基幹システムの開発から運用まで担当。チームワークがカギ
ホームセンター“カインズ”を運営する株式会社カインズ。店舗で取り扱う商品は生活必需品から専門性の高い商品まで多岐にわたります。その膨大な種類の商品を管理するために必要となるのが、基幹システム。磯道はその開発チームを率いています。
磯道 「私たちのチームが扱っているのは、発注や在庫管理、販売準備を行うためのシステムです。これらの完全内製を目指し、開発~運用まで対応しています」
一般にITベンダーに外注することが多いシステム開発を内製化している大きな理由は「経営戦略に沿ってスピーディな開発を行うため」だという磯道。広範囲で膨大なバックエンド業務のシステム領域を担うため、チームには役割も業務領域も異なるエンジニアが多数在籍しています。
磯道 「フロント画面を作るのが得意なエンジニアもいれば、バックエンドが得意なエンジニアもいます。多様なメンバーがいますが共通しているのは『自分たちでこのシステムを良くしていきたい』『スキルアップしたい』という強い気持ちがあることです」
DXプロジェクトの責任者として戦略を立てたり、全体のプロジェクトマネジメントを行ったりと、チームを正しい方向へと導くのが自身の役割だという磯道。
磯道 「2022年8月現在、とあるシステムをスクラム開発しているのですが、細かいマネジメントは各チームのスクラムマスターに任せています。私が担うのは、プロジェクト全体の戦略や進行管理。また、エンジニアの採用活動や入社後のサポートなどにも関わっています」
インドにオフショア拠点があるため、外国人とやりとりしながら業務を進めることは日常。業務を進めていく上で最も重視しているのは、チームワークだといいます。
磯道 「開発という仕事はひとりではできません。多様な価値観を持つさまざまなエンジニアが関わることで、ひとつのシステムが完成します。そのため、いちばん重要なのは、“相手を理解する”ことだと思っているんです。
エンジニアの数だけ、いろいろな考え方がある。その考え方を理解した上でベストな案を選ぶ。それが当たり前になるようなチームビルディングを行っています」
アパレル会社の売場担当から、ITエンジニアに。そして、カインズへ
かつてアパレル会社に勤務し、IT部門へ異動になる前は店長として店頭に立つこともあったという磯道。
磯道 「ジーパン好きが高じて、アパレル会社でアルバイトをしていたんです。そのまま就職して売り場担当となり、店長に昇格しました」
店長になった磯道を待ち受けていたのは、大量の事務作業でした。
磯道 「もう20年以上も前のことですが、当時はなんでも紙でやりとりするのが当たり前。経費計算もすべて電卓を使って計算しなければならないなど、事務作業に追われ、お店に立つ時間が削られていきました」
そこで、Excelの使い方を修得して事務作業の負担を軽減。しかも、店舗のメンバーが誰でも使えるように簡略化したところ、それが本社の知るところとなり、IT部門へと異動に。それが、エンジニアとしてのキャリアのはじまりでした。
エンジニアとして働くこと、約7年。会社の方針と自身の考えが合わなくなるのを感じ、転職を考えるようになったという磯道。導かれるかのように縁がつながったのが、カインズでした。
磯道 「前職の上司が、たまたま当時のカインズのIT部門の部門長と面識があったんです。そこで『誰かエンジニアで良い人いない?』ということで私に白羽の矢が立ちました。前職からのツテで、そのままカインズに入社することになったんです。
カインズに興味を持った理由は、アパレルに比べて取り扱う商品数が格段に多いこと。バリエーションが豊かで、しかもプロダクトのライフサイクルがそれぞれ異なる商品を扱うことになるので、自分自身がスキルアップできる環境があると思いました」
2011年にカインズに入社した磯道。初めてのプロジェクトとして基幹システムのリプレースを担当します。その後も、基幹システムを中心に担当し、2014年にはカインズMDグループマネジャーに就任。基幹システム全体の責任者として新機能の開発やシステムの保守・運用を担当するようになります。
磯道 「2020年にはビジネスソリューション部の部長代理に就任しました。デジタル組織の再編にともなって、基幹システムを中心としたバックエンドシステムの開発〜保守・運用に携わり、現在に至ります。
当時、eコマースの仕組みをリプレースしていたのですが、思うように進んでいませんでした。そこで、デジタル戦略本部を再編して立ち上がったのが、ビジネスソリューション部です。手探りでの内製開発でしたが、ベンダーの力も借りながらだったとはいえ、完遂に漕ぎ着けることができました。『自分たちでプロダクトを作り上げられる』との手応えを感じることができたのは大きかったですね」
システム自社開発への挑戦。徹底した意識改革によって芽生えた開発者としての自覚
スクラム開発を浸透させ、自社での内製開発へと移行を進めてきた磯道。その道のりは決して平坦ではなかったと振り返ります。
磯道 「それまでウォーターフォール型の開発をしていて、ベンダーに多くの部分を任せていました。これを自分たちがコントロールできるように内製化して、さらにアジャイル型の開発へとシフトしたいと考えていたんです。それを進めるにあたっていちばん心がけたのは、メンバーの“意識改革”でした。
メンバーには、『自分たちで開発するのだから、あまり難しく考えず、とにかく速く動くものにしよう』『どんどん試していこう』としきりに声をかけていたのを覚えています」
その結果、メンバーに開発者としての自覚が少しずつ芽生えていったといいます。
磯道 「『速く仕上げて確認作業を行ったほうが、結果的にスピーディーな開発につながる』『ここまで自分たちでやってこそ自社開発だ』という感覚を持ってもらえるように変わっていきました」
小売業の情報システム部門にいるからこそ、バックエンドにいながらお客様のお役に立っていることを実感できているという磯道。次のように続けます。
磯道 「システムを自社開発することの大きなメリットは、作ったら終わりではなく、最後まで成果を見届けられること。商品手配のリードタイムが短くなったり、お客様にとっての利便性が向上し購買率があがったり……。そうやって自分たちがこだわって作ったものが、当たり前に使えるようなシステムとなって社会で役立っていると感じられることが、何よりの醍醐味だと思います」
さらに磯道は、開発のスピードを上げることが今後の課題だといいます。
磯道 「自分たちで開発できるようにはなりましたが、ベンダーに頼っていたころからどれだけ速くなったかといわれると、まだまだ改善の余地があります。そこを今後は向上させていきたいですね」
コアバリューを体現する自律的なエンジニア集団を目指して
2022年6月、磯道は社内報奨制度のうちのひとつ、“エクセレントメンバー”に選出されています。コアバリューである“Kindnessでつながる”を社内のメンバーに対して率先して働きかけ、働きやすい職場環境作りに尽力したことが評価されました。
磯道 「『部長職の自分がもらっていいのかな』というのが、選出されたことを知ったときの率直な感想です。とはいえ、これまで1年間、チームワークを意識してチームビルドに尽力してきました。新メンバー、既存メンバー、そしてインドのメンバーそれぞれが自分から積極的に意見がいえる、話しやすい環境作りを心がけてきたことが評価されたことは、素直にうれしかったですね。
いまも、『失敗を恐れなくていい』というスタンスや、結果だけを評価するのではなく、取り組みの姿勢も評価することを大事にしています。役職や担当する業務が変わっても、『成果を残したい』という気持ちは同じ。それをどうしたらうまく実現できるかをメンバー一人ひとりと一緒に考えています」
そんな磯道にはいま、思い描いている理想のチーム像があります。
磯道 「カインズでは、“Kindnessでつながる”、“枠をこえる”、“創るをつくる”という3つのコアバリューを掲げています。これを体現するようなエンジニア集団を作っていきたいんです。たとえば、“使いやすさ”を考えられる、“Kindness”、従来のやり方を壊してでも、より良いやり方を追求する、“枠をこえる”力、そして、スピーディーに開発できる環境作りを目指す、“創るをつくる”想い。
インドのオフショアメンバーも含め、メンバーそれぞれの意見を活用しながら、“自分たちが主役”という意識をもって、自律的にものづくりができるようになっていってほしいと思っています。私が指示するから作るのではなくて、『こういうふうにしたいよね』と自発的な声がどんどん出てくるようなチームになるといいですね」
将来的には小売業をリードするような仕組みを作っていきたいという磯道。カインズなら、それができるといいます。
磯道 「ありきたりのパッケージを組み合わせて作るのではなく、メンバーがやりたいことを実現できるような仕組みにしていきたいと思っています。というのも、小売業界には、そうした実験的な取り組みがしやすいという特徴があるからです。
また、実際に動き出したシステムを内側から見ながら成果を確認できるだけでなく、スマホアプリやECサイト、オウンドメディア、そしてバックエンドという具合に、いろいろな種類の開発に関われるのもカインズならでは。それが結果的に、日本の小売業界をリードするようなものを一緒に作っていくことにつながればいいですね」
定年後もコンサルのような立ち位置で、共に成果を見ていけるような、そんな信望を集めるエンジニアでありたいという磯道。世界を、日常から変えていくために——未来に向けた価値創造を目指して、磯道の挑戦は続きます。