ボッシュの栃木工場では、海外の拠点と協力体制を構築しながら、自動車製造に欠かせない電動ブレーキのシステムやESP(横滑り防止装置)、ABS(アンチ・ロックブレーキシステム)などを製造しています。世界に拠点を持つボッシュの中でどのような役割、どのような存在をめざしているのでしょうか。栃木工場の工場長である長谷川の1日に密着しました。
【動画公開中】世界をリードする栃木工場 密着ドキュメンタリー
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ぜひYouTubeでも長谷川工場長の1日密着動画をご覧ください。
自動車関連製品を製造する栃木工場──ボッシュと世界市場にとって重要な拠点
今回の1日密着にあたり、はじめに栃木工場の概要について、長谷川工場長に聞きました。
長谷川 「ボッシュの栃木工場は栃木県那須塩原市にあります。ここでは、高性能なブレーキ力をアシストするiBooster(アイブースター)や、急ブレーキ時にタイヤがロックするのを防ぐABS(アンチロックブレーキシステム)、車体の横滑りを防止するESP(エレクトロニック スタビリティ プログラム)などの製品を製造しています」
この工場は、革新的な製品を日本のみなさんに提供するボッシュにとって、重要な役割を担っていると長谷川工場長は言います。
長谷川 「世界の自動車関連データを集約するS&P Global Mobilityのデータを分析すると、現在は3台に1台が日本メーカーの製品です。そんな中、グローバルに事業を展開しているボッシュにおける栃木工場の役割は、日本のお客様が考えていることを全拠点に伝えることだと思っています。
そのマインドでほかの拠点をリードしていくことが、栃木工場にとっても日本の製造に対しても重要だと考え、仕事をしています」
ドイツでの経験を活かし、栃木工場を支える長谷川工場長
そんな栃木工場を運営している長谷川工場長とは、どのような人物なのでしょうか。
世界各地に拠点があるボッシュの中で、栃木工場は品質面でのロールモデルとされています。それを支えているのが、長谷川工場長です。
長谷川工場長は名古屋出身で、1995年に自動車機器株式会社 に入社。ブレーキブースターの1種であるバキュームブースターの品質保証エンジニアとして6年間働き、その後は生産技術、製造などの業務に従事しました。
2016年からはむさし工場長となり、2020年7月には現職の栃木工場長に就任しました。2023年3月現在でも、シャシーシステムコントロール事業部製造部門の統括として、むさし工場にも週1回程度の頻度で出勤しています。
ドイツから最新の製造ラインを日本に導入するまでの歩み
現場を見に行くと言う長谷川工場長に付いて、工場の中に入ってみることに。道すがら長谷川工場長から、印象深い話を聞くことができました。
長谷川 「あるとき、日本にiBoosterを持っていきたいという話が上がりました。そこで私は、2015年にドイツのブライヒャッハ工場にあるインターナショナルチームに参画したのです。生産技術に関する知識を得ること、現地で日本のお客様に対する障壁を取り払うことが私のミッションでした」
ドイツで半年ほど経験を積んだ長谷川工場長は、日本でiBooster生産プロジェクトの責任者となりました。
長谷川 「世界で1番自動化率の高いものを栃木工場に置こうと決めて、世界標準のラインを導入し、2022年夏にはiBoosterの生産を開始できる状況になりました」
最初に訪れたのは栃木工場の主力製品iBoosterの製造現場。ここで全体を管理しているのは、日本におけるiBooster生産プロジェクトにPGM(プロジェクトゼネラルマネジャー)として携わったIvar。
当初PGMとして、費用の予算化、計画の予算化、そしてスケジューリングなどを担い、プロジェクトを立ち上げたとIvarは言います。そして無事に稼働するようになった半年後、別のPGMにプロジェクトを引き継ぎその役目を終えました。
Ivar 「工場とエンジニアリング部門と販売部門のハブとしてプロジェクトをつなげることができたと思います。工場だけでなく、営業や技術面でも、みなさん一丸となって協力してくれたことに感謝しています」
人間がやるべきタスクに集中することを目的としたデジタル化
現場社員と近い距離間で気さくに話す長谷川工場長。耳を傾けてみると、聞こえてきたのは近年注力しているデジタル化の取り組みでした。
栃木工場で取り入れているデジタル化には、2つのタイプがあると長谷川工場長は語ります。
長谷川 「1つは自動カメラやモバイルロボットを入れて、人の作業をロボットに代替していくもの。もう1つは、人間が間接業務としてやっていることをいかに効率的にやっていくかというデジタライゼーションです。
現場に関しては、人間が作業しなくてもいいものはできるだけロボットや機械に任せようとしています。その代わり、人間が作業すべきところはしっかりとトレーニングして、標準工程を守る。役割を分けるために、現在デジタル化を推進しています」
たとえば栃木工場では、搬送作業をロボットに置き換えることで効率化を図っています。
石田 「搬送作業ロボットは、製品の完成品をバーチエーターからシッピングレーンまで運べます。全部のレーンに磁気テープを付けています。ロボットごとに精度が異なるので、ちょうどいい具合を探しながら調整している段階です」
搬送ロボットを導入したことで、ひと月に24人分の工数を減らすことができました。栃木工場では、今後もさまざまな場所にロボットを入れていく予定です。
▲栃木工場で搬送用ロボットの導入を担当している石田
※現場で働く社員一人ひとりの名前を呼び、笑顔で立ち話をする工場長に、自然と社員も笑みが出てくるのが印象的でした
6Sチェックを徹底する栃木工場デジタル化推進で見えてきた課題
続いて、次の現場に足を向ける長谷川工場長。工場の隅々まで視線を注ぎながら積極的に従業員とコミュニケーションを取っています。
栃木工場で独自に行われている、「5Sチェック」という取り組みについて担当の豊田を交えて話を伺いました。
長谷川 「整理・整頓・清掃・清潔・躾で5Sです。栃木の場合は、6Sにしているんだよね?」
豊田「そうですね。“しつこく”を加えた6Sにしています。5Sを徹底的に、しつこくやっていくのは非常に重要です」
デジタル化が進む栃木工場では、この6Sチェックにおいて、これまでになかった課題が見えてきています。
豊田 「搬送作業ロボットがどこを通るかわからなくなったのは課題ですね。整然としている一方で、きちんと安全を担保するのにどのような工夫が必要かはこれから学びながらやっていかなければならないところです」
長谷川 「たしかに、デジタルソリューションが入ったことで、今までのルールが変わってきている部分もあるので、そこの整理整頓をしっかりしていけば安全も担保できるよね。だいぶできていると思うので、引き続きよろしくお願いします」
※社員と笑顔で談笑するだけでなく、現場で困っていることに対して適切なアドバイスを実施する長谷川工場長
若手従業員との対話も重視、スキップレベルミーティングの実施
さて、現場を一旦離れ、会議室に。膝を突き合わせてじっくりとコミュニケーションを取るのに最適なこのスペースでは、どのような話題が上がるのでしょうか。新卒3年目までの若手社員とのスキップレベルミーティングをのぞいてみましょう。
若手従業員「ESPの仕事をしていると、ドイツのブライヒャッハ工場でやっていることを参考にする機会が多いので、いつかは自分の目で見に行きたいです」
長谷川 「みなさんのキャリアの中で、海外で学ぶチャンスがあれば、ぜひやってもらいたい。それから、栃木工場という目線で見ると、自分たちがリードできる側に回らないと工場の価値は上がっていかないと思うんですよね。
ドイツから学んだり交渉スキルを身につけたりする必要はあるけれど、その後持ち帰ってきた技術を活かして、自分たちがどこかに対してリードできる存在になることのほうが重要。そういうところからキャリアを考えてもらえばいいかなと思います」
長谷川工場長はスキルアップや課題のキャッチアップのため、定期的にオフィスの従業員と話す機会を設けています。
日本のものづくりを世界に発信したい──工場長としての想い
再び現場に戻ります。ボッシュの中でも重要な拠点だと言う栃木工場について、普段は語られることのない長谷川工場長が抱く想いが垣間見えました。
改めてボッシュの栃木工場はどのような工場なのか、長谷川工場長に語ってもらいました。
長谷川 「従業員みんなが品質に対するマインドを高く持っていて、自分たちがベンチマークになっていこうという気持ちが強いです。モチベーションを持って改善していこうという意識が現場に定着しているのが、日本の工場の特徴なのかなと思います」
そんな栃木工場の役割は、日本のものづくりのいいところを世界に伝えることだと長谷川工場長は考えています。
長谷川 「日本のものづくりについて世界に伝えきれていないところがたくさんあるので、そこをつなぐのが栃木工場の役割だと思っています。われわれが普段やっていることや考え方をボッシュのほかの工場に説明していきたいと考え、進めています」
長谷川工場長が普段意識している組織づくりについても伺いました。
長谷川 「お互いを知らないと仕事の成功は難しいと思うので、仕事以外のこともできるだけ相手と共有していきたいと思っています。とにかくコミュニケーションを取ることで、信頼関係ができ、お互い苦しくなったときに乗り越えられると思うので、普段から声をかけるようにしています」
海外拠点との対話、リードができる人材を育成したい
1日密着も残りわずか。工場長として勤務する限られた時間の中で、従業員とのコミュニケーションに最も時間を費やす長谷川工場長の1日が経つのは非常に早いものでした。
最後に、栃木工場として今後達成したいことを語ってもらいました。
長谷川 「栃木工場は多くの自動車に関する基幹製品を製造している工場なので、いろいろな知識を得てグローバルの中でリードできる人材を育成していきたいです。とくにタイやインドなどに対してリードする姿や、ドイツ本国にしっかりと自分たちの意見をもって対話できるイニシアチブが取れる人を、1人でも多く輩出していきたいと思います」
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