日本でのAR/MR導入を見据え、開発型のイベントを発案

AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を組み合わせた新たな技術で未来の事業創出を目指すボッシュでは、DX推進の流れのなかグローバルでデジタルツールを活用した改革が進んでいます。

この活動を推進しているのが、夏 玉虎 (Xia Yuhu)たちが所属する社内のITに関するサービスを展開するコーポレート・インフォメーション(CI)部門です。今回のAR/MRハッカソンは、日本でのAIとIoT推進の一環として開催されました。

夏 「2022年にボッシュの国内工場で新しい製造ラインを立ち上げるプロジェクトがあるのですが、その件で2021年9月にメーダー社長から連絡がきたんです。

本来なら中国、長沙工場のエンジニアが日本に2カ月滞在してラインを稼働させる予定でしたが、今回のCOVID-19の影響で入国が難しくなるため、この製造ラインの立ち上げに、Microsoft HoloLens2(以下、HoloLens)を活用したMR技術の導入をしてほしいという依頼でした。それがきっかけでHoloLensの勉強を始めたんです」

HoloLensはマイクロソフトが開発したグラス型MRデバイス。ボッシュではヨーロッパや中国の工場で既に導入しています。夏の誘いで、システムサポートやメンテナンス業務を担当している若手社員の階戸 健太、田沼 光らもこの活動に加わり、2021年11月にはワークショップとむさし工場での体験会を開催しました。

夏 「この2回のイベントが好評で、みなさんHoloLensにかなりの興味を示してくれました。それならマイクロソフトが提供しているソフトをそのまま使うだけでなく、ボッシュのビジネスに役立つアプリケーションの開発ができたらと考え、AR/MRハッカソンの開催を発案しました。

イベントにハッカソンを取り入れたのは、私自身がハッカソンはイノベーションの有効な手段だと思っていたからです。MRの周知とともに、もっとユースケースを集め、開発力を育てる目的でプランニングしました」

告知から大きな反響を呼び、成功で幕を閉じた「AR/MRハッカソン」

今回のAR/MRハッカソンの開催にあたっては、階戸らが主催者となり事務局役を務めました。

階戸 「今回のイベント開催は、私たちが本来携わっているシステムのサポート業務とは少し違います。ただ、実務と少々離れていても、興味や関心があれば活動に参加できるのがボッシュの社風です。

私自身すごく興味があった案件でしたので、夏さんから声がかかったとき、ぜひ主催者として企画運営を行いたいと伝えました」

開催を2021年12月上旬に設定したため、準備期間は約1カ月。それでもより多くの人にAR/MRの取り組みを知ってもらおうと、コーポレート・インフォメーション部だけでなくビジネス部門も含めた全社に向けて開催をアナウンスしました。開催2週間前の告知にもかかわらず、様々な部署から多くの参加者が集まり反響はかなりのものでした。

2日間にわたるイベントの初日は、メーダー社長の挨拶や参加者の自己紹介といったオープニングを経て、今回使用するデバイスHoloLensや既にボッシュで開発しているアプリやユースケースなどを紹介。初日から参加者12人が、4人1組の3チームに分かれ、アイデア出しから実際に開発を行うという流れで進みました。

2日目は中間発表をはさみながら各チームで開発を進め、最後に成果を発表。優勝チームは参加者の投票によって決まる仕組みです。田沼はこのうちの1チームに加わり、開発側としてこのイベントに参加しました。

田沼 「私たちのチームは、工場でのMRを使ったユースケースを考えようということで、実務から従業員のトレーニングまでいくつかアイデアが出ました。そのなかで実際に開発したのは、タスクの完了を自動で認識するアプリケーションです。

例えば製品チェックの場合、グラスを通して見るだけで、どの製品がチェック済みでどの製品がまだなのかを判別できる仕組みです。それをHoloLensに実装し、実際に動かせるところまで持っていくことができました」

各チームからユニークなアイデアが出たなか、田沼たちのチームが優勝しました。イベントを見守っていた夏も、実際にHoloLensに実装し、最後にデモまで成功させたのは田沼たちのチームだけで、デモンストレーション自体も相当なインパクトがあったと高く評価しています。

田沼 「ハッカソンに参加したのは初めてでしたが、開発者の熱意やチームワークの重要性などを再認識でき、非常に勉強になりました。またMRは工場で使えるところも多々ありますが、オフィス業務でもバーチャルミーティングの活用など、さまざまなシーンで使えます。できることが多く、無限の可能性を感じました」

一方で、イベントの主催者である階戸も、今回のAR/MRハッカソンに手応えを感じています。

階戸 「まず準備期間が1カ月というなかで、開催できたことに意義があったと思います。またコーポレート・インフォメーション部門は、従業員が円滑に仕事をするためのサポート役というイメージがありますが、今後はパートナーとして一緒にビジネスを考えていく部門になることを目指しています。その意味でAR/MRハッカソンのような全社で参加できる機会を実際に設けられたことにも、とても意義があったと思っています」

新ライン立ち上げから日々の業務改善まで多用途に活用できる技術

日本のボッシュ・グループでは、AR/MRの取り組みを社内にイベントなどを通して周知している段階ですが、ヨーロッパや中国の工場では、既にさまざまな現場の業務にMRデバイスが取り入れられています。

例えば、製造ラインの不具合修繕のケースでは、現場作業者がデバイスを通して見た映像が遠隔地のエキスパートに送られ、エキスパートがその映像を見ながら現場作業者へ指示を出すという取り組みが行われています。

また工場内で新しい設備を導入する際に、デバイス上で現地の映像に設置後のイメージを重ね合わせ、不具合がないかどうかを確認するといった用途にも使用されています。現在、これらの技術の日本への導入を進めているのが、 コーポレート・インフォメーション部の赤堀 勝義です。

赤堀 「2022年に稼働予定の国内工場新ラインの立ち上げでは、指示を仰ぐ中国のスペシャリストにHoloLensを使った遠隔支援のデモンストレーションを行い『これであれば遠隔で導入を進めることができる』と合意を得ました。現在、実際の稼働に向けて準備を進めているところです。

また、工場で各設備が身体的に無理のかかる配置になっていないかを定期的にチェックするエルゴチェックでも導入の動きがあります。これまではメジャーや分度器で実際に計測していましたが、HoloLensを使うとバーチャル的に指でなぞるだけで、測りたい個所の寸法を測ることができます。その技術を導入し、業務の簡素化を図ろうとしています」

このように、着実に導入が進みつつあるAR/MRの技術ですが、赤堀自身、今後もさまざまな用途でさらに活用が進むと考えています。

赤堀 「今回のAR/MRハッカソンでも、たくさんのアイデアが出ましたが、われわれが工場のメンバーにデモンストレーションを行うなかでも、HoloLensを活用した業務改善のアイデアがたくさん出てきています。そのアイデアが現実的であるならば、われわれも新しいソリューションとして、積極的に開発を進めたいと考えています」

ユースケースが生まれる2022年が日本の拠点でのAR/MR元年

▲右からボッシュのコーポレート・インフォメーション部の夏、赤堀、階戸、田沼

イベント開催や実務への導入など、日本のボッシュ・グループでも着実に活用が進みつつあるAR/MRの技術。ただ赤堀は、これからが本番だと語ります。

赤堀 「HoloLensやAR/MRに関しては、今年はまだプロモーションとデモンストレーションの段階ですが、来年からは実際にユーザーが使い始めます。私は、ユースケースが本当に出てくる2022年が、日本の拠点でのAR/MR元年だと思っています。はっきりと言えませんが、おそらくそう遠くない将来に、当たり前のものとして実現しているのではないかと思っています」

また夏は、AR/MRに関して定着からその先を見据えています。

夏 「IT部門は、単なるサポート役であればアウトソーシングでもまかなえます。コーポレート・インフォメーション部としては、ビジネスと一緒になって、新しいテクノロジーをどんどん入れ、今までやっている製品のビジネスに、サービスやソフトウェアのビジネスといった付加価値を加えていくことが重要です。

今後は、新しいテクノロジーを通してケイパビリティを向上させていくことが、われわれに求められる役割になるでしょう。それを実現し、 コーポレート・インフォメーション部の存在価値を高めていきたいと思っています」

ただ当然、こうした新しい技術を社内の業務改善に役立てることも忘れてはいません。

夏 「スマートワークに関しても、例えばワークショップをする際、一部がオフィスで一部がリモートとなれば非常にやりづらいと思います。将来的にAR/MRの技術があれば、本当のスマートワークが実現できるのではないかと思っています。その意味で、仮想空間を用いるメタバースなども視野に入れながら進めていきたいと考えています」

新たな技術でさまざまな価値を生み出そうとしているコーポレート・インフォメーション部ですが、夏は最後に、AR/MRハッカソンのもうひとつの意義を語りました。

夏 「今回のイベントは、ボッシュの良い社風を体現したものでもあると思っています。田沼さんと階戸さんは、昨年と今年に入社したばかりの新人です。一般的にはこうした新しい取り組みかつ重要な仕事を新人に任せることは少ないでしょう。任せるとしてもサポート役です。

ただ今回、2人は立派にリーダーを務めました。ボッシュには、新人でもモチベーションや興味があれば、どんどんトライできる環境があります。また上司や先輩は、後ろからそれをしっかりサポートしてくれます。新しいことを取り入れても、こうした素晴しい社風は守り続けていきたいと思っています」

コーポレート・インフォメーション部のメンバーは過去から続くボッシュの新しいことに挑戦すること、挑戦する人の背中を押すカルチャーを大切に守りながら、今日も社内デジタル・トランスフォーメーションを含めた未来への投資を加速させています。