IoT企業に向けて重要な役割を担うAE事業部
ボッシュのほとんどの事業がエレクトロニクスと関連しており、部署を横断し、連動しながらシナジーを生み出しているのがオートモーティブエレクトロニクス事業部(以下、AE事業部)です。
そんなAE事業部の歴史を誰よりも知っているのが、入社以来AE事業部一筋という事業部長の石塚 秀樹です。
石塚 「社内で関わっていない部署がないといってもいいぐらい多くの部署と、どこかでつながっていますね。事業分野が多岐にわたり過ぎて、よくわからないとも言われます(笑)。 部署の売り上げの多くが社内事業部と連動している部分ですが、外部パートナーと共同で新しい製品・サービスをつくるプロジェクトも増えてきています」
最近ではモビリティだけでなく民生品などさまざまな分野において、ボッシュがこれまで培ってきた技術を応用して製品やサービスを生み出しているAE事業部。
ハードウェア、ものづくりの企業からIoT企業へと推進しているボッシュの中で、AE事業部は非常に重要な役割を担っています。
石塚 「ボッシュがIoT企業になるということは、ボッシュが自動車関連の製品だけではないというメッセージに加えて、車そのものもネットワークにつながる時代であるという意味と、両方を含んでいるのです。
130年以上の月日をかけて培ってきた技術があるボッシュだからこそ、IoTにビジネスオポチュニティーを生み出していく流れが出てきたのです」
IoTを押し進めるための要。MEMSセンサー
車が進化していく上で重要なのがMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサーです。ボッシュはMEMSセンサーのリーディングサプライヤーとして全世界に製品を供給しています。このMEMSセンサーこそIoT企業ボッシュに欠かせない要素でもあるのです。
そもそもなぜボッシュがMEMSセンサーをつくり始めたのか。そこには時代の流れをつかんだボッシュの挑戦がありました。1990年代当時、エアバッグと横滑り防止装置(ESC)の需要が高まり、搭載されるセンサーのコストダウンが求められていました。そこでボッシュは量産体制を整え、企業としてその課題に取り組みました。
石塚 「エアバックといえば最初は高級車にしか搭載されていないものでしたが、センサーの量産とともにあっという間に多くの自動車に搭載されるようになりました。また、危険な状況下で車両の横滑りを防ぐESCも一般車で採用されるようになり、車両の回転運動、縦横方向の加速度や傾斜角を計測するGセンサーやジャイロセンサーを市場が求めていたんです。
私がキャリアをスタートしたのが、ちょうどエアバッグの需要がグッと上がったタイミングでした。もともとは大きなセンサーだったのが、マーケットの要求に合わせて小型化していく様を目の当たりにしてきました」
そして2020年現在、そのセンサーの技術を使ってさまざまなIoT製品の開発が進んでいます。
AE事業部でプロジェクトマネージャーを務める田幸 めぐみが関わっているのがeCall用デバイス。日本ではまだなじみがありませんが、欧州連合(EU)では2018年3月31日から自動緊急通報システムeCallの装備が義務化されるなど、ヨーロッパでは一般的に認知されているシステムです。
eCallデバイスの機能としてはふたつの機能があります。ひとつは緊急通報の機能です。中に入っているセンサーが車の衝突を検知し、その検知した情報をもとに救急車を手配するサービスにつながります。
そしてもうひとつが運転行動の可視化。加速度センサーで、急ブレーキ・急加速・急ハンドルを判断して、運転情報を人の感覚ではなくデータとして可視化することができるのです。
田幸 「ボッシュのテレマティクスeCallデバイスの強みはセンサーの精度とボッシュ独自のアルゴリズムです。衝突検知には、何をもって救急車が必要なものなのかという基準値を計算する必要があるのですが、そこにはエアバックの研究実績で培った知見と、蓄積されたデータをもとにしたアルゴリズムが生かされています」
日本でも車載テレマティクスサービスの提供を目的とした実証実験が進み、ボッシュはeCall用デバイスを提供しています。実証実験では、eCall用デバイスが収集した運転行動データをもとに、ドライバーの安全なカーライフをサポートする各種テレマティクスサービスの検証が行われています。
田幸 「eCallシステムを導入するには、デバイスを用意するだけではなくITバックエンドの部分も必要になります。
人の命に関わることなので判断が難しい部分はありますが、今後国内でも注目されるソリューションだと思います。より多くの人たちにサービスを提供するためにも、どのようにビジネス化するかも今後のチャレンジです」
センシング技術とキャリブレーション技術で広がる可能性
eCallデバイスに加えてパーフェクトリーキーレスも特徴的なIoT製品です。単純にキーレスになるだけでなく、スマートフォンを使用して車両のロック解除、エンジン始動、再ロックまでできるのです。また、デジタルキーとして他のユーザーにシェアすることも可能になります。
石塚 「デジタルなので簡単にキーをシェアリングできることが大きな特徴です。たとえば時間を限定してデジタルキーを友人に貸し出すこともできますし、エンジンはかからないように設定して、トランクやドアの開閉だけできるようにして宅配業者に渡せば、車を宅配ボックスのように使うことも可能です。
デジタルキーごとにさまざまな設定ができるので、ドライバーの好みに合わせて自動でエアコンの設定することもできます。パーフェクトキーレスは、自動車のパーソナライズ化を実現することが可能になるのです」
また、自動車の枠を超えた統合ソリューションの代表となるのが、ドイツなどで展開されている「アクティブ パーキングロット マネジメントシステム」です。
PLS(パーキングロットセンサー)によって駐車場でどの駐車スペースが空いているかがネットワークを通じてリアルタイムに確認できます。
田幸 「たくさんの駐車場がある中で、ドライバーは空車や満車の確認はできても、広い駐車場のどこに空きスペースがあるのかわかりません。そのときに、このセンサーがあればどこでもネットワーク上で空車の場所がわかり、ドライバーが非常に効率的に駐車場を利用できるようになるのです。
欧州のドイツ、フランス、イタリアでのスマートシティのプロジェクトで、すでにこのセンサーが導入されています」
石塚 「コインパーキングにはフラップ式という、自動車が停まると金属板が上がるものがありますけど、それを設置するために非常にコストがかかっているのです。実は見えている部分だけでなくて、地面を掘り起こして、コイルを埋めて設置しているんです。
たとえば、自宅の駐車場を使っていないから誰かに貸したいと考えている方は、PLSであれば大掛かりな工事をせずに簡単に取り付けて管理することができるのです」
PLSにもボッシュのアルゴリズムが活用されています。そして、このセンサーは自ら周囲の地磁気の状態を学習してアップデートしていきます。
石塚 「地球には南極から北極に向かう地磁気があるのですが、車という鉄の塊がPLSの上に存在するか否かで磁気の出方が変わるんです。それをセンサーで感知して、アルゴリズムによって車がPLSの上に駐車しているかどうかがわかるのです。
地磁気の変化とはいえ、地震が起きたり、都会の真ん中ではビルが立ってしまったりすることで地磁気が変わってしまいます。そのような状況においてもセンサーは自力でゆっくりと学習しながら補正していきます」
これまでの実績と研究に裏付けられた精度の高いセンサー技術とセンサーで得た情報をもとに適切な状態に適合させるキャリブレーション技術。これらボッシュのコア技術を生かし、今後の日本においても新しいソリューション開発を加速していきます。
変化をチャンスに。求められるのは「ビッグデータの料理人」
コネクテッドカーという言葉が自動車業界でバズワードとなり、車のIoT化が急速に進んでいます。車が常にネットワークにつながる時代、今後市場はどのような変化が起こっていくのか。
石塚 「車がネットワーク化することで、たとえばこれまで目視で確認をしてきたタイヤの空気圧や、プラグの調子など、あらゆる情報がリアルタイムで把握することができるようになるでしょう。
それだけでなく、ワイパーを動かしたデータをクラウドに送ることで、ワイパーを動かした情報とGPS情報から、『この辺は雨が降っているんじゃないか』などとデータを活用した推測も可能になるかもしれません。また、逆にクラウドから車へデータを送ることで、いろんな機能を追加更新することもできます」
通信システムが5Gになり、データの遅延が限りなく小さくなれば、availabilityの問題は当然ありますが、クラウドですべてを制御できる時代もそう遠くはないかもしれません。
石塚 「今後ハードウェアはコモディティ化し、ソフトウェアで差別化を図る傾向がますます強くなってくると考えています。だからボッシュとしてもAE事業部としてもソフトウェア開発の能力を持った人材に注目しています。ビッグデータをどう活用するのか、情報という素材を上手に活用できる料理人のような人材が求められています」
田幸 「ボッシュには『3S』という言葉があります。『センサー・ソフトウェア・サービス』という、これからボッシュがIoTソリューションを推進していく上で必要な要素を表した言葉です。高性能なセンサーで得たデータをいかに調理して、ソフトウェアやサービスにひもづけるかが重要です。
そんな状況において、ボッシュには、センサーからBosch IoT Cloudというクラウドサービスまでトータルでシームレスなソリューションが展開できる環境がそろっているんです」
これまで想像してこなかったさまざまな産業分野にまでボッシュの技術範囲が広がっていく中で、AE事業部のふたりはどのようなビジョン、意識を持って取り組んでいくのでしょうか。
田幸 「3Sの考えのもと、シームレスにサービスを提供できる環境は整いましたが、まだ事業の軸はハードウェアの部分にあります。個人的な目標としてはソリューションを提供したい。自分の手でデバイスからサービスまで一貫したものを手がけていきたいと考えています」
石塚 「目まぐるしいスピードで技術が進化をしていくのに合わせて市場要求も変化をしています。自分たちのコアバリューは大事にしながらも、今までのスタイルを変えていくことができないと廃れる、取り残されるという状況になってきています。
VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)という言葉がありますが、今ここにあるからといって明日これがあるとは限らない。そういう気持ちで取り組んでいかなくてはならないと思っています」
ボッシュがこれまでの歴史の中で積み重ねてきた技術力や膨大なデータ。これらを軸に時代が求める形へと変容し続けることによって革新的な製品・サービスを生み出すことができているのです。
ボッシュの技術革新力を基盤に、今後はIoTテクノロジーのリーディングカンパニーとして、スマートホーム、スマートシティ、コネクテッドモビリティ、さらにコネクテッドインダストリーに関するさまざまな革新的なソリューションも提供していきます。