はお子さんの進学のために貯金してください』と私は伝えているんです。そうすれば、こどもの将来も安心ですから」

サービスの提供にとどまらない、ひとり親世帯の根本的な問題解決に向けて

▲養育費相談室メンバー

養育費未払い問題の大きさ・切実さを知ると同時に、この仕事に取り組むことに大きな意義を実感している荒井。

荒井 「私たちのサービスにご契約いただいたことで、一括で養育費が支払われたケースもありました。相談してくださった方は、『今月は支払われないんじゃないか』という毎月の不安から解放されることに。こんなときは、お役に立てたと思えて、やりがいを感じますね。

一方で、実は私たちのサービスには審査があって、必ずしも全員が利用できるわけではありません。中には残念ながらご契約できない方もいます。でも、そんな方からも『養育費をもらえていない方を、これからも救っていってください』『本当にすばらしいサービスだと思います』というメールをいただくことがあるんです。力になれなかった方々から応援の言葉をいただくのがとても印象的で、それほどに世の中から必要とされているサービスなのだと実感しています」

相談者に寄り添う一方で、荒井は支払い者側のケアも重視しています。これまでに聞いた支払い者の声を参考に、こどもや受け取り者が支払い者側に「ありがとう」を伝えるイベントを始めました。

荒井 「支払い者に話を聞いていると、『ありがとうといわれるだけで、気持ちが全然違う』という意見がたくさんあったんです。たしかに、支払い者からしてみれば、何に使われているかがわからず、お金だけを支払い続けている状態です。

でも、お礼の言葉がたったひと言あるだけで、きちんと届いている安心感が得られ、支払い者の意識が大きく変わる。これは、より良い関係性を作る上でも貴重な発見でした 。養育費の支払いは長期的なやりとりになります。受け取り者と支払い者の双方に寄り添って、継続的に支払われる関係構築を目指しています」

養育費未払いが起こる、根本的な原因の解決にもアプローチする荒井。最近は、国会議員と話す機会を設け、「国の制度を変えてほしい」との声を届けています。

荒井 「日本では、書類だけで離婚が成立してしまうのが現状です。その現状を変えるために、諸外国のように、調停という形できちんと取り決めする文化が根付くよう、行政に働きかけています。

また、セミナーで離婚の手続きや養育費に関する周知拡大も行っています。これらを続けていけば、状況も大きく改善するはずです。誰もが養育費をきちんと受け取り、お母さんが自立することでこどもの未来を守れる。そんな世の中になればと思っています」

こどもの未来を守るために、今私たちがやるべきこと

「ひとり親の方が自立できる環境への支援」と、「行政と連携した養育費未払いという社会問題解決」の両軸から、今後も養育費問題に向き合っていきたいと話す荒井。

荒井 「先日、国会議員のセミナーの中で、養育費問題の当事者であるこどもが登壇しました。その子は『医者になりたいけど、親には迷惑をかけられないし、奨学金を借りるにしても額が莫大で、金銭的に夢をあきらめざるを得ないかもしれない』と話していたんです。両親がきちんと支えていくことができれば、そうしたこどもたちの夢を守れるかもしれないと思っています。

また、たとえ離婚したとしても、こどもにとってふたりが両親であることに変わりはありません。養育費は、こどもが『親からきちんと愛されている』と感じることのできる、ひとつの方法だとも思っています」

最後に荒井は、相談者に向けて、こんなメッセージを語りました。

荒井 「誰にも相談できず、悩みに悩んで、泣きながら電話をかけてくる方もいらっしゃいます。『養育費相談室だから、養育費のことしか聞いちゃいけない』と思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。

『こどもにこんなことをいわれた』『離婚を考え始めている』など、何気ない内容でも大丈夫です。助成金制度などについても、聞いていただければこちらで自治体に確認することもできます。ぜひ、気軽に連絡をいただきたいですね」

 誰もが安心して暮らせる世の中の実現を目指して、荒井の挑戦はこれからも続きます。