行政支援のみでは限界。新しい価値観の導入へ

▲大田区役所職員

東京都大田区は約4,200の町工場がある「ものづくりのまち」であるとともに、約140の商店街がにぎわう、活気ある地域です。

しかし、世界的なサプライチェーンの再構築や、脱炭素をはじめとした新たな環境対策への取り組み、新型コロナウイルス感染症の拡大など、中小企業を取り巻く環境は厳しさを増しています。

とくに新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、町工場は、従来行っていた営業活動や展示会への出展を自粛することに。商店街では人流が減少し、各種イベントの中止を余儀なくされ、大きく変化する世界情勢に対応する新たなチャレンジが必要でした。

また、大田区役所としても、区内企業のデジタル化、新たな顧客獲得への挑戦を支援したいと考えていましたが、行政の中に専門性のある人材が不足しており、有効な支援策を打ち出せずにいました。

しかし、2020年から本格化したコロナ禍において「区内企業の稼ぐ力」の強化を目的とした行政支援の必要性は高まりつつあり、そこで大田区役所は専門性を有する副業・兼業者の可能性に着目しました。なぜ副業・兼業者なのか、大田区役所産業調整担当課長 荒井 大悟はこう話します。

荒井 「従来のような行政単独の支援に限界を感じていたため、専門的な知見や経験を持つ副業・兼業者とタッグを組むことに決めました。

新しい価値観や多種多様な経験のある彼らと連携することで、区内企業に対して、これまでにない新しい支援ができるのではないか。また、副業・兼業者に対しても、地域で活躍するという新しい働き方を提供できるのではないかと考えていました」

こうして大田区役所は、地域課題解決のため、副業・兼業者との協働を推進する事業をスタートしたのです。

この事業のパートナーとなったのがONE X。ONE Xは「すべての⼈がコトを興せる社会」をビジョンに掲げ、共創により個々の本来価値を引き出すコラボレーション実⾏型組織です。

このONE X 共同代表 濱本 隆太が、大田区役所職員と共に事業内容を企画しました。

濱本 「私は大田区在住で、コロナ禍で自宅近くの飲食店や町工場が廃業していく様子を目の当たりにしました。そんな中、何か自分にできることはないか、住み慣れた大田区に何か還元できないかと考えました。

そこで私は、大田区の商店街、町工場へ足を運び、何が課題なのかを拾い上げに行きました。実際に現場に行ってみると、課題の解像度が上がったため、ビジネス的な観点で課題解決策を区役所に提案しました。そうして大田区役所のみなさんと、副業プロジェクトを始動することになったのです」

副業・兼業者と協働する「大田区SDGs副業」が始動

▲区内企業の理解を得て、大田区SDGs副業が始動

大田区とONE Xは、「区内企業の稼ぐ力」の強化と、大田区における「SDGs(持続可能な開発目標)」の課題解決に向けて、副業・兼業者と区内企業が協働して先進的な取り組みにチャレンジする「大田区SDGs副業」の仕組み作りをスタートさせました。

濱本 「この取り組みの重要なポイントは2つあります。町工場や商店街がサスティナブルであることと、副業・兼業者との協働です。

まずはこの取り組みの趣旨を町工場や商店街のキーマンに共感してもらうため、私たちが現場に通いストーリーを理解していただくことにしました」

その結果、区内企業の方々にデジタル分野等の専門性を有する副業・兼業者の可能性を感じていただき、無事に協力を得ることに成功。2021年7月に、ONE Xもパートナーとして運営している、兼業マッチングサイト「ふるさと兼業」のプラットフォームを利用して、「大田区SDGs副業」の募集を開始しました。

副業・兼業者の募集は、大田区とONE X、そしてこの取り組みに賛同してくれた大田区商店街連合会の共同発信で行われました。

すると、大田区内外から、多種多様な専門性を有し、大田区に貢献したいという熱い想いを持つ延べ440名のエントリー者を獲得することができたのです。(大田区SDGs副業エントリーページ:https://forms.gle/m1VmASx6n54NjiN58

つながりによって得られた、新しい世界

▲「楽しくやる」がテーマの大田区役所議論の様子

区内企業は、デジタル分野やマーケティングなどの知見、ノウハウを有する副業・兼業者と協働することで、新たな挑戦に取り組めます。また、大企業やスタートアップとのつながりが増え、新たな顧客候補獲得も見込めるようになりました。

これまではできなかった取り組みも、さまざまな分野のプロの力を借りることで実現可能になり、地域課題の解決につながると荒井は考えています。

荒井 「副業・兼業者として参加しているメンバーも、SDGsに関するテーマに共感し実行したいと考える、同じ熱意を持つ仲間と出会うことができたんです。さらに私たち大田区職員や大田区の企業、ONE Xとのつながりもできました。

このネットワークや、自分の仕事と両立させながら地域課題解決に取り組む経験が、彼らの将来に大きな可能性を広げることになってほしいと思います」

「大田区SDGs副業」から日本を元気に──そして世界を変えていく

▲羽田イノベーションシティ(HICity)から日本を元気に

この取り組みによって、大田区役所も大きな成果を得られました。大田区役所職員が、大田区SDGs副業のエントリー者と関わる中で、大田区に対する熱い想いに触れ、行政にはない視点と知見を知ることができたといいます。

大田区SDGs副業のエントリーメンバーは、大手メーカーのマーケティング担当、ベンチャー企業、海外で働く人など、さまざまなバックグラウンドを持つ方々が集まっています。

そんなメンバーに共通する想いは「生まれ育った大田区に貢献したい」「自分が住んでいる大田区の役に立ちたい」といった、大田区への情熱です。

荒井 「エントリーメンバーは、区民の立場、民間の立場としての視点から、アイデアや熱い想いを私たちにぶつけてくれます。

別の角度から大田区の魅力、課題を見てもらうことは、私たちにとって大きなメリットです。地域と副業・兼業者をつなぐだけでなく、行政としても副業・兼業者と協働することで変革し、よりスピーディーで質の高い区民サービスを実現していきたいと考えています。

大田区SDGs副業者と町工場・商店街、そして大田区役所が地域のサスティナブルトランスフォーメーション実現に向けた取り組みを推進していきます」

大田区SDGs副業者の取り組みはメディアにも掲載され、SDGs副業の先駆けとなっただけでなく「大田区は内外の意欲的な人々がつながり、新たなことにチャレンジできる地域」という認識が広がりました。新たな地域ブランドの創出のきっかけになり、多くの方が大田区という地域に興味を持ってくれました。

さらに、この取り組みはアフターコロナ時代のニューノーマルに向けた、地域企業支援や働き方の一つのあり方を示すことができたのではないか、と荒井はいいます。

そして大田区は、2020年9月に新産業創造発信拠点、羽田イノベーションシティ(HICity)を開設しました。羽田を人と人をつなぐハブとして、日本各地を、日本と世界をつなぎ、大田区から日本経済を活性化したいと考えています。

荒井 「今回の大田区SDGs副業の取り組みで、多くの方が自分のふるさとに貢献したいと考えていることがわかりました。しかし、いきなり地方で副業をするとなると、さまざまな問題があり、ハードルが高いと聞きます。

そこで、まずは大田区の町工場や商店街などで副業経験を積んでもらい、それを活かしてご自身のふるさとで活躍していただく仕組みができないかと考えています」

大田区がハブになって各地の地方自治体と連携しながら、プロジェクトの成果を全国に広げていき、まずは日本各地を元気に。そして世界を変えていくことを彼らは目指します。