子育て中に感じた「おやつストレス」|自身に対する罪悪感

▲子育てに奮闘する猪原本人

2014年の4月に第一子を出産した猪原。当時、大阪のWebマーケティング会社で働きながら子育てをする中で「おやつストレス」に悩まされていました。

猪原 「子どもに『お菓子!お菓子!』と、お菓子をねだられることは子育ての中で日常茶飯事。しかし市販のお菓子は、『無添加』『果汁100%』と表示されていても添加物は含まれています。

私は添加物が入っていないおやつをあげたい……。でも、騒がれると『静かにして!』と口止めするように与えてしまって罪悪感。このような、おやつに関するさまざまなストレスをおやつストレスといいます。

1人目の子どもを育てているときは、私もおやつストレスに悩まされました。子どもが、カラフルなグミを大好きになってしまったんです。カラフルなグミには着色料が含まれていることも多く、私は不安でした。それでもスーパーでも夕ご飯の準備中でも、『グミ!グミ!』と騒がれ、本当にストレスで、余裕のないときは、不用意に怒りすぎてしまうのです。こんな小さい子に怒鳴ってしまう。そんな自分が嫌でした。子どもの寝顔を見ながら『怒りすぎてごめんね』と涙する日もありました」

自身に対する罪悪感を感じた猪原は、解決方法を探した末にある決断をします。

猪原 「無添加でカラフルで小さくて甘いグミのような、本物の無添加おやつがあるのか探してみましたが、ありませんでした。私と同じような悩みを持つママはたくさんいると確信があったので、『何年かかってもいいから無添加のグミを作ろう』と決心しました。無添加グミを作る最初のきっかけは、自分が欲しいものを作りたいという気持ちでしたね」


大好きな会社を辞めてでも、無添加グミを作る

▲一念発起した猪原

自身に対する罪悪感から、無添加グミを作ろうと決心した猪原。しかし、その想いとは裏腹に、はじめは何から始めればいいのかわからない状態でした。そんな中、ある光景を目の当たりにします。

猪原 「夫が縁もゆかりもない和歌山県かつらぎ町の山に一目惚れしてしまったんです。まだ第一子が産まれる前、2013年の冬からかつらぎ町に20回程度足を運びました。

2016年の冬に訪れたときのことです。大量の柿が捨てられていたのを見かけました。かつらぎ町は串柿生産量が全国でも有数の町。裏山に柿畑があるんですが、大量の柿が廃棄されていたんです。

その鮮やかなオレンジ色に目を奪われました。着色料や合成甘味料、ゼラチンなど全ての添加物を入れずに、カラフルなグミを作りたいと考えていた私は、『廃棄フルーツで無添加グミを作ろう』と決めました」

その後、2018年5月にかつらぎ町へ移住。当時は会社を辞めるつもりはなかったものの、最終的には辞める決断をします。

猪原 「移住後も、かつらぎ町から大阪まで通って会社で働こうと考えていました。新卒で入社してずっと働いていたし、いい人にも恵まれていたし、辞める理由がなかったからです。

ただ、かつらぎ町の雄大な山を見ていると、『この自然をひ孫の代まで残したいな』という気持ちが湧いてきたり、何より子どもが自然体験を通して元気になっていく姿を目の当たりにする中で、私の気持ちは変わっていきました。

何十冊も看取り関係の『死』と向き合う本を読み、死ぬときに後悔するのは嫌だ。自分の人生の手綱を自分に戻そうと決断し、対岸に渡ることを決めて退社しました」

自身の行動で切り開いた活路。「途中で辞めなければなんとでもなる」

▲作成した段ボールプレゼンブック

強い気持ちで無添加グミ作りに取り組むことを決めた猪原ですが、実現までの過程にはさまざまな苦労がありました。

猪原 「無添加グミを作ろうと決心したものの、当時の私はお金もなければ人脈もありません。まだ移住する前の話ですが、私はかつらぎ町の『起業補助金制度』に3回挑戦して、3回とも落選しました。

また、無添加グミを作るためには、農家さんから廃棄フルーツを購入しなければなりません。1人も知り合いのいない町に移住したので農家の知り合いもいません。インターネットでフルーツ農家さんに電話をかけ、廃棄フルーツを購入させてほしいと頼むも、すごく怪しまれるんですね(笑)」

前途多難ではあったものの、猪原自身の行動をきっかけに活路が切り開かれる出来事がありました。

猪原 「起業補助金制度にチャレンジした3回目のときに、1人の審査員の方がすごく応援してくれたんです。何回落ちても挑戦しつづける姿を見てくれたのだと思います。その審査員の方が知り合いの大学の教授を紹介してくれました。その教授の知り合いの知り合いといった方が、乾燥工学を専門にされている大阪市立大学の教授でした。

さらに、その大阪市立大学の教授が畿央大学の教授に声をかけてくださり、大阪市立大学、畿央大学、乾燥機メーカー、地域の農家さんなどで、共同開発をすることになったんです」

大学教授との共同開発にまでこぎつけた猪原は、さらなる行動を起こします。

猪原 「私が何を実現させたいのか明確にするために、『段ボールプレゼンブック』を作りました。段ボールに写真を貼り付けて、将来かつらぎ町に作りたい観光農園のデザインや、自然豊かな田舎で背伸びをしている家族の写真などを貼りました。

保育園のママ友や近所の人だけでなく、町長や教育長にもプレゼンブックを広げながらプレゼンをしました。すると、共感してくれた人が知り合いの農家さんをどんどん紹介してくれるようになりました。時間はかかりましたが、『途中で辞めなければなんとでもなる』ことを学びました」

子どもと過ごせるわずかな時間を、キラキラした時間にする商品を作りたい

▲子どもと過ごす様子

2018年5月から大学との共同開発を始めておよそ2年半、2020年の10月に「無添加こどもグミぃ〜。」が販売されました。

2016年の冬に構想を立ててから、およそ4年の歳月を要した無添加グミの販売。「絶対にお母さんのお役に立てる商品だ!」との確信通り、多くのお母さんから支持されています。

猪原 「商品の販売にあたり、販売の半年前にインスタグラムのアカウントを作成し、アンバサダーを募集しました。『サンプルの商品を送るので、意見を聞かせてほしい』という条件で100人を募集したところ、700人の応募があったんです。

絶対に売れるとの確信はあった一方、商品を市場に受け入れられる形にチューニングする作業は必要だったので、アンバサダーの人たちの意見にはとても助けられました。商品を販売するときも、アンバサダーのみなさんがたくさん拡散をしてくれたので、販売開始5時間で150セット完売しました」

たくさんのママさんから支持されている一方、生産体制には課題を残しています。

猪原 「毎月5袋で2,000円の定期会員のコースがありますが、生産体制が追いついていないこともあり、現在は新規のお客さんをストップしている状態です。2021年の10月末段階では、予約待ちも800名ほどいらっしゃるので、生産体制を整えられるように現在は動いています」

自身に対する罪悪感から始まった取り組みではあるものの、猪原は活動を通して、子どもにとっていい社会を作ることを目標としています。

猪原 「総務省が発表した『平成23年 社会生活基本調査』のデータを基に、関西大学の保田 時男教授が計算したところ、ママさんと子どもが生涯で一緒にいられるのは7年6カ月だけなんです。もちろん7年6カ月のうち、おやつにこだわるような幼少期の時間は、さらに短いはずです。

だからこそ、ママさんには少しでもその短い期間に笑顔でいてほしいし、ストレスを感じてほしくありません。子どもと一緒に過ごす時間をキラキラさせられる、そんな商品を今後も作りたいです」

おやつストレスに悩むママさんに向けて、猪原はこれからも挑戦を続けていきます。